Nobishiro

生成AI時代のAIガバナンス戦略 欧米に学ぶ、日本企業の実践指針

生成AI時代のAIガバナンス戦略 欧米に学ぶ、日本企業の実践指針
この記事を読んでわかること
    • 欧米で進むAI規制(EU AI Actや米国の州レベルの取り組み)の最新動向
    • GoogleやMicrosoftなど先端企業のAI倫理原則と実践事例
    • 日本企業がAIガバナンスで遅れている要因と課題
    • 自主的なガイドライン策定と経営戦略一体型ガバナンスの必要性
    • 競争力あるAI活用を実現するための4つの実践ステップ


生成AIの登場により、文書作成やカスタマー対応などの実務が自動化されつつありますが、日本企業での本格活用は遅れています。その背景には、リスク管理やプライバシー保護を含むAIガバナンス対応の遅れがあります。本記事では、欧米で進む規制や企業の実践例をもとに、日本企業がいま取り組むべき戦略を提示します。

生成AI時代のAIガバナンス戦略 欧米に学ぶ、日本企業の実践指針

AIの社会実装が進む中、生成AIの登場によって、日本企業でも文書作成やカスタマー対応の自動化など実務利用が広がりつつあります。ただし、欧米と比べて導入は限定的で、国内全体での本格的な活用はまだ広がっていません。

その背景には、リスク管理やプライバシー保護といったAIガバナンス対応の遅れがあります。AIは活用範囲が拡大する一方で、安全性や信頼性を担保するためには企業の部門横断的な戦略と組織体制の整備が求められています。

欧州ではAI法による産業横断的な規制の枠組みが整備され、米国では産業特性に応じた実務的な政策が進んでいます。法制度はなお発展途上にありますが、リスクを適切に制御しながらイノベーションを促すという視点が共通項となっています。

こうした潮流は、日本企業にとっても待ちの姿勢ではなく、各企業が主体的にAIガバナンス体制を先行的に整備する必要性を示唆しています。とりわけ、米国で規制緩和が進んだとしても、グローバルに事業を展開する企業は厳格なEUの基準に適合せざるを得ず、結果として各社ごとにAIガバナンスへの対応が不可欠となります。規制が整うのを待つのではなく、自社のリスク特性や事業戦略に即した自主的なガイドライン策定や実践を進めることこそ、生成AI時代に競争力を持つための出発点となります。

本記事では、AIガバナンスの定義とその意義を整理し、欧米の動向を踏まえつつ、日本企業にとっての戦略的視点を提示します。

AIガバナンスとは何か、その定義と目的

AIガバナンスとは、AI技術の利活用に伴うリスクを適切に抑えながら、倫理的かつ法的に妥当な形で活用するための、企業内体制・ルール・文化の総体を指します。重要なのは、AIガバナンスは「AIを制限する仕組み」と捉えるのではなく「AIを安心して使いこなすための基盤」と位置づけることです。

具体的には、公平性や透明性、プライバシー保護などに配慮した利用方針を明確にし、それを支える社内の組織体制を整備することが出発点となります。また、AIの導入や運用にあたっては、誤用の防止やデータの取り扱いに関する基準を定め、セキュリティ対策も含めたリスク管理プロセスを構築する必要があります。さらに、現場レベルでの理解と実践を支えるためには、全社員を対象とした継続的な教育や啓発活動も欠かせません。

こうした取り組みを単なる技術対策にとどめず、経営戦略と一体化させていくことが、持続的かつ競争力のあるAI活用には不可欠です。

欧米におけるAI規制の最新動向

EU:包括的なAI法による規制モデル

EUでは2024年、世界初の包括的なAI規制「AI Act」が成立し、8月に施行が始まりました。この法律では、AIを社会的リスクの大きさに応じて4つのレベルに分類し、用途ごとに異なる規制を課しています。特に人権侵害の懸念がある用途は全面的に禁止され、採用や教育、医療といった領域のハイリスクAIには、トレーサビリティ、人間による監督や説明責任、データ品質の確保といった厳格な義務が課されます。今後2年間で段階的に適用範囲が拡大され、EU域外の企業であっても、域内でAIを提供する場合は遵守が求められます。

(参照元)

・欧州連合 日本政府代表部「EU AI規則の概要

米国:リスクとイノベーションの両立を志向

バイデン前大統領が2023年に安全性や倫理に配慮したAI利用に関する大統領令を発出し、政府機関や企業に対してリスク評価や安全テストの実施を求めていました。ただし2025年に発足したトランプ政権はこの大統領令を撤回し、イノベーションを優先する新方針を示しています。これにより連邦レベルでの規制は緩やかになったものの、ユタ州やコロラド州などでは独自のAI法が次々と成立しており、州ごとの対応が必要な状況です。

(参照元)

・Reuters「Comparing EU and US AI legislation: déjà vu to 2020」「Trump revokes Biden executive order on addressing AI risks

