雇用契約書・労働条件通知書の電子化とは
雇用契約書労働条件通知書の電子化とは、従来の紙ベースの契約手続きをデジタル化し、オンライン上で契約の締結から管理まで行うことです。電子署名やクラウドサービスを活用することで、時間と場所を選ばずに契約手続きが可能になります。
特にリモートワークが普及した現在、遠隔地にいる従業員との契約締結において大きなメリットがあります。印刷や郵送にかかるコストと時間を削減でき、契約書の保管や検索も効率化されます。また、契約の進捗状況をリアルタイムで確認でき、人事業務の大幅な効率化が期待できます。中小企業においても導入しやすいサービスが増えており、デジタル化による業務改善の重要な手段となっています。
JIPDEC(一般財団法人日本情報経済社会推進協会)が2024年3月に公表した調査結果によれば、国内企業における電子契約の利用率は2025年1月時点で78.3%に上るとされています。
参考:企業IT利活用動向調査2025(JIPDEC/ITR)」 2.1 電子契約の利用状況の推移:2015年〜2025年
雇用契約・労働条件通知書は電子締結可能か?
雇用契約と労働条件通知書の電子締結は法律上可能であり、特に2019年の法改正により労働条件通知書の電子化が正式に認められました。この改正では、従業員が希望する場合に限り、メールやメッセージアプリなどの電子的な方法で労働条件通知書を交付できるようになりました。
ただし、従業員の同意が前提条件となっており、企業が一方的に電子化を強制することはできません。雇用契約書についても電子署名法に基づく電子署名を用いることで、紙の契約書と同等の法的効力を持たせることができます。
以下のお役立ち資料では、電子帳簿保存法の基礎から、法改正ポイントの振り返り、対応方法まで詳しく解説しています。ぜひご活用ください。
2024年11月最新 電子帳簿保存法 (電帳法)対応まるわかりガイド
雇用契約・労働条件通知書を電子化する法的要件
雇用契約と労働条件通知書を電子化する場合、一般的に、雇用契約書や労働条件通知書などの文書を電子データで作成し、使用者および労働者が電子署名やその他の電子的手段で合意の意思表示を行うことにより締結します。
ここで留意すべき点として、労働条件通知を電子的な方法(例:電子メール、電子契約システムによる交付)で行う場合、以下の要件を満たす必要があることが挙げられます(労働基準法施行規則5条4項)。
- 労働者がその方法を希望していること
- 受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信によること
- 労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成すること
電子契約の法的有効性は、電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)が根拠となっています。同法3条では、「本人による電子署名(一定の要件を満たすもの)」が行われている電子文書等は、真正に成立したものと推定すると規定されています。
さらに電子帳簿保存法の改正によって、2024年1月1日からは電子取引に関する電子データの保存が完全義務化されました。雇用契約書等もこの対象となりうるため、電子化にはこうした関連法を確認することも重要です。
電子契約の法的効力を確保する3要素
電子契約を法的効力を持たせるには、次の3つの要素を正しく備えることが大切です。
- 電子署名:本人の意思による合意を証明
- 電子証明書:署名者の身元を保証するデジタル証明
- タイムスタンプ:文書の存在時点を記録し、改ざんを防止
電子契約において、もっとも重要な法的根拠は「電子署名法(正式名称:電子署名及び認証業務に関する法律)」第3条にあります。この条文では、「記録された情報について、本人による電子署名が行われているときは、その電磁的記録は真正に成立したものと推定する」と明記されています。つまり、署名者が本人であることが確認できれば、その契約は法的に成立していると見なされるのです。
