広告のリーガルチェック(広告審査)とは
広告のリーガルチェック(広告審査)とは、企業が出稿する予定の広告内容について、景品表示法や消費者契約法などの関連法令、各ガイドラインに違反していないかを確認する作業です。
もしも法令やガイドラインに違反する広告を出稿してしまった場合、行政処分や罰則を受けるだけでなく、企業としての社会的評価を損なう恐れもあるため、法務部門は広告内容について慎重に審査し、修正の要否を判断する必要があります。
広告のリーガルチェックを行う主な目的
広告のリーガルチェックは、次の3つを主な目的として行われます。
法令違反を防ぐ
広告のリーガルチェックを行う主な目的は、法令違反の防止です。出稿前に景品表示法・薬機法・健康増進法・消費者契約法などの関連法令に違反していないか確認することで、行政処分や刑事罰の対象となるリスクを低減します。
企業の信用・ブランドイメージを守る
出稿した広告が法令やガイドラインに違反していると、行政処分や罰則を受けるのみならず、企業としての信用やブランドイメージを大きく損なう場合もあります。広告の表現が不適切な場合は、SNS等で批判が集中する、いわゆる「炎上」のリスクも伴います。その結果、売上が低下するだけでなく、長期的な事業の成長に影響が生じる場合もあるでしょう。
企業価値を保つためには、広告出稿前に内容や表現について慎重に審査し、法令に反する危険性はないか、炎上につながるリスクはないかなどを確認する必要があります。
消費者トラブルや訴訟リスクを回避する
虚偽広告、誇大広告に該当する場合、消費者トラブルや訴訟へつながるリスクも高まります。消費者を誤解させる表現を排除せず、そのまま出稿してしまうと、クレームや損害賠償の請求、訴訟に発展する可能性も否定できません。
リーガルチェックを事前に行い、修正すべき表現はないか細かく確認する必要があります。
広告のリーガルチェックに関連する法令
広告のリーガルチェックを行う際には、景品表示法や消費者契約法などの関連法令を確認します。
景品表示法
景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)は、商品やサービスの品質、価格等に関する不当な表示(著しく優良であると誤認させる表示(優良誤認表示)や、取引条件が著しく有利であると誤認させる表示(有利誤認表示)など)を規制する法律です。
違反例
- 合理的な根拠なく、ダイエット食品の広告で「1ヶ月で5kg減量」などと効果を保証する(優良誤認表示)
- 合理的な根拠なく、「通常販売価格より50%OFF」などと記載し、実際よりも有利な取引であると誤認させる(有利誤認表示)
消費者契約法
消費者契約法は、消費者と事業者の間の情報力・交渉力の格差を考慮し、不当な勧誘行為(不実告知、不利益事実の不告知、断定的判断の提供など)によって締結された契約について、消費者が契約を取り消せることなどを定める法律です。広告も、その内容や方法によっては「勧誘」に該当する場合があります。
違反例
- 将来の価格変動が不確実な金融商品について、「確実に値上がりする」と広告で宣伝する(断定的判断の提供)
- 不動産取引において、隣接地に高層マンションが建設されることを隠した上で、「日当たり・眺望良好」などと広告する(不利益事実の不告知)
薬機法
薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品(以下、「医薬品等」)の品質・有効性・安全性を確保すること等を目的とする法律です。
同法66条では、「何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。」と定めています。特に、未承認の医薬品等については、広告や承認された範囲を超える効能効果の標ぼうはできません。また、健康食品等が医薬品的な効能効果を標ぼうすることも規制対象です。
違反例
- 科学的根拠なく「血液がサラサラに」「生活習慣病が予防できる」などと標榜する
- 医薬品等に該当しないサプリメントなどにおいて「ガンが消える」など、疾病の治療や予防を目的とする表現を用いる
<関連記事>
【弁護士監修】製薬業界の広告・商品表示規制入門|景品表示法・薬機法それぞれの観点で解説
健康増進法
健康増進法は、国民の健康を増進するためのルールをまとめた法律です。広告に関しては、健康増進法65条1項、ならびに健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令19条に基づいて、食品の健康増進効果に関する表示を規制しています。
