Nobishiro LegalOn Cloud

ベンチャーの一人法務が描く成長とこれから

ベンチャーの一人法務が描く成長とこれから

AIやクロール技術を駆使して、転職したいITエンジニアと採用したい企業をマッチングするプラットフォームを手掛けるLAPRAS株式会社で一人法務として活躍する飯田裕子さん。人事として採用され、入社後に法務に軸足を移してからは専門知識を習得しつつも幅広い分野に取り組む。一人法務のため社内に法務面で頼れる人はなく、試行錯誤で腕を磨いた。法務担当者としてベンチャー企業で力を発揮するために、取り組むべきことは何かを聞いた。

飯田 裕子氏 プロフィール
SIer営業、司法書士補助者、士業コンサルグループ勤務を経て、2020年4月に
LAPRAS入社。現在は一人法務として業務を行いつつ、働く環境づくりや新規事業のサポート等も幅広く担当している。「法務のいいださん」として、noteXなどで情報を発信。一人法務としての仕事の進め方や優先順位の付け方等についてまとめた「情報収集力とコミュニケーション力で確実に進めるひとり法務(DO BOOKS)」を3月15日に出版。

人事から法務へ軸足を移して得た経験

学の法学部を卒業後、司法書士のアシスタントや士業向けのコンサルグループで働き、当初は弊社にHRとして採用されました。ただ、弊社組織が複数の職種を兼ねることができる制度になっていたこともあり、入社後すぐに法務にも携わることができました。

こで初めて法務を担当するようになったのですが、同僚が「生き生きしている。法務の仕事、楽しいんじゃないの」と言ってくれて。入社から4か月後には法務部責任者として法務に軸足を移すことになりました。

れから現在まで一人法務として、法務相談の受け付けや契約書レビュー等から、ロビイング等の渉外活動まで、幅広く法務業務全般を担当しています。最近では法務で培った「社内の部署を横断して連携して、プロジェクトを動かす」という経験を生かして、既存事業や新規事業のサポート業務にも取り組んでいます。

年前までは主に「BtoBマーケティング」と法務を半々くらいで兼任し、認知施策を展開してリード顧客を獲得するチームにいました。事業部門を経験したことで、これまでと比べて格段に自社のサービスやお客様の解像度が上がりましたし、”法務として”事業に対してサポートできることもまだまだあると気づきました。

た、「チームを横断して連携しつつ、再現性ある形に落とし込んでいく」という法務で培ってきたスキルが、法務以外にも生きる場所があるとも気づきました。

特に、新規のプロジェクトは走り出すと成果を出すために短期的な目標を追うことが多いのですが、そこで私が一歩引いた目線から他のチームとの連携を手助けしたり、社内の散らばる情報をまとめたり、繰り返す作業を「仕組み化」することで、長期的に見たときには良く働くし、回り回って法務としてもリスクを減らしながら前進させることができるなと。


た、法務担当者として2022年に施行された職業安定法改正を経験できたのも、良い経験でした。事業者としての声を業界団体を通じて行政に届けていくことで、意見が採用されてルールが変わっていく現場を目の当たりにして、「ルールってみんなで考え抜いて決めるんだ」と実感しました。

現場では、各社が自分たちの仕事に閉じず、業界全体としてより良い世界を目指すために真剣に議論していて、それを踏まえて法令が出来上がっていくことに感銘を受けたことを思い出します。

約書や事業という法務の現場と、少しイレギュラーな法改正という広い世界をどちらも経験できたことで、今後のキャリアや法務という仕事の軸を整理できたため、非常に幸運だったと思います。

法務として事業へ貢献する方法

ンチャー企業にはまず、「生き残る」という命題があります。そのためには、法務だけにこだわっていても企業が求める価値が出せない場面があるため、どうしても「法務プラスα」の何かがないといけない。

法務は直接利益を産むことができるポジションではありません。そのため、私自身は会社に必要とされれば、法務以外の役割も担い、一緒に船を漕ぎたい気持ちがありましたし、実際に希望された際にも抵抗なく兼任してきました。

方で、よく言われる「法務として事業に貢献する」というのは、私のように事業部に実際に出向したり、事業部の作業を肩代わりするという動きとは少し違うのかなと思います。むしろ、務のオーソドックスな専門性を生かした動きで、事業に貢献することを目指すべきなのかと。

つ具体例を挙げてみると、法改正への対応の早期化です。

改正は、大まかに言うと委員会等での事前の議論があって国会での議論を経て改正が決まり、改正内容の概要が示されて、追ってガイドラインや説明資料が出てきて、専門の弁護士の方がセミナーを開催したりブログに解説記事が載って、最終的に解説した書籍が出版されるという流れがセオリーかと思います。

くの法務担当者はセミナーや本の出版を待って自社の対応準備にかかると思いますし、私もそうでした。でも、改正の議論から改正案が決まるまでに半年から1年、さらにセミナーや本が出るまでまたさらに半年から1年。つまり合計で1-2年ほどかかるのが通常です。

裏を返せば、議論等の資料の時点から法務が早め早めに情報をキャッチアップできたら、通常半年で対応しなければいけないものを、2年かけて対応することができるような場面もあるかもしれません。

の間、サービスの内容を変えたり、お客さまに説明したりと作業のリソースを分散させることができます。でも、セミナーや本の出版を待っていると準備時間は半年以下。法律によっては、改正直前にしかセミナーがないといったこともあります。議論まで追うのは難しくても、法改正が可決されたときに条文だけでもきちんと読んで、改正の方向性をつかんでおくだけでも、そこで事業に対して与えられる「準備期間」を考えると、大きな違いです。

