契約の変更に関する民法上のルール
契約の変更には、民法の原則的なルールが適用されます。ここでは契約の変更に関する民法上のルールを、要点ごとにまとめて紹介します。
当事者全員の合意が必要
契約内容を変更するためには、原則として契約当事者全員の合意が必要です。例えば売買契約であれば売主と買主の双方、賃貸借契約であれば貸主と借主の双方の同意がなければ、契約内容を変更することはできません。一部の当事者だけが勝手に変更しようとしても、その変更は法的な効力を持ちません。また、ここでいう「合意」は、明確な意思表示に基づいて行われる必要があります。
合意の方式は問わない
民法上、契約の成立や変更は特定の法令による定めがある場合を除き、方式を問いません。すなわち、口頭での合意でも有効です。例えば「来月から家賃を5,000円値上げすることで合意しました」といった口頭でのやり取りでも、法的には契約変更の効力は生じます。
しかし、口頭での合意は、後になって「言った」「言わない」の争いになりやすく、証拠が残らないという大きなデメリットがあります。そのため、特に重要な契約や変更内容の場合には、後述する覚書や変更契約書といった書面を作成し、変更内容を明確に記録しておくことが極めて重要です。
定型約款の変更の場合は合意が不要
ここまで、契約の変更には合意が必要という前提について解説しました。しかし例外として「定型約款の変更によって生じる契約変更は合意が不要」となります。定型約款とは、2020年4月の民法改正によって規定された概念です。具体的には以下の要件をいずれも満たす約款を指します(民法548条の2第1項)。
【定型約款の定義】
ある特定の者が不特定多数の者を相手方とする取引で、
内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なものを 「定型取引(※)」と定義した上、 この定型取引において、
契約の内容とすることを目的として、その特定の者により準備された条項の総体
※「定型取引」とは、以下の2つの要件をいずれも満たした取引を指します。
- ある特定の者が不特定多数を相手方として行う取引
- 契約内容の全部または一部が、画一的であることが双方にとって合理的な取引
例えば、電気やガス、通信サービス、アプリケーションなどの利用規約が定型約款にあたります。
定型約款を変更して契約内容を変更する場合、個別の合意は不要とされるものの、事業者はその変更が相手方の一般の利益に適合し、契約の目的に反しないかつ合理的な範囲内であるようにする必要があります(民法548条の4)。さらに、変更の効力発生時期を定め、その時期をWebサイトへの掲載などの方法で周知することも行わなければいけません(民法548条の4第2項、3項)。
変更が契約の目的に反せず、かつ、変更の必要性・内容の相当性等に照らして合理的である場合に限り、変更の効力発生時期を定め、その効力発生時期までにウェブサイトへの掲載等の方法で変更内容を周知することで、変更後の約款が契約内容となります(民法第548条の4)。これらの定めは利用者が変更内容を確認し、場合によってはサービス利用を継続するか否かを判断する機会を確保することが趣旨ですが、利用者が異議を述べた場合でも要件が満たされていれば変更の効力は発生する点には留意が必要です。
契約変更の効力は過去にさかのぼらない
契約の変更は原則として、その変更が合意された時点から将来に向かって効力を生じます。すなわち、契約変更以前に変更内容に反する出来事があっても、さかのぼって契約違反を問われることはありません。これを「将来効」と呼びます。例えば、ある契約を1月1日に締結し、その内容を3月1日に変更した場合、変更後の内容は3月1日から適用され、1月1日から2月末日までの期間に遡って適用されることはありません。
ただし、当事者間で合意すれば変更の効力を過去に遡らせることも可能です。これを「遡及効」と呼びます。遡及効を適用させる場合は、その旨を明確に合意し、書面に記載しておくことが不可欠です。
「契約の変更に関する条項」を契約書に含める
契約書を締結する際、将来の変更に備えて「契約の変更に関する条項」をあらかじめ含めておくことで、スムーズかつ明確に手続きを進めることができます。ここでは、それらの条項を定める理由と具体的な条項の例文を解説していきます。
なぜ契約の変更を条項に定めるのか?
契約の変更に関する条項を設ける最大の理由は、ルールを明確にするためです。変更が必要となった場合に、その手続きや条件が契約書に明記されていれば、当事者間で「どのように変更すれば良いのか」「何に合意すれば良いのか」といった迷いや意見の相違が生じにくくなります。
さらに、契約変更について条項を定める理由として、変更を合意する方式を限定するためという点も挙げられます。先述の通り、民法の規定に則れば契約変更にあたって合意を取る方式は限定されていません。合意方法を限定しない場合に、一方が口頭やメールのみで契約を変更したと主張しても、もう一方が認めないといったトラブルが発生する可能性があります。契約変更の方式を限定することで、こういった契約トラブルを避けることができます。
「契約の変更に関する条項」の例文
「契約の変更に関する条項」の例文を以下に示します。契約の内容や当事者の状況に合わせて、適宜修正してご活用ください。
【例文1】
「本契約の内容は、甲乙両当事者の書面による合意がなされた場合に限り、変更することができるものとする。」
【例文2】
「本契約の内容の追加、変更、または本契約に定められていない事項については、甲乙協議の上、別途書面によりこれを定めるものとし、当該書面が作成されたときに効力を生ずるものとする。」
【例文3】
「本契約の各条項の解釈に疑義が生じた場合、または本契約に定めのない事項については、甲乙誠実に協議の上、解決するものとする。ただし、協議により解決できない場合、または本契約の内容を変更する場合は、甲乙双方の書面による合意をもって行うものとする。」
ここに示した例文では「書面による合意」を必須とすることで、将来の証拠保全に役立つように定めています。また例文2および3においては「協議の上」という文言を入れることで、当事者間の話し合いの重要性も示唆しています。
実際に締結済みの契約を変更するためには?