健康増進法は、国民の健康の増進の推進に関するルールをまとめ、国民保健の向上を図ることを目的とした法律です。広告に関しては、同法65条1項において、「何人も、食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他内閣府令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。」と定められています。
違反例
- 合理的な根拠なく、食品について「食べるだけで糖質や脂質の吸収抑制効果が」などの健康効果を標ぼうする
- 客観的かつ信頼できるデータなく、「免疫力が増加し、病気から身体を守る」などと標ぼうする
商標法・不正競争防止法などの知的財産法
商標法は、商品やサービスの商標を保護するための法律で、他社の登録商標を無断で使用することや、類似表示を禁止しています。一方不正競争防止法では、原産地を誤認させる表示や、品質を偽る表示などを規制する法令です。
商標法は、商品やサービスに用いる商標を、登録により保護し、登録商標の無断使用などを規制する法律です。広告では、他社の登録商標を使用する際などが同法の規制対象に該当します。
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保するための法律であり、他人の周知・著名な商品等表示と同一・類似のものを使用して混同を生じさせる行為(周知表示混同惹起行為、著名表示冒用行為)や、商品の原産地、品質、内容等について誤認させるような表示(原産地等誤認惹起表示)などを不正競争行為として規制しています。
違反例
- 他社の商品名やロゴデザインに酷似した表現を用いた広告を出稿し、自社と他社の商品・サービスを誤認させる(不正競争防止法の周知表示混同惹起行為や著名表示冒用行為、または商標権侵害の可能性)
- 外国産の原材料を主とした食品について、国産であるかのような表示で消費者を誤認させる(不正競争防止法の原産地等誤認惹起表示、または景品表示法の優良誤認表示の可能性)
<関連記事>
法務がおさえたい知的財産権の基本|知財の種類・実務に役立つ資格など
金融商品取引法
金融商品取引法は、経済の発展と投資家の保護を目的に制定された法律です。広告に関しては、収益を見込めると誤認させる表現、事実に相違する表示などを禁止しています。また、金融商品取引業者が広告を出稿する場合、以下のような法定事項を表示することが義務付けられています(同37条)。
- 商号
- 登録番号
- リスク
- 手数料 など
さらに、虚偽の表示や、重要な事項につき誤解を生じさせる表示、損失補填を約束する行為などを禁止行為として定めています(同38条)。
違反例
- 元本保証のない金融商品に対して「元本保証」と虚偽の広告表示をする
- 金融商品のリスクを意図的に表記せず、または過小に表現して高リスクな金融商品を勧誘する
広告のリーガルチェックの流れ
広告のリーガルチェックを行う際は、広告審査の受付・広告内容のチェックと調整・広告の出稿といった流れで進められるのが一般的です。ここからは、それぞれのステップで行う業務内容について解説します。
広告審査の受付
広告のリーガルチェックは、まず広告案の受付から始まります。企業の法務部門などのリーガルチェックを担当する部署が中心となり、審査が必要とされる広告案を受け付けます。
案件を受け付ける際には、以下の情報を併せて収集することで、関連法令やガイドラインなどの調査が容易になり、対応がスムーズになります。
- 広告掲出予定日
- 掲出媒体
- 対象商品・サービス
- 訴求ポイント
- 想定されるターゲット層
- その他の関連情報
審査対象となる広告案が多い場合は、案件管理システムや申請フォームを導入して受付窓口を一本化、審査状況を可視化するなど、効率的な審査体制を整備することが望ましいです。
広告内容のチェックと調整
広告案を受け付けた後は、法務部門の担当者や顧問弁護士などによって内容が審査されます。広告の対象となる商品・サービスや掲出する媒体に応じ、景品表示法・消費者契約法・薬機法・健康増進法・不正競争防止法などの法令やガイドラインを参照して、違反に該当する内容の有無を確認します。
