共同出願契約書とは
「共同出願契約書」は、特許権など知的財産権の登録を、複数の事業者が共同で出願する際に締結する契約書です。
共同出願に当たっては、出願手続きの対応や権利の持ち分比率など、共同出願者の間で決めておくべきことがたくさんあります。共同出願契約書の目的は、これらの事項に関する約束事を定めて、共同出願をスムーズに行い、かつ共同出願者間のトラブルを防止することです。
共同出願契約書にかかわる法律
共同出願契約は、どのような法律のもとに成り立つのでしょうか。
共同出願契約は、前述の通り、知的財産権の登録を、二者以上の当事者間で結ぶ契約ですので、「著作権法」や「特許法」「実用新案法」などがかかわります。これらの法律を総称して「知的財産法」と呼ぶこともあり、下記が知的財産法に含まれます。
「著作権法」
著作権に関わることを規定する法律
「特許法」
発明の保護・利用を図る、「特許」に関わることを規定する法律
「実用新案法」
「考案」(小さな発明)に関わることを規定する法律
「意匠法」
意匠(いわゆるデザイン)に関わることを規定する法律
「商標法」
商標(商品などに付与されるロゴマーク)に関わることを規定する法律
「不正競争防止法」
不正な競争にあたる行為を防止し、公正な競争を図る法律
共同出願をするメリット
共同出願をする場合、どのようなメリットが考えられるでしょうか。
主に次の2点が考えられます。
- 出願や特許にまつわる費用を削減できる
- 出願の再検討を複数でできる
出願や特許にまつわる費用を削減できる
特許の出願には、特許印紙代(14,000円)、出願審査請求料、弁理士に依頼する場合は弁理士手数料などの費用がかかります。また、出願時だけでなく、特許権の維持に費用がかかることもあるでしょう。共同出願すれば、権利者複数で負担することで、それぞれが支払う費用を削減することができます。
出願の再検討を複数でできる
実際の共同出願の手続きは、出願者のうちどちらか一方の代表者が行うことが一般的です。そのため、出願手続きの工数自体が削減できるわけではありませんが、例えば、出願をしたものの拒絶査定をされてしまった場合は、対策が必要になります。その対策を、共同出願をする複数の権利者で検討することができるのはメリットといえるでしょう。
共同出願をするデメリット
メリットも多い共同出願ですが、デメリットもあります。主に次の2点に注意しましょう。
- 共有者とのトラブルの可能性
- 発明利用の自由度が下がる
共有者とのトラブルの可能性
共同出願をした場合、一番注意したいのは共有者とのトラブルの可能性です。出願の手続きに始まり、出願後の権利の維持、全体にかかる費用の管理など、トラブルの原因になりかねない要素はたくさんあります。円満な関係だとしてもトラブルを避けるために、契約書はしっかり詳細に渡って作成しましょう。持分比率や、手続きにかかる費用の折半についても記載を心がけるといいでしょう。
発明利用の自由度が下がる
共同出願をした発明を、一方の権利者が自由に使えなくなるという点もデメリットです。それぞれの持ち分は、共有者の同意がなければ、第三者への譲渡や売却をすることはできません。
共同出願契約書の主な種類
共同出願契約書は、出願および設定登録によって生じる知的財産権に関して締結されます。共同出願契約書の種類としては、以下の例が挙げられます。
- 特許共同出願契約書
- 実用新案共同出願契約書
- 意匠共同出願契約書
- 商標共同出願契約書
- 品種登録共同出願契約書(種苗法に基づく)
これに対して、出願および設定登録を要せずして発生する知的財産権(著作権など)については、共同出願契約が締結されることはありません。
これ以降は、共同出願契約書の中でも締結頻度の高い「特許共同出願契約書」を中心に解説します。
特許共同出願契約書に定めるべき主な事項
特許権に関する共同出願契約書に定めるべき主な事項は、以下のとおりです。
- 出願の対象
- 特許を受ける権利の持分比率
- 出願手続きの担当者・費用負担
- 当事者による発明の実施
- 第三者に対する実施許諾
- 職務発明の取り扱い
- 改良発明の取り扱い
- その他の事項
出願の対象
まずは以下の事項を明記して、特許出願の対象を特定しましょう。他の発明と区別できるような記載を心がける必要があります。
- 特許出願をする発明の名称
- 概要
- 発明者など
(例)第○条(特許出願をする発明)本契約に基づき、甲および乙が共同して特許出願をする発明(以下「本発明」という。)は、下記のものとする。 記発明の名称:○○発明の概要:○○発明者:○○ 以上
特許を受ける権利の持分比率
