契約書の表記ゆれとは
表記ゆれとは、同じ意味の言葉を異なる表記で記載している状態を指します。契約書では「及び」と「および」、「1つ」と「一つ」、全角数字と半角数字などが混在するケースが典型例です。作成者が複数いる場合や、過去の契約書を流用する際に発生しやすく、文書全体の統一感を損なう原因となります。
なぜ表記ゆれは見落としやすいのか
表記ゆれは一見すると内容の正確性には直接影響しないように思えるため、契約条件の確認に集中すると後回しにされがちです。また人間の目は文脈から意味を理解するため、「及び」と「および」のような細かな違いを自然と読み飛ばしてしまいます。長文の契約書になるほどチェック箇所が増え、一つひとつを精査する負担も大きくなります。
契約書の表記ゆれに起因するリスク
表記ゆれは単なる体裁の問題にとどまらず、契約解釈や信頼性、さらには法的トラブルにつながる可能性があります。
契約解釈の混乱を招く
同じ契約書内で「甲及び乙」と「甲および乙」が混在すると、異なる意味を持つのではないかという疑念を生みます。特に「及び」と「並びに」のように、法令用語上、明確に意味が使い分けられる接続詞が統一されていない場合、それが意図的な使い分けなのか単なる表記ゆれなのか判断できず、当事者間で解釈の相違が発生するリスクが高まります。
契約条件の範囲や適用順序に関する認識のズレは、履行段階での紛争原因となります。明確な意思表示が求められる契約書において、表記の不統一は避けるべき要素です。
社内外からの信頼性低下
表記が統一されていない契約書は、作成者の注意不足や組織の管理体制の甘さを印象づけます。取引先からは契約内容の精査が不十分ではないかと懸念され、交渉上の不利益につながる可能性があります。
社内でも上司や法務部門からの指摘が重なると、担当者の評価に影響を及ぼします。特に大型案件や重要な取引では、細部まで配慮された文書作成が信頼構築の基盤となります。
法的トラブルの原因になる可能性
表記ゆれが原因で契約条項の意味が不明確になった場合、裁判所による解釈が必要になるケースがあります。当事者の意図と異なる解釈がなされれば、予期しない義務の発生や権利の喪失につながります。
実際の裁判では、契約書の文言だけでなく取引の背景事情や当事者の属性など様々な事情が考慮されますが、文言の曖昧さは紛争の火種となりえます。こうしたリスクを回避するためには、契約書作成段階での徹底した表記統一が不可欠です。
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契約書で頻出する表記ゆれパターン
契約書で発生しやすい表記ゆれのパターンを把握しておくことで、チェック作業を効率化できます。
漢字とひらがなの表記ゆれ
契約書で最も頻繁に発生するのが、漢字とひらがなの混在です。「及び」と「および」、「又は」と「または」、「但し」と「ただし」など、接続詞の表記が統一されていないケースが典型例となります。
さらに「直ちに」と「ただちに」、「即ち」と「すなわち」といった副詞でも同様の問題が起こります。
いずれかの表記に統一する必要がありますが、法令では漢字表記が多く使われる一方、契約書では読みやすさを重視してひらがな表記を選ぶ場合もあります。
当事者名の表記ゆれ
同一の契約書内で当事者の呼び方が統一されていない事例も多く見られます。「甲・乙」と表記した箇所と「売主・買主」と表記した箇所が混在するパターンや、業務委託契約で「本件委託業務」「本業務」「本サービス」などが入り乱れるケースが代表的です。定義条項で「以下『本件委託業務』という」と定めた場合、契約書全体で必ずその用語を使用しなければなりません。複数の契約書を流用して作成する際に特に発生しやすい問題です。
記号・句読点の表記ゆれ
読点として「、」(テン)と「,」(カンマ)が混在するケースがあります。かつては裁判文書や弁護士作成の契約書においてカンマが一般的に用いられていました。一方で2022年(令和4年)に内閣が通知した新しい「公用文作成の考え方」では、読点は原則として「、」を用いることとされました。それに倣い、現在では一般的にテンが広く使われていますが、いずれを使用する場合でも契約書内で統一する必要があります。また括弧についても、全角の「(」と半角の「(」が混在しないよう注意が求められます。
数字・単位の表記ゆれ
数字の全角と半角が混在する問題は見落とされやすい表記ゆれです。「100万円」と「100万円」のように、同じ金額表記でも全角・半角が統一されていないと読みにくさにつながります。単位についても「%」と「%」、「m」と「m」など表記が揺れやすく、契約書内で統一が必要です。
契約書全体で数字の表記方法を統一することで、文書の体裁が整い読みやすさが向上します。
その他の頻出表記ゆれ
