M&Aとは
M&Aとは、「Mergers and Acquisitions(合併と買収)」の略で、企業が他の企業と一体化することを指します。具体的には、「合併(Mergers)」とは複数の会社が1つの会社になることを意味し、「買収(Acquisitions)」は一方の会社が他方の会社の株式や資産を取得して経営権を得ることです。
M&Aは企業成長の戦略として広く活用されており、新たな市場への進出、技術やノウハウの獲得、スケールメリットの追求、競合排除など様々な目的があります。たとえば、大手企業がスタートアップを買収して革新的な技術を手に入れるケースや、地方の企業同士が合併して地域のシェアを高めるケースなどがあります。
一方で、M&Aはリスクも伴います。企業文化の違いや人材の流出、システム統合の失敗などが、経営に悪影響を与えることもあります。そのため、M&Aを成功させるには、事前の綿密なデューデリジェンス(調査)や、買収後の統合計画が極めて重要です。
近年では、日本国内でも後継者不足や市場縮小を背景に、M&Aが中小企業の事業承継手段としても注目されています。
経営権を得る手段としてはほかに「バイアウト」があります。バイアウトについてはこちらの記事をさんしょうしてください。
M&Aの目的と期待される効果
M&Aは、売り手(譲渡)・買い手(譲受)側双方に目的・メリットがあります。主に以下の項目を挙げることができます。
売り手側の目的
事業承継(後継者問題の解決)
昨今、中小企業では、経営者の高齢化と後継者不在が深刻です。M&Aによって第三者に事業を引き継ぐことで、従業員の雇用や事業を継続できます。
キャッシュ化(創業者利益の確保)
創業者や株主が保有する株式を売却することで、長年の経営努力の成果を資金として得ることができます。
<関連記事>
M&Aでのイグジットとは?基礎・実践・成功のポイントを完全ガイド
赤字事業・不採算部門の整理
経営資源を集中するために、収益性の低い部門や子会社を他社に売却することで、企業全体の健全化を図る場合があります。
資本提携・企業グループ入り
単独では困難な成長戦略や資金調達を、買い手企業との提携を通じて実現することができます(シナジー効果)。
買い手側の目的
事業拡大・市場シェアの獲得
同業他社や異業種の企業を買収することで、新市場への進出やシェア拡大が迅速に行えます。
新技術・ノウハウの獲得
自社にない技術や人材、ブランド力などを手に入れることができ、競争力の向上につながります。
サプライチェーンの強化
原材料供給企業や販売先企業を買収することで、供給網を強化し、コスト削減や品質管理の向上が可能になります。
スピード経営と時間短縮
ゼロから新規事業を立ち上げるよりも、既存企業を買収することで、時間と労力を節約できます。
M&Aのリスク・デメリット
M&Aは「成功すれば大きな成長や利益が見込める」一方で、失敗すれば経営に深刻なダメージを与える可能性もあります。買い手・売り手の双方が戦略的な判断とリスク管理、円滑なコミュニケーションを行うことが極めて重要です。M&Aのリスク・デメリットは以下のようなものが挙げられます。
買い手側のデメリット
シナジーが得られないリスク
期待していた相乗効果(シナジー)が得られない、たとえばコスト削減や売上拡大などが実現しない場合、投資に対するリターンが得られません。
企業文化の不一致・人材流出
買収先との文化・価値観の違いから、従業員の反発や離職、業務の混乱が起こることがあります。これにより生産性が低下するリスクも。
買収コスト・負債負担の増加
M&Aには多額の資金が必要です。過大な買収額や借入によって財務体質が悪化する可能性があります。
統合作業(PMI)の難航
買収後の統合(Post Merger Integration)が計画通りに進まないと、事業運営や組織体制が不安定になります。
売り手側のデメリット
経営権・独立性の喪失
会社や事業を売却することで、オーナーや経営陣は意思決定権を失います。従来の方針が変更されることもあります。
従業員の処遇不安・離職
M&Aによって待遇変更やリストラを懸念し、従業員の士気が下がったり、優秀な人材が流出することがあります。
ブランド・企業文化の喪失
