顧問弁護士とは
顧問弁護士とは、企業との間で顧問契約を結び、ビジネスにおける法的トラブルの防止・解決を支援する弁護士を指します。
企業にとってどのような役割を持つ存在なのか、どれほど重要なのか確認していきましょう。
顧問弁護士の概要
顧問弁護士は、企業に対して法的アドバイスやサポートを継続的に提供する存在です。基本的には、次にあげるような業務をメインに、日常的に法的支援を行います。
- 法的トラブルの予防や解決に関する相談対応
- 会社経営に関する法律問題への相談対応
- リーガルチェック など
顧問弁護士と近い存在として企業内弁護士(インハウス・ローヤー)もあります。どちらも企業を法律的側面から支援する存在ですが、両者には組織の内部に属するか・外部に属するかという違いがあります。
顧問弁護士と企業内弁護士の違い
顧問弁護士
- 主な業務内容と特徴
- ・ 企業法務を支援
- ・ 顧問契約の範囲内で対応
- ・ 客観的な立場からアドバイスを提供
- ・ 契約書作成やトラブル対応が多い
- 所属
- ・ 外部の法律事務所
企業内弁護士
- 主な業務内容と特徴
- ・ 企業法務を担当
- ・ 企業の日常業務に密接に関与
- ・ 法的トラブルの解決案策定〜解決まで支援
- ・ 企業の内部事情を深く理解している
- 所属
- ・ 社内の法務部
上記の表の通り、あくまでも企業の外部からサポートするのが顧問弁護士です。企業内弁護士のように会社に雇用され、社内で法的サポートを提供するわけではありません。
顧問弁護士の役割
顧問弁護士には、大きく分けて3つの役割があります。
- 企業の法的リスクの予見と回避
- トラブル発生時の対応
- 経営判断のサポート
具体的な業務内容としては、次の通りです。
組織管理・人的リスク対策
就業規則や雇用契約書の作成・確認、労使間における紛争予防策の策定などを通じ、労使間トラブルの予防や発生時の解決支援を行います。
財務・契約法務
未回収債権の法的回収支援や、万が一訴訟へと発展した際のサポートまで行います。
法的書類の確認・作成支援
契約書の作成支援やリーガルチェックを行い、不利な条件での契約を未然に防ぎます。
クレーム対応
悪質なクレームに対して法的対応を行うほか、クレーム対応方針の構築を行います。
知的財産保護
商標登録や特許権取得に関する業務をサポートするほか、万が一販売差止請求を受けた場合の法的サポートを提供します。
コンプライアンス体制の構築
内部通報窓口として機能するほか、コンプライアンスに関するマニュアル作成、研修実施などを通じてコンプライアンス体制を構築します。
新規制度の導入支援
新たな雇用制度・勤務制度などを導入する際には、労働関係の法令を遵守した法的フレームワークを設計します。
新規事業の適法性調査
新規事業が法的に問題ないか検証するほか、リスクを早期に洗い出して対策を取ることで、事業成功を支援します。
>企業にとっての顧問弁護士の重要性
法的リスクの抑止、ならびに経営強化に貢献する顧問弁護士は、企業にとって重要なパートナーです。
ビジネスに関連する法律は多岐にわたり、非常に複雑であることから、法律のプロによる継続的サポートは欠かせません。顧問弁護士がいることによって、リーガルチェックや労使間トラブルの予防などの平時の支援から、トラブル発生時の法的対応までをまとめて依頼でき、将来的な企業の損失をできる限り軽減できます。
法的リスクへの対応を顧問弁護士に任せることで、経営者は事業成長へのアプローチに集中でき、会社の発展へとつなげられるでしょう。
そのため、大企業や中小企業といった企業規模に関係なく、継続的に会社を発展させるためには、顧問弁護士が重要な存在といえます。
顧問弁護士のメリット
企業が顧問弁護士と契約することによってどのようなメリットがあるのか、次にあげる4つのポイントに沿って解説します。
- 法的トラブルへの迅速な対応
- 予防法務の実現と法改正情報の提供
- 信頼性とブランド力の向上
- コスト削減と顧問料の経費計上
法的トラブルへの迅速な対応
法的トラブルが発生するリスクは、事業を展開する上で至るところに潜んでいます。労使間の問題や顧客からのクレームなどをきっかけとして、突発的にトラブルが起こる場合も少なくありません。
法的トラブルが発生した際には、即座に適切な対応をとるのが重要なポイントです。しかし、法的側面での知識が不足している場合、早急に意思決定を下すのは簡単ではないでしょう。
トラブル時も顧問弁護士がいることで、適切なアドバイスと解決策を得られるため、早々とトラブルを収束できます。顧問契約を結んでいることで、弁護士が自社の実情や置かれている状況を事前に把握しており、急なトラブル対応であっても相談できるのが魅力です。
予防法務の実現と法改正情報の提供
企業がビジネスを展開する上で大前提となるのが法令遵守です。万が一違法行為が見られるような場合には、顧客や取引先からの信頼を失うだけでなく、損害賠償や刑事罰といった結果につながりかねません。
しかし顧問弁護士がいることによって、契約書のリーガルチェックや労使間問題の事前対応なども任せることができ、トラブルの発生を未然に防止できます。
