Nobishiro LegalOn Cloud

【講演レポート:ニトリ白井氏】トラブル予防のための教育や社内統治まで幅広く活躍する法務の働き

【講演レポート:ニトリ白井氏】トラブル予防のための教育や社内統治まで幅広く活躍する法務の働き
この記事を読んでわかること
    • 法務は相談や問い合わせ対応など受け身の仕事だけでなく、トラブルの予防や教育などの能動的な仕事こそが大事
    • 知らないからといって近付かないでいるのではなく、正しくコンプライアンスに関する知識を得て仕事をすべき
    • 法務で大切な心構えは、相談に対して「こういう条件なら可能」など新しい道を一緒に考えること
    • 法務部に限らず、部署最適ではなく全社最適で物事を考え、教育の重要性を理解することがカギ
    • 難しい法務の話も専門用語を多用するのではなく、相手に伝わることを第一に分かりやすい言葉で伝える姿勢が信頼につながる
白井 俊之氏(しらい・としゆき)
登壇

白井 俊之氏(しらい・としゆき)

株式会社ニトリホールディングス 代表取締役社長兼COO

1979年に株式会社ニトリに入社。店舗運営、人事、商品開発、物流、海外事業など幅広い業務を経験したのち、物流部ゼネラルマネジャー、店舗運営部ゼネラルマネジャー、本州出店プロジェクトリーダー、組織開発室 室長、商品部ゼネラルマネジャーなどを歴任。2001年には取締役に就任し、2016年より代表取締役社長に就任。

株式会社LegalOn Technologiesは2024年12月16日、「経営×法務」をテーマとした大規模ハイブリッドイベント「LegalOn Conference 2024」を開催しました。

企業の社会貢献や法令順守への意識が高まり、より法務機能の重要性が増す時代背景において、法務に求められる経営貢献性と機能とは?というコンセプトのもと開催された本イベント。白井俊之氏(株式会社ニトリホールディングス社長)、Antony Cook氏(Microsoft Corporation コーポレート バイスプレジデント兼副法務顧問)、佐々木毅尚氏(NISSHA株式会社法務部長)、菊地知彦氏(株式会社メルカリ執行役員CLO)などが登壇。会場は大いに盛り上がりを見せ、法務関係者向けイベントとして規模・内容ともに国内最大級の非常に充実したものとなりました。

本記事では、白井俊之氏(株式会社ニトリホールディングス代表取締役社長兼COO)による基調講演、「経営から見た法務への期待:企業成長の鍵を握る法務の役割」の模様をレポートします。モデレーターはLegalOn TechnologiesのCEO、角田望です。

※ 本文中では敬称略で表記しております。

法務のためのAIテクノロジーを結集させた次世代のリーガルテック【AI法務プラットフォーム LegalOn Cloud】

LegalOn Cloudは、これまでのリーガルテックとは異なる、企業法務のための全く新しいAIテクノロジープラットフォームです。自社に必要な法務体制を、同一基盤上に構築することが可能で、その拡張性・カスタマイズ性の高さにより、あらゆる企業、あらゆる法務組織に最適化が可能。法務DXを成功させたい方は、ぜひ以下より資料をダウンロードし、詳細をご確認ください。

法務にはトラブル予防や教育など能動的な働きを期待している

白井氏の講演風景

角田 本日は基調講演として、株式会社ニトリホールディングスの白井社長に「現役経営者から見た法務への期待」というテーマでお話を伺います。まず、白井社長より株式会社ニトリホールディングス様とご自身について、簡単な自己紹介をお願いできますでしょうか。 

白井(敬称略) ニトリホールディングスは、1967年にCEOの似鳥昭雄が個人家具店として開業したのが出発点となっています。現在は国内外合わせて1,100店舗近くを出店し、家具の他にインテリア用品や家電製品などのホームファッション製品も取り扱っています。近年は海外出店に注力している状況です。

