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リーガルテック発展史:AIが変革をもたらした自動契約書レビューの今と昔

リーガルテック発展史:AIが変革をもたらした自動契約書レビューの今と昔
この記事を読んでわかること
    • AI契約書レビューの発展と変遷
    • AIによる法務業務の効率化の歴史⁠
    • ⁠​生成AIがリーガルテックに与えた影響
    • ⁠​リーガルテックの未来展望

AIによる契約書レビューに対し、「精度に問題がある」「定型的な契約書に一般的な指摘をするだけ」などといったイメージを持つ方は多いかもしれません。しかし、それはすでに一昔前のイメージです。最新のAI契約書レビューサービスは多くがAIエージェントなどの最新テクノロジーを導入し、全く新しいユーザー体験を提供しています。

法務業界の効率化と品質向上を支える技術は、この数年で飛躍的な進化を遂げました。「使える」レベルから「頼れる」パートナーへと変貌したAI契約書レビューの実力とは? リーガルテックに対するイメージをアップデートするため、2010年代後半以降のリーガルテックと技術の変遷を、AI契約書レビューをキーワードに解説します。

1. テクノロジーの発展とAI契約書レビューの誕生

法務部門における業務効率化の波は、2010年代後半から本格的に始まりました。その変化の波をもたらしたのはAIの登場です。特に契約書レビューという、法務担当者に多大な労力を強いる業務において、AI技術の活用が注目されるようになりました。

本章では、AI契約書レビューが誕生した技術的背景と契約書関連業務に与えたインパクトについて探ります。

1-1. 人の手による契約書レビューの課題と自動化への期待

「一日の多くの時間を契約書レビューに費やしている」―これは多くの企業法務担当者が抱える悩みでした。一方で、2010年代以降の企業活動のグローバル化とコンプライアンス要求の高まりにより、高品質かつ高効率の契約審査業務の提供のニーズは非常に高まっていました。

契約書レビューの主な課題は以下の3点に集約されます。まず、膨大な手間がかかること。標準的な取引契約書でさえ、熟練した法務担当者が細部まで確認するには数十分から数時間を要します。次に、人的リソースの制約。高度な専門知識を必要とする法務人材は転職市場において常に欠乏しており、多くの企業では、法務部員の制限からビジネススピードに対応できるだけの法務サービスの提供をできずにいました。そして、品質の一貫性維持の難しさ。契約審査業務はナレッジの蓄積と共有が困難で属人化する傾向があり、担当者ごとの審査品質にばらつきがあり、また人の目の限界から、常に法的リスクの見落としが発生する危険性が存在していました。

このような背景から、AIによる契約書レビューの自動化への期待が高まりました。特に、膨大な量の文書を短時間で処理できる点、一貫した品質でチェックできる点などにおいて、AIは有力な解決策と考えられるようになりました。

1-2. 自然言語処理技術の発展

AI契約書レビューが実用化されるためには、自然言語処理(NLP)技術の飛躍的な進歩が不可欠でした。2017年は、この分野における大きな転換点となりました。

それまでの自然言語処理は主に「パターンマッチング」や「ルールベース」のアプローチに依存しており、契約書のような複雑な法的文書の解析には大きな限界がありました。しかし、2017年頃から「Transformer」をはじめとする革新的なニューラルネットワークアーキテクチャが登場し、文脈を理解する能力が飛躍的に向上しました。

法務分野において特に重要だったのは、AIが文の意味を理解し、単語間の関係性を把握する能力の向上でした。例えば、「甲は乙に対して〜の義務を負う」といった文章において、より正確に権利義務関係を理解できるようになりました。また、言語モデルの大規模化により、法律用語や契約特有の専門用語の処理速度・精度も向上しました。

これらの技術進化により、機械による契約書レビューは単なるキーワード検索やパターンマッチングから、文脈を考慮した高度な契約書分析へと進化していったのです。

1-3. AIリーガルテックの誕生と業界の反応

技術的な基盤が整ったことで、2017年から2019年にかけて、AI契約書レビューサービスが次々と登場しました。

初期のAI契約書レビューツールに対する法務業界の反応は、「期待と懐疑」が入り混じったものでした。業務効率化への強い期待があり、特に定型的な契約書を大量に扱う大企業の法務部門からの関心は高いものだった一方で、「AIが法律家の判断を代替できるのか」という根本的な懐疑も存在していました。

