法務FAQとは
法務FAQは、法務部門に寄せられるよくある質問と回答をまとめた専門的な情報集です。契約書のチェック方法、コンプライアンス違反への対処法、社内規程の解釈、法的手続きの進め方など、法律に関わる業務の疑問を解決するために作成されます。
一般的なマニュアルとは異なり、実際に法務担当者が受けた質問を基に構成されているため、現場で本当に必要とされる情報が集約されています。法的な正確性が重要であり、法改正や新しい判例に応じて定期的な更新が必要です。
社内FAQとの違い
社内FAQが総務、人事、経理、ITなど各部門の幅広い業務を対象とするのに対し、法務FAQは法的な専門知識を必要とする質問に特化している点が大きな違いです。社内FAQでは基本的な業務手順や制度説明が中心となりますが、法務FAQでは法令解釈や契約条項の意味、リスク判断など、より高度な専門性が求められます。
また、法改正による影響を受けやすく、最新の法的動向を反映した迅速な更新が不可欠です。回答には法的根拠の明示も重要となります。
法務FAQ構築の5つのメリット
法務FAQの構築によって、法務部門が抱える業務課題を効果的に解決できます。
問い合わせ件数を削減できる
契約書の基本的なチェックポイントや社内規程の解釈、コンプライアンス対応の初歩的な質問など、頻度の高い問い合わせについて事前に回答を用意しておくことで、法務担当者が同じ説明を何度も繰り返す必要がなくなります。
法務部門への問い合わせ件数を効果的に削減でき、担当者の時間的な負担を大きく軽減できます。
回答の質が安定する
担当者によって説明が変わってしまう問題を解消できます。経験豊富な法務メンバーの知識をFAQとして蓄積することで、誰が対応しても一定の品質を保った回答を提供できます。
新人担当者でも適切な判断基準を参照でき、組織全体の法務対応レベルが向上します。間違った理解による業務上のトラブルの防止にもつながります。
新人教育・研修コストの削減につながる
新入社員や他部門の担当者への法務教育が効率化されます。基本的な法律知識や社内ルールを個別に教える時間が不要になり、研修にかかる人件費を抑制できます。
新人は自分のペースで必要な情報を学習でき、教育効果も高まります。法務担当者は教育業務から解放され、本来の専門業務に集中できるようになります。
担当者が反復作業から解放されコア業務に集中できる
基本的な質問対応から法務担当者を解放し、契約交渉や新規事業の法的検討といった高度な業務に専念できる環境を作れます。
単純な問い合わせ対応ではなく、専門知識を活かした戦略的な法務活動に時間を使えるため、法務部門の付加価値が向上します。緊急性の高い案件にも迅速に対応できます。
法改正やルール変更の反映がしやすくルール違反リスク低減につながる
法律の改正や社内規程の変更があった際、FAQを更新するだけで全社に最新情報を共有できます。そのため従来のように個別に連絡したり説明会を開催したりする手間が省け、情報伝達の効率が大幅に向上します。
迅速な情報共有は古い情報による誤った判断の防止につながり、規則違反のリスクを最小限に抑えられます。
法務FAQ構築の具体的な手順
次に法務FAQを効果的に構築するための具体的な手順について解説します。
目的を明確に設定する
法務FAQ構築前に、何を解決したいのかを明確にします。問い合わせ件数の削減なのか、回答品質の統一なのか、新人教育の効率化なのかによって、FAQの内容や構成が変わるためです。
目的が曖昧だと、せっかくFAQを作っても社内で活用されず、問い合わせが減らない原因となります。法務部門が抱える課題を整理し、FAQによってどのような改善を目指すのかを具体的に設定することで、運用開始後の全社的な活用につながるでしょう。
体制を構築する(担当者のアサイン)
法務FAQ運用の成功には、推進役となる担当者の設定が不可欠です。FAQは作って終わりではなく、継続的な更新や改善が必要である一方、責任者を明確にしないと優先度が下がり更新や改善が滞りがちな施策だからです。
法務部門内から1名以上の担当者を決め、質問収集、回答作成、更新作業のスケジュールを管理する体制を整えます。また、各部門との連携も重要なため、関係部署との協力体制についても事前に調整しておくことが重要です。
よくある質問を収集
社内でよく寄せられる法務関連の質問を体系的に収集します。メールやチャットツールに残っている問い合わせ履歴を分析したり、各部門へのヒアリングを実施したりして、頻度の高い質問を洗い出します。
