企業法務の現状
企業法務とは、企業に関する法的な業務のことです。取り扱う業務は幅広く、大きく「臨床法務・予防法務・戦略法務」の3つの領域に分けられます。企業を取り巻く法的なリスクに対して、この3つの視点で法的なアプローチをおこない、予防や適切な対処をおこなうのが企業法務の主な役割です。一般的に企業法務は、経営陣と法務部門が担当します。
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企業における法務部門の課題
法務部門の業務は多岐にわたり、契約書の作成・法律相談・契約審査・訴訟対応などさまざまです。コンプライアンスやガバナンスが重要視される近年においては、企業を取り巻く法的リスクも多様化しており、法務部門の業務量も煩雑になっています。
なかでも契約書の作成やチェック業務は、労力と時間がかかる代表的な業務です。法的な知識も必要となることから、誰でも従事できるわけではなく、人的なリソースも不足しがちといえます。適切に業務を遂行するには、リソースの確保とともに、業務効率化を実現した環境づくりが求められます。
「リーガルテック」の活用で体制強化を図ることができる
昨今、企業法務では、「リーガルテック」が注目されています。「リーガルテック」とは、リーガル(法的な)とテクノロジー(技術)を掛け合わせた言葉で、ITを活用した法務関連サービスの総称です。
法務関連のITサービスには、様々な種類があり、AIを搭載したものも存在します。法務の業務では、契約書の作成やチェックなどの膨大なリサーチや、有事であれば訴訟などの調査対応などが必要です。企業法務にITサービスを活用することで、業務効率化や業務の質の向上を図れます。
現時点では企業法務の「完全なAI化」は難しい
AIの普及により、「AIにより仕事がなくなるのでは?」という意見を耳にする機会も増えたでしょう。しかし現在のところ、企業法務に関しては、完全なAI化は難しい現状です。
たとえば契約書のレビューや作成については、AIが得意とする分野ということもあり、すでに様々なAIサービスが登場しています。
一方で企業法務では、複雑な事情を考慮しなければならないときがあります。取引先と自社の事情をくみ取った内容で提案をしたり、相手に応じて分かりやすく説明したりするなど、AIのみで業務が完結するのは困難です。
ただAIの技術は日々進歩していることから、企業法務でもさらなる貢献に期待されます。
企業法務で役立つAIサービスの種類
企業法務で役立つAIサービスは、様々な種類が存在しますが、大きく分けると以下の2種類です。
- 契約書に関する業務を支援するAIサービス
- リサーチに関する業務を支援するAIサービス
契約書に関する業務を支援するAIサービス
まずは契約書に関する業務を支援するAIサービスです。「AI契約レビューサービス」や「AI契約書管理サービス」などが該当します。このタイプには、主に以下の2つの機能が搭載されています。
レビュー機能
レビュー機能は、AIが契約書のチェックをおこなってくれる機能です。契約書をサービスにアップロードすることで、AIが自動で契約書をチェックしてくれるため、チェック業務の時間を減らせます。
チェックできる項目や対応する契約書の種類は、サービスによって異なります。チェックが完了すると、以下のようなフィードバックを提示してくれるのが一般的です。
- リスク評価
- 条項の過不足の指摘
- トラブル例の提示
- 修正案の提示
人間がチェックをおこなう場合、担当者のスキルによってチェック精度にばらつきが生じることがあります。AIサービスは、レビューのばらつきがないため、チェック精度の質を一定に維持できることもメリットです。
契約書の管理機能
契約書の管理機能は、AIが自動的に契約書を管理してくれる機能です。アップロードした契約書は、AIが自動的に管理をおこない、必要になったらすぐに表示できます。企業法務では、過去の契約書の確認が必要なケースもあるでしょう。AIによる管理機能が搭載されたサービスを利用すれば、契約書を探す手間が省けます。