初期導入企業からのフィードバックは、「想像以上に役立つ場面がある」というものでした。特に、定型契約書の一次スクリーニングや、重要条項の抽出、過去の類似契約書との比較などにおいて、その効果が実感されました。一方で、定型的な契約内容に対して一般的な観点からの指摘は行えるものの、高度な法的判断や固有の事情が絡む案件においては、依然として人間の法務専門家の役割が不可欠であることも明らかになりました。

黎明期においてAI契約書レビューは、「法務担当者の代替」ではなく「法務担当者の一部の契約審査業務を支援するツール」として位置づけられるようになり、徐々に業界に受け入れられていったのです。

2. 初期のAI契約書レビューサービスが提供していた価値(2017年〜2021年)

2017年から2021年頃は、AI契約書レビューサービスが本格的に普及し始める重要な転換点でした。この頃に、実用レベルに達した自然言語処理技術により、契約書レビューの「読む」「直す」というプロセスを支援する機能が次々と実装されたのです。

2-1. 契約書レビューにおいてAIが弁護士に勝利。一方で技術的限界も

2018年2月、AI契約書レビューの歴史を語る上で欠かせない画期的な出来事が起こります。リーガルテックのスタートアップ、LawGeex社が、米国において自社開発のAIと20人の弁護士を対象に、契約書レビュー能力を比較する実験結果を発表したのです。

この実験では、5通の秘密保持契約書(NDA)に潜む30のリスク項目を、いかに正確かつ迅速に識別できるかが競われました。結果は以下のようなものでした。

  • 精度: 人間の弁護士の精度は85%に留まった一方で、AIは94%の精度でリスクを読み取り。
  • 時間: 人間の弁護士が5通のNDAのレビューに平均92分を要したのに対し、AIはわずか26秒で完了させました。

この研究は、特定のタスクにおいてAIが人間の専門家を凌駕しうることを明確に示し、日本の法務・テクノロジー業界にも大きな衝撃を与えました。

しかし、この圧倒的な性能の裏で、当時のLawGeexのサービスには、ビジネス現場での即時性を求めるニーズに応える上での課題も指摘されていました。そのレビュープロセスは完全自動ではなく、AIによる一次解析の結果を人間の弁護士が検証・修正する「Human-in-the-Loop」という手法を含んでおり、ユーザーが契約書をアップロードしてからレビュー結果が返ってくるまでに最大で24時間程度の時間を要する場合があったのです。このタイムラグは、迅速な意思決定が求められる多くのビジネスシーンのニーズとは必ずしも合致せず、結果として、当時の米国市場では爆発的な普及には至りませんでした。

2-2. 日本における市場の創造:即時性を武器とした技術革新

LawGeexのニュースに触発されるような形で、日本では2018年から2019年にかけて、独自のAI契約書レビューサービスが次々と誕生しました。その代表格が、株式会社LegalForce(現LegalOn Technologies)の「LegalForce」、GVA TECH株式会社の「AI-CON」(後のGVA assist)、株式会社リセの「LeCHECK」などです。

日本のサービスが技術的なブレークスルーとして目指したのは、LawGeexが抱えていた課題、すなわち「即時性」の実現でした。契約書をアップロードすれば、その場でレビュー結果が得られるリアルタイム性を追求したのです。この「瞬時に返ってくる」という体験は、日々多くの契約書を処理する日本の法務担当者の実際の業務フローに即しており、国内でAI契約書レビューという新たな市場カテゴリを創出する決定的な要因となりました。

これらのサービスは、弁護士が監修した雛形やデータベースとの比較に基づき、自社に不利な条項や欠落条項といったリスクを自動で検出する機能を中核としていました 。さらに、2019年頃からは、単なる一般的なリスク分析を超え、より組織のナレッジを活用する機能が実装されていきました。

2-3. 初期のAI契約書レビューがもたらした業務効率化

2017年から2021年の期間に、AI契約書レビューツールは法務業務に顕著な効率化をもたらしました。まず、レビュー時間の短縮効果が最も顕著でした。当時の調査によれば、AI活用により契約書レビュー時間が大幅に削減されたという報告があります。特に定型的な契約書において、その効果は顕著でした。