契約書チェックの基準、社内規程の解釈、法的手続きの進め方など、実際に法務担当者が対応している質問を漏れなく集めることが重要です。口頭でのやりとりが多い場合は、今後記録を残すルールも併せて整備します。
回答を作成
収集した質問に対する分かりやすい回答を作成します。法務の専門知識がない社員でも理解できるよう、専門用語は避けてシンプルな表現を心がけます。回答には根拠となる法令や社内規程を明記し、必要に応じて具体例も併記することで理解度を高めます。
また、回答の品質を統一するため、文章のフォーマットやトーンを決めておくことも重要です。経験豊富な法務担当者の知識を文書化し、組織全体で共有できる形にまとめます。
カテゴリーごとに仕分ける
作成したFAQを、社員が情報を見つけやすいようにカテゴリーごとに整理します。契約関連、コンプライアンス、社内規程、法的手続きなど、業務分野別に分類したり、部門別や緊急度別に分けたりする方法があります。
分類は直感的に理解できるものにし、同じ情報が複数のカテゴリーに該当する場合は適切にタグ付けを行いましょう。検索機能も活用できるよう、キーワードの設定にも配慮することで、社員が必要な情報に素早くアクセスできるようになります。
社内への周知
FAQの公開時には、全社員に対して積極的な周知活動を行います。メール配信やイントラネットでの告知、説明会の開催など、複数の手段を使って認知度を高めましょう。
また、FAQへのアクセス方法を分かりやすくするため、社内システムからの導線設計も重要です。問い合わせフォームの上部にFAQ確認を促す案内を表示したり、業務システム画面にFAQへのリンクボタンを設置したりして、自然にFAQを利用できる環境を整えることが活用促進のために重要です。
運用・改善
FAQ公開後は継続的な運用と改善が必須です。利用状況の分析を行い、どのFAQがよく閲覧されているか、どの質問に対する問い合わせがまだ多いかを定期的にチェックします。新たに寄せられた問い合わせは、FAQに追加すべき内容かどうかを検討し、必要に応じてコンテンツを拡充しましょう。
また、法改正や社内ルール変更があった際は迅速に内容を更新し、常に最新の情報を提供できるよう管理を徹底します。
法務FAQ構築の際のポイント
効果的な法務FAQを構築するために押さえるべき重要なポイントがあるので、以下で確認していきます。
よくある質問から作る
法務FAQの効果を最大化するには、実際に頻繁に寄せられる質問から優先的に作成することが重要です。過去の問い合わせ履歴を分析し、月に何度も同じような質問が来ている内容を特定します。
たとえ重要度が高い内容でも、実際に問い合わせが少ない質問をFAQ化しても利用されません。契約書の基本的なチェックポイントや社内規程の解釈など、法務担当者が「また同じ質問が来た」と感じる内容こそがFAQ化すべき優先項目となります。
頻度の高い質問から順番に整備することで、短期間で問い合わせ削減効果を実感できます。
1ページで複数のトピックを扱わない
法務FAQの各ページは、1つの質問に対して1つの明確な回答を提供する構成にします。複数の関連する内容を1ページにまとめてしまうと、知りたい情報を見つけにくくなり、結果的に問い合わせが減らない原因となります。
たとえば契約書に関するFAQでも、「チェックポイント」「承認フロー」「保管方法」は別々のページに分けて作成することが重要です。1ページ1トピックの原則により、社員は必要な情報に素早くアクセスでき、自己解決率の向上が期待できます。
カテゴリを設計し回答を見つけやすくする
社員が必要な情報を効率的に見つけられるよう、FAQを適切なカテゴリーに分類して整理します。
法務FAQでは「契約関連」「コンプライアンス」「社内規程」「法律相談」といった業務分野別の分類が有効です。さらに部門別や緊急度別など、利用者の視点に立った複数の分類軸を用意することで検索性が向上します。
カテゴリー名は専門用語を避け、誰でも理解できる表現を使用し、検索機能やタグ機能も活用して情報へのアクセス性を高めることが重要です。
できるだけ専門用語を使わずに回答を作る
法務FAQの回答は、法律の専門知識を持たない社員でも理解できる平易な表現で作成します。
法律用語や社内の専門用語を多用すると、回答を読んでも理解できずに結局問い合わせをしてしまう事態が発生します。必要に応じて具体例を交えながら説明し、どうしても専門用語を使う場合は併せて分かりやすい解説を加えます。
また、回答の最後に「それでも不明な場合は法務部までお問い合わせください」といった案内を入れることで、適切な判断を促すことができます。
