1 医薬品等の品質及び安全性の確保の強化
近年発生した医薬品に関する不正事案は、国民の医薬品への信頼を揺るがし、供給不足の一因ともなりました。今回の医薬品医療機器等法改正の重要な柱の一つは、このような状況に対応し、医薬品の品質と安全性の確保を一層強化することにあります。
1.1 医薬品品質保証責任者及び医薬品安全管理責任者の設置義務化
医薬品の製造販売業者に対し、これまでは、省令において設置が要求されていた医薬品品質保証責任者(GQP省令4条3項)と医薬品安全管理責任者(GVP省令4条2項)の設置が法的に義務付けられます(改正薬機法17条6項)。
上記改正は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。
なお、本改正において、医薬品品質保証責任者と医薬品安全管理責任者の設置が義務付けられているものの、総括製造販売責任者の下に安全管理責任者、品質保証責任者がいるという従前からの3役体制の構造には大きな変動はありません(改正薬機法17条5項においても医薬品総括製造販売責任者は、医薬品品質保証責任者及び医薬品安全管理責任者を監督することが定められています。)。本改正による影響は、安全管理責任者、品質保証責任者の実施する業務が法制化されること(改正薬機法17条7項から12項参照)及び安全管理責任者、品質保証責任者についても、薬機法上の変更命令の対象となること(改正薬機法73条)となります(令和6年12月26日第10回制度部会)。
1.2 責任役員の変更命令権限の導入
法令違反などがあった場合であって、責任役員が原因で薬事に関する法令違反が生じた場合等、必要な場合には、厚生労働大臣が医薬品等の製造販売業者又は製造業者に対して、薬事に関する業務に責任を有する役員(代表取締役や薬事関連業務を担当する取締役など)の変更を命じることが可能となります(改正薬機法72条の8)。
これは、令和元年薬機法改正後も、行政処分事案で責任役員の関与が認められたケースがあったことを踏まえ、薬事監視の質的な向上の必要性やさらなる法令遵守、品質確保等の違法行為の抑止に向けた包括的な取り組みとして法定されます(令和6年12月26日第10回制度部会)。
上記改正は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。
1.3 医薬品の安全性及び有効性に係る情報収集等の計画作成・実施の義務化
厚生労働大臣により指定された医薬品について、安全性及び有効性を確保するために必要があると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、当該医薬品の製造販売業者には、副作用に関する情報収集等に関する計画(RMP)の作成及び当該計画の厚生労働大臣への報告並びに計画に基づく情報収集の実施及びその結果の厚生労働大臣への報告が義務付けられます(改正薬機法68条の2第1項、第2項及び第4項)。また、臨床試験の成績に関する資料や最新の論文その他によって得られた知見に基づき当該計画を作成又は変更することも求められます(改正薬機法68条の2第3項)。
なお、情報収集等に関する計画及びその実施に関する報告は、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)に対して行うことが想定されています(改正薬機法68条の2の2第1項)。
上記改正は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。
なお、改正議論においては、RMPの実施は、これまでも承認条件とされており、全く法律と無関係に実施されるということではなく、一定のペナルティも前提としながら運用されてきたため、さほど大きく変わるものではないとされています(令和6年12月26日第10回制度部会)。もっとも、従前RMPは、あくまで承認条件として審査されたものであり、再審査の終了によって、RMPに基づく安全対策が終了するという建付けとなっていた一方で、本改正では、承認条件ではなく、一定の医薬品に対する事業者の義務として制定されていることから、実務への影響が想定されます。
1.4 GMP適合性調査の合理化と監督強化
ア GMP適合性調査の合理化
定期的なGMP(製造管理および品質管理基準)適合性調査について、製造所の不適合リスク評価に基づき、3年の期間内でリスクに応じた頻度で調査を行うことが可能になります(改正薬機法14条7項、14条の2第3項及び第4項)。本改正の趣旨は、現状、製造販売承認の必要事項としてGMPの遵守が明記されているものの、製造業者に直接的にGMPの実施を遵守事項として義務づける規定が薬機法上ない状況であることから、そこより明示的に直接規制をかけるような形に今回法律を見直すという点にあります(令和6年12月26日第10回制度部会)。