共同出願者の間で、特許を受ける権利と、登録後の特許権をどのような持分比率で共有するかについて定めます。技術面・コスト面における貢献度を考慮して定めるのが一般的ですが、共同出願者間の交渉力のバランスも持分比率に影響することがあります。
(例1)第○条(権利の持分)甲および乙は、本発明についての特許を受ける権利を共有し、その持分は、甲乙均等とする。
(例2)第○条(権利の持分)甲および乙は、本発明についての特許を受ける権利を共有し、その持分比率は以下のとおりとする。甲:80%乙:20%
出願手続きの担当者・費用負担
共同して行う特許出願の手続きについて、当事者のうち誰が主導的に対応するのかを定めます。特許出願にかかる手数料や、弁護士費用・弁理士費用などの負担割合も定めておきましょう。
(例)第○条(出願および諸手続き)1. 甲は、本発明の特許出願の手続き、登録までの諸手続きおよび登録された後の権利の維持管理に関する手続きを行う。ただし、特許庁に対して出願書類その他の書類を提出するときは、その内容および提出方法等について、事前に乙と協議するものとする。2. 前項に定める各手続きに要する費用(手数料、弁護士費用および弁理士費用を含むが、これらに限らない。)は、甲乙それぞれ第○条に定める権利の持分比率に従って負担する。甲および乙のいずれかが当該費用を支出した場合の精算方法は、甲乙間の協議によって別途定める。
当事者による発明の実施
特許権の共有者は、他の共有者の同意を得ないで特許発明を実施できます(特許法73条2項)。
共同出願契約書でも、上記の旨を確認的に記載するのが一般的です。さらに、対価の支払いや実施条件などを別途定めることも考えられます。
(例1)第○条(当事者による発明の実施)1. 甲および乙は、それぞれ本発明および本発明に基づいて得られる特許権(以下「本特許権」という。)を自由に実施することができるものとする。2. 前項に定める実施の対価は、無償とする。
(例2)第○条(当事者による発明の実施)1. 甲および乙は、それぞれ本発明および本発明に基づいて得られる特許権(以下「本特許権」という。)を自由に実施することができるものとする。2. 前項に定める実施の対価として、乙は甲に対して、1年間当たり○万円を、当該年の前年末日までに、甲が別途指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。なお、初年度の対価は○万円とし、乙は本契約締結日から○日以内に、当該対価を甲が別途指定する銀行口座に振り込む方法により支払うものとする。
第三者に対する実施許諾
第三者に対して特許発明の実施を許諾する際の手続きを定めます。常に当事者間の協議を必要とするケースも多いですが、スムーズな実施許諾を行うため、通知等を条件として単独で実施を許諾できるようにすることも考えられます。
(例1)第○条(第三者に対する実施許諾)1. 甲および乙は、本特許権について、第三者に専用実施権を設定し、または通常実施権を許諾する場合には、その可否および条件を協議の上で決定する。2. 甲および乙は、前項に基づく専用実施権の設定または通常実施権の許諾によって得られる対価を、第○条に定める権利の持分比率に従って取得する。甲および乙のいずれかが当該対価を受領した場合の精算方法は、甲乙間の協議によって別途定める。
(例2)第○条(第三者に対する実施許諾)1. 甲および乙は、本特許権について、第三者に専用実施権を設定し、または通常実施権を許諾する場合には、当該許諾の30日以上前に、相手方に対して書面で通知しなければならない。2. 前項の通知を受領した当事者は、当該通知の受領後10日以内に、当該専用実施権の設定または通常実施権の許諾について、合理的な理由を示して異議を述べることができる。この場合、甲および乙は、当該専用実施権の設定または通常実施権の許諾の可否および条件を協議の上で決定する。3. 前項に基づく異議が前項に定める期間内に述べられなかった場合、または当該異議が合理的な理由を欠く場合、第1項に基づく通知をした当事者は、当該専用実施権の設定または通常実施権の許諾をすることができる。4. 甲および乙は、前三項に基づく専用実施権の設定または通常実施権の許諾によって得られる対価を、第○条に定める権利の持分比率に従って取得する。甲および乙のいずれかが当該対価を受領した場合の精算方法は、甲乙間の協議によって別途定める。
職務発明の取り扱い
従業員による発明(職務発明)について共同出願をする場合、その前提として、契約当事者である会社が発明者から特許を受ける権利の譲渡を受け、または当該会社へ特許を受ける権利を原始的に帰属させる必要があります。
共同出願契約書では、職務発明に関する権利の取得を各当事者に義務付ける条項を定めます。それに伴って、発明者への補償(対価の支払い)ルールについても定めておきましょう。