AIを用いたFAQ構築や運用方法
近年急速に発達しているAIの活用により、法務FAQの構築と運用をより効率的に進められます。ここでは具体的な構築や運用方法について解説します。
LegalOnに搭載されたLegalOnアシスタントは、一般的な法律知識や社内の契約書に基づく情報から回答を生成する法務AIチャットボットです。社内向け法務FAQの回答の生成や構築の参考として活用できます。詳細は以下よりご確認ください。
AIで過去の問い合わせを自動分析してFAQ候補を抽出
AIを活用することで、大量の問い合わせ履歴やメール、チャットのデータを短時間で分析できます。
従来は担当者が手作業で数百件のデータを整理する必要がありましたが、AIなら数千件の過去データから頻度の高い質問を自動的に抽出し、FAQ化すべき内容を効率的に特定できます。
抽出された質問は類似する内容でグループ化され、重要度に応じた優先順位も自動で付けられるため、FAQ構築の初期段階で最も時間のかかる質問収集作業を大幅に短縮できます。
生成AIを活用した回答文の作成と校正
生成AIは社内規程やマニュアル、過去の回答履歴を学習することで、一貫性のある回答文を自動生成できます。
複雑な法律用語も分かりやすい表現に変換し、具体例を交えた説明文を作成するため、法務の専門知識を持たない社員でも理解しやすい内容になります。さらに文章のトーンや長さも統一され、誤字脱字のチェックも同時に行われます。
ただし、生成AIが作り出す文章には、ハルシネーション(もっともらしい嘘の情報を生成する現象)のリスクが伴います。適法性を担保するため、生成された回答は必ず法務担当者がファクトチェックを行い、内容を厳格に検証するプロセスが不可欠です。AIはあくまで「下書き作成のアシスタント」と位置づけ、最終的な責任は人が負うという意識が重要です。
利用状況データをAIで分析して改善箇所を特定
FAQの運用開始後は、AIが閲覧状況や検索キーワード、問い合わせ件数の変化を継続的に分析します。よく利用されているFAQや回答が見つかりにくい質問、新たに追加すべき内容などアクションが明確になります。
またユーザーの検索行動パターンから、より見つけやすいカテゴリー分類や効果的な検索キーワードの提案も受けられます。
これらのデータに基づいた改善提案を参考に、運用担当者は効果的な対策を迅速に実施でき、継続的にFAQの品質向上を図れます。
このようにAIは法務FAQ構築において非常に有用である一方で、情報セキュリティの観点が非常に重要になります。例えば、社内の問い合わせ履歴など、機密情報や個人情報を含むデータをAIに入力する場合、そのAIサービスのセキュリティポリシーやデータ取り扱い方法を事前に確認する必要があります。クローズドな環境で動作するAIや、入力したデータが学習に使われない設定が可能なサービスを選ぶなど、情報漏洩リスクを考慮したツール選定が求められます。
法務FAQ構築/運用でよくある失敗パターン
法務FAQは、適切に運用しないと作成コストだけがかかって十分な効果が出ません。以下に、法務FAQ構築において陥りがちな失敗ケースを紹介します。
作っただけで誰も使わない
FAQ公開後に最も多い失敗が、社内での認知不足により利用されないケースです。イントラネットの奥深くに設置したり、一度の案内メールだけで終わらせたりすると認知度が上がりません。
また「問い合わせ前にFAQを確認する」というルールを設けても、強制力がなければ従来の直接問い合わせが続きます。さらに、FAQ利用のメリットが伝わっていないと、わざわざ検索するより聞いた方が早いという判断になってしまいます。
利用促進には継続的な周知活動、アクセスしやすい場所への設置、利用を促進する仕組み作りが必須です。
情報が古くなり信頼性が低下
法務FAQは法改正や社内規程の変更により頻繁に更新が必要ですが、メンテナンスを怠ると古い情報が残り続けます。過去の法令に基づく回答や変更前の社内ルールが掲載されていると、社員が誤った判断をしてしまう危険性があります。このような状況が続くと「FAQの情報は当てにならない」という認識が広がり、利用者が減少してしまいます。
また、一度失った信頼を回復するのは困難で、結果的にFAQ自体が形骸化してしまう恐れがあります。定期的な見直しと迅速な更新体制の構築が不可欠です。
回答が専門的すぎて理解されない
法律用語や社内の専門用語を多用した回答は、法務の知識を持たない社員には理解が困難です。たとえ正確な内容であっても、複雑な法的概念をそのまま説明したり、略語や業界用語を当然のように使用したりすると、結局社員は内容を理解できずにFAQを諦めてしまいます。
