請求書は「支払い」を求めるために発行する書類
そもそも請求書とは、取引に基づいて「支払い」を求めるために発行される公式な書類です。一般的には、商品やサービスの提供後に、その代金の支払いを依頼する目的で取引先に送付されます。受領した請求書は税務証明にも使われるため、原則として原本を保管することが重要です。
民法上、取引は当事者による申し込みと承諾があれば効力が発生します。請求書は「いつまでに、いくら払ってください」という内容を明示することで、代金回収を円滑にします。
また請求書には、取引の詳細、金額、支払い条件、期日などが記載されており、企業間の取引を明確に記録する重要な書類でもあります。企業の財務管理と経理処理においても不可欠な役割を果たします。
請求書の役割については以下のようにまとめることができます。
- 取引の証明:請求書は、取引の内容や金額を証明する公式な文書であり、万一取引内容に誤解や争いが生じた際に、事実関係を明確に証明できます。また、契約書と併せて、取引条件の確認や相違点の把握に役立ちます。
- 支払いの管理:請求書に記載された支払い条件と期日に基づいて、企業は支払い管理を行います。これにより、支払い漏れや受領漏れを防止し、キャッシュフローの管理が容易になります。
- 税務処理:税務申告において、請求書は収入や経費の証明として必要です。正確な税務処理のためには、適切に保管された請求書が重要です。
- 経営分析や将来計画のための資料:請求書データは、どの項目にどれだけの費用がかかっているのかを分析する資料にもなります。
取引に関する証憑書類も保管が必要
取引では、請求書のほかに以下のような書類も発行されるのが通常です。
- 見積書
- 注文書(発注書)
- 契約書
- 納品書
- 領収書
これらの書類は、法人税法、消費税法、所得税法に基づき、一定期間(通常7年間)の書類保存が義務付けられています。
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法律で定められた請求書の保管期間
請求書の保管期間は主に税法によって定められています。個人と法人では異なるため注意が必要です。
法人の場合は7年間
法人の場合、請求書の保管期間は7年間です(法人税法施行規則67条2項)。ただし、2018年度以降の事業年度で欠損金額(青色繰越欠損金)が発生した場合は、10年間が法定保存期間となります(法人税法施行規則26条の3)。
保管期間の起算点は基本的に、「事業年度終了日」です。例えば事業年度終了日が2025年3月31日であれば、2032年3月31日まで保存が必要です。
個人の場合は5年間
個人事業主の場合の保存期間は5年間です。これは青色申告でも白色申告でも変わりません。ただし、課税売上高が1,000万円を超え、消費税の納税義務者となった個人事業主の場合は、仕入税額控除を受けるために7年間請求書を保存する必要があります。
また、保管期間の起算点はこちらも、「事業年度終了日」とするのが基本です。
紙の請求書の保管方法
紙の請求書を保管する場合は、長期保管が可能なように保護する必要があるほか、必要に応じて探せるように整理することが重要です。
専用の保管場所を確保
書類を保管する専用の棚や引き出しを設けます。湿気や直射日光を避け、温度や湿度が適切に管理された場所に保管します。
分類とラベリング
請求書を取引先や日付ごとに分類し、ラベルを貼り、必要な時に迅速にアクセスできるようにします。
ファイルボックスの使用
請求書をファイルボックスに収納し、保管期間ごとに整理し、年度ごとにファイルボックスを分けると、管理が容易になります。
保存期限見直しと廃棄
分類された請求書の保存開始日と保存期限を基に、定期的(月次や四半期、年度末など)に保存書類を見直し、保存期限が過ぎたものを適切に廃棄します。
廃棄する際は、機密情報が含まれているため、外部に漏れないように注意して、シュレッダーなどを使用します。
電子化した請求書の保存方法
請求書を電子化するにはまず、紙の請求書をスキャンしてPDFや画像ファイルとして保存し、その後スキャンしたデータをクラウドストレージサービスにアップロードする方法があります。一般的なクラウドサービスにはGoogle ドライブ、Dropbox、Microsoft OneDriveなどが挙げられます。
一方、請求書を電子化する際は、紙と同等の扱いをさせるために関連法令を遵守する必要があります。
請求書を電子化するメリット
請求書を電子化するメリットは以下が挙げられます。
- 紙の請求書と比べて、保管スペースが大幅に節約できます。
- デジタル化された請求書は、キーワード検索で迅速に探し出すことができます。
- デジタルデータは、簡単にバックアップを作成でき、紛失や破損のリスクを低減します。
電子帳簿保存法を遵守する必要がある
電子帳簿保存法とは、国税関係書類の電子保存を認めるため、その要件を示した法律です。請求書の電子保存についても、この規定を遵守する必要があります。
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紙の請求書を電子化する場合
紙で受領した請求書を電子化する場合は、「スキャナ保存」の要件を満たす必要があります。解像度200dpi以上で、原則としてカラー画像でスキャンします。また、2022年の法改正により「タイムスタンプ」の付与が不要になりました。
検索性の確保など一定条件を満たせば、紙の原本の破棄が可能です。
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請求書を電子データとして受領し保存する場合
請求書を電子データとして受領した場合は、電子データのままで保存する必要があります。その際、改ざん防止等の理由で以下の処理をすることが求められます。
<真実性の確保>
- タイムスタンプ付与
- 事務処理規程の整備・運用
- 訂正・削除履歴が残るシステムの利用(クラウドなど)
<可視性の確保>
- 必要な情報を速やかに閲覧・出力できるようにしておくこと
- パソコン等の画面上で、整然とした形式で表示できること
<検索機能の確保>
- 取引年月日、取引金額、取引先名などで検索できる機能が必要