この「本人性の担保」に必要なのが電子証明書です。電子証明書とは、信頼された第三者機関が発行するデジタル証明であり、署名者の身元を明確にする役割を果たします。署名と証明書が一体となることで、「誰が」「どの文書に」署名したのかを技術的に証明できる仕組みが構築されます。
加えて、契約書が改ざんされていないことを証明するためには、タイムスタンプの付与が有効です。タイムスタンプとは、電子文書が「いつ」存在していたかを示す電子的な証拠であり、信頼できる第三者(時刻認証業務を行う事業者)が発行します。これは、電子帳簿保存法における「真実性の確保」の要件にも合致するものです。万一の紛争時にも、契約書の信頼性を裏付ける証拠となり得ます。
これらの法的要件を満たすためには、電子契約システムの活用が効率的です。多くのクラウド型電子契約サービスでは、電子署名・電子証明書・タイムスタンプの一括対応が可能であり、企業が自前で複雑な仕組みを構築する必要はありません。専門的なITスキルがなくても導入できる点も、実務面での大きな利点といえるでしょう。
<関連記事>
電子署名とは?仕組み・法的効力・やり方をわかりやすく解説
電子証明書はどんな仕組み? 公開鍵暗号基盤や電子署名もわかりやすく解説
タイムスタンプとは?仕組みや電子帳簿保存法における役割について解説
【2025年版】電子契約システムおすすめ10選|選び方のポイントや注意点を解説
電子契約書の作り方とは?契約締結のやり方・システムの選定・導入方法を解説
雇用契約とは
雇用契約は労働者と雇用主の間で締結される契約です。
民法では「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」(民法623条)と定められています。
雇用契約書は雇用契約を書面化したものですが、法律上、作成は義務ではありません。ただし口頭での契約は紛争の原因となりやすいので、書面上で取り決めが交わされるのが一般的です。契約書があれば雇用条件や業務内容の証拠となり、紛争発生時には重要な資料となります。
まずは雇用契約と労働契約、雇用契約書と労働条件通知書の違いを見ていきましょう。
雇用契約と労働契約の違い
民法に規定された雇用契約とは異なり、労働契約は労働契約法や労働基準法において規定される概念です。これらの法律は、労働者保護や労使間の紛争予防等を目的とし、労使対等の原則(労働契約法3条1項)、労働条件の明示義務(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条)、就業規則による労働契約の内容の変更に関する制限(労働契約法第9条、第10条)を定めており、労働契約において直接的に影響を及ぼします。
雇用契約と労働契約は、実務上では明確に区別されないこともあります。例えば、労働契約法や労働基準法の規律が及ぶ契約であっても、単に「雇用契約書」として締結・交付されることも一般的です。いずれの場合も、労働基準法をはじめとする労働関係法令の規制を守ることが重要です。
雇用契約書と労働条件通知書の違い
雇用契約書と労働条件通知書の最大の違いは「双方の合意」の有無です。雇用契約書は、企業と労働者の双方が合意した労働条件や権利義務を明記し、トラブル防止や契約内容の証拠として機能する書面です。
一方、労働条件通知書は、労働基準法第15条に基づき、使用者が労働者に対して労働条件を明示することが義務付けられている法定文書であり、労働者の同意を要しない一方的な通知文書となります。両者の違いを以下の図にまとめました。
また2024年4月1日施行の労働基準法施行規則等の改正により、労働契約の締結時および有期労働契約の更新時には、従前の明示事項に加え、新たに以下の事項の明示が義務付けられました。違反すると30万円以下の罰金が科される可能性があるため、労働条件通知書の見直しが急務となっています。
- 【全ての労働者に対して明示すべき事項】
- 就業場所・業務の変更の範囲(労働契約の締結時と有期労働契約の更新時)
- 【有期契約労働者に対して明示すべき事項】
- 更新上限の有無と内容(有期労働契約の締結時と更新時)
- 無期転換申込機会(無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時)
