契約書チェックとは
契約書チェックとは、端的に言えば、契約書の内容を精査し、必要な条項や不要な条項の有無、 当事者の有利不利などを確認し、修正する作業のことです。 主に、法律事務所の弁護士や企業の法務の方が行います。
具体的には、契約書の内容について、契約の目的に合致しているかどうか、 法的な問題が含まれていないかどうか (違法な条項・無効な条項・不明確な条項などが含まれていないかどうか)、 自社に不利益な条項が含まれていないどうかなどを確認・修正します。
契約において必要な条項、自社に利益となる条項が抜け落ちていないかどうかも確認する必要があります。
また、「契約書チェック」は、「リーガルチェック」や「契約書レビュー」などと呼ばれることもあります。
契約書チェックを行う場面としては、自社が作ったドラフト(当方ドラフト)を再確認する場合や、 契約の相手方が作ったドラフト(先方ドラフト)を確認して修正する場合、 相手方がチェックした当方ドラフト(先方修正案)を再確認する場合などがあります。
- 自社のドラフトを再チェック
- 相手方のドラフトをチェック
- 相手方が修正した自社ドラフトを再チェック
契約書チェックですること
契約書チェックを行うにあたっては、様々な点に注意が必要です。 具体的に、どのような点に注意すべきなのか、確認していきましょう。
企業の法務部門において、契約書チェックは、主に、次のようなプロセスで行われます。
(事業部門から契約書チェックの依頼が来る)
①契約の目的・背景を把握
②リスクや問題点を洗い出す
③リスクや問題点を修正
④事業部門に回答や提案をする
以下、一つ一つの内容について、ご紹介していきます。
① 契約の目的・背景を把握
まず、どのような契約であっても、締結する目的・背景があります。 その目的や背景を把握しておかないと、有効な契約書チェックはできません。
そして、この契約の目的・背景が正確に契約書の内容に反映されているかを 確認する必要があります。
例えば、秘密保持契約(Non-Disclosure Agreement)は文字通り秘密の保持を目的とする契約 ですが、契約の目的・背景によって、いかなる秘密を、誰が、どの程度、どの期間、どこで、 どのようにして、なぜ保持するのかが変わってきます。
このように、契約の目的・背景に沿って、5W1H(What, Who, When, Where, Why, How)をはじめとする契約内容を把握することで、 契約の目的・背景が契約書に正確に反映されているかどうかを確認することができます。
② リスクや問題点を洗い出す
次に、契約書に含まれるリスクや問題点を洗い出します。
「リスク」とは、ここでは主に、 自社にとって不利な内容の条項が含まれている場合や、 自社にとって有利な内容の条項が含まれていない場合などを指します。
「問題点」とは、ここでは主に、違法・無効な条項が含まれている場合や、契約目的の達成に必要な条項が含まれていない場合などを指します。
契約書のリスクや問題点を洗い出すためには、契約書の全文を熟読する必要があるのはもちろんのこと、関連する法律や判例などをリサーチする必要もあるため、このステップが最も時間のかかる作業と言えます。
例えば、借地借家法28条の規定は、同法30条により、強行規定とされています。
そのため、たとえ建物賃貸借契約において、「建物の賃貸人は、正当の事由がなくても解約の申入れをすることができる」という特約を設けたとしても、この特約は無効となります。
このように、契約書チェックを行うにあたっては、関連する法律や判例をリサーチして、 各条項が違法・無効でないかについても確認する必要があります。
③ リスクや問題点を修正
リスクや問題点を洗い出す作業が完了したら、次はそのリスクや問題点を修正する作業に移ります。
リスクなどが見つかったとしても、それをどの程度修正するのかは、ケースバイケースで、また人によっても判断が分かれます。
また、契約書チェックをするには、専門的な法務知識や豊富な実務経験を要するところ、 人によって知識・経験の程度も異なります。そのため、リスクなどを修正するステップが、 最も人によって判断が分かれやすい作業といえます。