イ 製造販売業者の遵守事項
また、医薬品の製造販売事業者は、製造所における製造管理及び品質管理の業務が、厚生労働省令で定める基準その他の厚生労働省令で定める事項に基づき適正に遂行されていることを定期的に確認し、その結果を記録し、及びこれを適切に保存する義務を負い(改正薬機法18条3項)、また、当該製造所における製造管理及び品質管理に係る情報を収集する努力義務を負います(改正薬機法18条4項)。
上記改正は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。
1.5 本改正では見送られた事項(課徴金制度の対象拡大案)
本改正に関する検討の中では、過度な出荷優先や利益追求の姿勢が原因の一つでもある製造管理・品質管理上の不正事案の発生を防止するための手段として、課徴金制度の対象を拡大することが議論されていました。具体的には課徴金制度の対象として、対象となる違反行為を拡大し、今回の課徴金制度の対象の見直しの議論の発端となった製造管理・品質管理上の不正事案において認定された違法行為のうち、より保健衛生上のリスクが高い行為である承認内容と異なる成分・分量等の医薬品の製造販売・製造等の禁止違反(56条3号)を追加する方向で検討してはどうかとの議論がなされていました(令和6年10月31日第8回制度部会)。
しかし、薬機法において、医薬品の製造販売・製造等の禁止違反(56条3号)となる物は、流通してはならないものであり、それを流通させること等を前提に課徴金制度を構成することは困難との結論に至り、課徴金の対象の見直しは見送られています。
なお、製造管理・品質管理上の不正事案の発生防止については、製造所における製造管理及び品質管理が適切に実施されていることの定期的な確認を医薬品製造販売業者に義務付けるとともに、GMP省令に規定される基準について、より直接的な製造管理・品質管理上の遵守事項として医薬品製造業者に薬機法上義務付けることとなりました(上記1.4参照)。
2. 医療用医薬品等の安定供給体制の強化等
医薬品の不正事案や、特に後発医薬品を中心に医療用医薬品の約20%が限定出荷・供給停止となるなど、深刻な供給不足が数年にわたり続いています。この状況は国民の医療に大きな影響を及ぼしており、今回の医薬品医療機器等法改正において、医療用医薬品の安定供給体制の強化は極めて重要な柱の一つとなっています。
2.1 特定医薬品の製造販売業者における安定供給体制の整備
薬機法の改正において、医療用医薬品の安定供給確保のための体制整備及び供給不足の原因となりうる出荷停止にあたっての新たな制度が定められています。以下、詳述します。
ア 特定医薬品供給体制管理責任者の設置義務等
医療用医薬品のうち製造販売又は販売の状況を把握する必要がないものとして厚生労働省令で定める医薬品を除くものについて、「特定医薬品」として新たに定義し(改正薬機法2条17項)、特定医薬品を製造販売する事業者に対する義務を新設しました。
すなわち、医療用医薬品の製造販売業者に対し、特定医薬品供給体制管理責任者の設置を義務付けます(改正薬機法18条の2の2第1項)。改正薬機法では、特定医薬品供給体制管理責任者は、特定医薬品の供給体制の管理の統括を公正かつ適正に行うために必要があるときは、製造販売業者に対し、意見を書面により述べなければならないとされており(同条2項)、特定医薬品供給体制管理責任者の業務及び遵守事項は、厚生労働省令で定めるとされています(同条3項)。
特定医薬品供給体制管理責任者の業務について定めた省令はまだ発出されてはいませんが、改正概要の資料(001492021.pdf)が参考となります。すなわち、特定医薬品供給体制管理責任者は、「手順書」に基づいた企業内の体制整備や取り組みの推進、安定供給に関する法令遵守が記載されており、また、手順書には、安定供給のための社内各部門の連絡調整体制の整備、原薬の確保、在庫管理、生産管理などに関する手順が記載される旨記載されています。そのため、省令においても同様の事項が定められることが想定されます。
なお、特定医薬品供給体制管理責任者は、医薬品品質保証責任者及び医薬品安全管理責任者と同様、変更命令の対象となります(改正薬機法73条)。
