コンサルティング契約とは
コンサルティング契約とは、ある事項や分野に関して特定の知識や経験を有している者が、その知識や経験をいかして、助言、相談、分析、指導を行うことを約束する契約です。
専門家のアドバイスを受けたり、事業の支援を受けたりするときに利用されます。
コンサルティング契約を締結する目的
コンサルタントにコンサルティング業務を依頼する場合の多くは、事業の推進や弱点の克服などを目的としています。
しかし、コンサルティング業務の特徴として、「具体的に何をしてもらうのか」「どのような方法で助言してもらうのか」がわかりにくい、ということがあります。
そのため、コンサルティングの内容、範囲、時間、費用の発生方法、目標とする効果などを、契約書で明確にしておく必要があります。契約書を作成しないと、「この業務をやってもらうはずなのに実施してもらえなかった」「業務後に追加の料金を請求された」などのトラブルが生じる可能性があります。
コンサルティング契約とアドバイザリー契約の違い
コンサルティング契約と似たものとして、「アドバイザリー契約」というものもありますが、違いはほぼありません。
アドバイザリーは「助言する」という意味ですから、コンサルティングと比較して、助言や相談がメインであると考えることはできます。
また、コンサルティング契約では、助言や相談以外にも、計画を立ててその計画に沿って事業が進むようにサポートしたり、実行の一部を担ったりすることもあります。コンサルティング業務のほうがアドバイザリー契約よりも広いといえるかもしれません。
コンサルティング契約の種類
コンサルティング契約は、その性質から、2つに分けられます。
ひとつは民法における準委任契約(655条)の類型、もうひとつは請負契約(同法632条)の類型です。
それぞれの特徴を踏まえて、適切な類型のコンサルティング契約を結ぶことが、トラブルが生じるリスクを少なくするといえます。
準委任契約としてのコンサルティング契約
準委任契約とは、法律行為ではない事務を行うことを委託する契約です(民法655条)。
法律行為とは、意思表示を要素として法的な効果を発生させる行為です。つまり準委任契約は、法的な効果を発生させない事務行為を依頼する契約、といえます。
民法第656条
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
準委任契約の場合には、委任契約(同法643条)の規定が準用されます。
何かの業務を行うことが契約の目的であり、コンサルティング契約においては、アドバイスをしたり、分析をしたり、相談を受けたりする業務をメインとする場合には、準委任契約に該当します。
請負契約としてのコンサルティング契約
請負契約とは、請け負う側が仕事を完成させることを約束し、依頼した側がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束する契約です。
第632条
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
請負契約の場合には、完成させるべき対象があり、それを完成させることが契約の目的となっている点で、準委任契約と異なります。
コンサルティング契約では、レポートや調査結果の提出をメインにしている場合や、ウェブコンサルタントがウェブサイトを作成したり、SEO対策などでウェブサイトの内容を変更したりする場合には、請負契約に該当します。
コンサルティング契約を締結する場合の例
コンサルティング契約の締結は、以下のような場合に検討されることが多いです。
- 事業の抜本的根本的な改善を図る場合
- 新規事業へ挑戦する場合
- M&Aを行う場合
- 経営に関する助言を受けたい場合
事業の抜本的な改善を図る場合
経営不振の理由がわからないまま、経営改善を目指しても上手くいかない場合が多いです。
このような場合には、経営不振の理由を明確にしたうえで、経営改善を行う必要があります。「経営不振の理由は何なのか」をコンサルタントに分析してもらい、目標を定め、経営改善を行っていく必要があるでしょう。
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新規事業へ挑戦する場合
新規事業の立ち上げをする際にも、コンサルティングを受けるケースがあります。
今までに挑戦したことのない新規事業に挑戦する際には、その事業に関する知見や経験がない場合が多いでしょう。しかし、コンサルタントは多くの事業のコンサルティングを手掛けていることから、知見が豊富です。
そのようなコンサルタントに相談し、新規事業の戦略や立ち上げのアドバイスを受けることを目的とすることも多いです。
M&Aを行う場合
M&Aを行う際には、譲渡相手との交渉やマッチング、必要書類の準備など、多くの手間がかかります。
M&Aに関する知識を持っている企業は少ないため、M&Aについての知見が豊富なM&A仲介会社などにコンサルティング依頼をする場合があります。
経営に関する助言を受けたい場合
経営が順調である場合でも、恒常的に経営に関するアドバイスを受けたいという理由でコンサルティング契約を行う場合もあります。
普段から経営に関する相談を行うことで、経営不振などを未然に防ぐことが可能です。このような場合には、月額報酬制で契約をするのが一般的です。
コンサルティング契約(業務委託契約)のレビューでお困りの方へ
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コンサルティング契約を締結するメリットとは
コンサルティング契約により、以下のようなメリットが得られます。
- 自社の課題点を見つけられる
コンサルタントが自社の分析を行う際に、新たな問題点が浮き彫りになることがあります。 - コンサルタントの技術や経験を活用できる