ここで重要なのが、単に法令に違反する・しないだけでなく、消費者に誤解を与えかねない表現はないか、炎上リスクはないのかまで総合的に確認することです。もしも問題点があった場合には修正を依頼します。
再提出された広告案を再びチェックし、法令違反や炎上するリスクが排除された際には、広告の出稿へと進みます。
広告の出稿
リーガルチェックや修正を経た広告案は、担当者が出稿手続きを行います。リーガルチェックで修正指示が出された箇所について、正確に改善されているか最終確認を実施し、問題がないと判断されたら出稿します。
なお、広告を出稿できた段階でリーガルチェックの関連業務が完了するわけではありません。出稿後であっても、社会情勢の変化や法改正、新たな判例の出現などによって、法令違反や炎上リスクが発生する場合もあるためです。出稿後、問題が生じた際も迅速に対応できるよう、監視体制の確立および事実確認、関係省庁への報告、広告の差止め・修正、プレスリリースなどの対応フローの整備を行い、法務部門の体制を整えておくことが重要です。
広告のリーガルチェックにおける注意点
広告のリーガルチェックを行う際には、次の4つのポイントについて注意しておく必要があります。
関連法令を網羅的に確認すること
広告のリーガルチェックを行うにあたって、関連法令の確認もれには厳重に注意する必要があります。広告には、景品表示法や消費者契約法、薬機法、金融商品取引法などさまざまな関連法令がありますが、出稿する広告の内容や対象となる製品によっては、該当する業法に関しても確認する必要があります。
どの法令が関連するのかすべて洗い出した上で、確認もれが生じないように網羅的にチェックし、法令違反のリスクをできる限り押さえることが推奨されます。
法令だけでなくガイドラインも確認する
広告の関連法令を確認することはもちろん重要ですが、法令の条文を確認しても判断基準が不明確であったり、実務上の適用範囲に迷うケースも少なくありません。そのような場合、所管省庁等が公表している各法令のガイドライン、Q&A、解説資料、パブリックコメントへの回答などを併せて参照することが重要です。
特にガイドラインは、消費者向けのわかりやすい説明や具体例なども掲載されているため、違反となる基準について正確に把握し、トラブルにつながるリスクを最小限とするために確認が不可欠です。
必ず複数人でチェックする
広告のリーガルチェックは、確認もれや判断ミスを予防するために複数人での審査が推奨されます。
一人で担当した場合、担当者とは異なる視点からの意見が反映できないため、客観性が十分に担保できないためです。この場合、予期せぬ炎上リスクにつながる恐れもあります。
一方、複数人でリーガルチェックを行えば、さまざまな視点から広告内容についての意見を収集でき、リスクの高い表現はないかをより詳細に洗い出すことが可能になります。
保守的な視点で広告をチェックする
広告のリーガルチェックでは、一概に法令違反とは判断できない、グレーゾんの案件が提出されるケースもあります。この場合、少しでもリスクがあると考えられるならば、法務担当者としては該当する表現を排除・改善することを要求することが望ましいです。
基本的には保守的な視点でリーガルチェックを行うことで、消費者とのトラブルや企業としての信頼失墜を予防できます。
まとめ:広告のリーガルチェックはツールを活用して効率化しよう
広告のリーガルチェックは、法令違反や消費者トラブル、企業の社会的信用失墜へのリスクを抑えるために必要なプロセスです。
しかし、景品表示法や薬機法など幅広い関連法令を参照する必要があり、専門知識のある人材はもちろん、多くの時間や労力が求められます。人員や時間も限られる中、より効率的に広告のリーガルチェックを行うには、テクノロジーの活用もおすすめです。広告表現をAIが自動でチェック、指摘してくれるサービスが存在します。出稿する広告数が多くお悩みの場合や、スピード感を持ちながらもチェック水準を高く保ちたいとお困りの際には、こういったツールの導入を検討することも選択肢となるでしょう。
LegalOn Cloudは、AIテクノロジーを駆使し、法務業務を広範囲かつ総合的に支援する次世代のリーガルテックプラットフォームです。契約書のレビュー業務をAIが支援するほか、必要な業務を支援するサービスを選んで導入できるため、初めてリーガルテックの導入を検討する方にもおすすめです。
<関連記事>
リーガルチェックは効率化できる?クラウドサービスの導入メリットを解説