また、特定医薬品の供給体制の管理の実施方法、特定医薬品供給体制管理責任者の義務の遂行のための配慮事項その他特定医薬品の製造販売業者が供給体制の管理に関する業務に関し遵守すべき事項を厚生労働省令において定めることができるとされており(改正薬機法18条の2の3)、特定医薬品の製造販売業者は、供給体制の整備等を実施することが求められます(改正薬機法18条の2の4)。
これらの改正は、医療用医薬品の適切な供給を図る必要性や、薬事規制の面での迅速な薬事承認を可能とする体制の確保といった必要性への対応を目的として行われたものとなります(令和6年12月26日第10回制度部会)。
上記改正のうち、特定医薬品の定義の策定に関する規定は、公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。その他の改正は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。
イ 出荷停止時の届出義務付け
特定医薬品の製造販売業者は、特定医薬品について、六月以内にその出荷の停止若しくは制限をすることとしたとき、又は六月以内にその出荷の停止若しくは制限をするおそれがあると認めるときは、厚生労働大臣への報告が義務付けられます(改正薬機法18条の3)。また、実際に出荷停止又は出荷制限をしたときは、直ちに、厚生労働大臣への届け出が必要となります(改正薬機法18条の4第1項)。なお、出荷停止又は出荷制限の届け出をしたときは、厚生労働大臣による公表がなされます(改正薬機法18条の4第3項)。
これらの報告又は届出があった場合のほか、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するために当該特定医薬品又は代替薬の製造販売又は販売の状況を把握する必要があると認める場合には、厚生労働大臣は製造販売業者、卸売販売業者その他の関係者に対し、当該特定医薬品又は代替薬の製造、輸入、販売又は授与の状況その他必要な事項について報告を求めることができるとされています(改正薬機法18条の5)。
上記改正は、公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。
2.2 特定医薬品の供給不足時の対応(医療法の改正)
上記のとおり、改正薬機法では、医療用医薬品の供給不足を防止するための体制の整備及び不足の原因となる出荷停止時の制度が制定されています。
他方で、実際に供給不足が生じた場合の対応は、医療法改正において定められており、供給不足時の迅速な対応を目的とした新たな制度が導入されました。以下、詳述します。
以下の改正は、公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。
ア 供給不足時等の協力要請(改正医療法36条)
厚生労働大臣は、特定医薬品の供給が不足している、または不足する蓋然性が高く、これにより適切な医療提供が困難となり、国民の生命・健康に影響を与えるおそれがある場合、製造販売業者、製造業者、卸売販売業者などの関係者に対し、当該特定医薬品または代替薬の増産、販売の調整、医療提供施設への供給などの必要な協力を求めることができます(改正医療法36条1項)。また、薬局開設者や病院・診療所の開設者などの関係者に対し、調剤や処方に関する配慮など、必要な協力を求めることもできます(同条2項)。
イ 「供給確保医薬品」の安定供給(改正医療法37条)
厚生労働大臣は、特定医薬品のうち、その用途に係る疾病の重篤性、代替性のある医薬品や治療方法の有無、製造に必要な特別な技術、原料供給状況などを考慮し、特に安定的な供給確保の必要性の高い医薬品を「供給確保医薬品」として指定することができます(改正医療法37条4項)。
厚生労働大臣は、「供給確保医薬品」およびその製造に不可欠な原料や材料(「供給確保医薬品等」)の安定的な供給確保を図るための「安定供給確保指針」を策定、公表を行います(改正医療法37条1項、3項)。
この指針には、安定的な供給確保に関する基本的な方向、供給不足の未然防止策、供給不足発生時の製造・輸入に関する事項、その他重要な事項が定められます(同条2項)。
ウ 供給不足防止に関する指示等(改正医療法38条)
「供給確保医薬品」の中でも、特に重要なものは「重要供給確保医薬品」として指定されます(改正医療法38条1項)。