「異議」と「意義」のような同音異義語の誤用も表記ゆれに含まれます。また、「とき」と「時」は、法令用語や契約実務において厳密に使い分けられます。「とき」は仮定的な条件(~の場合)を指し、「時」は特定の時点(~の時点)を指します。これらは単純な変換ミスから発生することが多く、契約内容そのものに影響を与える可能性があります。
また「できる(明確な権利)」と「できるものとする(裁量的権限ともとられる)」のようなニュアンスの異なる表現、「以上(基準点を含める)」と「超える(基準点を含めない)」といった数値の境界を示す用語も、正確な使い分けが求められるため、表記ゆれがないように注意する必要があります。
複数の契約書を参照しながら作成する際は、こうした細かな表記の違いに特に注意が必要です。
表記ゆれを防ぐための5つの予防策
表記ゆれは事前の対策で大幅に削減できます。組織全体で取り組むことで契約書の品質向上につながります。
自社ひな型で表記ルールを統一する
自社で使用する契約書のひな型に表記ルールを組み込んでおくことで、作成段階から表記ゆれを防止できます。
例えば接続詞は「及び」と漢字表記に統一する、数字は半角に統一するといった基本ルールをひな型に反映させます。Wordのアウトライン番号機能(見出しと連動した番号付け機能)をWord形式の自社ひな型に設定しておけば、条項の追加や削除があっても自動で正しい条項番号を振り直してくれるため、条ずれのミスも防げます。ただし、「第●条を参照」といった条項引用箇所の番号ズレを自動修正するものではないことには注意が必要です。
このように、ひな型を整備することで、担当者ごとの表記のばらつきも解消されます。
スタイルガイドを作成・共有する
組織内で統一的な表記基準を定めたスタイルガイドを作成し、法務部門や契約書作成に関わる全員で共有します。漢字とひらがなの使い分け、数字の表記方法、句読点の種類など、判断に迷いやすいポイントを明文化することで作業効率が高まります。
スタイルガイドは作成して終わりではなく、実務での使いにくさや新たな表記パターンの発見に応じて定期的に見直すことが重要です。柔軟性を持ったルール作りを心がけ、現場で実際に活用される基準を目指します。
複数人でチェックする
一人だけでチェックすると見落としが発生しやすいため、複数人による確認体制を構築します。作成者とは別の担当者がダブルチェックを行うことで、表記ゆれや誤字脱字を発見しやすくなります。特に重要な契約書については、法務部門内で相互チェックする仕組みを設けることが有効です。チェックする際は、単に読み流すのではなく、Wordの検索機能を使って特定の用語の表記が統一されているか確認する方法も効果的です。
複数人での作成時のルール徹底
複数の契約書から条項を流用して新しい契約書を作成する場合、特に表記ゆれが発生しやすくなります。異なる契約書から切り貼りする際は、コピー元とコピー先で表記ルールが異なることを認識し、貼り付け後に必ず表記を統一する手順を踏みます。
複数の担当者が分担して契約書を作成する場合も、事前に表記ルールを確認し合い、作業開始前に統一基準を共有しておくことで不統一を防げます。
最終チェックリストの活用
契約書の最終版を作成する段階で、表記ゆれや条ずれ、誤植などの形式面を確認するチェックリストを活用します。リストには「及び・および」「又は・または」といった頻出する表記ゆれパターンや、数字の全角半角、括弧の統一などを項目として盛り込みます。
Wordの検索機能と組み合わせることで、効率的に全文をチェックできます。チェックリストは実務で使いながら適宜項目を追加し、より使いやすいものに改良していくことが望まれます。
【業種別】表記ゆれチェックで特に注意すべきポイント
業種によって契約書で使用する用語や表記の慣習が異なるため、チェックすべき表記ゆれのパターンも変わってきます。それぞれの業界特有の注意点を把握しておくことで、より効率的なチェックが可能になります。
不動産業界の契約書
不動産業界では物件を特定する情報が多く記載されるため、「土地」「建物」「物件」といった類似用語の使い分けに注意が必要です。
また「売主・買主」と「甲・乙」の混在、「専有部分」「共用部分」などの不動産特有の用語における表記の統一も重要になります。特に物件状況確認書や重要事項説明書など複数の書類を参照しながら契約書を作成する場合、各書類間での用語の統一を忘れずに確認することが求められます。
契約不適合責任に関する条項では「瑕疵」から「契約不適合」への用語変更が民法改正で行われているため、古い雛形を使用している場合は特に注意が必要です。
IT・システム開発業界の契約書