私自身は1979年に入社し、最初は配達業務からスタートしました。その後5店舗で店長を経験し、出店部や人事部、物流部、全体運営部、商品部などの各部門長を経て、2016年より代表取締役社長に任命されました。

角田 続いて、ニトリホールディングス様の法務部門についてもご説明いただけますでしょうか。

白井 約10年前に会社として「これからは法務が重要になる」と考え、法務部門を「法務室」という部署として立ち上げました。当時はメンバーが10名以下でしたが、現在はガバナンスチーム、コンプライアンスチーム、リーガルチーム、知財チームの4セクションに分かれた合計40名弱の組織にまで拡大しています。

角田 会社として、法務室にはどんなことを期待されているのでしょうか?

白井 相談が来たものや、何かトラブルがあったときに対応するような受け身型の動きだけではなく、トラブルを未然に防ぐためのルール作りや教育といった能動型の積極的な動きを期待していますし、実際にそうした業務に取り組んでくれていますね。

以前、法務室の業務量定量化を実施し、相談件数や担当案件を数値化して、売上と比較してみたことがあったのです。すると、売上の伸び率以上に法務部の業務量が増えていることが分かりました。数値化されることで、法務室の重要性や積極的な働きを感じることができました。

法務が会社全体を把握しているから、経営に関わる重要事項も任せられる

角田 御社では、毎週の定例会議や月1回の中長期会議でも、法務部門が会議をリードされているというお話も伺っています。そちらでの法務部のご活躍についても教えていただけますでしょうか。 

白井 毎週の定例会議では各部署長が集まり、1部署あたり約15分の発表会をおこなっています。法務室は、過去2年間の定例会議で合計14回発表してくれていまして、「コンプライアンスについて」「知財について」「独占禁止法の問題」「法務部門における人材育成」など、多岐にわたるテーマで話してくれました。その中には全社員に伝えたい内容もあったので、今はその内容を全社員アクセス可能のサイトにアップしています。

月1回の中長期会議では、法務室長と他の管理部門の責任者などが「本部機能が将来どうあるべきか」「今後の生産性をどうやって上げていくか」など、議論をリードしてくれています。また、過去の中長期会議では「ニトリグループ行動憲章も社会の変化に合わせたアップデートが必要だ」という議論があり、グループ憲章の見直しも、法務室が中心となって実施してくれました。

角田 企業の法務部門というと、一般的には契約書のチェックや法務相談など受け身の仕事が多いと思うのですが、重要な会議の牽引役や憲章の見直しなど、経営の根幹にかかわる仕事を法務に任せようと思った理由はどこにあったのでしょうか?

白井 法務室のガバナンスチームには、株式総会や取締役会の事務局機能も担当してもらっており、取締役会や社内役員会での議論や外部取締役の温度感なども含めて、会社全体を把握してくれています。より広い領域で会社を理解し、俯瞰して見られる立場にいるという理由から、経営の根幹に関わる会議の進行や取締役会の実効性評価なども担当してもらっています。

また、各部門長と毎週打ち合わせをおこなっているのですが、中でも法務室長とは特に密に情報交換をすることが多く、お互いに会社の優先課題を理解できていることも大きいですね。

コンプライアンスを恐れて近づかないでいることが最も危険

白井氏の講演風景2

角田 次にコンプライアンス研修について伺います。研修動画には、白井社長もご出演されているとお聞きしました。

白井 コンプライアンス研修を始め、法務室のコンプライアンスチームが中心になって社内でさまざまな研修をおこなってくれています。それに関連して「ニトコン(ニトリグループのコンプライアンス)」動画という、さまざまな相談や困り事に対し、何かあればまずこれを観てもらうという動画があるんです。あるとき、私に出演の依頼があり、動画の中で個人情報に関する話をさせていただきました。

コンプライアンスの基準は、時代や社会の変化にともなって変わっていきます。私の入社当初は、まだ個人情報という言葉すら社会で一般的ではありませんでした。そこから現在に至るまで、どのようにコンプライアンスの基準が変化していったかについて、具体例を交えた話をしました。この話は法務室長からも褒められたので、嬉しかったですね。 

