契約書の差分比較とは
契約書の差分比較とは、契約書の新旧バージョンを照らし合わせ、変更された箇所を特定する作業を指します。文言の微細な変更でも法的な意味合いが大きく変わる可能性があるため、どの条文が追加・削除・修正されたのかを正確に把握する必要があります。
従来はWordの比較機能を使って機械的に差分を抽出する方法が一般的でしたが、表形式の箇所やレイアウトが複雑な契約書では表示が崩れるケースもありました。こうした課題を解決するため、システムやツールを活用した差分比較の手法が見直されています。
契約書の差分比較の課題
契約書の差分比較には、作業時間やチェック品質など複数の課題が存在します。ここでは代表的な4つの課題について解説します。
変更箇所の特定に時間がかかる
契約書の新旧バージョンを比較する際、変更箇所を正確に把握するには相当な時間を要します。Wordの比較機能を使用しても、表形式の箇所やテキストボックス内の修正では差分表示が崩れるケースがあり、どの部分がどう変わったのか判別しにくくなります。
複数ページにわたる契約書では膨大な変更履歴が表示されるため、その中から本質的な変更点を見つけ出す作業自体が負担です。特に取引先との交渉が複数回にわたる場合、どのバージョンでどこが変更されたのかを追跡する作業には多くの時間がかかります。
変更内容の影響評価が難しい
差分を特定できたとしても、その変更が自社にとってどのような影響を及ぼすかを評価する作業には専門的な判断が求められます。
契約書では一文字の修正や語尾の変更であっても、法的な意味合いが大きく変わる可能性があります。変更によって生じるリスクの程度と影響度を正確に評価するには、法律の知識だけでなくビジネス上の観点も必要です。
特に損害賠償条項や免責事項の変更は、トラブル発生時に企業へ重大な影響を与えるため、慎重な検討が欠かせません。
新旧対照表作成の工数が大きい
契約書の変更内容を社内で共有したり、取引先との交渉記録として残したりするには、新旧対照表の作成が必要になります。
従来はWordなどで手作業により作成していましたが、この作業には膨大な時間がかかります。変更箇所を一つひとつ転記し、追加や削除を区別して表示する作業は、単純ながら集中力を要する業務です。
契約書のページ数が多い場合や変更箇所が複数にわたる場合、新旧対照表の作成だけで数時間を費やすケースもあり、本来の法務業務を圧迫する要因となっています。
チェック品質が担当者に依存する
契約書の差分チェックは専門性の高い業務であるため、知識や経験が豊富な特定の担当者に業務が集中しがちです。このような業務の属人化が進むと、担当者が退職や休職をした際に審査の精度が低下するリスクがあります。
また、担当者によってチェックの観点や基準が異なるため、同じ契約書でも誰が確認するかによって見落とす項目が変わる可能性も否定できません。
経験の浅い担当者が対応する場合、重要な変更箇所を見逃したり、リスクの判断を誤ったりする懸念があり、組織全体で均質なチェック品質を維持することが困難な状況です。
AIによる契約書差分比較とは
AIによる契約書差分比較とは、人工知能が契約書の新旧バージョンを自動的に解析し、変更箇所を抽出する仕組みです。契約書ファイルをシステムにアップロードすると、AIが文章を読み取り、追加・削除・修正された部分を識別します。
従来は人の目やWordの比較機能で一文ずつ照合していた作業をAIが代行するため、確認時間が大幅に短縮され、加えて精度も向上します。しかも、表形式やレイアウトが複雑な契約書でも正確に差分を検出できるツールもあり、変更箇所を色分けするなどわかりやすく表示するため、見落としのリスクの低減に寄与するでしょう。
AIによる契約書の差分比較でできること
AI差分比較には、変更箇所の検出から新旧対照表の作成まで多様な機能があります。ここでは代表的な5つの機能について解説します。
全文比較で変更箇所を検出
契約書ファイルをアップロードすると、AIが契約書全体を解析し、追加・削除・修正されたすべての箇所を自動的に検出します。変更箇所は色分けやハイライト表示されるため、視覚的に把握しやすくなります。
従来のWordの比較機能と異なり、フォントや文字サイズなど書式的な変更は除外され、契約内容に関わる本質的な差分のみが表示されます。複数ページにわたる契約書でも短時間(短いものでは数秒〜十数秒)で解析が完了するため、確認作業の時間を大幅に短縮できます。
条文比較で条項単位の差分の抽出
AIが契約書の構造を自動的に解析し、条文単位で差分を抽出する機能です。条文の順序が入れ替わった場合でも、内容の近い条文同士を照合するため、単なる並び替えなのか内容変更があったのかを正確に区別できます。
各条項がどのように変更されたのか一目で確認できるため、重要な条文の修正を見落とすリスクが低減されます。条文番号の変更も自動的に追跡されるため、参照条項のずれにも対応可能です。
表(テーブル)内の文字差分も検出
契約書に含まれる表には、賃料や支払条件、納期など重要な数値や条件が記載されるケースが多く、変更の見落としが契約上のリスクにつながります。
AI差分比較では、表内の各セル単位で変更箇所を自動検出し、新旧の表を並べて比較できます。変更された箇所が視覚的に把握できるため、従来は目視で確認していた作業時間を大幅に削減可能です。不動産契約や取引基本契約など、表を多用する契約書でも安心して効率的な確認につながります。
ただし、表のレイアウトが完全に一致しない場合や、ダウンロード結果に表が正確に反映されないケースもあります。重要な契約書では、比較結果を確認後、必要に応じて元ファイルでの最終確認が必要でしょう。
新旧対照表の自動生成
差分検出結果から新旧対照表を自動的に作成する機能です。変更箇所が表形式で整理され、追加部分には下線、削除部分には取り消し線が自動的に付与されます。簡単な操作でWord形式やPDF形式での出力が可能なため、手作業による転記作業がほぼ不要になります。
