契約書の必要性・作成する目的とは
具体的なトラブル対策を考える前に、まずは「なぜ契約書を作る必要があるのか」を確認しておきましょう。
そもそも「契約」とは、法律上の効果を生じる合意のことです。会社では取引についての合意・約束のことを契約といい、契約内容を記した書面を契約書と呼びます。
法律上、契約は原則として様式を必要としていないため、口約束だけでも契約が成立することがあります。それでも契約書を作る理由として挙げられるのは、以下の3点です。
- トラブルを未然に防止するため
- トラブル発生時のために証拠を残すため
- 契約書の作成が義務の場合もあるため
契約内容を書面として残すことは、「トラブル防止」のために重要です。口約束だけでは、記憶違いや誤解、失念などのトラブルが発生しやすくなり、後から確認することも難しくなります。
もう一つの理由は「証拠」としての機能です。万が一のトラブルで訴訟になった際には、契約書を証拠として提出することで、スムーズな解決がしやすくなります。
また契約の種類によっては、契約書の作成・交付・保存が法律で義務付けられていることにも注意が必要です。この点について詳しくは以下の記事を参照してください。
契約書について発生しがちなトラブルの種類
契約書の作成で発生しがちな4種類のトラブルと、それぞれの原因・対策について、以下に解説します。
契約書の文面の不備
契約書の文面に、単純な不備があることは契約書トラブルの典型例です。誤字脱字や文章の不備は、以下のような問題につながることがあります。
- 当事者が誰であるか分からなくなる
- 文章があいまいで複数の意味に解釈できる
- 条項の相互に矛盾がある
このような初歩的ミスは、確認不足が原因で発生するのが一般的です。契約書作成の際に、十分なチェックや確認をすることで防ぐことができます。
当事者間の理解不足・誤解
誤字脱字などの問題がなくても、当事者間の理解の違いや誤解によるトラブルは起こり得ます。
合意した内容を守る・実現することについて理解不足や誤解があると、意図した取引を正常に経過・終了することが難しくなるでしょう。
このようなトラブルの原因としては、文面が分かりにくいことなどが考えられます。契約書を作成する際には、当事者同士で文面の意味を確認しながら、分からない部分がないように作成することが重要です。
契約内容そのものに問題がある
誤字脱字や誤解がなくても、「契約内容そのもの」に問題があるケースも、よくあるトラブルとして挙げられます。当事者の一方にのみ有利な契約や、合理的な商慣習と合わない契約、会社の方針と合わない契約内容などです。
契約内容そのものが不合理では、その実行が難しくなることがあります。当事者が契約書に書かれた内容を実現しなければ債務不履行となり、損害賠償請求にもつながりかねません。
このようなトラブルを避けるために、当事者双方が契約内容を十分に確認して、それぞれの立場から不合理な部分がないようにする必要があります。必要に応じて、契約内容を調整する交渉をすることも大切です。
契約の有効性に問題がある
契約の「有効性」に問題があることが原因でトラブルになる場合もあります。例えば、記名捺印に不備があり「そんな契約書は締結した覚えがない」と相手方に主張されてしまうなどのケースです。
契約の有効性に問題があると、契約が無効と判断されてしまうこともあります。契約書が「証拠」としての機能を果たさなくなってしまう可能性もあるため、有効性には十分に気をつけなければなりません。特に以下のような問題がないか十分にチェックしましょう。
- 記名捺印の漏れなど、書類上の不備がある
- 汚損や破損があり、判読しにくい
- 後から一方的に修正したような跡がある
- 有効期限が切れている
特に「有効期限切れ」については、契約の更新時期を把握できていないことが原因になることがあります。契約書の作成を正しい方法で行うだけでなく、契約の有効期限・更新時期などを適切に管理することも重要です。
契約書を適切に作成・管理する基本手順
ここまでに紹介したようなトラブルを防ぐために、契約書はどのように作成・管理するのが適切なのでしょうか。基本となる5つの手順を以下に解説します。
1. 関係する法律について調査する
まずは取引内容に関連する法律を調査・リサーチし、注意すべき点などを把握しておくことが重要です。
契約の種類によっては法律上の規定があり、契約書の合意内容が有効とされないことがあります。また法律ではなく「判例」で契約内容が無効とされる場合もあるため注意が必要です。
関係する法律と判例について十分な調査をする社内体制がない場合、弁護士事務所に依頼するなど、専門家の助けを借りることも検討すべきでしょう。
2. 契約書のテンプレートを探す
契約書を一から作成することは作業として大変なだけでなく、法律のリサーチなどの手間もかかります。そこで、弁護士などの専門家が監修したテンプレートを参考にすることで、契約書を作成する手間を省くことが可能です。
主に書籍でさまざまな契約書のテンプレートを閲覧することができ、解説なども参照できます。トラブル予防のために、専門家の手による信頼性の高いテンプレートを探しましょう。
該当するテンプレートが見つからない場合は、弁護士事務所に依頼して作成してもらうという手もあります。
