なぜ法務業務は「可視化」されにくいのか
法務業務は専門性が高く、案件の内容も多岐にわたるため、ほかの部門と比べて業務内容の把握が難しい傾向にあります。ここでは、法務業務が可視化されにくい理由を整理していきます。
属人化しやすい業務構造
法務業務は案件ごとに担当者が固定されやすく、同じ法務部で働いていても同僚がどのような業務を進めているのか把握しにくい、という特徴があります。契約書のレビューや社内相談対応といった業務は、案件内容やリスクレベルによって業務内容が大きく異なるため、標準化が難しいのです。
また、担当者の経験値や判断力に依存する場面が多く、結果として「この作業はAさんしかできない」といった属人化が進みやすくなります。属人化が進むと、業務の引き継ぎや法務部全体での業務改善が滞る要因にもなります。
成果を数値化しづらいという構造的な課題
法務業務は、営業部門のように「売上」や「契約件数」といった明確な数値目標や成果を数値化しづらい性質があります。契約書のレビュー件数や相談対応時間などをKPIとして設定する例もありますが、案件の難易度やリスクの大きさによって負担が変動するため、単純な件数比較では公平性を担保しづらいのが現実です。
その結果、定量的な指標がないまま業務が進み、経営層への報告やリソース配分の判断が主観に頼ることになります。数値化の仕組みがないことが、法務業務の可視化を妨げる一因と言えるでしょう。
ツールや仕組みの導入が後回しになりがち
法務部門はコストセンター(直接利益を生み出さない部門)とみなされる場合があり、システムなどへの投資の優先順位が営業や開発部門と比較して低くなる傾向があります。そのため、メールやExcelで業務を管理することとなり、情報が各ツールで散在した結果、過去の対応履歴や進捗を俯瞰して確認することが困難になるという状況が生まれます。
また、業務改善の投資対効果が「コンプライアンス強化」や「リスク低減」といった守りの側面で評価されがちで、業務効率化や見える化に対する投資が後回しにされるケースも少なくありません。
このような要因が重なり、法務部門は他部門に比べて業務の可視化が進みにくい傾向にあります。
法務業務を可視化するメリット
法務業務を可視化することで、法務部の働き方やリソースの使い方を客観的に把握できます。ここでは、可視化がもたらす代表的な3つのメリットを紹介します。
業務負荷の平準化とリソース配分の最適化
可視化によって、担当者ごとの業務量や案件の偏りを明確にできるようになります。例えば、特定の担当者に契約レビューが集中している場合、業務分担を見直すことで負荷を均等にすることが可能です。
また、可視化されたデータをもとに、どの業務を誰に配分するか、どの工程を自動化できるかといった判断もしやすくなります。結果として、法務部全体の生産性が向上し、特定の担当者の業務負荷改善や残業時間の削減にも繋がります。
業務プロセスの改善・標準化
業務の見える化は、非効率な作業や繰り返し発生しているボトルネックを発見する手がかりになります。例えば、特定の契約レビューに毎回時間がかかっている場合、レビュー基準の明確化やテンプレート整備が改善策として考えられます。
このように、可視化によって「どこを直せば全体がスムーズに回るのか」を把握できるため、継続的な業務改善や標準化を推進することができます。
経営層への報告や人員計画の精度向上
可視化されたデータは、経営層に対して法務部門の成果や課題を説明する根拠になります。「対応件数」「平均処理時間」「リスク対応件数」などの数値があれば、リソースがどこに不足しているかを客観的に示せます。
これにより法務部門が抱える課題を明確に示し、必要なリソースを求める根拠としつつ、人員計画の精度を高めることが可能です。
法務業務を可視化する具体的ステップ
ここでは、実際に法務業務を可視化するための4つのステップを順に解説します。
ステップ1:可視化の目的と指標を明確化する
最初のステップは「見える化する項目」を明確にすることです。例えば「契約レビューにかかる平均時間」「担当者ごとの案件数」「社内相談の対応件数」など、業務内容に応じた指標を設定します。これによって課題となる要素や、偏りの原因となっている業務負荷の高い仕事を明らかにすることができます。
あわせて法務部門全体でKPIを共有することで、法務部内の共通認識をつくり、根拠を明確に改善の方向性をそろえることができます。
