「運輸・物流業界の2024年問題」、対応はお済みですか?
「運輸・物流業界の2024年問題」とは?
働き方改革関連法による「自動車運転業務従事者の時間外労働の上限規制」(労働基準法36条)の経過措置も終わり、2024年4月1日から同規制の適用が開始されました。
働き方改革は、長時間労働による過労死などの労働問題や将来の労働人口の減少を踏まえ、多様な働き方を推進し、働き手の就業機会を広げることによって、人材の確保・育成・労働生産性の向上、そして多くの働き手が活躍し、能力を発揮できる社会を実現するために始まりました。
運輸・物流業界においても、他業界と比較しても賃金が高くないこと、若手不足と高齢化による労働力不足、EC市場・宅配貨物の拡大による貨物取扱量の増加、長時間労働の常態化など多くの問題があり、これらを解決するため「自動車運転業務従事者の時間外労働の上限規制」や「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以下「改善基準告示」といいます)などが定められました。
もっとも、これにより運輸・物流業界には「運輸・物流業界の2024年問題」と呼ばれる別の問題が生じました。「運輸・物流業界の2024年問題」とは、ドライバーの時間外労働の上限時間を年960時間とする規制等により生じるさまざまな問題を指します。
「運輸・物流業界の2024年問題」が与える影響
具体的には、ドライバーの時間外労働の上限規制の適用により、以下の影響が生じています。
- 売上・利益の減少
ドライバーの時間外労働の労働時間に上限が設けられることで、1人当たりの運送量が減少します。
運送料を値上げすることも考えられますが、荷主としてはより低い運送料の物流事業者に依頼するため、運送料の値上交渉も簡単ではありません。
そのため、運送料の値上げをしなければ、ドライバー1人あたりの売上も減少し、結果として業界全体の売上も落ち込むことが懸念されます。
また、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%から50%に引き上げられたことで、人件費の増加が利益をさらに圧迫することも懸念されます。 - 賃金の減少と人手不足
ドライバーの労働時間減少に伴い、ドライバーの賃金も減少する可能性があります。
長時間労働の常態化や比較的高くない賃金という業界の傾向を踏まえると、賃金の減少により離職率が上昇することが懸念されます。 - 物流の停滞や物流費用の高騰
ドライバー1人あたりの貨物運送量の減少により、物流の停滞が予想されます。
また、前述の売上・利益の減少を補填するため、物流事業者としては運送料を値上げする可能性があります。
これにより、一般消費者への価格転嫁も懸念されます。
対応を怠ってしまった場合
時間外労働時間の上限規制に違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(労働基準法32条、119条1号)。
また、改善基準告示に違反した場合、企業名と違反内容の公表、車両停止や事業停止などの行政処分を受けることがあります。
悪質な場合には、運送業の許可が取り消されるおそれもあります。
このような制裁を受けてしまった場合、信頼性が著しく低下し、事業に深刻な影響が生じる可能性もあります。
そのため、物流事業者としては、法改正に対応した対応と体制の構築が不可欠となります。
関連する法改正の主な概要
働き方改革関連法に伴う労働基準法や改善基準告示の主な改正点について説明します。
時間外労働の上限規制
※1 時間外労働の上限時間は、特別条項付きの36協定を締結した場合の時間を記載しています。36協定の「特別条項」とは、「時間外労働時間の延長に関する特別条項」をいい、臨時的な特別の事情がある場合に、36協定の限度時間を超えて時間外労働をさせることを認める労使協定の条項をいいます。
※2 「自動車運転業務従事者」とは、「労働者」(労働基準法9条)であって、「四輪以上の自動車の運転の業務に主として従事する者(改善基準告示1条1項)をいいます。よって、物流事業者の従業員全てが「自動車運転業務従事者」となるわけではありません。
拘束時間(労働時間+休憩時間)の上限規制(改善基準告示)
年5日の年次有給化取得義務付け
事業者は、法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の全ての労働者に対し、毎年5日、年次有給休暇を確実に取得させる必要があります。
月60時間を超える時間外労働賃金の引上げ