また、見落とし防止による品質向上も重要な価値でした。AIには人間に存在するチェック漏れや見落としが少なく、一貫した制度でチェック結果を返します。特に大量の契約書を短期間で処理する必要がある大企業の法務部門で、その価値が高く評価されました。

さらに、AI契約書レビューツールの活用は、法務部門の業務配分最適化にも貢献しました。定型的・反復的な契約書レビュー業務の一部をAIに任せることで、限られた法務人材をより高度な法的判断や戦略的業務に集中させることが可能になりました。特に中小企業や法務リソースの限られた組織では、少ない人員で効率的に契約業務を回せるようになったという効果も見られました。

このように、初期のAI契約書レビューは、まだ技術的な限界はあったものの、法務業務の効率化と品質向上に大きく貢献し、法務DXの重要な一歩となりました。

3. 最新のAI契約書レビューサービスが提供する価値(2025年現在)

以降、生成AIによってAI契約書レビューの世界は大きな変革を遂げました。本章では、現在のAI契約書レビューサービスがどのように進化し、どのような価値を提供しているのかについて詳しく解説します。

3-1. 生成AIによる対話型支援と修正案の自動生成

生成AIにより、AI契約書レビューツールは単なる「リスクなどの問題箇所の検出」から「問題解決の支援」へと大きく進化しました。従来のAIツールが「この条項にリスクがあります」と指摘するだけだったのに対し、生成AIによって文脈理解や背景情報に基づく分析が可能になったことで「なぜリスクがあるのか」を説明し、さらに「どのように修正すべきか」の具体的な修正文の提案までできるようになりました(実際は従来のツールにおいても修正案の提示は可能でしたが、それは専門家が作成したプリセットの文案を提示しているにとどまっていました)。

さらに生成AIを利用したchatbotの搭載により、自然言語による指示文の入力も可能になりました。このような最新の対話型インターフェースでは、ユーザーが「この契約の権利義務関係を洗い出して」「この条項を自社に有利になるよう修正案を提示して」といった自然な対話形式で指示を出すことができます。

また、契約書のドラフティング段階においても、「機密保持条項のテンプレートを探して」といった指示に対して、自社の立場に合った適切な契約書テンプレートを提示することもできるようになりました。さらに、「相手方へ条件を交渉するコメント文を考えて」などと、相手方との交渉に対する支援も可能になりました。

つまり、従来のツールでは「契約書レビュー」のみ支援していたのに対し、論点の整理などの前工程から、契約審査後の交渉などの後工程まで、広い意味での契約書審査業務全般を支援するツールへと変貌したのです。

3-2. ナレッジの構造化と組織知の活用

契約書レビューそのものも、生成AIの登場によってさらに高度化されました。これまでは一般的な観点でのレビューを行うだけだったものが、企業固有の審査基準や過去の判断事例を学習し、組織のナレッジを構造化してレビューを行うAI契約書レビューツールまで登場したのです。

例えば、「自社基準でのレビュー機能」では、あらかじめ企業ごとの固有の審査基準や過去の案件をAIに学習させることで、単に一般的な法的リスクではなく、その企業特有の基準に基づいたレビュー結果を提供します。「当社では通常この支払条件は受け入れていません」「過去の取引では異なる責任制限を設定しています」といった、組織固有のナレッジに基づいた指摘が可能になっています。

また、「過去の契約書との比較機能」も進化しており、新規の契約書と過去に締結した関連性のある契約書を自動的に検出・比較し、条件の相違点や特異な条項を浮き彫りにします。例えば「同じ取引先との前回の契約と比較して、今回はこの部分が変更されています」などといった点を自動的に検出し、見落としを防止します。

3-3. 多言語対応とナレッジマネジメントの支援

AI翻訳技術の飛躍的な進化により、グローバルビジネスにおけるAI契約書レビューツールの活用範囲が大幅に拡大しました。多言語対応により、グローバル展開する企業の海外支社などにおいても、日本語以外のインターフェイスで、日本法に準拠したAI契約書レビューを行うことが可能になっています。

また、契約書の要約機能も有効な機能となっています。膨大な量の契約書から重要なポイントを抽出し、「この契約書の主な義務は〇〇です」「最も重要なリスク条項は△△です」といった簡潔な要約を作成。法務担当者が短時間で契約書の全体像を把握できるようになりました。これにより、法務担当者は案件が起案されてすぐ、その審査に必要な社内のナレッジにアクセスすることが可能です。