長年築いてきた企業の文化やブランドが、買収先の戦略に合わせて変わってしまうことがあります。
情報漏洩・交渉決裂のリスク
M&A交渉段階で財務や事業内容など機密情報を相手に開示する必要があり、交渉が決裂した場合には情報漏洩リスクが残ります。
M&Aプロセスの全体像
M&Aは、企業の成長戦略として非常に有効ですが、一方で文化の違いや組織の整合性の問題、人材の流出などの課題も存在します。そのため、成功するためには、事前の綿密な計画と戦略が不可欠です。
ここでは、M&Aの一般的な流れと主要なステップを解説します。
戦略立案・M&A方針の決定
M&Aを成功させるには、まず企業としての戦略と目的を明確にする必要があります。たとえば「新規市場への参入」「技術力の獲得」「人材の確保」など、買収によって何を得たいのかを定義します。
その上で、ターゲット企業の条件(業種、地域、売上規模、収益性、シナジーの可能性など)を具体化し、社内にM&A推進チームを設けることが一般的です。また、必要に応じて外部アドバイザー(フィナンシャルアドバイザー(FA)、弁護士、会計士等)も選定します。
この段階での準備が不十分だと、後続プロセスで意思決定がぶれ、交渉が難航する原因になります。M&Aは一時的な取引ではなく、長期的な経営戦略の一部であるため、経営層が主導して進めることが重要です。
対象企業の選定とアプローチ
明確な方針が固まったら、実際に買収候補となる企業を探し、アプローチを開始します。対象の選定は、業界知識やネットワークを持つM&A仲介会社、FA、銀行などを通じて行うのが一般的です。
初期的な段階では、複数の候補企業をリストアップ(ロングリスト)し、簡易的な情報開示を受けてから、有望な数社に絞り込みます(ショートリスト)。この時点で秘密保持契約(NDA)を締結し、企業情報が外部に漏れないよう配慮します。実際のアプローチでは、買い手のM&A意図を丁寧に説明し、売り手側にとっても魅力的な提案であることを伝える必要があります。良好な関係構築が、その後の交渉や統合を円滑に進める鍵となります。
初期評価・意向表明(LOI)
ショートリストから有望な企業に対して、財務諸表や事業計画などの初期的な情報を基に企業価値評価(バリュエーション)を行います。評価方法にはDCF法(将来のキャッシュフローから算出)、類似会社比較法、類似取引比較法などがあります。
その後、一定の買収条件や価格レンジを記した「意向表明書(LOI)」を売り手に提示します。この段階では法的拘束力は弱いものの、双方の前向きな意思確認として重要な意味を持ちます。複数の買い手候補がいる場合は、入札(ビッド)形式で条件を比較されることもあります。LOIには、今後のデューデリジェンスの進め方やスケジュールも記載され、M&Aプロセスの本格的な開始を告げるステップです。
デューデリジェンス(Due Diligence)
デューデリジェンス(DD)は、買収対象企業の詳細な調査であり、M&A成功の成否を左右する最重要フェーズです。法務・財務・税務・人事・ビジネス・ITなどの専門家が分担して調査を行い、過去の問題やリスク、将来の不確実性を洗い出します。M&Aプロセスの中で最も重要なステップの一つです。この段階で、対象企業の財務状況や法的リスク、事業の健全性を詳細に調査することにより、買収のリスクを最小限に抑えることができます。
デューデリジェンスの結果は、買収価格の調整や契約条件の見直しに直結するため、専門家の協力を得て慎重に進めることが求められます。また、法務的な観点からも、潜在的な訴訟リスクやコンプライアンスの問題を洗い出し、適切な対策を講じることが重要です。
例えば、未払い税金や係争中の訴訟、重大な契約違反、知的財産の帰属問題などがここで発見される可能性があります。DDの結果を受けて、価格の修正や契約条件の見直しが発生することも少なくありません。また、統合後の運営に向けたPMI計画を同時に検討するためにも、DD結果を踏まえた準備が重要です。信頼できる外部専門家の選定と、情報開示を受ける売り手側の協力が成功のカギを握ります。
<関連記事>
法務デューデリジェンス(法務DD)の目的、実務対応の流れ、チェックポイントを紹介!
財務DDとは?M&Aを適切に行うための分析やポイントをわかりやすく解説!