そのほか、「更新期限の通知機能」が搭載されたサービスもあります。契約書の期限が近付いたらアラートで通知してくれるため、更新漏れを防げて便利です。
リサーチに関する業務を支援するAIサービス
リサーチに関する業務を支援するAIサービスは、膨大なデータの蓄積を得意とするサービスです。企業法務では、過去の判例の調査をはじめ、様々なリサーチ業務が発生します。
しかし、これを人力でおこなうのは、多大な労力と時間を要するでしょう。リサーチに関する業務を支援するAIサービスを活用することで、リサーチ業務の労力と時間を大幅に短縮できます。AIは、より多くのデータ蓄積を得意としているため、情報量が多いほど活躍が期待できるでしょう。
企業法務にAIサービスを利用するメリット
企業法務にAIサービスを利用するメリットとしては、主に以下の5つが挙げられます。
- 企業法務の効率化を図れる
- 法務業務の属人化を防げる
- 知識を蓄積できる
- 法務部の負担を軽減できる
- ヒューマンエラーを防止できる
企業法務の効率化を図れる
企業法務でのAIサービスの活用は、業務効率化を図れることがメリットです。これまで人間がおこなっていた業務をAIが代わりに遂行してくれるため、時間と労力を大幅に減らせます。
企業法務は、契約書のチェックから他部署への法的なアドバイスまで、幅広い業務をおこないます。加えて訴訟や社内で不正が発覚した際は、緊急的な対応も必要です。可能な部分をAIサービスでまかなうことで、担当者の業務量を減らせるでしょう。
法務業務の属人化を防げる
法務業務の属人化を防げることも、AIサービスを導入するメリットです。法務業務は、法的な知識と実務経験が必要となることから、担当者によっても業務レベルが変動します。そのため、企業では業務が一定の人物に偏る属人化が起きがちです。
一方でAIサービスは、業務の質を均一化できるため、業務の属人化を防げます。加えて人間の作業で発生しがちなチェック漏れも防止できるので、チェック精度の向上にもつながります。
知識を蓄積できる
法務部で効率よく法務案件をこなすためには、知識を蓄積することが重要です。
なぜなら企業法務において、過去に作成した契約書から判例・法令などを読み取る必要があるからです。
また、ひな形からどのように契約書を作成したのか、実物を見て判断しなくてはなりません。
AIサービスがあれば、これらの知識も自動的に蓄積されます。
知識・スキルなどのナレッジが蓄積されれば、優秀な人材が育つようになり、先述した属人化防止にもつながるでしょう。
特にAIサービスの場合、作成した契約書の内容が法令違反になっていないかを確認し、問題がある箇所をピックアップしてくれるだけでなく、修正案の表示も可能です。
自分が最初に作成した契約書の中で、どの部分に問題があったのかを確認できるため、次回同様の契約書を作成する際に活かせるでしょう。
法務部の負担を軽減できる
専門性の高い分野を扱う法務部は、常にタスク処理に追われているものです。
中でも契約書の作成や加筆修正などは非常に大変な作業であり、対応するのに時間がかかってしまうこともあります。
AIサービスを導入すれば、この負担を大幅に軽減できるため、法務案件に携わっている社員のストレスを解消できるでしょう。
たとえば契約書を目視で確認する場合、チェックに時間を要します。
自社にとって不利になる条項や、法令違反となる内容が記載されていないか、細部にわたって確認しなくてはならないからです。
小さな見落としによって、クライアントとのトラブルに発展してしまい、訴訟問題に発展するリスクもあります。
このような背景があるからこそ、法務部は契約書のリーガルチェックはもちろん、作成・加筆修正などをしっかり行っています。
AIサービスがあれば、瞬時に修正箇所をピックアップできるため、目視確認の手間が省けます。
中には修正案を表示してくれるものもあり、自社とクライアント双方が納得できる契約書に仕上げられるでしょう。
また、ひな形が元々搭載されているAIサービスも多く、契約書を作成する時間も省けます。
ヒューマンエラーを防止できる
優秀な法務担当者が在籍していても、ヒューマンエラーは起こりうるものです。