ステップ2:案件・タスク情報を一元管理する
次に、案件ごとの情報を一元管理する仕組みを整えます。Excelやスプレッドシートを活用する方法もありますが、重要なのは、適切な権限管理によって必要なメンバーが必要な情報に適切にアクセスできる状態を作ることです。
案件単位でステータスや担当者、対応履歴を記録することで、進捗の見落としや対応漏れを防ぎつつ、業務の担当者や所要時間を可視化することに繋がります。こうした仕組みづくりが属人化を防ぐ第一歩となります。
ステップ3:データを収集し、分析する仕組みをつくる
業務情報を蓄積したら、次はそれを分析できる形に整えます。案件の作成日や担当者、進捗状況を定期的にエクスポートし、担当者別の案件数や処理時間を可視化することで、業務のボトルネックを把握できます。
ここで重要なのは、分析を「監視目的」にしないことです。目的は、組織の業務効率を上げるための改善点を見つけることや、適切な人事評価に反映することにあります。
ステップ4:課題を特定し、業務プロセスを改善する
分析結果をもとに、業務のどこで時間がかかっているか、どの工程が属人化しているかを洗い出します。例えば、レビュー承認フローの見直しや、マニュアル整備、外部専門家への委託など、具体的な改善施策を検討します。
改善は一度に大きく変えるよりも、小さな取り組みを積み重ねて定着させる方が効果的です。継続的な改善が、最終的な業務効率化に繋がります。
法務業務の可視化に役立つツール・仕組み
可視化を実践するうえでは、ツールの選定が重要です。ここでは、代表的な方法を2つ紹介します。
Excel・スプレッドシートによる手動管理
Excelやスプレッドシートは、導入コストがかからず、少人数の法務部門でも始めやすい手法です。まず業務の管理台帳を作成し、それらに担当者や依頼部署、依頼内容などの必要情報をまとめた項目を設定します。ここで可視化したい情報を項目に組み込み、一定期間分の情報が集まった時点で、それを集計することで可視化を実現します。
ただし、Excelやスプレッドシートによる管理は、案件数が増えると入力・集計作業が煩雑になりやすい点に注意が必要です。継続的な運用には限界があるため、中長期的には専用ツールの導入を検討するのが望ましいでしょう。
案件管理システム、マターマネジメントツールの活用
案件管理システムを利用すれば、案件ごとの進捗や担当者、対応履歴を自動的に記録できます。これにより、手動での更新作業を減らしながら、常に最新の業務状況を可視化できます。
CSVなどの形式でデータを出力できる機能を備えたツールを使えば、業務分析や改善提案に必要な情報を簡単に抽出でき、収集した情報をそのまま法務部全体や経営層向けに共有しやすくなります。
LegalOnで業務状況や案件の進捗を「見える化」
「LegalOn」は複雑な法務業務を効率的に管理・対応するための法務AIツールです。中でもマターマネジメントモジュールを活用することで、法務部が対応している案件情報を一元管理しつつ、CSV形式でダウンロードして各担当者の業務状況を客観的に分析することなどが可能です。担当者や作成日を指定してエクスポートできるため、「誰がどの案件をどれだけ抱えているのか」を数値で把握することが可能です。エクスポートしたデータを活用すれば、業務の偏りやボトルネックを特定し、定量的な根拠に基づいた改善策を立てるのに役立ちます。
こうした仕組みを導入することで、法務部門のリソース配分が明確になり、業務の属人化防止や法務部全体の生産性向上に繋がります。LegalOnは、単にデータを管理するだけでなく、可視化を通じて「強い法務部門」をつくるための基盤となるツールです。
まとめ:法務業務の「可視化」は、法務部を強くする第一歩
法務業務の可視化は、法務部の業務量や負荷を「見える化」するだけでなく、その先の法務部全体の生産性と協働の質を高めるための取り組みです。業務の属人化や負荷の偏りといった課題を解消することで、組織としてより安定的に案件対応を進められるようになります。
また、データを根拠とした報告や提案が可能になることで、法務部門のプレゼンスや信頼性も向上します。
まずは現状を把握し、改善の余地がある業務を特定するところから始めてみましょう。継続的な可視化と改善のサイクルを回すことが、持続的に成果を生み出す法務組織への確実な一歩となります。

 
 