- 無期転換後の労働条件(無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時)
※他の正社員等とのバランスを考慮した事項について説明の努力義務あり
参考:令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます|厚生労働省
<関連記事>
雇用契約書とは?必要性や作成時の記載事項・注意点までを徹底解説
労働条件通知書とは?雇用契約書との違い・明記項目をテンプレ付きで解説
雇用契約書と労働条件通知書の締結パターン
企業が従業員を雇用する際には、複数の締結パターンがあります。それぞれに特徴と注意点を確認していきましょう。
「労働条件通知書」の交付のみのパターン
労働条件通知書のみを交付するパターンは、法律上の最低限の義務を果たす最もシンプルな方法です。企業側が一方的に交付するだけで完了するため、従業員の署名や合意を得る必要がなく、採用プロセスをスピーディに進めることができます。特に大量採用や短期雇用の場合には効率的です。
しかし、労働条件について従業員との認識の相違が生じた場合に、合意があったことを証明することが困難になります。また、後日労働条件に関してトラブルが発生した際に、双方の合意があったことを示す証拠が不足する可能性があり、リスク管理の観点では注意が必要です。
「労働条件通知書」と「雇用契約書」を別々に締結するパターン
労働条件通知書と雇用契約書を別々に作成・締結するパターンは、法的義務と契約関係を明確に分離する方法です。
労働条件通知書では基本的な労働条件を、雇用契約書では秘密保持義務や競業避止義務など詳細な合意事項を記載できます。それぞれの書面の役割が明確になり、法改正があった際にも労働条件通知書のみを更新すれば良い場合があります。
しかし、書面の管理が複雑になり、二つの書面の内容に矛盾が生じないよう注意深く作成する必要があります。また、従業員にとっても複数の書面を理解し保管する負担が生じ、作成や締結にかかる時間とコストも増加します。
「労働条件通知書 兼 雇用契約書」として締結するパターン
労働条件通知書兼雇用契約書として一つの書面で締結するパターンは、現在多くの企業で採用されている実用的な方法です。
一つの書面に法律で義務付けられた通知事項と企業と従業員の合意事項の両方を記載し、従業員の署名をもらって契約として成立させます。手続きの効率化が図れ、書面管理も一つの文書で済むため人事部門の負担軽減につながります。従業員にとっても理解しやすく、労働条件について双方の合意があったことが明確に証明できるため、後日のトラブル防止にも効果的です。
ただし、労働条件通知書と契約書の両方の要件を満たす内容を適切に盛り込む必要があります。
雇用契約書と労働条件通知書を兼用するメリット
雇用契約書と労働条件通知書を一つの書類にまとめることで、作業の手間を大幅に削減できます。
従来は二つの書類を別々に作成していたため時間がかかりましたが、兼用書類なら一度の手続きで法律上の義務と契約締結の両方を完了できます。特に採用が頻繁な企業では工数削減効果が高く、お互いの合意内容も明確になるため労働トラブルの予防にもつながります。
電子契約と組み合わせれば、さらに効率的な採用プロセスに繋がるでしょう。
労働条件通知書のひな形
厚生労働省と各都道府県の労働局では、労働条件通知書の標準的なテンプレートをWord形式とPDF形式で無料配布しています。書類作成の詳しい手順や注意点も同じファイル内に明記されているので、ぜひご活用ください。
労働条件通知書の書き方については、以下の記事で詳しく解説しています。書き方にお困りの際は、ぜひ参考にしてください。
<関連記事>労働条件通知書とは?雇用契約書との違い・明記項目をテンプレ付きで解説
雇用契約書・労働条件通知書を電子化するメリット
雇用契約を電子化することで、企業側と労働者側の双方にメリットが生まれます。ペーパーレス化による環境負荷の軽減だけでなく、業務効率化やコスト削減、リモートワーク対応など、多角的な効果が期待できるからです。