特に企業法務においては、専門性の高い知識が常に求められるため、案件をこなしていく中で見落としがあってもおかしくありません。
しかし、そんな小さなヒューマンエラーが、企業間でのトラブルを招いてしまうリスクがあるため、可能な限り避けたいものです。
そこでAIサービスを導入すると、契約書作成や加筆修正などでのヒューマンエラーを防止できます。
AIサービスには各条項を自動でチェックする機能が搭載されているのが一般的です。
もし条項に問題がある場合、その部分をピックアップして知らせてくれるため、適切な形に修正できるでしょう。
また、表記ゆれや定義語のずれなどを確認できるAIサービスもあります。
目視確認をしてもヒューマンエラーを完全に防ぐことは難しいですが、AIサービスを活用すれば、限りなくゼロに近付けるでしょう。
企業法務にAIサービスを導入するデメリットや注意点
企業法務にAIサービスを導入する場合、当然ながらデメリットもあります。
また、デメリットを招かないよう注意したい点もあるので、以下で詳しく見てみましょう。
導入コストが必要
AIサービスの多くは、導入コストがかかります。
具体的な費用はそれぞれ異なるため一概には言えませんが、初期費用がかかる点は共通しています。
もちろん中には無料で利用できるAIサービスもありますが、企業法務で使用するのには機能性が低く、セキュリティ対策が不十分なものがほとんどです。
法務部で使用するためには、有料で質の良いAIサービスを選別し、コストがかかる点を承知のうえで導入しなくてはなりません。
ただし、AIサービスはコストパフォーマンスに優れていると評価されているのも事実です。
たとえば弁護士に契約書のリーガルチェックを依頼する場合、案件によっては数万円~10数万円かかる場合もあります。
AIサービスを契約書のリーガルチェックに活かせれば、このコストを削減できるでしょう。
また、AIサービスの導入によって企業の生産効率が上がれば、導入コスト以上の収益を得られる結果となります。
コストがかかるのはあくまでも一時的であり、継続して使用すればむしろ企業に利益を生んでくれるサービスとして考えるとよいでしょう。
操作方法を覚えなくてはならない
これまで操作したことの無いツール・サービスを使用する場合、一から操作方法を覚えなくてはなりません。
これはAIサービスに限らず共通している点ですが、特にこれまで契約書を紙の形で扱ってきた企業にとっては、デジタル化されたシステムに抵抗を覚えてしまう場合もあるでしょう。
しかし、現代社会に合わせて企業を発展させていくためには、AIサービスをはじめとした機能を最大限活用すべきでしょう。
操作方法を一から覚えられないと、せっかくAIサービスを導入したのに誰も使いこなせず、無駄になってしまいます。
そのため、できれば感覚的に操作できる、機能性の高いAIサービスを選びましょう。
もし不明点があった際に質問・相談ができる、サポート体制が整っているツールであれば理想的です。
感覚的に操作できる場合、導入したばかりでも法務部内で役に立つため、案件をこなすうえで役立ちます。
また、操作方法が簡単であれば、従業員への指導にあたる必要もなくなるでしょう。
操作方法をレクチャーするのに時間を要さず、感覚的に使用できるAIサービスなら、業務の妨げになりません。
特殊な契約書には不向き
基本的にAIサービスによるチェック機能は、一般的な契約書に対応しています。
そのため、特殊な条項を扱う契約書は、AIサービスで適切にチェックできない可能性があります。
たとえば前例が少ない契約書の場合、AIによって条項をチェックすることは難しくなるでしょう。
AIはあくまでもシステムに組み込まれた部分をチェックできる機能が備わっているため、イレギュラー対応ができるわけではありません。
契約書の確認は可能ですが、クライアントとの関係性やビジネスの実態など、企業法務が抱える背景事情まで理解できないのが現状です。
もちろん今後AIが進化していけば、より高性能な機能が搭載される可能性はありますが、現状では先述したような機能が限界である点は理解しておくべきです。