すでに締結済みの契約を変更する方法は、変更箇所の量や重要性によっていくつかの選択肢があります。適切な方法を選択することで、手続きを効率的に進め、法的な効力を確実に発生させることができます。
変更箇所が少ない場合
契約書の一部を微修正する程度で変更箇所が少ない場合や、契約書内の重要な内容を変更するわけではない場合は、「覚書」を締結することで変更を合意するのが一般的です。この覚書は、単純に「変更契約書」とする場合もあります。
このようなケースでは、わざわざ既存の契約書をすべて作り直す必要がありません。覚書は原契約の特定の条項を修正したり、新しい条項を追加したり、あるいは既存の条項を削除したりする際に非常に便利です。例えば単価の変更、納期の変更、支払い方法の微調整など、契約の基本的な枠組みは維持しつつ、細部の調整が必要な場合に適しています。
覚書を作成することで、変更内容が明確になり、後々の誤解や紛争を防ぐことができます。また、既存の契約書を破棄して新しい契約書を作成する手間やコストも省けるため、効率的に契約内容を更新できるというメリットがあります。ただし、覚書の内容は既存の契約書と矛盾しないように注意深く作成する必要があります。既存の契約書を補完し、変更するものであることを明記し、どの契約書のどの部分を変更するのかを具体的に記載することが重要です。
覚書の書き方
具体的な覚書のサンプルを提示しつつ、覚書の記載事項を例示していきます。
【覚書の記載事項の例】
- タイトル: 「覚書」「変更契約書」などの名称を記載します。
- 当事者: 契約当事者それぞれの名称を記載します。
- 合意の趣旨: 「〇年〇月〇日付で締結した〇〇契約書(以下「原契約」という。)について、以下のとおり変更することに合意する。」など、どの契約を変更するのかを明確にする文言を記載します。
- 変更内容: 具体的な変更箇所を明記します。例えば、「原契約第〇条第〇項の「〇〇」を「△△」に改める。」「原契約第〇条の次に以下の条項を追加する。…」といった形で、変更前と変更後を明確に記述します。
- その他の合意事項: 変更以外の取り決めがあれば記載します。例えば、「本覚書に定めのない事項については、原契約の定めが適用されるものとする。」といった文言は、原契約の有効性を確認する上で重要です。
- 作成日: 覚書を作成した日付を記載します。
- 署名捺印: 当事者双方の署名または記名と捺印(法人であれば代表者印、個人の場合は実印または認印)を行います。
変更箇所が多いか重要な場合
契約内容の大半を変更する場合や、契約の根幹に関わる重要な事項を変更する場合には、「全面変更契約書」を締結することが検討されます。全面変更契約書とは、既存の契約内容を全て新しいものに置き換えるための契約書です。
全面変更契約書を締結する場合、まず対象となる原契約を特定した上で、「原契約を全面的に変更し、本全面変更契約書の条項が優先して適用される」旨(または、本契約の締結をもって原契約が失効し、本契約がそれに置き換わる旨)を明記します。その上で、変更後の契約条項の全てを改めて記載する形となります。
全面変更契約書の注意点
全面変更契約書を取り交わす場合に注意したい点として、元となった契約(原契約)の失効忘れがあります。
全面変更契約書を結ぶということは、原契約には現状に適していない、または合意の上で変更したい内容が含まれている状態です。しかし、原契約を失効させる旨の文言を含めずに全面変更契約書を締結すると、どちらの契約書も併存してしまいます。この状態は後々大きなトラブルにつながる可能性があります。
あらかじめ原契約を失効させるため、以下のような文言を全面変更契約書に記載するとよいでしょう。
【例文】
本契約の締結をもって、〇年〇月〇日付で締結した〇〇契約書は、その効力を失うものとする。
印紙税の取扱い
契約書を変更する際には、印紙税の取扱いにも注意が必要です。国税庁によると、契約の変更に関する文書が課税文書に該当するかどうかは、その変更内容に「重要な事項」が含まれるか否かによって判定すること、と規定されています。ここでいう「重要な事項」については、印紙税法基本通達別表第2「重要な事項の一覧表」で確認することが可能です。
覚書や変更契約書を締結する場合は、印紙税の課税対象となるかどうかを確認し、適切に対応しましょう。もし印紙税の対象となるか複雑で判断が難しい場合は、税務署や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
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まとめ:契約の変更はあらかじめ準備が必要
契約の変更は、ビジネスを円滑に進める上で避けては通れないプロセスです。民法上のルールを理解し、当事者間の合意に基づいて適切に変更手続きを行うことが、将来的なトラブルを回避し、契約関係を健全に維持するために不可欠です。
とくに契約書を締結する段階で、将来の変更に備えて「契約の変更に関する条項」をあらかじめ盛り込んでおくことは、変更が必要となった際に手続きをスムーズに進めるための重要な準備となります。また、実際に変更を行う際には変更箇所の内容や量に応じて、覚書や全面変更契約書といった適切な書面を作成し、変更内容を明確に記録しておくことが大切です。
この記事では、契約の変更に関する民法上のルールや契約書にあらかじめ変更に関する条項を設けておくことの重要性、具体的な変更手続きに用いる書面などについて解説しました。適切な準備と手続きを行うことで、契約の変更をリスクではなく、ビジネスの柔軟性を高める機会として活用することができます。この記事が契約の締結や変更を担当する法務担当者の方の助けとなれば幸いです。
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