日本:ソフトロー(法的拘束力を持たない行政指針)から法整備へ

日本では、AIそのものを直接規制する法律はまだ存在していませんが、内閣府が2019年に発表した「人間中心のAI社会原則」や、経産省・総務省による「AI事業者ガイドライン」が企業向けの指針として機能しています。2024年には、AI事業者を開発者・提供者・利用者に分けて責任を整理した新たなガイドラインが発表され、今後は法整備への移行も視野に入れて議論が進められています。

このように、EUは原則主導で法的枠組みを設けてリスクを抑制するアプローチを、米国は民間主導・実務的なリスク管理とイノベーション促進を両立させるアプローチを採用しています。対照的な手法ではありますが、いずれも企業に高い説明責任とガバナンス体制の確立を求めている点では一致しています。

企業による自主的なAI倫理指針の策定法規制だけでなく、先端企業は自主的にAI倫理原則(AIプリンシプル)を定め、開発・運用に反映させる取り組みを進めています。これらの原則は、単なる理念にとどまらず、取締役会レビューや製品開発プロセスと連動し、社会的信頼の構築に寄与しています。

  • Google(2018年):社会的有用性、公平性、安全性、説明責任、プライバシー設計、科学的卓越性など7原則を公開し、不採用領域(監視技術、武器利用など)も明示。
  • Microsoft:公平性、安全性、プライバシー、透明性、説明責任など6原則を掲げ、「Responsible AI Standard v2」や評価チェックリストを導入し、開発プロセスを制度化。
  • その他:IBM、Metaや富士通も責任あるAIに向けた原則や組織体制(倫理委員会やガバナンスオフィス)を設置。

こうした企業の取り組みは、製品開発プロセスや公開姿勢にも反映されており、生成AIへの社会的信頼構築に重要な役割を果たしています。

日米でここまで違う、日本企業の課題と遅れ

日本企業は生成AIに対して慎重な姿勢を取っているため、それが国内全体の活用を妨げている側面も見られます。MM総研の調査によれば、日本のビジネスパーソンにおけるChatGPT業務利用率はわずか7%、米国では約50%と大きな差があることが示されています。

このギャップの最大要因は経営層の意識差にあります。米国ではトップマネジメントが率先してAI戦略を主導しているのに対し、日本では一部現場での試行にとどまり、経営戦略としての全社的な展開には至っていないケースが目立ちます。ガイドラインや利用ルール未整備、リスクへの過剰な懸念による萎縮が生じています。

ガバナンスが不在なままでは、適切なリスク管理もイノベーションも進みません。

日本企業が取るべきAIガバナンス戦略

AIの恩恵を十分に受けるためには、段階的かつ実行可能なガバナンス体制の構築が必要です。以下の4つの柱を中心に、トップ主導で全社的な変革を進めることが求められます。

ガバナンス再設計の4つの柱

  • 経営主導の方針設定:トップが明確な活用ビジョンと行動原則を打ち出すこと
  • 実行組織の設置:情報システム、法務、事業部門を横断するAIガバナンス委員会などの実行体制を設けること
  • 利用ルールと教育の整備:AIツールの選定基準や入力データの取り扱い、業務利用ポリシーを明文化し、部署横断での研修とFAQ整備による現場支援を行う。
  • モニタリングと継続改善:利用ログの記録と分析、リスク事例の共有などを通じて体制をアップデートし続ける。

これらを段階的に導入することで、AIを恐れずに活用できる土壌を整備することが可能となります。

これからの企業に必要な視点

生成AIは、業務効率化にとどまらず、意思決定の質や企業価値の源泉そのものを変える可能性を秘めています。だからこそ、日本企業に求められるのは、AIガバナンスを単なるリスク管理の仕組みではなく、組織の成長戦略を支える基盤として再設計することです。

欧米で進む産業横断的な規制や実務主導の取り組みは、そのヒントを与えてくれます。経営層が先頭に立ち、部門を超えた共通のルールや価値観を組織に根付かせること。それこそが、生成AI時代を生き抜くためのAIガバナンス戦略の出発点となるでしょう。

NobishiroHômu編集部
執筆

NobishiroHômu編集部

 

AI法務プラットフォーム「LegalOn Cloud」を提供する株式会社LegalOn Technologiesの「NobishiroHômu-法務の可能性を広げるメディア-」を編集しています。

#AI

法務業務を進化させるAI法務プラットフォーム「LegalOn」

3分でわかる製品資料

LegalOnの特徴や
機能を
わかりやすくまとめています

サービス資料ダウンロード

サービスのUI画面を見ながら
操作感を気軽に体験いただけます

無料デモ体験

法改正などのお役立ち資料を無料で
ダウンロードいただけます

お役立ち資料

法務の実務に役立つセミナーを
開催しています

セミナー情報