最終契約(最終譲渡契約の締結)
デューデリジェンスを終え、最終条件がまとまったら、売買契約を締結します。ここでは、買収価格、支払方法、クロージング条件、表明保証(売り手が事実を保証する条項)、損害賠償条項などが詳細に記載されます。表明保証では、財務情報が正確であることや、隠れた債務がないことなどを売り手が保証します。
契約内容には、特定の条件が整った場合にのみ契約を実行する「クロージング条件」も含まれることがあり、例えば規制当局の承認取得や債務返済の完了などが該当します。契約書の作成は、法務アドバイザーの専門知識が不可欠であり、慎重な交渉が行われます。
クロージング(取引の実行)
クロージングは、実際にM&A取引が完了するフェーズです。契約に基づき、株式の譲渡や対価の支払いが行われ、法的に企業の所有権が移転します。このタイミングで、登記や公的機関への届出、株主名簿の変更などの手続きも必要になります。
取引のスムーズな実行のために、事前にクロージングチェックリストを作成しておくことが一般的です。また、売り手企業に残る従業員や顧客に対して、オーナー交代に関する説明や対応も行います。クロージングをもってM&Aは形式上完了しますが、実際の価値創出はこれ以降の統合プロセス(PMI)に大きく依存します。そのため、この段階で次フェーズに向けた準備が整っていることが理想です。
<関連記事>
株式譲渡契約書に記載すべき事項・締結時の注意点|ひな形も紹介
PMI(Post Merger Integration:統合プロセス)
PMIは、買収後に行う統合プロセスで、M&Aの成果を実現するために極めて重要です。ここでは、組織体制の再構築、人事制度の調整、業務プロセスやITシステムの統合などが進められます。PMIがうまく進まないと、従業員のモチベーション低下、離職、業務の混乱といったリスクが生じ、M&Aによるシナジー効果を得ることが難しくなります。
そのため、買収前からPMIを見越した計画を立て、専門チームを設けてリードすることが重要です。また、企業文化の違いに配慮した丁寧なコミュニケーションも欠かせません。成功するPMIは、単なる統合作業ではなく、新しい組織の価値創造に向けた戦略的な取り組みです。
M&Aにおける法務の役割
M&Aにおける法務の役割は、取引の適法性とリスクの検証・管理、契約の整備、スムーズな統合(PMI)を実現するための法的支援など、多岐にわたります。M&Aの成否を左右する重要な機能として、以下のような役割を担います。
デューデリジェンス(法務DD)
M&Aにおける法務の最も中核的な役割が、法務デューデリジェンスです。買収対象企業の以下のようなリスクや問題点を事前に調査・分析します。
- 各種契約の内容(取引先との契約、雇用契約、ライセンス契約など)
- 訴訟や紛争の有無
- 規制対応・許認可の状況
- 知的財産権の保有・管理状況
- コンプライアンス体制(贈収賄、個人情報保護等)
問題が発見された場合は、契約条件の見直しや買収価格の修正に反映されることもあり、事業リスクを最小限に抑えるための重要な作業です。
契約書作成・レビュー(SPAやNDA等)
法務部門は、M&Aに関連する多くの契約書を作成・レビューします。主な契約には以下があります:
- 秘密保持契約(NDA):情報漏洩を防ぐため、交渉開始時に締結
- 意向表明書(LOI):基本的な買収条件の合意
- 株式譲渡契約(SPA):買収条件、表明保証、解除条件などを規定
- 表明保証契約、補償契約:情報の正確性やリスク責任の明確化
契約書には多くの専門的な法的表現が含まれるため、リスクの把握と交渉の根拠となる法務知見が不可欠です。
規制対応・許認可の確認
一部のM&A取引では、公正取引委員会による企業結合審査(独禁法対応)や、金融・医療・通信などの業法による許認可が必要となる場合があります。法務部門はこれらの規制に抵触しないかを確認し、必要な手続きを管理します。
また、海外企業とのM&Aでは、外国投資規制やクロスボーダーの契約問題にも対応する必要があり、国際法務の知識が求められます。
PMI(統合プロセス)における支援
M&A成立後のPMIにおいても、法務部門は以下の支援を行います:
- 契約書・取引先との関係整理
- 社内規定やコンプライアンス体制の統一
- 新会社設立や組織変更の法的手続き
- 従業員の雇用条件変更対応(労働法)