厚生労働大臣は、「重要供給確保医薬品等」の供給が不足する蓋然性が高く、国民の生命・健康に重大な影響を与えるおそれがある場合、製造販売業者や製造業者に対し、安定供給確保指針に即して、「供給不足防止措置計画」を作成し届け出るよう指示することができます(改正医療法38条1項)。また、特に必要があると認められる場合には、計画の変更も指示でき(同条2項)、指示に従わない場合や計画通りに措置が行われていないと認められる場合、厚生労働大臣はその旨を公表することができます(同条5項)。
指示に従って届け出をした製造販売業者又は製造業者は、供給不足防止措置計画に沿って重要供給確保医薬品等の供給不足の発生を未然に防止するために必要な措置を行う義務を負います(同条4項)。
国は、指示に従って必要な措置を行う製造販売業者や製造業者に対し、必要な財政的措置その他の措置を講ずることができます(改正医療法38条の3)。
エ 増産等に関する指示等(改正医療法38条の2)
厚生労働大臣は、「重要供給確保医薬品等」が実際に不足している、または不足する蓋然性が特に高く、国民の生命・健康に重大な影響を与えるおそれがある場合、製造販売業者や製造業者に対し、安定供給確保指針に即して、「製造等計画」(製造または輸入に関する計画)を作成し届け出るよう指示することができます(改正医療法38条の2第1項)。同様に、計画の変更も指示でき(同条2項)、指示に従わない場合は公表の対象となります(同条5項)。
指示に従って届出をした製造販売業者又は製造業者は、その届出に係る製造等計画に沿って当該製造等計画に係る重要供給確保医薬品等の製造又は輸入を行う義務を負います(同条4項)。
国は、指示に従って製造または輸入を行う製造販売業者や製造業者に対し、必要な財政的措置その他の措置を講ずることができます(改正医療法38条の3)。
オ 供給状況の報告義務(改正医療法38条の4)
「供給確保医薬品等」の製造販売業者、製造業者、卸売販売業者等は、安定供給確保指針に即して、その製造、輸入、販売または授与の状況その他必要な事項を厚生労働大臣に報告しなければなりません(改正医療法38条の4)。
カ 供給不足防止のための協力要請(改正医療法38条の5)
厚生労働大臣は、「供給確保医薬品等」の供給不足の発生を未然に防止するため、製造販売業者、製造業者その他厚生労働省令で定める者に対し、安定供給確保指針に即して、必要な協力を求めることができます(改正医療法38条の5)。
キ 需給状況のモニタリング(改正医療法38条の7)
厚生労働大臣は、特定医薬品の需給状況を把握するため、地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律に基づく情報などを調査・分析することができます(改正医療法38条の7第1項)。
社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会は、調査・分析のために必要な医薬品調剤等情報を厚生労働大臣に提供しなければなりません(改正医療法38条の7第2項)。
2.3 後発医薬品の安定供給を支える基金の創設
ア 「後発医薬品製造基盤整備基金」の設置
現在の後発医薬品産業では、「少量多品目生産」による生産効率の低下が課題として指摘されています。これに対応するため、「品質の確保された後発医薬品の安定供給の確保のための基金」が設置されます(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所法附則27条1項)。
イ 基金による支援内容
この基金は、後発医薬品企業の品目統合や事業再編などの計画を認定し、生産性向上に向けた設備投資や事業再編等にかかる経費を支援します(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所法附則27条2項)。具体的には、品目統合に伴う生産性向上のための設備整備の経費補助や、品目統合・事業再編に向けた企業間での調整にかかる経費補助などがメニューとして挙げられています。
ウ 施行日
本改正は、公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。
3. より活発な創薬が行われる環境の整備
3.1 条件付き承認制度の適用拡大
ア 改正の概要
厚生労働大臣は、申請に係る医薬品、医療機器等が、次のいずれにも該当する場合には、薬事審議会の意見を聴いて、当該医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性に関する調査の実施を条件とするほか、適正な使用の確保のために必要な措置の実施その他の必要な条件を付してその品目に係る承認を与えることができるようになります(14条の2の2第1項及び23条の2の6の2第1項関係)。