雇用契約を電子化するメリットを、企業・従業員の両方から見ていきましょう。
企業側のメリット
雇用契約書の電子化は企業にとって業務効率化とコスト削減の両面で大きなメリットをもたらします。特に採用が頻繁な企業では効果を実感しやすくなります。
ヒューマンエラーの防止
電子契約システムを導入することで、雇用契約における人的ミスを大幅に削減できます。紙ベースの契約では、手書きによる記入漏れや誤字、データ入力時の転記ミス、書類の紛失や取り違えなどが頻繁に発生します。
電子契約では、必須項目の入力チェック機能により記入漏れを防止し、データベースとの連携により正確な情報を自動反映できます。また、契約書のテンプレート機能を活用することで、記載内容の統一が図れ、条件の記載ミスも防げます。承認フローも自動化されるため、確認漏れや承認の遅延も解消されるでしょう。
LegalOn Cloudは、正社員・契約社員・アルバイト・定年後再雇用・英文版などの利用シーンに応じた雇用契約書兼労働条件通知書ひな形に加え、契約書・規程・社内文書など、合計2,000点超の書式ひな形を収録。あらゆる業務シーンに対応し、文案作成の手間を削減。作成業務の効率化と品質向上を実現します。
リモートワーク対応と働き方改革推進につながる
電子契約を導入すると、人事担当者が出社していなくても自宅やサテライトオフィスから契約処理を進められます。採用候補者も企業に足を運ぶ必要がなくなるため、地理的な制約を受けずに優秀な人材を採用できるようになります。
また契約書の郵送や受け取りを待つ時間も不要になり、より柔軟な働き方を実現できます。コロナウイルスの影響でリモートワークが普及した現在、電子契約は現代の働き方に適した仕組みといえるでしょう。
採用プロセスの効率化
従来の紙の契約書では印刷、郵送、返送待ちなど複数の工程に時間がかかっていましたが、電子化により契約締結までの期間を大幅に短縮できます。特に採用が集中する時期や複数の候補者と同時進行する場合、作業効率が格段に向上します。
また電子契約システムにはタスク管理機能が備わっているものも多く、誰がどの段階にいるかを一目で把握できるため、進捗管理も簡単になります。結果として優秀な人材を他社に取られるリスクも軽減できます。
コンプライアンス強化
電子契約の導入により、企業のコンプライアンス体制を大幅に強化できます。電子契約システムでは、契約の作成から締結、保管まで全ての過程が記録され、いつ誰がどのような操作を行ったかの履歴が残ります。これにより監査対応が容易になり、労働基準監督署などからの調査に対しても迅速かつ正確に対応できます。
また、法改正があった場合でも、システム上でテンプレートを一括更新することで、全ての契約書を最新の法令に準拠させることができます。契約書の保管期間管理も自動化され、法定保存期間の遵守も確実に行えます。
契約管理業務の負担軽減
電子化された契約書はすべてデジタルデータとして保管されるため、物理的なファイリング作業が不要になります。従業員の名前や入社日などで簡単に検索でき、契約内容の確認や更新作業も効率的に行えます。
多店舗展開する企業や契約更新が頻繁な業種では、契約状況を一元管理できるため人事担当者の負担が大幅に軽減されるでしょう。また書類保管のためのキャビネットや倉庫スペースも不要になることもメリットと言えます。
LegalOn Cloudは、最新の電子帳簿保存法に対応したAI契約書管理サービスです。紙契約も電子契約も、アップロードや電子契約サービスとの連携で一元管理。AIが契約情報を自動抽出し、情報入力・分類・管理台帳作成まで効率化します。ぜひ確認してみてください。
労働者側のメリット
雇用契約書の電子化は労働者にとっても時間的・金銭的負担の軽減や手続きの簡便性など、多くのメリットをもたらします。
契約手続きの場所・時間的制約がなくなる
電子契約により労働者は雇用契約のために企業に足を運ぶ必要がなくなります。スマートフォンやパソコンがあれば自宅や移動中でも契約手続きを完了でき、24時間いつでも対応可能です。現職を続けながら転職活動をしている場合でも、仕事の合間や夜間に手続きを進められるため非常に便利です。