この結果、従来通り法務担当者への問い合わせが続き、FAQ導入の効果が現れません。分かりやすい表現と具体例を交えた説明が重要です。
検索性が悪く結局法務に問い合わせがくる
FAQの検索機能が不十分だったり、カテゴリー分類が直感的でなかったりすると、必要な情報にたどり着けません。また、検索キーワードと実際のFAQ内容にズレがあると、適切な回答が表示されずに自己解決に失敗してしまいます。さらに、質問の表現が社員の使う言葉と異なっていると、同じ内容でも見つけられない場合があります。
このような状況では、社員はFAQで探すよりも直接問い合わせた方が早いと判断し、結果的に法務部門への問い合わせが減らない原因となります。
同義語設定による検索精度向上、社員が使う言葉でのタグ付け、よく検索される質問の上位表示などの対策が有効です。
法務FAQを継続的に使ってもらうための運用のポイント
法務FAQの価値を維持し活用を促進するためには、戦略的な運用が重要です。
法務関係の問い合わせフローにFAQを組み込む
社内の問い合わせルールに法務FAQ確認を必須ステップとして組み込むことが重要です。
たとえば「法務への問い合わせ前にFAQを確認する」というルールを設け、問い合わせフォームにFAQリンクを設置したり、メール署名にFAQのURLを記載したりします。
また、業務システムや社内ポータルサイトから法務FAQへのアクセスボタンを配置し、自然にFAQを利用する導線を作ります。
このようなフロー改善により、社員がFAQを利用する習慣が身に付き、問い合わせ前の自己解決が促進されます。単にFAQを作るだけでなく、業務の中に組み込むことが継続的な活用のために重要です。
定期的な見直しで法改正や規程改定に対応する
法務FAQは法改正や社内規程の改定に応じて改定が必須です。定期的な見直しと迅速な更新体制が求められますす。四半期ごとの定期的な見直しを実施し、最新の法令や社内ルールに基づいてFAQ内容を点検します。個人情報保護法の改正や労働関連法の変更など、影響範囲の大きな法改正があった際は緊急更新を行います。
また、更新担当者を明確にし、法改正情報をキャッチする仕組みを構築することで、古い情報による法的リスクを防げます。信頼性の高いFAQを維持することで、社員が安心して参照できる情報源として機能し続けます。
KPIを決めて運用する(自己解決率・閲覧数・検索語)
FAQ運用の効果を測定し改善するため、具体的なKPIを設定します。自己解決率(FAQで解決できた問い合わせの割合)、FAQ閲覧数、よく検索されるキーワードなどを定期的に分析することで、運用状況を客観的に把握できます。
また、検索されているが回答が見つからないキーワードを分析することで、新たなFAQ作成の優先順位を決められます。データに基づく運用改善により、FAQの効果を継続的に向上させられます。
解決できなかった質問を集めて更新し続ける
FAQで解決できずに寄せられた問い合わせは、新たなFAQ作成の貴重な情報源となります。月次で未解決だった質問を分析し、頻度の高いものから優先的にFAQに追加します。また、既存のFAQを見たが分からなかったという問い合わせについては、回答内容を見直して分かりやすく改善します。
問い合わせ担当者には「FAQ未掲載の質問」と「FAQ改善が必要な質問」を記録してもらい、定期的にFAQ更新に反映する体制を整えます。このサイクルを継続することで、実際のニーズに応じたFAQが充実し、自己解決率の向上につながります。
まとめ|AIツールを活用して法務FAQ構築を効率化しコア業務に集中できる環境を
法務部門が日々受ける同様の問い合わせ対応から解放されるためには、効果的なFAQ構築が重要です。しかし、回答文の作成や法的正確性の確保には多くの時間と専門知識が必要となります。
このような課題を解決するのがAIツールの活用です。LegalOnアシスタントでは、法律に関する質問を自然言語で入力するだけで適切な回答を得られるため、よく寄せられる法務相談の内容を入力すれば、FAQ用の回答を効率的に作成できます。
AIによる業務効率化により、法務担当者は契約交渉や戦略的な法的判断といった本来のコア業務により多くの時間を充てられます。
詳しい機能は以下より資料を無料でダウンロードできるので、法務FAQの構築を検討している法務部門の方はぜひご覧ください。
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