月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が25%から50%に引き上げられました。
労働時間の適正把握の義務付け
事業者は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他適切な方法により、労働者の労働時間の状況を把握することが義務付けられました。
「勤務時間インターバル制度」の導入促進
前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息時間(インターバル時間)を確保することが事業主の努力義務として定められました。
物流事業者がとるべき対応
36協定の締結
法定労働時間を超える時間外労働や法定休日に労働(休日労働)をさせる場合には、事業者と従業員の代表者などとの間で協定を結び、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。
2024年4月1日から自動車運転業務従事者の時間外労働に関して上限規制が適用されましたので、これに対応した36協定の締結と届出が必要となります。
労働時間の適正把握
労働時間の適正把握が義務付けられましたが、これは労働環境の見直しや改善、時間外労働の計算にも不可欠です。
また、改善基準告示を遵守した始業時刻、終業時刻と勤務シフトを策定する必要があります。
運用実態を踏まえ、就業規則等において、点呼時刻・出庫点呼時刻・帰庫点呼時刻等を基準として労働時間を適切に管理する旨を規定する必要があります。
雇用条件や賃金体系の見直し
賃金の減少や離職防止への対策として、労働者の雇用条件や賃金体系の見直しが考えられます。
この場合、就業規則や賃金規程などの改定が必要となりますが、事業者による一方的な不利益変更は原則として認められません。
一部の労働者にとって不利益な変更となる場合は、変更内容を十分に説明した上で、労働者から個別の同意を得るか、労働組合と合意するなど、慎重な手続きが必要です。
また、副業や兼業を解禁するなど、柔軟な働き方を推進することも一案です。
LegalOn Cloudによる支援
運輸・物流業界は、人手不足やデジタル・トランスフォーメーションの遅れなどの課題に直面しており、法改正の対応にかけられるコストやリソースは限られています。
株式会社LegalOn Technologiesが提供するLegalOn Cloudでは、運輸・物流業界に特化したひな形や自動レビューの開発・提供を行い、業界の皆様の法務業務を支援しています。
【運輸・物流業界に特化したひな形(一例)】
- 就業規則_運送業
- 賃金規程_運送業
- 時間外労働及び休日労働に関する労使協定書_運送業
- 1か月及び1年の拘束時間の延長に関する協定書(トラック運転者)など
- 物流委託契約(委託者有利・受託者有利・中立)
- 【下請法対応】物流委託契約(委託者有利・受託者有利・中立)
- 運送配達業務委託契約(委託者有利・受託者有利・中立)
- 倉庫寄託契約(寄託者有利・受寄者有利・中立)
- 倉庫賃貸借契約(賃貸人有利・賃借人有利)
- バス運行業務委託契約
- 運輸・物流業界の各種約款
※ 一部英文あり
※ その他一般的な契約書や社内規程など業界最多の1,700点以上を提供(2024年8月時点、当社調べ)
※ 運輸・物流業界に特化したものを含め、今後も随時追加予定
LegalOn Cloudは、法務のための次世代AIテクノロジープラットフォームです。前述の自動レビューやひな形の提供に加え、マターマネジメント、コントラクトマネジメントなどの機能も提供しています。
弊社は、弁護士の法務知見と最新のテクノロジーを組み合わせたソフトウェアの開発・提供を通じ、運輸・物流業界における皆様の法務の未来を広げ、物流事業者の更なる飛躍をサポートして参ります。
LegalOn Cloudに関するより詳しい情報は、以下の製品資料でご確認いただけます。
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参考文献
「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」(厚生労働省)
「NEXT WORK STYLE 働き方改革広がる」(厚生労働省)
「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」(厚生労働省)
「適用猶予業種の時間外労働の上限規制 特設サイト はたらきかたススメ」(厚生労働省)