また遠方の企業との契約でも交通時間を気にする必要がなく、より多くの選択肢から就職先を検討できるようになります。
交通費・郵送費など金銭的負担の軽減
紙の契約書では郵送費や交通費などの経済的負担が発生していましたが、電子契約では これらのコストが一切かかりません。特に遠方の企業と契約する場合や複数企業との面接を並行して進める際の交通費削減効果は大きくなります。
また契約書を自宅で印刷する必要もないため、プリンターのインク代や用紙代も節約できます。就職活動中は何かと出費がかさむため、これらの費用削減は求職者にとって大きなメリットといえるでしょう。
手続きミスの防止
電子契約システムは画面の指示に従って進めるだけで契約手続きを完了できるよう設計されています。記入漏れや押印忘れを防ぐ機能も備わっているため、手続きミスが起こりにくくなります。また誤字や記入ミスがあった場合でも、その場で修正できるため再送の手間がかかりません。
デジタル機器の操作に慣れていない方でも、直感的に使えるインターフェースが採用されているサービスが多く、安心して利用できます。
雇用契約書・労働条件通知書を電子化するデメリット
雇用契約書の電子化には多くのメリットがある一方で、導入時に注意すべきデメリットも存在します。事前に課題を把握しておくことで、スムーズな電子化を実現できます。
従業員への操作周知と同意取得の負担
電子契約への切り替えには、従業員全員への説明と同意取得が必要になります。特にパソコンやスマートフォンの操作に慣れていない年配の従業員や、デジタル機器が苦手な方への個別サポートが欠かせません。
労働条件通知書を電子で受け取ることに同意しない従業員には紙での対応を続ける必要があり、結果的に二重の管理体制を維持することになります。また新しいシステムの使い方を覚えてもらうための研修時間や、操作マニュアルの作成も必要となり、人事担当者の負担が一時的に増加します。
電子契約システム導入・運用コスト
電子契約サービスの利用には初期費用と継続的な月額料金が発生します。多くのサービスでは契約書の送信件数に応じた従量課金制を採用しているため、採用人数が多い時期には予想以上のコストがかかる場合があります。
また年間の採用計画を立てにくいスタートアップでは、月ごとの費用変動が予算管理を複雑にします。さらにシステムの操作研修費用や、既存の人事システムとの連携作業が必要な場合は追加コストも発生するため、導入前に総合的な費用対効果を慎重に検討する必要があります。
システム障害・データ消失による業務停止リスク
電子契約システムがクラウドサービスの場合、サーバー障害やインターネット接続の不具合により契約手続きが一時的に停止する可能性があります。特に採用が集中する時期にシステム障害が発生すると、内定者との契約締結が遅れて大きな影響を与えかねません。
また地震や火災などの災害時にはデータセンター自体が被害を受ける恐れもあります。このようなリスクに備えて定期的なデータバックアップの取得や、緊急時には紙の契約書に切り替える業務継続計画を事前に準備しておくことが重要です。
雇用契約書・労働条件通知書を電子化するときのステップ
雇用契約書の電子化を成功させるには、計画的なステップを踏むことが重要です。現状分析から運用開始まで、段階的に進めましょう。
現状契約フローの課題抽出
まず現在の雇用契約プロセスを詳しく見直し、どこに時間がかかっているかを明確にします。書類の印刷から郵送、返送待ち、ファイリングまでの各工程にかかる時間とコストを計測しましょう。
特に採用が集中する時期の業務負荷や、リモート勤務者との契約締結で発生している遅延を把握することが大切です。また書類の紛失リスクや保管場所の問題、法改正時のテンプレート更新作業なども課題として洗い出します。
分析結果をもとに電子化で解決したい優先順位を決めれば、システム選定時の判断基準が明確になります。
電子化対象書類と要件の整理
電子化する書類の範囲を決定し、それぞれに必要な法的要件を整理します。労働条件通知書は従業員の同意が必要で、本人のみが閲覧でき印刷可能な環境が求められます。雇用契約書は双方の合意を示すため電子署名機能が必要です。また入社時に交わすその他の書類も含めて電子化するかを検討しましょう。