- 医療上特にその必要性が高いと認められること
- 申請に係る効能、効果等を有すると合理的に予測できるものであること
- 申請に係る効能又は効果に比して著しく有害な作用を有することにより医薬品として使用価値がないと合理的に予測できるものでないこと
ただし、厚生労働大臣は、条件を付した製造販売の承認を与えた医薬品、医療機器等が申請に係る効能、効果等を有すると合理的に予測できなくなった等のときは、薬事審議会の意見を聴いて、その承認を取り消さなければなりません(74条の2第1項関係)。
上記の改正は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。
イ 改正の趣旨・背景
現行の条件付き承認制度は、承認の取消し規定がないため、一定程度の効果が確認できた探索的試験の結果に基づく場合や、検証的試験の実施途中である場合の適用を想定したものとなっています。そのため、欧米の類似の仕組みと比べて、制度創設後の承認件数が少ない状況となっています。
そこで、重篤かつ代替する適切な治療法がない場合など、医療上の必要性が高い医薬品、医療機器または体外診断用医薬品に係る条件付き承認制度について、承認の取消し規定を設けた上で、探索的試験の段階で、臨床的有用性が合理的に予測可能な場合に承認を与えることができるように本改正が行われました(令和7年1月10日厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」(以下「とりまとめ報告」という。)15頁参照)。
ウ 実務対応
本改正により、例えば、以下のような承認過程の短縮が可能となります。
通常の承認過程では、医薬品等の有効性、安全性を検討し、用法容量等を設定するため、少数の患者を対象に探索的臨床試験を実施した後に、安全性・有効性を検証するために多数の患者を対象に検証的臨床試験が行われます。本改正後では、探索的臨床試験のみで有効性・安全性について合理的に予測ができる場合、探索的臨床試験の後すぐに承認を行うといったことが可能となります。その場合でも、製造販売後に改めて、有効性の検証等を行うことが条件として設定されますので、製造販売後に有効性の検証等が確認できない場合、承認が取り消されることとなります。
3.2 小児用医薬品の開発計画の策定の努力義務化
ア 改正の概要
薬局医薬品の製造販売業者は、小児用の薬局医薬品の開発を促進するために必要な小児の疾病の診断、治療又は予防に使用する医薬品の品質、有効性及び安全性に関する資料の収集に関する計画を作成するとともに、当該計画に基づき、遅滞なく、必要な資料の収集を行うよう努めなければならないものとされました(14条の8の2)。また、小児用医薬品の開発計画が策定された医薬品の再審査の期間について、すでに上限(10年)で設定されている場合に、上限を2年延長できることとなります。
上記の改正は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。
イ 改正の趣旨・背景
小児用医薬品の開発は、症例の集積や治験の実施が難しく、市場規模も小さいこと等から、開発が進みにくいという課題がありました。
これまで、特定用途医薬品指定制度の創設や再審査期間の延長に加え、成人用の医薬品の開発時に任意で策定された小児用医薬品の開発計画についてPMDAの確認を受けられる仕組みを導入するなど、小児用医薬品の開発環境の整備に取り組んできましたが、これらの取組に加えて、より一層小児用医薬品の開発を促進しドラッグ・ロスの解消につなげるため、本改正が行われました(とりまとめ報告15頁参照)。
ウ 実務対応
小児用医薬品開発計画に関しては、PMDAにおいて、特化して相談制度があり、原則、書面による助言を受けることが出来ます。詳細は、以下のPMDAのWebサイトをご確認ください。
小児用医薬品開発計画確認相談 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
3.3 革新的医薬品等実用化支援基金の創設
ア 「後発医薬品製造基盤整備基金」の設置
近年、ドラッグロス問題が顕著となっている反面、アカデミアやベンチャー企業等を含む他業種連携による創薬の一般化、リアルワールドデータの利活用への期待の高まりなど、創薬や医療機器等の開発に係る環境が変化しています。
官民連携して継続的に創薬基盤を強化するため、国庫と民間からの出えん金(寄付金)で「革新的医薬品等実用化支援基金」が造成されます(立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所法20条)。