法改正があった際にも早急に共有し、対応が必要な場合には即座に処理することで、法的リスクをできる限り抑えられるでしょう。
信頼性とブランド力の向上
ビジネスを展開する上で、信用の有無は成果を左右する重要なポイントです。顧問弁護士と契約していれば、自社のコーポレートサイトや会社案内などに顧問弁護士名を記載でき、法務体制が整えられている点をアピールできます。
顧問弁護士と契約していること、法務体制が充実していることを明らかにできれば、会社としての信用度やブランド力が上がり、既存顧客との関係構築や新規顧客の開拓にも効果的です。
コスト削減と顧問料の経費計上
企業の状況にもよりますが、社内に法務部門を設置するよりも、顧問料を支払って外部に法務を委任するほうがコストを抑えられる場合があります。
法務部門を設置する場合、毎月の人件費に多くのコストがかかってしまいますが、顧問弁護士であれば基本的には月額顧問料以外発生しません。特に契約締結をはじめとする法務案件がそれほど多くない企業の場合、コストを抑えながらも、法務部門同様の業務について相談できるため、費用対効果に優れています。
また、顧問弁護士に支払う顧問料は経費として計上できるので、節税対策にも効果的です。
顧問弁護士のデメリット
顧問弁護士がいることによりさまざまなメリットがある一方で、注意しておきたい点もゼロではありません。ここからは、顧問弁護士と契約する際の注意点・デメリットとして次の3点を紹介します。
- 費用がかかる
- 案件によっては顧問弁護士が対応できない場合がある
- 顧問弁護士選びが難しく時間がかかる
費用がかかる
顧問弁護士と契約した場合、月額顧問料が発生します。企業規模や法務相談の頻度によって顧問料に差はありますが、中小企業の場合は月額3〜5万円ほどが相場です。
最低でも毎月数万円のランニングコストがかかるうえ、相談の件数や依頼内容によっては別途タイムチャージがかかる場合があります。特に法務案件が多い企業にとっては、そうしたコストが負担に感じる場合もあるでしょう。
案件によっては弁護士が対応できない場合がある
顧問弁護士は、利益相反に該当する依頼には対応できないことが法律で定められています(弁護士法25条)。利益相反に該当する恐れがあるケースの例としては、以下があげられます。
- 損害賠償請求訴訟の提起について相談を受けたが、その被告が現在の顧問先だった
- 顧問先企業の社員が逮捕され、該当社員の刑事裁判で弁護する
- 顧問先企業の役員と株主が対立している中、株主代表訴訟の役員側代理人を務める
上記の場合、弁護士は中立的立場に立てず、弁護人・代理人として適切に務められないと考えられます。もしもこういった利益相反の案件を引き受けた場合、弁護士法違反となる恐れがあるため、顧問弁護士から依頼を断られる場合があります。
顧問弁護士であっても、法的サポートが制限されるケースもあると理解しておきましょう。
顧問弁護士選びが難しく時間がかかる
自社に合った顧問弁護士を見つけるには、多くの時間がかかります。企業法務を任せるからには、コミュニケーション力、実績、得意分野など、さまざまな点を比較してから選定する必要があるからです。そのため、契約したい弁護士がなかなか見つからないこともめずらしくありません。
しかし、なるべく早く見つけたいからといって、次のような探し方をするのは、自社の法務ニーズと合わず失敗するリスクが高いため、避けるべきでしょう。
- コミュニケーションを取らず、WebサイトやSNSでの印象で決めてしまう
- 法律事務所のサービス内容を把握しないまま、顧問料の安さだけで選んでしまう
- 「知り合いの弁護士だから」といって、どのような弁護士か把握しないまま契約してしまう
顧問弁護士の探し方と選び方
弁護士と顧問契約を結ぶ際には、自社に合った弁護士を適切に選定することが重要です。ここでは、顧問弁護士の探し方と選び方について解説します。
顧問弁護士の探し方|ネット検索や知人からの紹介など
顧問弁護士を探す方法には、主に次の3つがあげられます。
- インターネットで検索する
- 知人から弁護士を紹介してもらう
- 弁護士会に相談する
インターネットで検索する場合、弁護士情報のまとまったポータルサイトや、各法律事務所のWebサイトなどを確認し、自社に合った弁護士を探しましょう。
人柄や実際の能力などが気になる場合、知人から弁護士を紹介してもらうのもおすすめです。
また、任意で探すのはなかなか難しいとお悩みの場合、弁護士会に相談してみるのも有効です。
顧問弁護士の選び方|企業規模や業種に合った弁護士を選定
実際に契約する弁護士を選ぶ際には、次の点を確認することをおすすめします。
- 自社の企業規模に合っているか
- 自社の業種やニーズに合っているか
- コミュニケーションが取りやすいか
- 企業法務の実績が豊富か
とくに自社の業種について豊富な知識・経験があるかは重要なポイントです。これまでの実績や得意分野を確認し、事業に関する理解度が高いと判断できる弁護士を選びましょう。
「顧問料が安いから」「知り合いの弁護士だから」などの理由で、上記の4点を確認せずに契約するのは避けてください。
