そもそも電子帳簿保存法とは?3つのポイントでサクッと理解
「電子帳簿保存法(でんしちょうぼほぞんほう)」という言葉は知っていても、内容が複雑そうで後回しにしてしまっている方も多いのではないでしょうか?
ここでは、まず「電子帳簿保存法とは何か」という基本を、3つのポイントに絞って分かりやすく解説します。
ポイント1:税金に関する書類を電子データで保存するためのルール
電子帳簿保存法とは、ひとことで言えば、法人税や所得税など、税金に関する書類を電子データ(ファイル)のまま保存するための法律です。
これまで、請求書や領収書といった書類は「紙」で保存するのが当たり前でした。
この法律で定められたルールを守ることで、これらの書類をパソコンやクラウド上にデータとして保存することが認められます。
ポイント2:ペーパーレス化で業務効率アップを目指すもの
なぜこのような法律があるのでしょうか?
その大きな目的は、ペーパーレス化を進めて、企業の経理業務を効率化することにあります。
書類をデータで管理できれば、「あの領収書はどこにいった?」と探す手間や、膨大なファイルを保管するスペースも不要になります。
テレワークの推進にもつながる、社会全体の変化に合わせた前向きなルールと捉えるとよいでしょう。
ポイント3:法人・個人事業主などすべての事業者が対象
「うちは中小企業だから関係ないのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、それは誤解です。
電子帳簿保存法は、会社の規模や業種にかかわらず、すべての事業者が対象となります。
大企業はもちろん、中小企業や、フリーランスとして働く個人事業主も、この法律と無関係ではいられません。
【最重要】2024年からの「義務化」とは?対応しないとどうなる?
「2024年から義務化された」という話を聞いて、具体的に何をすべきなのか、対応しないとどうなるのか不安に感じている方もいるでしょう。
ここでは、今回の改正で最も重要な「義務化」のポイントと、そのリスクについて解説します。
義務化されたのは「電子取引データ」の電子保存
まず押さえておきたいのは、すべての書類の電子化が義務になったわけではない、という点です。
2024年1月から義務化されたのは、メールやクラウドサービスなどを通じて受け取った「電子取引データ」を、データのまま保存することです。
例えば、紙で受け取った請求書を、無理にスキャンして電子化する必要はありません。
NG例:PDFの請求書を紙に印刷して保存
今回の義務化で、これまで多くの方が行ってきた「データを紙に印刷して保存する」という方法が、原則として認められなくなりました。
例えば、以下のようなケースが該当します。
- 取引先からメールの添付ファイル(PDF)で送られてきた請求書
- AmazonなどのECサイトの購入履歴からダウンロードした領収書
これらのデータをわざわざ印刷してファイルに綴じるのではなく、PCやクラウド上で、ルールに沿って保存する必要があります。
要注意!対応しない場合のリスクとは
では、もし電子取引データをルール通りに保存しなかった場合、どうなるのでしょうか。その場合、ペナルティが課される可能性があります。
特に注意したいのが、節税メリットの大きい「青色申告」の承認が取り消されてしまうリスクです。
また、悪質なケースと判断されると、本来納めるべき税額に加えて「追徴課税」という追加の税金が課されることも考えられます。
すぐに罰則が適用されるわけではありませんが、安心して事業を続けるためにも、早めに対応を進めるのがおすすめです。
【図解】電子帳簿保存法の3つの保存区分|対象書類と満たすべき要件
「電子帳簿保存法といっても、種類が多くて分かりにくい…」と感じていませんか?
