電子契約では収入印紙は不要
電子契約書には収入印紙を貼る必要がありません。これは、印紙税法で「課税文書」とされるのが紙に記載された文書であるという解釈があり、電子契約書はその対象外となるからです。電子契約書が印紙税の課税対象外となる理由については、次の項目で詳しく解説していますので、ぜひチェックしてください。
収入印紙が不要な理由とは
印紙税法の解釈
- 課税文書の定義:印紙税は、印紙税法別表第一に掲げられた20種類の文書に対して課されます。これらの文書は、契約の成立や取引の事実を証明する目的で作成されるものであり、具体的には不動産の譲渡契約書、請負契約書、約束手形などが含まれます。
- 電子データの扱い:電子データは、印紙税法上の「文書」には該当しないとされています。そのため、電子メールで送信された契約書のPDFファイルなどの電磁的記録は、印紙税の課税対象外となります。ただし、電子データを印刷した紙の文書を本書として契約した場合、その文書は課税文書とみなされ、印紙税の課税対象となる可能性があります。
- 文書の作成の概念:印紙税法における「文書の作成」とは、単に文書を作成する行為だけでなく、その文書を相手方に交付したり、取引の事実を証明する目的で使用したりすることを指します。したがって、文書を作成しても相手方に交付しない場合や、電磁的記録として送信するだけの場合は、「文書の作成」には該当せず、印紙税の課税対象とはなりません。
国税庁の見解
- 公式見解:国税庁は、電子データによる契約は印紙税の課税対象外であるという見解を示しています。
- 電子帳簿保存法との関連:電子帳簿保存法に基づいて適切に保存された電子契約データは、紙の文書と同等の法的効力を持つとされています。しかし、これは印紙税の課税対象となることを意味するものではありません。
- 印刷した電子契約書の扱い:電子契約書を印刷しても、それは原本の複製(写し)に過ぎず、原則として印紙税は課税されません。
国会答弁での確認
- 2005年の国会答弁:2005年の国会で、当時の首相が、電子契約に印紙税を課さないことを明確に答弁しました。この答弁により、電子契約への印紙税非課税の方針が公式に確認されました。
- 答弁の要点:電子データによる契約は、印紙税法上の「文書」に該当しないことが明確に述べられました。電子契約に印紙税を課税しないことで、電子商取引の促進を図る意図が示されました。
- その後の継続的な確認:この方針は、その後の国会答弁や税制改正の議論においても継続的に確認されています。
これらの解釈、見解、確認により、電子契約では収入印紙が不要であることが明確に示されています。この取り扱いは、デジタル化の推進と電子商取引の促進を目的としており、企業のコスト削減と業務効率化に大きく貢献しています。
ただし、電子契約を導入する際は、適切な電子署名の使用や、電子帳簿保存法に基づいた適切なデータ保存など、法的要件を満たす必要があることに注意が必要です。これらの要件を満たすことで、電子契約は紙の契約書と同等の法的効力を持ちつつ、印紙税が不要というメリットを享受することができます。
電子契約における税務上のメリット
電子契約の主要メリットについて、各項目を詳しく説明いたします。
コスト削減効果
- 印紙税の削減:電子契約では収入印紙が不要となり、大きなコスト削減につながります。
- 事務経費の削減:印刷代、郵送代、保管スペースの費用が不要になります。
- 人件費の削減:契約関連の事務作業が簡素化され、人件費を抑えられます。
業務効率化
- 事務作業の簡素化:印刷、製本、宛名書き、封入、投函などの作業が不要になります。
- 契約書作成の効率化:類似の契約書を容易に検索・活用でき、新規契約書の作成が効率化されます。
- 承認プロセスの迅速化:オンラインで承認プロセスを進められるため、時間短縮につながります。
契約締結のスピードアップ
- リードタイムの短縮:従来2〜3週間かかっていた契約締結が、早ければ2〜3分で完了します。
- 修正の容易さ:契約内容の変更が必要な場合、再アップロードするだけで済みます。
- 地理的制約の解消:物理的な距離に関係なく、即時に契約を締結できます。
保管・管理の効率化
- 検索の容易さ:過去の契約書をデータベースから即座に検索・閲覧できます。
- スペース削減:物理的な保管スペースが不要になります。
- 管理の一元化:全ての契約をデジタルで一元管理できます。
リモートワーク対応
- 場所の制約解消:オフィス以外の場所でも契約締結が可能になります。
- テレワーク促進:在宅勤務でも契約業務を滞りなく進められます。
- グローバル対応:海外との契約もスムーズに行えます。
セキュリティ向上
- 改ざん防止:電子署名とタイムスタンプにより、契約内容の改ざんを防止できます。
- アクセス制御:特定のIPアドレスからのみ閲覧可能にするなど、セキュリティ設定が可能です。
- 監査証跡:契約に関わった人物や過程を詳細にログとして記録できます。
これらのメリットにより、電子契約は企業の業務効率化、コスト削減、セキュリティ強化に大きく貢献します。特に、デジタル化が進む現代のビジネス環境において、電子契約の導入は競争力向上につながる重要な施策となっています。
電子契約の導入にあたって知っておくべき注意点
電子契約を導入した場合でも、すべての契約を電子化できるわけではありません。また、電子契約の締結・保存に関しては、満たすべき要件があることにも注意が必要です。
すべての契約を電子化できるとは限らない