- 一定の条件を満たす場合、範囲検索や複数項目の組み合わせ検索は不要となるケースもあります(小規模事業者など)
システムの活用のメリット
デジタル化された請求書は、紙の請求書と比較してより安全に保管することができます。
適切に請求書を保管することで、ビジネスの安定した運営に繋がります。適切な保管方法を実践し、定期的に見直すことで、トラブルを防ぎ、スムーズな経営を維持することができます。ぜひ、この記事で紹介したポイントを参考に、請求書の管理体制を整えてください。
もし、請求書の保管や管理に関してさらに質問がある場合や、具体的なアドバイスが必要な場合は、専門家に相談することをお勧めします。税理士や経理のプロフェッショナルからのアドバイスは、貴社のビジネス運営にとって大きな助けとなるでしょう。
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請求書の保管期間を守らないリスク
請求書の保管期間を守らない場合、企業は以下のような法的リスクに直面することがあります。
法律違反
法人税法、会社法などの法律では、取引に関する帳簿や請求書の一定期間の保管が義務付けられています。これを怠ると、法律違反となります。
罰則
法律違反に対する罰則として、罰金や課徴金が科される可能性があります。例えば、法人税法や会社法に基づく帳簿書類の保管義務違反は、税務調査の際に罰金や追加税額の徴収が発生することがあります。
〈法人税法の罰則例〉請求書を定められた保管期間中保存しなかった場合、消費税の課税事業者では仕入れの消費税額が控除されない可能性があります。
〈会社法の罰則例〉保管義務違反により、100万円以下の過料が科せられることがあります。
税務調査時の問題点
税務調査は、税務当局が企業の税務申告の正確性を確認するために実施される調査です。この際、過去の取引に関する書類が適切に保管されているかがチェックされます。
- 証拠不備:必要な請求書が保管されていないと、取引の証拠が不十分とみなされます。これにより、取引の実態が確認できず、税務当局によって取引内容が否認される可能性があります。
- 調査時間の延長:書類が適切に保管されていない場合、税務調査が長引くことがあります。これにより、企業の業務に対する負担が増大します。
財務管理の不備によるリスク
- キャッシュフロー管理の不備:請求書が適切に保管されていないと、支払いや入金の管理が困難になります。これにより、キャッシュフローの把握が不正確になり、資金繰りに支障をきたす可能性があります。
- 予算管理の不備:過去の取引データが不完全であると、正確な予算編成や費用管理が難しくなります。これにより、経営判断の基礎データ不足で、誤った判断を招く可能性があります。
- 信用リスク:請求書の管理が不十分な企業は、取引先や金融機関からの信用を失うリスクがあります。取引先とのトラブルが発生した際、適切な証拠を提示できないとなれば、信頼関係が損なわれてしまうでしょう。
請求書の保管期間を守らないで起こるリスクを回避するには、法律で定められた保管期間を遵守し、適切に管理することです。企業は、定期的な書類管理の見直しと、保管方法の最適化を図り、これらのリスクを回避しましょう。
請求書保管の実践的アドバイス
請求書の保管に関する実践的なアドバイスとしては、保管スケジュールの作成、社内ルールの整備、データバックアップの重要性などがあります。これらの対策を実施することで、請求書の効率的な管理とセキュリティを確保することができます。
保管スケジュールの作成
定期的な整理と管理
請求書を適切に保管するためには、定期的な整理と管理が必要です。保管スケジュールを作成して、保管期間の経過や廃棄のタイミングを把握しましょう。
保管スケジュールの作成方法
- 保管期間ごとに請求書を分類し、保管開始日と廃棄予定日を記載します。例えば、年度ごとに分類して、7年間の保管期間を設定します。
- 保管スケジュールは、定期的なチェックポイントを設定します。月次や四半期、年度末ごとのチェックポイントを設けることで、請求書の整理や廃棄作業を効率的に行います。
社内ルールの整備
統一された管理体制
社内ルールを整備することで、従業員全体が一貫した方法で請求書を管理しやすくなります。混乱やミスを防ぐために重要です。
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情報セキュリティの強化
社内ルールには情報セキュリティに関するガイドラインも含めることで、機密性の高い情報を適切に管理できます。
整備方法
- 管理責任の明確化:請求書の保管と管理を担当する責任者を任命し、役割と責任を明確にします。
- 手順の明文化:請求書の受け取りから保管、廃棄までの手順を明確に文書化します。これにより、従業員は手順に従って作業を行うことができます。
データバックアップの重要性
災害対策
データバックアップは、万が一の災害やデータ損失に備えるための重要な手段です。請求書のデータを定期的にバックアップして、データの損失を最小限に抑えましょう。
データの安全性
データバックアップは、機密性の高い情報を保護するための重要な手段でもあります。バックアップデータは、不正アクセスやセキュリティ侵害から保護されます。
定期的なバックアップ
請求書のデータを定期的にバックアップし、最新の情報を保持します。バックアップの頻度は業務の特性やデータの重要性に応じて検討します。
複数のバックアップ場所
バックアップデータを複数の場所に保存することで、データの安全性をさらに向上させます。オンサイトとオフサイトの両方にバックアップを保存することが推奨されます。
適切な請求書管理で企業信頼性の向上へ
法律に基づく適切な請求書の保管期間を守ることで、法的リスクを回避し、税務調査に対応することが可能です。紙媒体の保管方法や電子保存、システムの活用など、効率的な保管方法を選択し、確実に管理しましょう。そして、実践的なアドバイスを取り入れることで、請求書の管理体制を強化することができます。
この記事で紹介したポイントを参考に、適切な請求書管理を実践し、企業の信頼性と業務効率の向上を目指してください。