角田 変化していく法規制やコンプライアンスに対して、経営者の感度が高いことに法務室長も感心されたのではないかと思います。 

白井 コンプライアンスについては、多くの人が「何かあってそれに触れたらどうしよう」という怖い印象を少なからずもっていると思います。しかし、知らないからと言ってそれに近付かないようにするのは、最も好ましくない判断です。分からないまま避けてばかりでは、一向に理解は深まりませんし、ビジネスチャンスを逃す恐れもあります。100%は無理だとしても、コンプライアンスについて出来る限り理解し、自信をもって業務に取り組めるようにすることが大切なのではないでしょうか。

弊社の法務室はそのことを理解した上で、「ここまでは大丈夫です」「ここからは相談してください」というガイドラインを決めて、それを社内研修などさまざまな場で広めてくれています。これは、非常に重要な役割だと感じています。

法務には事業部門と一緒に新たな道を考える心構えで相談を受けてほしい

角田 続いて、「法務の進化と、必要な心がまえ」というテーマで伺います。法務部門の方に、どんな心構えで仕事に向き合っていただきたいか、経営者の目線からお話しいただけますでしょうか。 

白井 まずは、さまざまな業務領域について理解を深めていただくことが大事だと思います。次に、他部署から相談や問い合わせを受けた際に、一緒に考えられる姿勢が大切ではないでしょうか。

法律に関して「YESかNOか」を求められると、法務は「100%大丈夫でない限りはNO」という回答になってしまうと思います。しかし、そうではなく相談の奥にある背景を理解して、「この部分だけ除外すれば大丈夫です」とか「こういうやり方がありますよ」と、新たな道を相談者と一緒に考えられる人材に育ってほしいです。

角田 法務と相談者である事業部門側が、パートナーとして問題解決に向かっていくということですね。それを実践していくには、どのような意識で仕事をすることが大切だと思われますか?

白井 全社最適かつ長期的な視点で物事を考えることと、同じ考え方をもつメンバーをチームの中で育てていくことが大切ではないでしょうか。

弊社の法務室長を例に出すと、彼は会社の経営方針をしっかり理解した上で、この2つを意識して法務の領域だけでなく、会社全体を考えて仕事に取り組んでくれています。彼を始め、現法務室メンバーには配転(配置転換)で店舗を始めさまざまな部署・役割を経た上で、法務を担当している人材が多いのです。そうしたメンバーは幅広い視点で業務に取り組んでくれます。

弊社は部門を越えた配転が多いですが、その背景には、会社のさまざまな課題を解決する上で、1つの部署の知識だけで完結するケースが少なくなっていることが挙げられます。例えば、店舗の課題解決には、店舗運営に関する知識だけではなく商品・物流・ITなどの知識も必要です。労務問題の仕組みを作る場合でも、労務だけではなく、法務の知識も入れたほうがより良いルールを作れます。そうした考えのもと、法務室にも多様なバックグラウンドをもった人材を配属し、さまざまな課題を解決できるような体制を敷いています。

法務部は案件だけでなく社内教育や企業統治の面でも大きく貢献している

白井氏の講演風景3

角田 「企業成長への法務の貢献」というテーマでお聞きします。法務部門が御社の企業成長に貢献した具体的な事例があれば、教えていただけますでしょうか。 

白井 弊社でも、業務提携やM&Aの案件では、法務室がさまざまなケースを想定して初期段階から入ってくれていますので、非常に貢献してくれていますね。

他には教育面でしょうか。実は、10~20年前と比較して売上規模が拡大しているにもかかわらず、問題案件やトラブルの件数は増えていないんです。これは、法務部門が社内でさまざまな研修や教育をおこなってくれている成果だと思います。

一方で、さきほど法務部門の業務定量化の話をしましたが、法務への相談件数自体は増えているんですよね。つまり、問題が起こる前にみんな法務に相談するようになったし、そこで法務が社員の知識をベースアップして、問題が起きないよう予防してくれているわけです。これは非常に大きな貢献だと感じています。

角田 ガバナンス・企業統治の面では、法務部門はどのような形で関わり、貢献されているのでしょうか?