特に、会社文化や制度の統合に際してトラブルが起きやすい領域では、法的リスクを未然に防ぐ重要な役割を担います。
M&A後の統合プロセスとPMIの重要性
M&A後の統合プロセスは、PMI(Post Merger Integration)と呼ばれ、M&Aの成功を左右する非常に重要なフェーズです。PMIとは、買収した企業と買収企業の経営資源、事業、組織文化などを統合し、シナジー効果を最大化するための活動全体を指します。PMIが適切に行われないと、期待した成果が得られず、M&Aが失敗に終わる可能性もあります。
統合プロセスの計画と実行
PMIは複雑かつ多岐にわたるプロセスであり、綿密な計画と実行が必要です。主なステップは以下の通りです。
- 事前準備と計画策定PMIはM&Aの成立前から準備を始めることが理想的です。具体的には、統合の目的や目標を明確にし、どのようにシナジー効果を最大化するか、具体的な計画を策定します。
- 組織体制の整備統合後の経営体制や業務プロセスを再構築します。これは、経営方針や業務ルールの統一、ITシステムの統合、人事制度の調整などを含みます。
- 100日プランの実行PMIの初期段階では、迅速に成果を出すための100日プランを策定し、実行します。100日プランとは、M&A成約後100日間における具体的なアクションプランをまとめたもので、最優先事項への対応、短期的な目標達成、従業員へのメッセージ発信などが含まれます。 これにより、統合の進捗を早期に確認し、必要な調整を行うことができます。
- 従業員のコミュニケーションとエンゲージメント向上統合プロセスにおける従業員の不安や抵抗感を軽減し、円滑な統合を実現するためには、積極的なコミュニケーションとエンゲージメント活動が不可欠です。
- 文化の統合企業文化の統合は、PMIの中でも特に難しい課題です。時間をかけて相互理解を深め、新しい企業文化を創造していく必要があります。
- モニタリングと評価PMIの進捗状況を定期的にモニタリングし、目標達成度を評価します。必要に応じて計画を修正し、統合プロセスを最適化します。
PMIにおいては、事前の綿密な計画と状況に応じた柔軟な対応、そして特に最初の100日間における迅速なアクションにより、M&Aのシナジー効果を最大化し、企業価値向上を実現することができます。
組織文化の統合と従業員のモチベーション維持
M&Aの統合プロセスでは、組織文化の統合と従業員のモチベーション維持が重要な課題となります。
- 文化の融合異なる企業文化を持つ組織が統合される際には、文化の違いを理解し、共通の価値観を醸成することが求められます。これにより、従業員が新しい組織に適応しやすくなります。
- コミュニケーションの強化統合プロセスの中で、従業員とのコミュニケーションを強化し、彼らの不安を解消することが重要です。経営陣は、統合の目的や進捗状況を透明性を持って伝えることで、従業員の信頼を獲得します。
- モチベーションの維持統合後の新しい組織での役割やキャリアパスを明確にし、従業員のモチベーションを維持します。これには、適切な評価制度やインセンティブの導入が効果的です。
PMIを成功させるためには、計画的なアプローチと柔軟な対応が求められます。統合プロセスを通じて、企業はM&Aによるシナジー効果を最大化し、持続的な成長を実現することが可能です。
M&Aの成功には法務体制構築が重要
M&Aは企業の成長を加速させる有効な戦略ですが、成功には綿密な計画と実行が不可欠です。デューデリジェンスによるリスク把握、明確な戦略策定、そしてPMI(買収後の統合プロセス)を通じたシナジー効果の最大化が成功の鍵となります。組織文化の統合や従業員のモチベーション維持といったソフト面にも配慮が必要です。M&Aはリスクを伴いますが、適切な戦略と実行により、企業は持続的な成長と競争力強化を実現できます。
さらに、M&Aにおいては法務の役割が不可欠です。
M&Aのような企業の将来を左右するような重要な経営戦略を成功に導くには、DXを伴う抜本的な法務体制の整備が必要です。LegalOn Cloudは、AIテクノロジーを駆使し、法務業務を広範囲かつ総合的に支援する次世代のリーガルテックプラットフォームです。あらゆる法務業務をAIがカバーできるだけでなく、自社に必要な法務機能のみを選んで導入することも可能です。さらなる企業成長を企図する法務担当者の方には、ぜひ導入を検討いただければと思います。