3-4. 新たな競合ツールとなった汎用生成AI

2022年末のChatGPTの登場以降、汎用生成AIが契約書レビューツールの代替になるのではないかという議論が活発化しました。実際、これらの汎用AIでも契約書の分析や問題点の指摘が一定レベルで可能です。

しかし、汎用生成AIと「法務レビューに特化したAI契約書レビューツール」の間には明確な差異があります。それはハルシネーション(予測が不正確であったり、非現実的な情報を生成したりする現象)の存在です。汎用生成AIは膨大な一般的知識を持つ反面、法律に特化した深い理解を持っていないため、契約書分析において誤った解釈や存在しない法的原則を提示してしまうことがあります。契約書レビューのような正確性が求められる法務業務においては、このハルシネーションが重大な問題となり得ます。

一方でAI契約書レビューツールは、法務特化型の学習データと弁護士などの専門家による精緻なファインチューニング(AI基盤モデルを特定の目的に合わせて調整する技術)により、このようなハルシネーションを最小限に抑える設計になっています。

ハルシネーション対策は主に学習データの量と質、そして特定分野に特化したファインチューニングの精度に大きく依存しています。汎用生成AIが様々な業務で活用される今日のビジネス環境においても、法務のような高度な専門知識と正確性、情報の最新性が求められる分野では、特化型のAIツールが依然として明確な優位性を保持しています。

4. これからのAI契約書レビューとリーガルテック

これからのリーガルテックは、業務の垣根を越え、「AI契約書レビュー」というツールもその中の一機能となっていくと予想されます。AI契約書レビューとリーガルテック全般の未来展望について考察します。

4-1. プラットフォーム化と包括的サービスの台頭

リーガルテックツールはプラットフォーム化が急速に進んでおり、単一機能のツールから、契約書作成、レビュー、交渉、締結、管理、更新まで契約ライフサイクル全体を一元管理(CLM: 契約ライフサイクルマネジメント)するプラットフォームへと進化しています。近い将来、こうした包括的なCLMプラットフォームは法務部門において当たり前の存在となると考えられます。

4-2. AIエージェントの標準化

AIエージェント(ユーザーの代わりに特定のタスクを自動的に実行する知能を持ったAIプログラムで、指示に従って情報収集や分析、提案などを行う機能)は法務業務全般において標準機能となり、法務担当者一人ひとりのアシスタントとして、情報収集、文書分析、基本的な法的アドバイスの提供などを自律的に行うようになります。リーガルテックツールにおいても、こうしたAIエージェント機能は必須の標準機能となるでしょう。

4-3. データ連携と意思決定支援の高度化

社内の様々なシステムやデータベースと連携し、契約情報だけでなく財務情報や取引履歴なども踏まえた総合的な意思決定支援が可能になります。これにより、法務部門は単なる「審査部門」から、データに基づく戦略的な「ビジネスパートナー」へと進化していくでしょう。

4-4. 法務DXの完全普及と人間の役割の変化

AIとリーガルテックが法務業務の多くを自動化する中で、法務専門家の役割は複雑な交渉や高度な戦略立案、AIが提案した内容の最終判断など、より創造的で高付加価値な業務にシフトしていくことになります。人間とAIの適切な役割分担と協働が、これからの法務部門の競争力を決定づける要因となるでしょう。

まとめ:人間とAIの協働による法務DXの未来

2018年の単純なパターンマッチングから始まり、NLPモデルを経て、2022年末の生成AIの登場に至るまで、AI契約書レビュー技術は飛躍的に進化してきました。これらの技術発展により、法務業務はより効率的かつ正確になり、ハルシネーション対策や精緻なファインチューニングを施した法務特化型AIは、汎用生成AIとの差別化に成功しています。今後はプラットフォーム化が進み、CLM全体を管理するツールへと発展していく中で、法務専門家とAIは互いの強みを活かし、人間は創造的で高付加価値な業務に集中する一方、AIは精度の高い分析と自動化を担う、理想的な協働関係が構築されるでしょう。

NobishiroHômu編集部
執筆

NobishiroHômu編集部

 

AI法務プラットフォーム「LegalOn」を提供する株式会社LegalOn Technologiesの「NobishiroHômu-法務の可能性を広げるメディア-」を編集しています。

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