白井 法務室のガバナンスチームが、株主総会と取締役会の事務局を担当してくれています。そこで取締役会の実効性評価アンケートをとって社外取締役の皆さんのコメントをいただいたり、会議のフレームワークを設計してくれたり、限られた時間でも濃い討論になるよう重要な役割を担ってくれています。

テクノロジーを活用して自部署だけでなく他部署の生産性向上も目指すべき

角田 次は「経営×法務の未来」というテーマで伺います。DXやAIなどのテクノロジーが発展していく中で、法務部門もそれとは無縁ではいられないと思います。そうした未来の中で法務部に期待されることについて教えてください。

白井 法務部門だけではなく全部門がそうですが、業務をしっかりと推進しながら、いかに生産性を高めていくかが重要だと思います。その中では、自部署だけでなく他部署の生産性を高めるために、どんな協力ができるかを考えることも必要です。

法務部門も、他部署からのさまざまな問い合わせにいつでもスムーズに対応できるようにすることが、他部署の生産性を高めることにつながります。そうした仕組み作りに、弊社の法務室にも取り組んでもらっています。

さきほど話に出た「ニトコン」という動画シリーズもその1つですね。この取り組みは3~4年前に法務室が始めたのですが、非常に好評だったので他部署にも波及しています。例えば「ニトコン 下請法」など、さまざまな問合せや基礎的な知識を解説する動画が社内で増え、それが社員全体の知識の底上げや、全体の生産性向上につながっています。 

法務の仕事で大切なのはただ説明することではなく、相手に理解してもらうこと

白井氏の講演風景4

角田 本日のまとめとして、ニトリホールディングス様の今後の展望について、お伺いできますでしょうか。 

白井 弊社は2032年に向け大きなビジョンを掲げており、中長期会議などでも、将来どんな会社になってどんな事業を展開していくのか、そしてそのためにどんな準備が必要なのかを議論しています。その達成のために一番重要なのは、本日の話にも出てきた、長期的に全社最適で物事を見る力だと考えます。そうした力をもった人材を育成し、ビジョンに向けて進んでまいります。

角田 では最後に、本日の講演を聞かれている法務の方、そして経営者の方に、法務と経営に関するメッセージをお願いできますでしょうか。

白井 法務の方には、説明することが仕事ではなく、相手に理解してもらうことこそが重要だということをお伝えしたいです。法務の話は、どうしても専門的な用語が出てきがちですが、慣れていない人はそこで理解度が落ちたり、それ以上質問できなかったりすることもあると思います。そうならないよう、相手に分かりやすい言葉や表現で、相手の土俵に立って説明したり議論したりすることが大切です。それが信頼関係にもつながるので、意識していってほしいですね。

経営者の方には、法務の方に現場のさまざまな事業部門と交流してもらうことをおすすめします。例えば、弊社でも法務室の知財チームの社員が、商品開発の際のPB(プライベートブランド)商品に関する問い合わせに対応するため、商品管理部門のすぐ隣にデスクを置いているんです。物理的に近いと相談しやすくなったり、普段のちょっとした会話から「あのとき、こう話していた」など問題解決のヒントが見つかったりします。そういう日々のコミュニケーションから、法務と事業部門の距離が近づいていき、会社全体にプラスになっていくと思います。

角田 白井社長、本日はありがとうございました!

リーガルオンクラウドの製品資料ダウンロード用のバナー

法務業務を進化させるAI法務プラットフォーム「LegalOn Cloud」

3分でわかる製品資料

様々な法務の業務がたった一つのプラットフォームで完結。
情報とナレッジが瞬時に共有され、
業務にスピードと可能性をもたらします。

製品についてはこちら