本改正は、公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。
イ 基金による支援内容
基金事業では、創薬クラスターキャンパス整備事業者の取り組み等を支援し、より活発な創薬が行われる環境が整備されます。
4. 国民への医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化等に関連する改正
4.1 調剤業務の一部外部委託の法制化
ア 改正の概要
薬局開設者は薬局の所在地の都道府県知事の許可を得て(改正薬機法4条5項)、定型的な調剤業務を他の薬局開設者に委託できるようになります(改正薬機法9条の5)。
ただし、当面は同一都道府県内限定の運用とし、今後の検証を踏まえて範囲拡大を検討するとされています。定型的な業務は、具体的には今後政令において定められることになりますが、一包化(複数の薬剤を利用している患者に対して服用時点ごとに一包として投与すること)等の業務が想定されます。
本改正は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。
イ 改正の趣旨・背景
高齢化と多様な医療ニーズの増加を踏まえ、薬剤師による対物業務の負担を減らすことで、本来の対人支援(服薬指導・健康相談)に専念できる体制を整えることが目的です。すなわち、薬局薬剤師の業務は処方箋への対応が中心ですが、処方箋受付時以外の対人業務、セルフケア・セルフメディケーションの支援といった健康サポート業務の充実が求められています。限られた医療資源・時間の中で、薬局薬剤師の対人業務を充実させるために、医療安全が確保されることを前提として対物業務を効率化して対人業務に注力できる環境の整備が目的となります(令和6年第7回 厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会(以下「部会」といいます。)議事録大原薬事企画官発言)。
具体的には、施設対応のように大量の一包化が依頼されたケースも含めて、地域において、より高度な機能を有する機器を有している近隣薬局と連携した方が、精度高くかつ効率的に実施できて、その分の時間を服薬指導に割くことができると期待されています(令和6年第7回部会議事録大原薬事企画官)。
なお、医薬品の一包化業務の外部委託に関しては、令和6年3月国家戦略特区の特例として創設された「国家戦略特別区域調剤業務一部委託事業」は、同年6月に内閣総理大臣から区域計画に認定を受けて大阪市において同年7月1日から事業受付が開始されていました。
ウ 実務対応
調剤業務の一部を外部委託する際には「厚生労働省令に定めるところにより、厚生労働省令で定める要件を備えている薬局の薬局開設者に委託する」必要があるため、具体的な実務対応方法については、今後の厚生労働省令を待つこととなります。もっとも、現時点で想定できる実務対応としては、以下の事項となります。
✔ 許認可の取得(都道府県知事)
✔ 信頼できる委託先の選定及びその選定基準の策定
✔ 委託契約の締結
✔ 業務手順書やマニュアル等の作成
✔ 物流スキームの検討・配送業者との業務委託契約の締結
✔ 委託先との情報連携のためのシステム構築・セキュリティ対策
4.2 指定濫用防止医薬品
ア 改正の概要(主要な点のみ)
(1) 指定濫用防止医薬品としての取扱い
従来、薬局製造販売医薬品や一般用医薬品のうち、濫用のおそれのある医薬品については、薬機法施行規則15条の2等に基づき「濫用等のおそれのある医薬品」として厚生労働大臣が指定していました。
本改正では、濫用をした場合に中枢神経系の興奮もしくは抑制又は幻覚を生ずるおそれがあり、その防止を図る必要がある医薬品について、厚生労働大臣は、「指定濫用防止医薬品」として指定することを法律上明記しました(改正薬機法36条の11第1項)。
(2)指定濫用防止医薬品販売時の情報提供・確認義務
薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、指定濫用防止医薬品を販売する際に、薬剤師又は登録販売者に、厚生労働省令で定める事項を記載した書面を用いて必要な情報(他の薬局等での購入状況、氏名・年齢、多量購入の場合の購入理由等)を提供させ(同項)、厚生労働省令で定める事項を確認させる(同条2項)義務が法律上で明記されました。この情報提供ができない場合には、指定濫用防止医薬品の販売は禁止となります(同条4項)。