社内稟議や取引先への提示資料としてそのまま活用できる形式で生成されるため、作成工数を大幅に削減できます。一部のサービスでは、変更内容を太字で示すなど、表示形式のカスタマイズにも対応しています。
過去契約書との比較
データベースに保存された過去の契約書から、類似する契約を自動的に検索してくれ、それらのうち任意の過去契約書と比較する機能です。キーワード検索や条文検索を活用することで、同じ取引先との過去の契約内容や、類似案件での条件設定を参照しながら差分を確認できます。
自社の過去の取引条件との整合性をチェックできるため、一貫性のある契約管理が可能になります。また、契約書の修正履歴や交渉メモを含むレビュー時のコメントも保存されるため、過去の交渉経緯を踏まえた判断ができます。
AIによる契約書差分比較を活用する際の注意点
AIによる差分比較は効率的ですが、導入前に確認すべき点があります。ここでは主要な3つの注意点について解説します。
AIは完璧ではないことを理解する
AIによる差分比較は高精度ですが、完全無欠ではありません。取引先とのパワーバランスや契約締結の背景事情など、契約書に記載されない要素までは判断できないため、最終的な確認は人の目による判断が必要です。また、新規ビジネスで先例が少ない分野や特殊な契約類型については、AIが十分に学習していないケースもあります。
AIが提示する結果はあくまで参考情報として扱い、特に重要な契約や複雑な案件では、経験豊富な担当者や弁護士による確認を併用することが必須とすべきです。AIと人が適切に役割分担することで、効率性と正確性の両立が可能になります。
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自社の業界の契約書に対応しているか確認する
AI差分比較サービスは、学習させた契約書のデータに基づいて動作するため、対応できる契約書の種類や業界に違いがあります。不動産、製造業、IT業界など、業界特有の契約書形式や専門用語が正確に認識されるか、導入前に確認が必要です。
英文契約書への対応可否も重要な検討項目です。自社で扱う契約書の類型を事前に整理し、トライアル期間を活用して実際の契約書で精度を検証することが推奨されます。対応していない契約類型が多い場合、期待した効果が得られない可能性があります。
セキュリティ対策の確認
契約書は企業の機密情報が含まれる重要文書であるため、AI差分比較サービスを利用する際はセキュリティ対策の確認が不可欠です。データの暗号化、国内サーバーでの保管、アップロードしたファイルの自動削除機能など、情報漏洩を防ぐ仕組みが整っているか確認が必要です。
アクセス権限の設定やログ管理の機能も重要な確認項目となります。自社のセキュリティポリシーやコンプライアンス基準との整合性も事前に検証し、運営会社の信頼性や過去のセキュリティインシデントの有無についても調査することが推奨されます。
AIによる契約書差分比較はこんな企業・担当者におすすめ
AI差分比較は、業務量や契約書の特性によって導入効果が大きく異なります。特におすすめの3つのケースを紹介します。
契約書の修正業務が多い法務部門
定型的ではない契約案件が多い、または相手方からひな形を提示される場合が多いといった理由で取引先から頻繁に修正版が送られてくる企業や、契約更新業務が定期的に発生する法務部門では、AI差分比較の導入効果が特に高くなります。毎日のように新旧バージョンの確認作業が発生する環境では、手作業による差分チェックに膨大な時間を費やしているケースが少なくありません。
AIによる差分比較を活用することで、一件あたりの確認時間を数時間から数分に短縮できるため、本来の法務業務である契約内容の検討や交渉戦略の策定により多くの時間を割けるようになります。新旧対照表の自動生成機能も、報告業務の効率化に大きく寄与します。
複雑な表形式の契約書を扱う不動産・金融業界
不動産賃貸借契約やファイナンスリース契約など、表形式を多用する契約書を日常的に扱う業界では、Wordの比較機能では表示が崩れやすく、正確な差分確認が困難です。
特に不動産業界では、物件情報や賃料条件が表形式で記載されることが多く、賃貸借契約における特記事項も表内に記載される慣例があります。金融業界でも、融資条件や返済スケジュールなど重要な情報が表形式で整理されているケースが一般的です。
AI差分比較では表の構造を正確に認識し、セル単位で変更箇所を特定できるため、これらの業界での導入メリットが大きくなります。
高精度な差分検出が必要な大企業法務
複数の法務担当者が契約書レビューを担当する大企業では、チェック品質の均一化が重要な課題となります。担当者の経験やスキルによって見落としの発生率が変わると、組織全体のリスク管理体制に影響を及ぼします。
AIの差分比較を導入することで、誰が確認しても同じ精度で差分を検出できるため、品質の標準化が可能です。また、過去の契約書との比較機能を活用することで、自社の取引条件との整合性も効率的にチェックできます。契約書の修正履歴やレビュー結果をナレッジとして蓄積できるため、組織的な知見の共有にも貢献します。
まとめ|AIによる差分比較で取引先の修正箇所やひな形との差分を正確に把握
契約書の差分確認は、取引先から返送された修正版とひな形との違いを正確に把握する必要がある重要な作業です。しかし人の目やWordの比較機能では細かな変更点を見落とすリスクがあり、また多くの時間がかかります。
LegalOnアシスタントのAI差分比較機能を活用すれば、相手方が加えた修正箇所やひな形からの変更点を自動的に抽出できます。見落としのリスクを減らしながら確認作業を効率化することで、法務担当者は本来注力すべき契約内容の検討に時間を使えるようになります。
詳しい機能は以下より資料を無料でダウンロードできるので、契約書審査業務の効率化を考えている法務部門の方はぜひご覧ください。
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