法律で定められた保存方法は、実は3つの区分に整理できます。
ここでは、それぞれの区分の違いと、どのような書類が対象になるのかを解説します。
区分①電子帳簿等保存(任意):会計ソフトなどで作成した帳簿・書類
パソコンで作成した帳簿などを、印刷せずデータのまま保存する方法です。この区分への対応は、事業者の判断に委ねられる任意のものです。
対象となる書類には、主に以下のようなものがあります。
- 会計ソフトで作成した仕訳帳や総勘定元帳
- 自社で発行した請求書や領収書の控え
一貫してパソコン上で作成・管理している書類をイメージすると分かりやすいでしょう。
区分②スキャナ保存(任意):紙で受け取った・作成した書類
紙で受け取ったり、自分で作成したりした書類をスキャナで読み取り、画像データとして保存する方法です。この区分への対応も任意です。
具体的には、次のような紙の書類が対象となります。
- 取引先から紙で受け取った請求書
- 店舗などで支払った際のレシート・領収書
スキャナ保存を行えば、紙の原本を破棄できるため、ファイリングの手間や保管スペースを削減できます。
区分③電子取引(義務):データでやり取りした取引情報
メールやWebサイトなどを通じてデータで受け取った請求書や領収書などを、データのまま保存する方法です。この「電子取引」への対応は、すべての事業者(法人・個人事業主)に課せられた義務です。
例えば、以下のようなデータでやり取りした情報がすべて対象です。
- メールの添付ファイル(PDFなど)で受領した請求書
- Webサイトからダウンロードした領収書のデータ
これらのデータは紙に印刷して保存することは認められないため、注意が必要です。
初めてでも安心!電子帳簿保存法への対応3ステップ
「法律の概要は分かったけれど、具体的に何から始めればいいの?」と不安に思う方もいるかもしれません。電子帳簿保存法への対応は、難しく考えすぎず、順序立てて進めることが大切です。
ここでは、初めての方でも安心して取り組める3つのステップを紹介します。
ステップ1:現状の書類を「紙」と「電子データ」に仕分ける
まずは、社内で普段やり取りしている書類を「紙」と「電子データ」に仕分けて、現状を把握することから始めましょう。
請求書、領収書、契約書、見積書など、どのような書類があり、それぞれ紙とデータのどちらで受け取ることが多いかを確認します。
この作業を行うことで、どの書類が法律の対象で、どの保存方法を検討すべきかが見えてきます。
ステップ2:保存方法のルールを決める(ファイル名、フォルダ分けなど)
次に、電子データをどのように保存するのか、具体的なルールを決めます。特にファイル名の付け方は、後から誰が見ても分かるように統一することが重要です。
例えば、「20250623_株式会社サンプル_11000」のように、「取引年月日_取引先名_金額」といったルールで統一すると、検索しやすくなります。
フォルダも「請求書」→「2025年」→「6月」のように整理しておくと、管理がしやすくなるのでおすすめです。
ステップ3:決めたルールを社内や関係者で共有する
最後に、ステップ2で決めたルールを簡単なマニュアルなどにまとめ、社内全体で共有しましょう。
経理担当者だけでなく、実際に経費精算などを行うすべての従業員に周知することが、スムーズな運用の鍵です。
ルールが形骸化しないよう、担当者がいつでも確認できる状態にしておくことが大切です。新しい体制が定着するまで、定期的に声かけをするのも良いかもしれません。
個人事業主・小規模事業者向け|コストをかけない現実的な保存方法
「何から手をつければ良いか分からない」「高額なシステムは導入できない」といった悩みはないでしょうか?ここでは、コストをかけずに電子帳簿保存法に対応するための、最も現実的な方法について解説します。
まずは義務化された「電子取引」の対応に集中しよう
結論として、まず取り組むべきは「電子取引」のデータ保存だけです。
「すべての紙をスキャンしなければ…」と考える必要はありません。法律で義務化されているのは、メールで受け取ったPDFの請求書や、ECサイトからダウンロードした領収書といった、電子データでやり取りしたものだけです。
会計ソフトで作成した帳簿のデータ保存(電子帳簿等保存)や、紙の領収書のスキャン保存は、あくまで任意の対応です。まずは義務である電子取引への対応に集中しましょう。
方法1:ファイル名を「日付・金額・取引先」で統一する
最もシンプルでコストのかからない方法は、ファイル名をルール化して保存することです。
国税庁も認めているこの方法なら、専用のシステムを導入しなくても、パソコンの標準機能だけで法律の要件を満たせます。例えば、2025年6月23日に「A株式会社」から受け取った110,000円の請求書は、以下のように名前を付けます。
「20250623_A株式会社_110000.pdf」
このルールで保存すれば、税務調査の際に「取引先」や「日付」で検索できるため、検索要件をクリアできます。「(株)」と「株式会社」のような表記揺れがないよう、ルールを統一することが重要です。
方法2:Excelなどで「索引簿」を作成する
もう一つの方法は、Excelなどで「索引簿(さくいんぼ)」を作ることです。
これは、請求書ファイル自体は「001.pdf」のように連番で保存し、その詳細情報をExcelの一覧表で管理する方法です。下の図のように、「ファイル」と「Excelの行」が1対1で対応する形になります。
こういった一覧表があれば、Excelの検索機能を使って目的の取引を探し出せるため、法律の要件を満たせます。
国税庁のテンプレートも利用できますが、手入力の手間とミスが起こりやすい点には注意が必要です。取引件数が少ない事業者向けの方法と言えるでしょう。
注意!電子帳簿保存法でよくある質問と罰則
電子帳簿保存法への対応を進めるなかで、「もしデータを消してしまったら?」「罰則はあるの?」といった、具体的な疑問や不安をお持ちではないでしょうか。
ここでは、特に多くの方が気になる質問と、万が一の違反時に科される可能性がある罰則について、分かりやすく解説します。
Q.うっかりデータを消してしまったら?