事業部側に幅広い選択肢を残す

事業に貢献する」というと売上を作らなければならないイメージがありますが、コストを下げることも同じくらいインパクトがあります。法務におけるコスト削減とは、例えば「契約書をチェックする際に紙を両面で刷る」といったものだけではなくて、「事業部側に幅広い選択肢を残す」ということだと思います。

ういった点でも、早くから情報をつかんでおくことで、事業部に選択肢を残すことができます。適切な例えかはわからないですが、「来年の何月何日にこういう料理を作って」とあらかじめ分かっていれば、安くて良い材料を使ったり、場合によってはシェフを手配したり、レシピをいくつか試したりできますが、急に「明日の何時にこの料理を作って」となると、明日買える範囲の材料しか使えませんし、間に合わない場合はシェフが徹夜するかもしれません。

法務が早めに情報を集めて伝えることで、事業側に時間的猶予ができればそれだけ選択肢を残せますし、「私のおかげで思ったより安く楽にご飯が作れた」という状況を作ることができます。

改正の対応はかなり法的な勉強も必要ですし、書籍でのキャッチアップに比べると非常にハードルは高いです。一方で、普段使っている法律に対してより深く知ることで、法務としての専門性も高まり、事業にもインパクトを与えられるとなると、法務として挑戦する価値はある業務なのかなと思います。

にも、例えば契約書のレビューにしても、その条分の背景を細かく知ることによって、「会社は何を大事にしていて、何を守りたいのか」といったストーリーを知ることができるようになりますし、勉強は大変ですが、すればするほど見える世界が広がります。

もし法務の仕事は単純作業で面白くないと思っている方がいるとしたら、ぜひもう一歩踏み出して法律の奥の方まで理解しようとしてみてほしいです。意外と奥深く、意外と面白いので。

「人類の叡智」に関わる楽しさ

改めて、法務の楽しさはどこにあるかと聞かれると二つあると思います。

ずは、経営に関与しやすいということ。

法務は仕事柄、色々な部署のリスクに関する情報が入ってきて、それらをリスクヘッジしていきます。リスクヘッジは言い換えると、長期的に見て自社に必要ではないものを排除していく作業とも言えます。

1枚の契約書には、「今はリスクをとっても、将来的にこういう部分で利益が得られれば十分リスクヘッジできる」という」会社の意思が込められていたり、今後の展開を見据えた戦略が落とし込まれていたりします。

ういう視点で契約書をみると、契約書のレビューをすることで会社のや枝葉が把握できる一方で、もし法改正対応やトラブル対応等の大きな動きをすると会社の幹の部分が理解でき、そこを突き詰めていくと、経営者がやりたいことを似たような目線で見られるということに繋がるのかなと思います。

全体を把握しつつ、幹から枝まで、それぞれのレイヤーに寄り添うことができるのは、法務独自の楽しさなのかなと思います。

う一点は、「法学の実践」としての面白さです。

間が生き残るための戦略として、集団としての力を発揮するために考え出されたのが「ルール」です。個人の自由を少しずつ国や共同体に預けて、個々の種に負けないために集合体を作った。その仕組みは古くからずっと運用されていて、ちょっとずつ改正等によって改善も繰り返されています。

そういう意味で、法令は人類の英知の結晶だとも言えます。私は法務担当者として、人類の英知に加わることができている。机の上に人類の叡智が載っていて、それをツールとして使って、私は日々仕事をしている。私が死んだ後も、この仕組みが続いていくというのはすごくロマンがありませんか?

背中を預けられる法務を目指して

人法務としての成長に限界を感じて転職をする法務担当者の話を良く聞き、少し寂しい思いもしていますがが、私はいまの組織にいながら社外で勉強できる仲間を増やし、いまの同僚と「これでゴールだね」と言えるところまで頑張りたいです。

経営を支えたり、事業に貢献するためには、やはり「何かあったらすぐ転職するから」と思われるよりは、「良い時も悪い時も一緒に仲間として支え合ってくれる」と思われたいですし、そういう意味でも背中を預けてもらえる法務でありたいので。

のためには、一人法務として社内に1人にしかいなくても、成長を続けられる環境が必要だと思っていて、そのために若手のコミュニティや女性法務のコミュニティ作りにチャレンジしたり、社外のメンバーと自主勉強会をしたり、note等で発信したりしています。会社に留まり続けることと、一人でも成長し続けることを両立できたら、もう最強じゃないですか笑

た視点を変えると、ITベンチャーにいる身としては、新しい技術によってルールが変わっていったり、作られていったりする景色をサポートし続けていきたいです。技術の専門家は必ずしも法律の知識があるわけではないので、私は会社やサービスの代弁者として、また法務の専門家として、業界や自社に関わるルールをきちんと理解して、交通整理ができる人材でありたいなと思います。

口で言うのは簡単ですが、そのような人材になるためには基礎をしっかりと積み上げていくしかないので、一番大事だからこそ、一番難しいことだと思っています。


この記事を書いた人

NobishiroHômu編集部

エディター

NobishiroHômu編集部

法務の可能性を広げるメディア「NobishiroHômu」を編集しています。若手からベテランまで、幅広い読者の関心にこたえる記事を配信します。

AI契約書レビューや契約書管理など
様々なサービスを選択してご利用できるハイスペック製品

製品についてはこちら