2024年4月の法改正で追加された労働条件の明示事項にも対応する必要があります。電子帳簿保存法の要件として、改ざん防止措置と検索性の確保も必須です。
これらの要件を満たすシステムの機能要件をリスト化しておくことで、適切なサービス選定につながります。
<関連記事>電子帳簿保存法とは?対象書類や2024年の改正内容をわかりやすく解説
電子契約システムの比較・選定
複数の電子契約サービスを機能面とコスト面で比較検討します。労働条件通知書と雇用契約書の両方に対応しているか、電子帳簿保存法の要件を満たしているか、法改正時の自動アップデート機能があるかを確認しましょう。
料金体系は初期費用と月額費用、送信件数による従量課金の組み合わせが一般的です。年間の採用予定人数から総コストを試算し、予算内に収まるサービスを選びます。
また操作の簡単さや日本語サポートの充実度、既存の人事システムとの連携可能性も重要な判断材料です。無料トライアルを活用して実際の使い勝手を確認することをお勧めします。
以下の記事では、電子契約システムの選定方法やおすすめサービスを紹介しています。ぜひご活用ください。
<関連記事>【2025年版】電子契約システムおすすめ10選|選び方のポイントや注意点を解説
社内規程整備と関係者の合意
電子契約導入に合わせて社内の就業規則や契約関連規程を見直します。電子署名の法的効力や保存方法について明記し、従来の紙契約との併用期間中のルールも定めておきましょう。
また、経営陣から現場の担当者まで、関係者全員に電子化の目的とメリットを説明し、理解と協力を得ることが重要です。特に従業員に対しては労働条件通知書の電子交付について個別に希望を確認し、同意を得る必要があります。
パソコンやスマートフォンの操作が苦手な従業員には丁寧なサポート体制を用意し、不安を解消することで円滑な移行を実現できます。
テスト運用・効果測定
本格導入前に少数の部署や特定の職種で試験運用を実施します。実際の採用プロセスで電子契約を使ってみて、操作上の問題点や改善すべき点を洗い出しましょう。
テスト期間中は従来の紙契約と並行して進め、万が一のトラブルに備えます。問題が解決されたら段階的に対象範囲を拡大し、最終的に全社展開します。
導入後は契約締結にかかる時間の短縮効果や、印刷・郵送コストの削減額を定量的に測定しましょう。また従業員や応募者からの満足度も調査し、継続的な改善につなげることで電子契約の効果を最大化できます。
データ保存・バックアップ体制の構築
電子化された雇用契約書は法律で定められた期間の保存が義務付けられているため、確実なデータ管理体制を構築します。クラウドサービスを利用する場合でも、定期的なバックアップ取得と復旧テストを実施しましょう。
また労働基準監督署の監査に備えて、契約書の検索方法や出力手順をマニュアル化しておくことが大切です。アクセス権限の管理も重要で、担当者の異動時には速やかに権限を変更する仕組みを整えます。
さらに年に一度はデータの整合性チェックを行い、システム障害や人為的ミスによるデータ消失がないことを確認すれば、安心して電子契約を継続できます。
以下の記事では、会社書類の保存期間や保管方法、廃棄方法などについて詳しく解説しています。理解を深めたい方はぜひ併せて確認してみてください。
<関連記事>会社書類の保存期間一覧|保存・処理方法や電子化するメリットも解説
雇用契約書・労働条件通知書を電子化する際の注意点
雇用契約を電子化する際は、主に以下の項目に注意が必要です。
- 電子帳簿保存法への対応
- 証拠力の確保と改ざん防止対策
- 労働条件通知書の電子交付について
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
電子帳簿保存法への対応
改正電子帳簿保存法では、2024年1月から、電子取引の記録については電子データでの保存が義務付けられています。保存にあたっては、「真実性の確保」と「可視性の確保」の要件を満たすことが必要です。
真実性の確保とは、データが改ざんされていないことを証明できる状態を指します。真実性の確保のためには、以下のいずれかの措置を講じる必要があります(電子帳簿保存法施行規則4条1項各号)。