例えば、相手方(乙)から送られてきた先方ドラフトに、次のような条項があったとします。
自社(甲)の立場で契約書チェックを行うと、損害及び損害額の範囲が限定されているため、 相手方(乙)の契約違反によって自社(甲)に損害が生じたとしても、自社(甲)の相手方(乙) に対する損害賠償請求では損害を補填しきれないリスクがあることがわかります。
すなわち、自社(甲)が損害賠償請求することのできる損害が「甲が被った直接かつ通常の損害」 に限られており、さらに、「損害発生時において相手方から既に受領している金額の範囲内」 でしか損害賠償請求できません。
これは、自社(甲)にとって不利な内容です。そこで、1項の修正を試みると、次のような修正案が考えられます。
1つ目の修正案は、損害賠償の範囲を「通常損害及び特別損害(逸失利益、弁護士費用その他の 訴訟関連費用を含む。)」と定めて広くするとともに、「損害発生時において相手方から既に 受領している金額の範囲内」という限定を除くことで、甲にとって有利な内容にしています。
2つ目の修正案は、損害賠償の範囲を「通常損害及び特別損害(逸失利益、弁護士費用その他の 訴訟関連費用を含む。)」と定めて広くする点で1つ目の修正案と共通しますが、 「損害発生時において甲から既に受領している金額の範囲内」という限定はそのままにして、 相手方に譲歩する内容にしています。
3つ目の修正案は、損害賠償の範囲を特定しないことで、民法の規定通りの損害賠償の範囲として中立的な規定に修正しています。
このように、リスクを修正する際には、どの程度相手方に譲歩するのかによって、様々な修正案が考えられます。
どの程度譲歩するかは、契約の目的や相手方との関係性などによって変わってきます。
また、必要な条項が抜け落ちている場合は、必要な条項を追加する修正を行うことが考えられます。
例えば、契約から生じる権利義務を、相手方が第三者に移転・譲渡するのを防止したい場合には、その旨(地位の譲渡禁止)を契約書で定めておくのが通常です。
地位の譲渡禁止が契約書に含まれていない場合には、次のような条項を追加することになります。
④ 事業部門に回答や提案をする
①~③の作業が完了したら、契約の相手方と直接交渉を行っていることの多い事業部門に、回答や提案をします。
事業部門に回答や提案をする際には、いかなる条項を、どのような理由でどのように修正・追加したのか、 他にはどのような修正案が考えられるのかなどを、事業部門へ伝えると良いでしょう。
具体的には、Wordのコメント機能、メールや電話、ウェブ会議などで伝える、といったことが考えられます。
契約書チェックの目的
契約書チェックは、自社の不利益を防ぎ、また将来発生することが予想されるクレームや紛争などを回避することを目的として行います。
例えば、先ほども紹介した、次の条文の1項についてです。
もしこの条文が修正されることなく契約締結に至っていたとしたら、仮に甲が乙の契約違反によって損害を 被ったとしても、「直接かつ通常の損害」しか損害賠償請求できないことになってしまいます。
その損害額も「損害発生時において相手方から既に受領している金額の範囲内」に限られているため、 それを上回る損害賠償請求をすることはできません。
したがって、このような自社の不利益を防ぐために修正することが考えられます。
また、先ほど、地位の譲渡禁止の条文を追加しました。
もしこの条文が追加されることなく契約締結に至っていたとしたら、仮に相手方が事前の書面による 承諾なしに本契約に基づく地位を移転したとしても、契約違反などを主張することができません。
さらに、条文の文言が不明確な場合には、その文言の解釈をめぐって紛争が生じる可能性があります。
加えて、自社の免責条項を定めないと、 何らかのトラブルが生じた際に、クレームが来てしまうかもしれません。
契約書チェックは、このように、 自社の不利益を防ぎ、 将来発生することが予想されるクレームや紛争リスクなどを回避するために行います。
契約書チェックに必要なスキル
これまで述べてきたように、契約書チェックを行うためには、契約書を読み込むだけではなく、 関連する法律や判例をリサーチする必要があります。