バックアップがなければ、法律上の保存義務を果たせなかったと見なされる可能性があります。
電子帳簿保存法では、消してしまったこと自体を免責する規定はありません。
また、法律で「バックアップを取ること」が義務付けられているわけではありませんが、税務調査で「データを消したので見せられません」と言っても通用しません。
「いつでも確認できる状態を保つ」という保存義務に対応するためには、日頃からバックアップを取る体制が事実上不可欠です。
Q.書類の保存期間はどのくらい?
法人の場合、書類は「一律10年間保存する」と覚えておくのが、最も安全で簡単な方法です。
法人税法では、書類の保存期間は原則7年と定められています。ただし、赤字(欠損金)が生じた事業年度の書類は、保存期間が10年間に延長されます。
さらに、会社法という別の法律では、会計帳簿などの重要書類は10年間の保存が義務付けられています。7年で廃棄すると会社法違反になるリスクを避けるためにも、一律10年の保存がおすすめです。
Q.対応違反による罰則とは?
法律の要件に違反した場合、最も大きなリスクは「青色申告の承認取消」と「重い加算税」です。
青色申告が取り消されると、欠損金の繰越控除といった税制上の多くの優遇措置が受けられなくなり、納税額が大幅に増える可能性があります。
また、電子データの改ざんなど、意図的で悪質な不正と判断された場合、「重加算税」が課されます。このペナルティは非常に重く、本来の税額に対して最大で50%もの税金が追加で課されることがあるため、注意が必要です。
電子帳簿保存システムを選ぶべき?選定3つのポイント
手作業での管理に限界を感じたとき、専用システムの導入が選択肢となります。しかし、どれを選べば良いか迷いますよね。ここでは、自社に合ったシステムを選ぶための3つのポイントを解説します。
ポイント1:自社の規模と書類の量に見合っているか
システムを選ぶ前に、まずは「自社の現状」を把握することから始めましょう。
毎月扱う請求書や領収書のデータは、10件程度でしょうか?それとも100件以上でしょうか?この量によって、最適なシステムは全く異なります。
その上で、「システム導入で何を解決したいのか」を明確にすることが重要です。例えば、入力作業を効率化したいなら、請求書の内容を自動で読み取るOCR機能が充実した「freee」や「マネーフォワードクラウド」のような会計ソフト一体型がおすすめです。
とにかく法令要件をクリアできれば良い、という場合は、よりシンプルな機能の低コストなシステムが候補になります。
ポイント2:「JIIMA認証」を取得しているかで信頼性をチェック
そのシステムが本当に法律の要件を満たしているか、自力で見極めるのは困難です。そこで信頼性の一つの目安となるのが、「JIIMA(ジーマ)認証」です。
これは、国税庁が認める機関が「このソフトウェアは電子帳簿保存法の要件を満たしています」とお墨付きを与えた証です。ただし、JIIMA認証には下の表のように複数の種類があるため注意が必要です。
システムを検討する際は、「どの種類のJIIMA認証を取得していますか?」と確認してみましょう。
ポイント3:導入後のサポート体制は充実しているか
システム選びは、今後7年、10年と付き合っていくパートナー選びと同じです。
機能や価格だけでなく、導入後に信頼できるサポートを受けられるかが非常に重要になります。
特に、将来の法改正にきちんとアップデートで対応してくれるかは必ず確認すべき点です。
また、操作で困ったときに、電話やメールで気軽に質問できるか、マニュアルは分かりやすいか、といったサポート体制もチェックしましょう。
自社の重要なデータを預けることになるため、セキュリティ対策がしっかりしているかも大切なポイントです。
まとめ:電子帳簿保存法への対応は、まず現状把握から始めよう
この記事では、電子帳簿保存法の義務化について、コストをかけずに今すぐできる具体的な対応策を紹介しました。法律と聞くと難しく感じますが、要点さえ押さえれば、決して複雑ではありません。
大切なのは、メール等で受け取った電子データを、データのまま保存することです。紙の書類を無理に電子化する必要はなく、ファイル名を工夫するなど簡単なルールを守ることから始められます。
今回の法改正は、業務全体を見直す良い機会です。手作業での管理に加え、契約書管理なども効率化したい場合は、AI搭載の「LegalOnCloud」も心強い味方になります。自社に合った方法で、安心して事業を進めましょう。