法令によって書面の作成が義務付けられている契約書については、電子契約によって締結することはできません。<電子締結できない契約の例>
最近では、従来書面の作成が義務付けられていた契約書の多くについて、電子化を認める法改正がなされています。しかしまだ一部には、法令上電子化できない契約が残っている点にご注意ください。
締結・保存に関して満たすべき要件がある
電子契約を有効に締結し、そのファイルを法令に従って保存するためには、以下の3点を満たす必要があります。
- 電子署名を付す:当事者によって有効に電子契約が締結されたことを証するために、双方が電子署名を付す必要があります
- タイムスタンプを付す:電子契約のファイルが存在した時点を証するために、タイムスタンプを付す必要があります。
- 電子帳簿保存法に従って保存する:改ざん等を防止する「真実性」の要件と、ディスプレイ上でスムーズに内容を確認できる「可視性」の要件(検索機能の確保を含む)を満たす形で保存する必要があります。
これらの要件については、適切な電子契約システムを選定・利用すれば満たすことが可能です。
電子契約を導入するために準備すること
法務業務の現状確認
電子契約を導入する際には、まず自社の法務業務を見直すことが重要です。現在取り扱っている契約書の種類や年間の締結数を把握し、電子化が可能な契約書と紙での締結が必要な契約書を区別します。また、契約書の作成から締結、保管に至るまでの現行プロセスを明確にし、それぞれのステップにかかる時間や人的リソースを把握します。さらに、現行プロセスにおける非効率な部分や課題を洗い出し、それらが電子契約によって解決可能かを検討することで、導入の目的や方向性を明確にします。
適切なシステムの選定
次に、自社の業務フローや法的要件に合った電子契約システムを選定する必要があります。まずは必要な機能やセキュリティ要件を整理し、複数のシステムを比較検討します。その際、コスト、機能、使いやすさ、セキュリティ、カスタマイズ性などを基準に検討し、デモや無料トライアルを活用して実際の使用感を確認します。また、IT部門や法務部門、経営層などの関係者と協議しながら選定を進めることが重要です。さらに、導入後のサポート体制も考慮し、長期的に活用できるシステムを選ぶことが成功の鍵となります。
社内規程の整備と管理
電子契約の運用を円滑に進めるためには、社内規程の整備や管理も欠かせません。まず、電子契約の利用範囲や運用ルールを定めた「電子契約利用規程」を策定し、電子署名の利用方法や権限設定についても明確化します。また、既存の文書管理規程を改定し、電子契約書の保管期間や管理方法を追加します。加えて、セキュリティポリシーを見直し、電子契約システムの利用に関する要件やパスワード管理、多要素認証の利用方法を定めます。さらに、新しい業務フローを設計し、承認プロセスや権限設定を明確化した上で、従業員向けの利用マニュアルを作成し、導入時や定期的な研修計画を策定します。最後に、法令遵守の体制を整え、定期的な運用状況の確認や見直しの仕組みを構築することで、運用の安定化と効果的な活用を実現します。
電子契約と紙の契約書の併用
電子契約と紙の契約書を併用する場合、以下の点に注意し、効率的かつ一貫性のある運用を目指しましょう。
併用時の留意事項
- 契約の種類による使い分け:電子契約と紙の契約書を適切に使い分けることが重要です。たとえば、定型的な契約やボリュームが多い契約は電子契約を使用し、機密性が高く重要な契約については紙の契約書を採用するといった区別が有効です。
- 一元管理の導入:電子契約と紙の契約書が混在する場合、契約情報の一元管理が不可欠です。契約管理システムを導入することで、契約内容や保存状況を統一的に把握でき、運用の効率化が図れます。
- 保存期間とセキュリティの統一:電子契約と紙の契約書の保存期間は統一し、法定保存期間を基準に設定します。また、両者に共通したセキュリティポリシーを適用し、アクセス権限や保管場所の管理を徹底することで、安全性を確保します。
<関連記事>契約書の保管期間はいつまで?保管と破棄の方法について詳しく解説
印刷した電子契約書の扱い
- 原本と法的効力:電子契約では電子データが原本とされ、印刷したものは写しとして扱われます。原則として法的効力はありませんが、証拠としての価値が認められる場合があります。
- 印紙税の取り扱いと保管:電子契約書を印刷しても、原則として印紙税は課税されません。電子データが原本であるため、印刷した契約書は保管義務がありません。ただし、参照用やバックアップ目的で保管する場合は、原本との混同を避けるよう注意が必要です。
併用運用の効率化
- 社内規程と教育:電子契約と紙の契約書を使い分けるための社内規程を整備し、従業員向けに運用ルールや管理方法を周知する教育・研修を行います。
- 廃棄と情報管理:印刷した電子契約書を廃棄する際には、機密情報の漏洩を防ぐため適切な処分方法を採用します。また、システム上で印刷物の存在や保管場所を記録・管理することで、情報の混乱を防ぐことが可能です。
これらのポイントを押さえることで、電子契約と紙の契約書を併用しながらも、効率的かつ安全な契約管理が実現できます。
電子契約で収入印紙を不要に
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電子契約と収入印紙についてのFAQ
電子契約と収入印紙の関係性について、基本的な知識を確認しておきましょう。
電子契約では収入印紙が不要?