日本で締結される契約書の多くは日本語で書かれていますが、法律という専門領域を扱うため、 契約書を読み込むだけでも、専門的な法務知識を要します。
また、法律や判例をリサーチするためには、法的なリサーチ能力が必要となります。
さらに、法律や判例の内容を理解するためには、やはり専門的な法務知識が必要となるでしょう。
例えば、基本的な部分についていえば、法令用語の意味を理解している必要があります。
「直ちに」「遅滞なく」「速やかに」という言葉は、日常的には同じような意味で用いられますが、時間の長さに違いがあります。
「場合」「とき」「時」という言葉も、日常的には同じような意味で用いられますが、使う場面が異なります。
このような専門的な法務知識を備えることで、はじめて的確な契約書チェックを行うことができるのです。
法令用語については、以下の記事で詳しく解説しています。
また、契約類型によって、必要となる条項は変わってきます。
そのため、契約書チェックを行うにあたっては、各契約類型についての知識や実務経験も必要となります。
前述のように、リスクを修正する際には、どの程度相手方に譲歩するのかによって、様々な修正案が考えられます。
どの程度譲歩するかは、契約の目的や相手方との関係性などによって変わってきます。
そのため、契約書チェックでは、「このような目的・相手方であれば、 このくらい譲歩すれば相手方が納得することが多い」というような相場観が必要であり、 このような相場観を養うために、豊富な実務経験が必要です。
契約書チェック業務において企業の法務部門が抱える課題
以上のように、契約書チェックには専門的な法務知識や豊富な実務経験が必要であり、 契約書チェック業務において、様々な課題を抱えている企業も多いのではないでしょうか。
企業の法務部門が抱える課題としては、次のようなものが考えられます。
- 契約書チェックの工数が多く、検討に十分な時間を割くことができない
- 契約書チェックのスキルを持った社員がおらず、審査の質に不安がある
- 契約書チェック業務が属人化していて知見の共有ができていない
- 法務人材の育成に時間がかかる
一つずつ見ていきましょう。
契約書チェックの工数が多く、検討に十分な時間を割くことができない
前述のように、契約書チェックは、①契約の目的・背景を把握→②リスクや問題点を洗い出す→ ③リスクや問題点を修正→④事業部門に回答や提案をする、というプロセスを経ます。
正確な契約書チェックを行うには、どのステップも時間を要します。 しかし、法務部門には契約書チェック以外にも多くの業務があり、また契約書チェックの案件数も多い場合は、 検討に十分な時間を割くことができないのです。
契約書チェックのスキルを持った社員がおらず、審査の質に不安がある
前述のように、契約書チェックを行うには、専門的な法務知識や豊富な実務経験が必要です。 しかし、このようなスキルは、長年の業務経験を有する弁護士や法務部員でなければ有していません。
そのため、そもそも契約書チェックのスキルを持った社員がおらず、室の高い審査ができない場合があります。
契約書チェック業務が属人化していて知見の共有ができていない
専門的な法務知識や豊富な実務経験を有している社員がいても、知見を共有する体制ができていない場合、 結局その人しか契約書チェックを行えません。
このように業務が属人化していて知見の共有ができていないと、 人手が足りず、十分な契約書チェックを行えません。
法務人材の育成に時間がかかる
専門的な法務知識や豊富な実務経験は、一朝一夕で身につけられるものではありません。
このようなスキルを有する社員を社内に擁するためには、既にスキルを有している人材を中途採用するか、法務人材を育成する必要があります。
もっとも、既にスキルを有している人材の採用には、多くの金銭的コストを要します。 そのため、法務人材を育成するという手段を採る企業も多いと考えられますが、法務人材の育成にあたっては、 多くの時間的コストがかかってしまいます。
AIの活用で契約書チェックを劇的に効率化できる3つのポイント