- タイムスタンプが付された後の電子取引データの授受
- 電子取引データの授受後、速やかに(またはその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付す
- 記録事項について訂正・削除を行った場合には、その事実及び内容を確認することができる、またはそもそも訂正・削除ができない電子計算機処理システムを使用して保存を行う
- 正当な理由がない訂正および削除の防止に関する事務処理規程を定め、当該規程に沿って運用する
また、可視性の確保の要件として、電子取引データについて「取引年月日その他の日付」「取引金額」「取引先」を検索キーとして設定し、日付または金額の項目における範囲指定や複数のキーを組み合わせての検索ができる機能を確保することが求められます(電子帳簿保存法施行規則2条6項5号、同規則5条5項1号ハ)。なお、データの訂正・削除履歴の確認機能は、主に前述の真実性の確保に関連する要件です。
雇用契約書の電子化を導入する際には、こうしたシステムや設備が整っていることを確認することが大切です。
2024年11月最新 電子帳簿保存法 (電帳法)対応まるわかりガイド
証拠力の確保と改ざん防止対策
証拠力の確保と改ざん防止対策も重要です。電子署名法に基づいた電子署名やタイムスタンプを付与することで、契約書の真正性を担保し、後日の紛争リスクを軽減できます。
アクセス権限の適切な設定も、改ざん防止に役立ちます。契約データへのアクセスを担当者のみに制限し、操作権限も役割に応じて設定することで、内部不正のリスクを低減できます。
また定期的なセキュリティ監査やアクセスログの確認を行うことで、万が一の不正アクセスや改ざんの兆候を早期に発見する体制が整います。電子契約システムは、こうしたセキュリティ対策が充実したサービスを選ぶのがおすすめです。
<関連記事>
タイムスタンプとは?仕組みや電子帳簿保存法における役割について解説
【2025年版】電子契約システムおすすめ10選|選び方のポイントや注意点を解説
労働条件通知書の電子交付について
労働条件通知書の電子交付は、労働者本人が希望することが法的な要件です。加えて、交付された労働条件通知書を、労働者がいつでも容易に確認でき、かつ必要に応じて書面として出力できるような環境を整備することも求められます。労働者が自宅のパソコンやスマートフォンからアクセスできるサービスを活用するか、社内PCから常時アクセスできる環境整備を進める必要があります。
入社時点ではまだ会社のシステムに慣れていない従業員も多いため、必要に応じて、アクセス方法の説明や、操作サポートを行います。ただし電子メールやクラウドストレージを利用する場合は、個人情報などの機微情報の漏洩リスクにも配慮しなくてはいけません。適切なセキュリティ対策を講じましょう。
<関連記事>労働条件通知書とは?雇用契約書との違い・明記項目をテンプレ付きで解説
雇用契約書・労働条件通知書の電子化について解説しました
雇用契約書・労働条件通知書の電子化は企業にも、労働者にも大きなメリットがあります。一方で導入コストや社内体制の整備には留意しなくてはなりません。また導入に際しては、電子帳簿保存法への対応や証拠力の確保、労働条件通知書の電子交付における留意点などに注意してください。
時代の変化とともに、雇用契約書・労働条件通知書の電子化はますます一般的になっていくことが推測されます。企業の需要にあったサービスを選定し、効率的な契約プロセスを構築することで、人事業務の効率化と生産性向上を実現できるのです。
契約業務DXの第一歩として選ばれることの多い電子契約ですが、契約審査、契約管理など連続する別の業務と切り離して導入することは業務改善の観点においては得策とは言い切れません。LegalOn Cloudは、AIテクノロジーを駆使し、法務業務を広範囲かつ総合的に支援する次世代のリーガルテックプラットフォームです。電子契約を含むあらゆる法務業務をAIがカバーでき、さらに必要な業務支援サービスを選択して導入できるため、契約の電子化の選択肢としても非常に有力です。