コンサルタントは、さまざまな企業を分析してきているため、多くの経験や技術を持っています。この技術や経験を活かすことで、解決策を見つけることも可能でしょう。 - 第三者目線での解答を得られる
社内での議論では、内部の事情を知っている者からの意見しか得られません。しかし、コンサルタントの意見は、第三者目線でのアイデアとなり、盲点を突くことができるかもしれません。 - 新しい分野の先導者を得られる
新たな事業を始めたり、事業譲渡をしたりする際に、経験豊富なコンサルタントの意見を聞くことで、円滑に進められるでしょう。
コンサルティング契約書に記載する項目
コンサルティング契約書に記載する項目は、おおよそ次のような内容です。
- コンサルティング業務の内容と範囲
- コンサルティング業務の提供方法
- 報酬
- 契約期間
- 再委託の可否
- 成果物の利用と知的財産権の帰属
- 秘密保持
- 契約の解除
- 損害賠償
- 反社会的勢力の排除
- 準拠法・合意管轄
コンサルティング業務の内容と範囲
コンサルティング業務において、最も重要な条項が、コンサルティング業務の内容と範囲です。
ここを曖昧な内容にしてしまうと、トラブルが起きる可能性が高くなります。
そのため、コンサルティング業務の内容と範囲は、できる限り明確に書くべきです。行わない業務も書いて明確にしておく、という方法もあります。
【記載例】
委託者が受託者に対して委任する業務は、下記のとおりとする。
(1)委託者の〇〇〇〇業務についての助言及び指導
(2)委託者の〇〇〇〇業務についての調査報告書の作成
(3)委託者の〇〇〇〇業務についての新規出店及び業務拡大についての計画立案
コンサルティング業務の提携方法
準委任契約によるコンサルティング業務は、どのような方法でコンサルティングを行うのか、というのが重要になります。
例えば、アドバイスをする方法は、口頭、メール、書面、定例会議を行って回答する、など様々考えられます。
また、請負契約であれば、完成させる成果物の形態(紙媒体なのかデータなのか)やその時期が重要になってきます。
これらについても細かく定めるべきです。
【記載例】
受託者は、委託者に対し、電話、メール及びインターネット上のチャット機能において、アドバイスを行うものとする。
報酬の提供方法
コンサルティング報酬の発生方法、計算方法、支払時期、支払方法等を明記します。
具体的には、まずは、コンサルティング業務の作業時間をもとに報酬を計算するのか、成果物の対価として報酬が発生するのかが問題になります。
作業時間をもとに計算する場合、時間給、日給、月給とその基準も定めます。
成果物の対価とする場合は、成果物についての報酬額を決めますが、成果物の作成にかかる実費などについてもどちらが負担するのか定めておくとトラブルになりにくいです。
【記載例】
委託者は受託者に対し、本件業務の対価として、月額300,000円(税別)を、業務が履行された月の翌月毎月末日限り、受託者の指定する口座に振り込む方法にて支払う。
契約期間
コンサルティング契約のように、一定期間継続して業務を行う場合には、その業務を行う契約期間を定めます。
そして、契約期間を定めた場合には、契約期間が満了した場合に自動的に継続するのかどうかも決めておくほうがよいでしょう。
なお、成果物があるような請負型のコンサルティング業務の場合には、成果物の提出日を定め、それを実質的な契約期間とすることもあります。
【記載例】
本契約の期間は、令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月〇日までとする。ただし、期間満了の2か月前までに、当事者双方から、書面による特段の通知がない場合は、本契約と同一の内容で、6か月間、自動的に延長し、以降も同様とする。
再委託の可否
コンサルティング業務を受けたコンサルタントが、コンサルティング業務の全部や一部を、別の者に委託することがあります。これを再委託といいます。
発注者からすれば、コンサルタントを信頼して発注しているのであって、詳細がわからない第三者に勝手に再委託されると困るという場合もあるでしょう。
民法では、委任契約において、委任者の許諾を得たときか、やむを得ない事由があるときに限って、再委託することを認めています。
そのため、再委託を禁止するのか、事前の許諾があれば再委託を認めるのか、一部の事業については許諾なく再委託を認めるのかなど、個別のケースに応じて再委託の可否を契約書に記載しておくべきです。
第644条の2
受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
【記載例】
受託者は、委任者の事前の書面による承諾を得ない限り、本件業務の全部又は一部を、第三者に再委託することができない。
成果物の利用と知的財産権の帰属
コンサルティング契約の中でも、成果物がある請負契約型の場合には、コンサルタントが作成した成果物の利用と、特許や著作権などの知的財産権をどちらに帰属させるかが問題になります。
これは、成果物の性質や、予定されている成果物の利用方法により、決め方が異なります。
例えば、コンサルタントの知見や経験を用いた調査結果の場合、著作権はコンサルタントに帰属しつつ、発注者が利用できるよう利用権を設定することもあります。
一方、成果物がウェブのページである場合などは、著作権を発注者に移転させることもあります。
【記載例】
受託者が作成する成果物の知的財産権(著作権の場合には著作権法27条及び28条に規定する権利も含む)は、成果物の作成時に、委託者に移転するものとする。また、受託者は、委託者に対し、当該成果物についての著作者人格権を行使しない。
秘密保持
ほとんどの場合、コンサルティング業務を行うために、発注者の重要な情報や機密情報をコンサルタントに渡します。
そのためコンサルタントに対し、渡した情報を第三者に漏洩しないことや、依頼したコンサルティング業務のみに利用することを約束させる必要があります。