以上のような課題を解決する手段の一つとして、AIによる契約書チェックを導入することが考えられます。
AIの活用で契約書チェックを劇的に効率化できるポイントとして、以下の3つが挙げられます。
- 作業時間の短縮
- 契約書チェックの質の均一
- 社内での知見の蓄積
作業時間の短縮
前述のように、①契約の目的・背景を把握→②リスクや問題点を洗い出す→ ③リスクや問題点を修正→④事業部門に回答や提案をする、というプロセスのうち、 「②リスクや問題点を洗い出す」というステップは、多くの時間がかかります。
なぜなら、このステップでは、契約書を読み込む必要があり、また、 関連する法律や判例についてリサーチする必要があるからです。
AIを利用することで、これまで多くの時間が割かれていた契約リスクの洗い出しを、瞬時に行うことができます。
また、「③リスクや問題点を修正」というステップについても、AIが修正案を提示してくれるため、時間短縮が期待できます。
契約書チェックの質の均一化
前述のように、契約書チェックには専門的な法務知識や豊富な実務経験が必要であり、 特に、「②リスクや問題点を洗い出す」「③リスクや問題点を修正」のステップでは、 チェックする人のスキルや裁量によって、バラつきが生じてしまいます。
これに対して、AIによる契約書チェックでは、「②リスクや問題点の洗い出し」のばらつきがなくなります。
「③リスクや問題点を修正」では、どうしてもチェックする人の裁量が入ってきてしまいますが、 AIが洗い出したリスクを参考にするという点で共通の判断基準ができます。
AIの指摘する各リスクについて、事前に重要度などを定めておくことも考えられます。
このように、AIによる契約書チェックを導入することで、契約書チェックの質の均一化が期待されます。
さらに、AIによる契約書チェックサービスの中には、レビュー結果について解説文を表示してくれるものもあります。 この解説を読むことで、契約書チェックをしながら、効率的に専門的な法務知識を身につけることができます。
これによって、効率的に法務人材を育成できることも期待できます。
社内での知見の蓄積
AIによる契約書チェックサービスの中には、契約法務に関する社内の知見を蓄積して、社内で情報共有できる機能を備えたものがあります。
契約法務の知見の共有体制が整えば、「あの人しか契約書チェックができない」という契約書業務が 属人化した状況を防ぐことも期待できます。
AI活用で契約書チェックが効率化するわけ
AIの活用で契約書チェックを劇的に効率化できるということを解説しました。
では、なぜAI活用で契約書チェックが効率化するのでしょうか?
ここから、その理由を解説していきます。
リスクを自動チェック
AIによる契約書チェックでは、AIが契約書に含まれるリスクを自動で抽出します。
人による契約書チェックでは、元々ある条項のリスクには気付きやすいものの、契約書に不足している条項を見落としがちです。
しかし、AIは物を忘れることがないため、AIによる契約書チェックでは、元々不足している条項を見落とすということは、大幅に減ります。
会社の契約書チェック方針の統一
上述したように、「リスク・問題点の洗い出し」において、人による差異がなくなるため、
AIによる契約書チェックでは、会社の方針に沿って、統一的なチェックを行うことが期待できます。
また、AIが指摘する個々のリスクについて、あらかじめ社内においてそのリスクの重要度などを設定しておくことで、「リスク・問題点の修正」においても、統一的なチェックを期待できます。
情報管理を一元化できる
契約書を一元的に管理することはなかなか難しく、社内において数名がチェックする場合は、 契約書が一次チェックを終えた状況か、二次チェックを終えた状況か、など契約書のステータスを明確にしておく必要も出てきます。
AIによる契約書チェックを導入し、チェック結果と共に契約書を管理することで、 契約書の管理が容易になり、社内の知見を共有する体制が整います。
「LegalOn Cloud」でAI契約書レビューは次のステージへ
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