(3) 多数販売や若年者に対する販売の制限
厚生労働省令で定める数量を超える数の指定濫用防止医薬品を販売する場合や、若年者(厚生労働省令で定める年齢未満の者)に対して販売をする場合には、対面等により、(2)で記載した情報提供をすることが必須となります(同条3項)。また、若年者に対する大容量製品又は複数個の販売は、禁止となります。
本改正は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。
イ 改正の趣旨・背景
近年、若年者による一般用医薬品の濫用が社会問題となっており、令和元年度厚労科研や公益財団法人日本中毒情報センターによる報告で、咳止め薬や総合感冒薬の乱用による依存・急性中毒事例が確認されました。その後も日々のニュースやSNS等を介して、若年層による一般用医薬品の濫用について報じられてきました。
このような事態を受けて、元々薬機法施行規則15条の2等で「濫用等のおそれのある医薬品」の販売方法の規制は設けられていましたが、本改正では、それを法律上で明記することとなりました。
ウ 実務対応
今後の施行規則の改正に伴い、運用面の変更を余儀なくされる場面も出てくると思われますので、その場合、以下のような実務対応が考えられます。
✔ 情報提供を受けるための書面の整備
✔ 必要な社内規定やマニュアルの改定
✔ 社員研修等
もっとも、従来も薬機法施行規則15条の2等に基づき「濫用等のおそれのある医薬品」を販売する際には、情報提供等が求められてきました。そのため、本改正により、実務上の対応が抜本的に変更になることはないと想定されます。
4.3 薬剤師等が常駐しない店舗における一般用医薬品の販売
ア 改正の概要
委託元の薬剤師等による遠隔での管理の下、薬剤師等が常駐しない、あらかじめ登録された店舗(登録受渡店舗)において医薬品を保管し、購入者へ受け渡すことを可能とします(改正薬機法29条の5)。具体的には、利用者のスマートフォンや店頭に置かれた端末にて、オンライン服薬指導を経たうえで、コンビニエンスストア等の店舗で医薬品の受け渡しすることを可能とします。
もっとも、登録受渡店舗では、あくまで医薬品を受け渡すことのみが行われ、販売は委託元の薬局や店舗販売業者が行い、販売に関する責任は原則として委託元の薬局や店舗販売業者が有するものとなります。
当面の間は、委託元の薬局等と委託先の登録受渡店舗は、同一都道府県内とし、制度導入後に課題等を検証の上、より広範囲での連携について検討されることとなります。
上記の改正は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。
イ 改正の趣旨・背景
近年、映像及び音声によるリアルタイムのコミュニケーションツールが普及していることから、人材の有効活用を図り、また、利用者としてもアクセスがしやすいように本改正に至りました。
部会での意見の中には、「同一都道府県内のみしかオンライン展開ができないとするのは、オンラインが可能と言っておきながら事実上骨抜きにしている。地理的範囲に限る、同一都道府県内に限るということは合理性がない。」といったものもありましたが、監視指導を適切に行うためには委託元薬局等と登録受渡店舗を所管する自治体間での緊密な連携が必要となるため、当面の間は、監視指導の観点から、同一都道府県内での実施から開始することとなりました(令和6年第7回部会資料「【資料4】テーマ④(少子高齢化やデジタル化の進展等に対応した薬局・医薬品販売制度の見直し)について(薬局の機能等・調剤業務の一部外部委託)」15頁参照)。
ウ 実務対応
(1) 委託元薬局等側の対応事項
委託元薬局等側での主な対応事項は、以下のとおりです。
✔ 信頼できる登録受渡業者の選定及びその選定基準の策定
✔ 登録受渡業者との委託契約の締結
✔ オンライン服薬指導に対応するための設備の整備
✔ 顧客情報を安全に登録受渡業者と連携できるシステムの構築
✔ 登録受渡業者における業務フローや手順書の策定
(2) 登録受渡業者側の対応事項
登録受渡業者側での対応事項は、今後、薬機法施行規則等で詳しく定められることとなりますが(改正薬機法29条の10等参照)、現時点では、主に以下の対応事項が考えられます。
✔ 医薬品の受渡業務のための設備及び体制の構築
✔ 受渡業務を管理できる従業員の配置
✔ オンライン服薬指導等のための店頭端末の設置
✔ 委託元薬局等との委託契約の締結
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