IT・システム開発業界の契約書では、「システム」「本件システム」「本システム」といった対象物を指す用語の表記ゆれが頻発します。また経済産業省の「情報システム・モデル取引・契約書」を参考にする企業が多いため、複数の雛形を組み合わせて契約書を作成する際には特に注意が必要です。「ベンダー・ユーザー」と「甲・乙」の混在、「成果物」「納品物」「製造物」といった類似表現の混在も確認ポイントになります。工程ごとに契約を分ける多段階契約では、各契約書間での用語の整合性も重要です。
知的財産権や秘密保持に関する条項では、定義語の表記ゆれが権利関係の解釈に影響を与える可能性があるため、特に慎重なチェックが求められます。
製造業の契約書
製造業の契約書では、製品や部品を指す表記として「本件製品」「本製品」「製品」「成果物」などが混在しやすく、これらの統一が重要になります。また「委託者・受託者」「発注者・受注者」「甲・乙」といった当事者表記の混在にも注意が必要です。原材料の支給や検収に関する条項では、「支給材料」「提供材料」などの表記ゆれも発生しやすいポイントです。
製造物責任に関する規定では法律用語との整合性も求められるため、「欠陥」「不具合」「瑕疵」といった類似表現の使い分けにも配慮が必要になります。複数の契約書から条項を組み合わせる場合は、表記の統一性を最終確認で必ずチェックすることが大切です。
金融業界の契約書
金融業界の契約書では、金額や期日に関する表記の正確性が特に重視されるため、数字の表記方法の統一も含めた慎重なチェックが求められます。「貸主・借主」「投資家・発行会社」といった当事者表記と「甲・乙」の混在、「本契約」「本件契約」などの契約を指す表記の統一にも注意が必要です。
金銭消費貸借契約では「元本」「利息」「遅延損害金」といった金融用語の表記を正確に統一することが重要になります。投資契約では「表明保証」「前提条件」など法律用語が多用されるため、これらの用語の定義と表記の一貫性を維持することが求められます。
消費者保護の観点から契約内容の明確性が重視される業界であるため、表記ゆれによる解釈の曖昧さは特に避けるべきポイントです。
表記ゆれチェックならLegalOn|機能を徹底解説
LegalOnは契約書の表記ゆれをワンクリックで検出し一括修正できる機能を搭載しています。従来は契約書を一字一字読み直したり検索機能で確認したりする必要がありましたが、LegalOnなら複数種類の表記ゆれを瞬時に発見できます。漢字とひらがなの混在や当事者名の表記ゆれなど、契約書で頻繁に発生するパターンに対応しており、手動での修正作業や変更漏れを防ぐことが可能です。
編集機能の中で表記ゆれが発見された箇所をまとめて確認し、統一したい表記を選択するだけで修正が完了するため、契約書の最終チェックにかかる時間を大幅に短縮できます。
以下で機能の詳細がわかる資料を用意しております。契約書の表記ゆれを漏れ抜けなくチェックしたいという法務関係者の方はダウンロードしてください。
LegalOnとMicrosoft Word標準機能の表記ゆれチェック方法/精度の比較
Microsoft Wordの標準機能では校閲タブから表記ゆれチェックを実行できますが、初期設定ではカタカナのみが対象となっており、送り仮名や漢字とひらがなの混在をチェックするには手動で設定変更が必要になります。またWordの表記ゆれチェックは文章構造に依存するため、契約書のような定型的な文書では見落としが発生する可能性があります。
一方LegalOnは契約書に特化した設計となっており、「及び」と「および」、「甲・乙」と「売主・買主」など契約書で頻出する表記ゆれパターンを自動で検出します。検出後の修正もワンクリックで完了するため、Wordのように個別に確認して修正する手間がかかりません。契約書の品質向上と業務効率化の両面で優位性があると言えるでしょう。
まとめ:LegalOnで表記ゆれチェックを自動化し、契約書品質を向上
契約書の表記ゆれは契約解釈の曖昧さを生む原因となるため、最終チェックでの確認が欠かせません。本記事では「及び」と「および」といった漢字とひらがなの混在から、送り仮名のゆれ、当事者名の表記統一まで、契約書で頻出する表記ゆれパターンを解説しました。
まずはWord標準機能の表記ゆれチェックで基本的な確認を行い、より効率的なチェックが必要な場合は専門ツールの活用を検討するとよいでしょう。
LegalOnなら廃止用語の更新や条ずれ、定義語の問題まで自動検出でき、ワンクリックで一括修正が可能です。さらにLegalOnアシスタントを使えば契約書の修正文案の提案や専門用語の解説を確認することもできます。自社の業務量や求める精度に応じて適切な方法を選択し、契約書品質の向上を図ることが重要です。
詳しい機能は以下より資料を無料でダウンロードできるので、契約書の表記揺れの効率的にチェック/校正を考えている法務部門の方はぜひご覧ください。
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