秘密情報を広く定義したり、複製方法を限定したりといった工夫をすることもあります。
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契約の解除
解除は契約を途中で終了させることをいいます。
コンサルティング契約の解除条項は、他の多くの契約と同様の内容で定めるのが一般的です。
ただ、コンサルティング契約の場合、コンサルタントがコンサルティング業務をしなかったり、双方の信頼関係がなくなったりしたときは、業務を継続することが難しくなるため、このような事態を解除できる事由として記載する方法も考えられます。
【記載例】
当事者は、相手方に下記事項が生じた場合には、何らの催告なしに、直ちに本契約を解除することができる。
(1)双方の信頼関係が破壊された場合
(2)略
損害賠償
損害賠償とは、契約に違反した場合に生じた損害を支払うよう求めることをいいます。
損害賠償については、契約に定めなくとも、民法が適用されて損害賠償が認められることもありますが、損害の内容を民法の規定から変更したり、損害額に上限を設けたりする場合などは契約書に記載します。
発注者としては逸失利益も含めて広く損害を負わせたいと考えますが、コンサルタントとしては、もらった報酬額と同程度を上限にしたいと考えますので、契約書作成において双方でなかなか合意できない場合もあります。
【記載例】
当事者双方は、本契約に違反して、相手方に損害を与えた場合には、相手方に対し損害を賠償するものとする。ただし、損害額は、本契約の委託料の合計額を上限とする。
反社会的勢力の排除
コンサルティング契約に限らず、一般的に、契約書を締結するときには、相手方が反社会的勢力であった場合には契約を解除できる、という反社会的勢力の排除条項を記載します。
反社会的勢力とは、暴力団員等をいい、警察庁の組織犯罪対策要綱に列挙されているものを指すことがほとんどです。
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準拠法・合意管轄
こちらもコンサルティング契約に限らず、契約書には、おおよそ準拠法と合意管轄を記載します。
準拠法は、この取引に適用される法律がどの国の法律か、ということです。国内の取引であれば、日本法と記載するのが通例です。
合意管轄については、この契約に関連した紛争に限って認められる規定で、裁判手続を起こす先の裁判所を当事者で合意して決めるものです。
管轄について合意しない場合は、民事訴訟法に従って管轄が決まります。
【記載例】
本契約の準拠法は日本法とし、本契約に関する一切の紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
コンサルティング契約書に印紙は必要?
コンサルティング契約書を、電子契約ではなく紙で作成する場合には、収入印紙が必要になることがあります。
コンサルティング契約のうち、準委任契約であれば、多くの場合、印紙は不要です。
一方、請負契約の場合は、印紙税の第2号文書または7号文書に該当し、報酬額に応じた収入印紙の貼付が必要になります。
参考:「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」(国税庁)「No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで」(国税庁)
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コンサルティング契約書を作成する際の注意点
これまで、コンサルティング契約書について説明してきましたが、改めて作成する際の注意点について、説明します。
業務内容や範囲は明確に記すこと
コンサルティング業務には定型のものはないため、個々のコンサルティング業務によりその内容は様々です。
発注者は「ここまでやってくれるだろう」と期待していたのに、コンサルタントは「その業務は受けていない」と主張して争いになることはままあります。
また、コンサルタントが業務をしたが、契約外の内容であるため、あとから追加料金を請求される、ということもあります。
このようなことがないように、業務内容や範囲はしっかり記載することが何より大切です。
頻度を明確にすること
コンサルタントの業務内容は、クライアントへのアドバイスや問題の解決策を立案することにより、業績を上げることです。手段としては、メール・対面・オンラインミーティングなどを使用し、コンサルティングをする場合が多いです。
さまざまな連絡手段があると、クライアントからの連絡が頻繁になり、他のクライアントへサービスを提供できない可能性があります。そのため「オンラインミーティングを週に1回まで」「対面は月に1回まで」のように、連絡頻度を明確にし、制限をかけておくことがおすすめです。
連絡頻度の制限により、クライアントは内容を整理して伝えてくれるでしょう。
契約ごとにひな型をアレンジすること
コンサルティング契約書に限らず、すべての契約書の作成において必要なことですが、契約書のひな型をそのまま使用するのではなく、個々のケースに適した内容にアレンジします。
ひな型は、典型的な事案に沿って作成されたものであり、個々のケースについて対応しているわけではありません。
特に、コンサルティング契約は、コンサルティングの内容は多種多様で、提供方法もいろいろあります。また、コンサルティングの目的や目標も記載したほうがいいですが、当然、ひな型には目的や目標は記載されていません。
ひな型をベースに、漏れがないようにしつつも、実際に行うコンサルティングの内容に即した契約書を作成することが大切です。
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