顧問弁護士を利用しない場合の対応方法
特に中小企業の場合、弁護士と顧問契約を締結していない企業も少なくないようです。その場合、税理士、社会保険労務士など取引のある士業の人に相談するケースがあるようです。確かに税理士も社会保険労務士も、業務領域の法律には詳しい場合がありますが、どちらも法律の専門家ではないため、あくまでイレギュラーな対応であることには注意が必要です。
また、近年では生成AIの発達により、簡単な法律相談に応じてくれるチャットボットも登場しています。多くは個人による相談を想定しているツールですが、法務に関する相談に回答できるものも中にはあるようです。チャットボットは無料なものもあり非常に手軽ですが、一般的なアドバイスにとどまり、個別の案件には回答できないこと、回答内容が正しいとは限らないことには注意が必要です。参考程度の情報にすぎないため、顧問弁護士の代わりにはならないと考えたほうが無難でしょう。
上記を踏まえると、基本的には弁護士に頼るのが適切です。一方で、顧問弁護士以外にも弁護士に相談する方法はあります。具体的には以下のような手段があげられます。
- 全国の弁護士会が提供する相談窓口に相談する
- スポットで相談できる弁護士に依頼する
- 弁護士保険の活用
全国の弁護士会が提供する相談窓口に相談する
日本弁護士連合会および全国の弁護士会が、中小企業向けに電話で法律相談できる窓口を提供しています(オンラインでの相談を受け付けている場合も)。サービスの詳細は地域により異なる場合がありますが、基本的には初回30分は無料です。
例えば東京弁護士会の場合、初回の聴き取りと論点の整理、適切な弁護士の紹介までは無料、その後の具体的な法律相談も初回30分までは無料となっています(その後は30分5,500円(税込))。
相談する弁護士のあてがない中小企業にとっては心強い相談先となるでしょう。
参考:中小企業のための「ひまわりほっとダイヤル」(日本弁護士連合会)
中小企業法律支援センター(東京弁護士会)
スポットで相談できる弁護士に依頼する
顧問契約を交わしていない場合でも、法律事務所には相談可能です。しかし、顧問弁護士への相談ではなくスポット的依頼になるため、次の点に注意する必要があります。
- 相談したい場合は予約が必要
- メールや電話で相談できるのは少数派
- トラブル時でもすぐに依頼できるわけではない
顧問契約を結んでいない法律事務所に相談する場合、予約はほぼ必須です。また、顧問弁護士に対してであればメールや電話でも相談できますが、未契約の場合は難しいことが多いです。トラブルが発生した際も、スポットでの法律相談は背景の聴取などに時間がかかるため、顧問弁護士のようにすぐに対応してもらえるとは限らないため注意しましょう。
弁護士保険の活用
コストを抑えつつ弁護士に法律相談ができる選択肢の一つとして、弁護士保険があります。弁護士保険とは、毎月保険料を支払うことで弁護士費用が補償される保険サービスです。個人向けと事業向けがあり、事業向けの場合は毎月1〜5万円弱ほどの保険料で、法的トラブルが生じた際の弁護士費用が補償されます。
事業型の弁護士保険の場合、具体的には次のようなトラブルに対応可能です。
- 商品代金請求
- 取引先との示談交渉
- 知的所有権の侵害
- 悪質クレーム
- 労使トラブル など
上記のようなトラブルへの対応を弁護士に依頼した場合、法律相談料や委任費用が補償されます。弁護士保険によっては、着手金が基準額(約款所定の方式で算出された基準額)100%で填補されるため、弁護士費用を大きく抑えられるのがメリットです。
報酬金の填補割合はプランによって異なり、50%填補される場合がある一方で、月額料金の高いプランであれば100%填補されることもあります。
例えば、悪質クレームへの対応を弁護士へと依頼し、着手金が10万円、報酬金が20万円であった場合、補償金として着手金・報酬金それぞれ10万円分が填補されます。
弁護士保険の魅力は、電話やメールによる弁護士への無料相談サービスが付帯することも魅力です。このサービスを活用することで、ちょっとした法務相談であれば無料で行えます。契約書や内容証明に関する違法性チェックも依頼可能です。
まとめ
顧問弁護士は、法的サポートを平時から提供し、トラブルが生じた際にも迅速に対応します。継続的に企業を発展させていくためには、顧問弁護士の包括的なサポートが欠かせません。
従業員数や顧客数、取引先数が増加するなど、法的トラブルのリスクが増えている場合、顧問弁護士の契約を検討してみましょう。
顧問弁護士に相談する以外に、リーガルテックが提供するAIサービスを活用することも、法務体制の強化には有効です。LegalOn Cloudは、AIテクノロジーを駆使し、法務業務を広範囲かつ総合的に支援する次世代のリーガルテックプラットフォームです。あらゆる法務業務をAIがカバーできるほか、サービスを選んで導入できるため、初めてリーガルテックの導入を検討する方にもおすすめです。
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