(例)第○条(職務発明の取り扱い)甲および乙は、契約または就業規則その他の社内規程により、職務として本発明を発明した従業者から、本発明の特許を受ける権利の譲渡を受け、 または同権利が原始的に自らに帰属することにより、本契約に基づく本発明の特許出願が可能となるようにしなければならない。
発明者への補償の記載例は以下のとおりです。
記載例第◯条(発明者への補償)企業が、職務として本発明を発明した従業者から、本発明の特許を受ける権利を継承したときは、発明者に対して対価、 補償及び報奨金を支払うこととする。
改良発明の取り扱い
特許権の登録を受けた発明をベースとして、新たに生み出された発明を「改良発明」といいます。改良発明については、以下の事項を定めておきましょう。
- 権利の帰属
- 改良発明を生み出した際の他の当事者への通知
- 他の当事者による改良発明の利用ルールなど
(例)第○条(改良発明)1. 甲または乙が、本発明に基づく改良発明(以下「改良発明」という。)を行ったときは、当該改良発明に関する知的財産権その他の一切の権利は、当該改良発明を行った者に帰属する。ただし、本契約に別段の定めがある場合は、この限りでない。2. 甲および乙は、改良発明を生み出したときは、相手方に対してその旨および当該改良発明の内容を速やかに通知する。3. 甲および乙は、改良発明を行った当事者に通知をして、当該改良発明を実施することができる。4. 前項に基づき改良発明を実施する者は、相手方に対して合理的な実施許諾料を支払わなければならない。実施許諾料の金額、精算方法その他の条件は、甲乙間の協議によって別途定める。
持分の放棄
一方が知らないうちに、もう一方の発明者が自分の持分を放棄することを防ぐため、同意なしに共有部分を放棄することは禁止することを定めておきましょう。
民法255条の類推適用を元に、共有する知的財産権は、放棄した場合、他の共有者に帰属すると考えられます。
記載例第◯条(放棄の禁止)甲及び乙は、相手方の同意を得ない限り、本発明に基づいて得られる特許権(以下本特許権という)のうち、自己の持分を放棄することができない。
その他の事項
共同出願契約書には上記のほか、以下の事項などを定めておきましょう。
- 第三者との紛争→共同出願に係る発明につき、第三者からクレームを受けた場合などに、協力して対処すべき旨などを定めます。
- 外国出願→外国で共同出願をする場合には、その取り扱いについて協議する旨などを定めます。
- 秘密保持→出願公開されるまで発明に関する情報を他言しないこと、その他の秘密保持に関するルールを定めます。
- 契約の有効期間→共同出願契約の、有効期限を定めます。時期は明確な決まりはありませんが、契約の締結日から特許権の実施期間満了日までを契約期間とすることが一般的です。
特許共同出願契約書のひな形を紹介
特許共同出願契約書のひな形を紹介します。実際の契約内容は、当事者の関係性や共同出願の内容などに応じて決める必要がありますので、本記事で掲げた条文記載例などを参考にしてください。
特許共同出願契約書○○株式会社(以下「甲」という。)と△△株式会社(以下「乙」という。)は、以下のとおり特許共同出願契約書を締結する。第○条(特許出願をする発明)本契約に基づき、甲および乙が共同して特許出願をする発明(以下「本発明」という。)は、下記のものとする。 記発明の名称:○○発明の概要:○○発明者:○○ 以上…… 以上本契約締結を証するため、正本2通を作成し、甲乙それぞれ記名押印のうえ各1通を所持する。○年○月○日甲 [住所] [名称] [代表者] 印乙 [住所] [名称] [代表者] 印
共同出願契約書を締結する際の注意点
共同出願契約書を締結する際には、以下の各点に十分注意して内容をチェックしましょう。
- 予想されるトラブルの処理ルールを網羅する
- 自社に不利益な条項を見落とさない
予想されるトラブルの処理ルールを網羅する
第三者への利用許諾・職務発明・改良発明などについては、共同出願者の間でトラブルが生じるリスクが容易に想定されます。
出願内容や他の共同出願者との関係性、知的財産法のルールなどを踏まえた上で、予想されるトラブルの処理については、共同出願契約書に漏れなく明記しておきましょう。
自社に不利益な条項を見落とさない
相手方に過剰な権利を認める条項や、自社の負担を標準よりも加重する条項などは、漏れなく相手方に修正を求めるべきです。
特にドラフトを作成したのが相手方である場合には、自社にとって受け入れ難い条項が含まれているケースが多いので、慎重にチェックを行いましょう。
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