書面(紙)で締結する契約書の場合、その種類・内容によっては収入印紙の貼付が必要になります。これに対して、書面ではなく電子契約の方式で締結する場合、収入印紙の貼付は不要です。
電子契約に収入印紙の貼付が不要なのは、電子契約の締結・送信が、印紙税法上の課税文書の「作成」に該当しないと解されているためです。
そもそも電子契約とは?
電子契約とは、書面(紙)ではなく電子データで締結する契約をいいます。契約交渉を経て合意した内容をまとめたファイルをシステム上にアップロードし、双方が電子署名を行って締結するのが一般的です。
本記事で解説するように、電子契約には収入印紙の貼付が不要となるメリットがあります。それ以外にも、リモートでスピーディに締結できる、締結した契約の管理がしやすいなど、業務の効率化につながるメリットが数多く存在します。
収入印紙が必要な文書とは?
収入印紙とは、行政に対して手数料や租税を支払ったことを証明するために発行される証票です。印紙税法で定められる課税文書には、収入印紙を貼付する必要があります。
課税文書の種類は、第1号文書から第20号文書までの20種類です。一例として、以下の文書が課税文書に該当します。
<第1号文書>
- 不動産売買契約書
- 土地賃貸借契約書
- 金銭消費貸借契約書
- 運送契約書
<第2号文書>
- 工事請負契約書
- 工事注文請書
<第5号文書>
- 合併契約書
- 吸収分割契約書
- 新設分割契約書
<第7号文書>
- 取引基本契約書
- 業務委託契約書
<第12号文書>
- 信託契約書
<第13号文書>
- 保証契約書
<第14号文書>
- 金銭または有価証券の寄託契約書
<第15号文書>
- 債権譲渡契約書
- 債務引受契約書
<第17号文書>
- 領収書
など印紙税の課税文書の詳細については、以下の記事を併せてご参照ください。
<関連記事>契約書の収入印紙について解説!不要な場合や印紙代の節約法も紹介
電子契約書を印刷したら収入印紙が必要?
印紙税が課税されるのは、原則として課税文書の原本のみです。原本とは別に写しを作成する場合、写しには基本的に印紙税が課税されません。
電子契約の場合、電子署名が付された電子ファイルが原本であり、それを印刷した書面は写しに当たります。したがって、電子契約を印刷したとしても、印刷した書面に印紙税は課されないのが原則です。
ただし、電子契約を印刷した書面に、相手方の署名・押印・原本証明のいずれかが付されている場合には、印紙税の課税対象となる点に注意が必要です(印紙税法基本通達19条2項)。
(同一の内容の文書を2通以上作成した場合)
第19条 契約当事者間において、同一の内容の文書を2通以上作成した場合において、それぞれの文書が課税事項を証明する目的で作成されたものであるときは、それぞれの文書が課税文書に該当する。
2 写、副本、謄本等と表示された文書で次に掲げるものは、課税文書に該当するものとする。
(1) 契約当事者の双方又は一方の署名又は押印があるもの(ただし、文書の所持者のみが署名又は押印しているものを除く。)
(2) 正本等と相違ないこと、又は写し、副本、謄本等であることの契約当事者の証明(正本等との割印を含む。)のあるもの(ただし、文書の所持者のみが証明しているものを除く。)