AIサービスを導入する前に、自社で扱う契約書に対応しているかを確認するのがおすすめです。
サービスやプランによって、対応できる契約書の種類が大きく異なります。
優れたAIサービスだとしても、自社で扱う契約書をチェックできなければ意味がないので、適切なものを選びましょう。
全ての作業をAIで行えるわけではない
AIサービスは契約書のチェック機能はもちろん、契約書のひな型があるなど、さまざまな利点があります。
これらの機能によって、法務部の負担を軽減できると先述しましたが、全ての作業をAIで行えるわけではありません。
あくまでもAIサービスは契約書の作成や修正などをサポートしてくれるものであり、最終的な判断は人間が行うことを理解しておくべきです。
もちろんAIサービスを活用すれば、一般的な視点からリスクを検出して修正案を表示できるため、ヒューマンエラーの防止効果が期待できます。
しかし、だからといって企業法務に携わったことの無い社員が、契約書を一から作成できるわけではありません。
AIサービスを使用するにしても、必要最低限の法的知識が備わっていなくては、最終判断ができなくなってしまいます。
また、AIサービスはリーガルチェックに最低なツールとして評価されていますが、ミスや見落としを完全に無くすことは不可能です。
高性能なAIでも、企業の意図や背景などを完全に理解できないため、常に法務部が求める判断ができるわけではありません。
さらに、最終的には人間による作業が必要になるので、あくまでもミスのリスクを大幅に軽減できるツールであると考えましょう。
また、法的知識は積極的に学んで知見を身に付けておき、柔軟に対応できるよう向上心を持つべきです。
AIサービスの登場によって法務業務が奪われるリスクはあるのか
先述したように、AIサービスは法務業務をこなすうえで非常に心強いツールといえます。
ヒューマンエラーの防止、企業間のトラブル防止など、さまざまなメリットが挙げられるため、近年では企業の規模を問わず導入事例が増えています。
このような状況を見ていると、今後AIサービスに法務業務が奪われてしまうのではと不安になる方もいるのも事実です。
しかし、AIサービスが法務業務を奪う事態は、少なくとも現状は考えにくいでしょう。
あくまでもAIサービスは法務業務をサポートするツールとして使用されています。
高性能であるのはもちろん、徐々に機能性が進化しているのも事実ですが、それでも完全とは言えません。
最終決定・判断は人間が行う、人間が最終チェックをするなど、AIサービスだけでは法務業務を完璧にこなせる状態ではないからです。
また、AIサービスには人間のようなコミュニケーションスキルがありません。
法務業務ではクライアントと話し合って問題を解決したり、依頼主からの相談に耳を傾けたりなど、コミュニケーションスキルが求められるものです。
このような背景を考えても、AIサービスによって法務業務が奪われる心配はないと考えられるでしょう。
現状は人間をサポートしてくれる優秀なツールという立ち位置なので、法務業務において最大限活用するのがおすすめです。
「LegalOn Cloud」でAI契約書レビューは次のステージへ
LegalOn Cloudは、AIテクノロジーを駆使し、法務業務を広範囲かつ総合的に支援する次世代のリーガルテックプラットフォームです。あらゆる法務業務をAIがカバーできるほか、サービスを選んで導入できるため、初めてリーガルテックの導入を検討する方にもおすすめです。
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まとめ
企業法務にAIサービスを活用することで、大幅に業務を効率アップさせることが可能です。契約書やリサーチに関する業務を支援してくれるため、業務の属人化も防止できます。
ただ、AIサービスは様々な法務業務を簡略化できるものの、現時点ではすべての業務をAI化することは難しい現状です。任せられる部分とそうでない箇所を整理して、うまく活用する必要があります。
自社の課題や目的に適したAIサービスを導入し、企業法務の効率アップを図りましょう。