3. 取引内容に合うよう調整する ・テンプレートを自社の必要に合わせて調整する
テンプレートはそのまま使うのではなく、修正・加筆して契約書を作成することがほとんどです。汎用的なテンプレートでは、個々の取引の事情に対応しているとは限らず、不要な条項が含まれていることもあります。
有効期間・金額・取引の対象となる商品サービスについては、ほとんどのケースで書き足しや修正が必要でしょう。
商品の引き渡しやサービス利用の条件などについて、実際の取引では不要な項目や加筆が必要なものがないか、対応方針を見極めたうえで修正を行う必要があります。
4. 内容・文面の精査をする
内容・文面に間違いがないか、作成した契約書のチェックをします。契約内容の合意に至った後でも、契約締結前に契約書の文面をチェックし、必要があれば双方合意の上で修正を行うことが、トラブル回避のためには重要です。
なお最近では、法務部や担当弁護士による契約書レビュー時に補助として活用できるリーガルテックも多く提供されています。
中にはAIによる「レビュー支援機能」が搭載されたリーガルテックも存在しており、契約書レビューをする際、法務部や担当弁護士などの人間によるチェックだけでなく、補助としてAIによるレビュー支援機能を利用することもあります。
AIによるレビュー支援機能を併用するメリットは、ヒューマンエラーの防止や、業務効率の向上などです。過去の契約書との差分や細かい記載の間違いなどの確認を補助してくれるので、特に契約書の数が多い場合にメリットが大きくなります。
5. 適切に保管・管理する
契約書が完成したら、必要な時にいつでも参照できるよう整理して保管しておきます。
契約書の有効期限の管理をすることも重要です。契約書には有効期間や更新期限があり、それを過ぎてしまうと契約内容が無効になってしまうことがあります。また、中には契約期間満了の〇〇か月前に解約申請をしなければ自動更新される契約も存在するため、契約期間を把握していないと知らず知らずのうちに契約が延長されてしまうこともあります。
契約の更新時期を逃さず、遅延なく有効期間の延長交渉などに入れるように、適切に管理することが重要です。
エクセルなどで管理台帳を作る方法がよく行われていますが、現在は「契約管理システム」を使用するケースもあります。
契約管理システムとは、締結後の契約書を一元管理し、更新期限の通知や管理台帳への情報登録を自動で行ってくれるようなシステムのことです。
例えば、契約管理システムの更新時期の通知機能を活用すれば、更新期限が近い契約書を自動で表示し、アラートで期限を知らせてもらうことができます。エクセルの管理台帳を目視で確認する方法よりも期限管理の漏れを防止でき、手間を省けることがメリットです。
契約書トラブルを防ぐためのチェックポイント
契約書トラブルを避けるために、どのような点をチェックすべきなのでしょうか。特に重要な3つのチェックポイントを解説します。
分かりやすい文章・単語を使って書かれているか
基本のチェックポイントは、文章の分かりやすさです。相手が同業者だからといって専門用語を使いすぎたり、難しい単語を使いすぎたりしていないか確認しましょう。
第三者から見ても分かりやすい文章で作成することで、当事者のいずれからも理解しやすくなり、誤解によるトラブルを防止できます。誰から見ても分かりやすい文章になっているかどうか、できる限り複数人でチェックするなどして対応することがポイントです。
契約を守らなかった場合を想定しているか
契約内容がスムーズに進行した場合だけでなく、あらゆるケースを想定できているかどうかチェックすることも重要です。契約書には、取引相手が契約を守らない場合の対応などについても記載する必要があります。
例えば以下の点について、記載すべき要素の抜けがないかチェックしましょう。
- 契約内容が守られなかった場合に何を求めるのか
- 契約終了の手続きには何が必要か
- 代金の支払いはどうなるか
- 損害賠償請求の可能性や金額
このように契約書の作成においては「トラブルを避ける」ことを考えるだけでなく、万が一トラブルになってもスムーズな解決ができるようにしておくことが重要です。
必要な項目の「抜け」がないか
「記載する義務のある項目」に抜けがないかチェックすることも必要です。
契約の種類によっては、法律上の「必須項目」が規定されていることもあります。代表例は、下請法による発注内容の書面による交付(いわゆる3条書面の交付)などです。
この書面は「業務委託契約書」「請負契約書」などの契約書の形式によることができますが、契約書には発注の内容・支払い条件・発注日など定められた内容を記載し、かつ法令を遵守した内容でなければなりません。(下請代金支払遅延等防止法 第3条)
関連する法律の規定を十分に把握し、必須項目の記載漏れがないようにチェックする必要があります。
契約書トラブル防止のためにできる対策
契約書トラブルを防止するために、社内体制をどのように整えればよいのでしょうか。トラブル防止につながる4つの対策について解説します。
AIによる契約書レビュー支援ツールを導入する
契約書トラブルの防止には、AIによる契約書レビュー支援機能が有効です。
契約管理システムを導入する
契約管理システムを導入することで、有効期限の管理などがしやすくなり、期限切れなどのトラブルを防止できます。
エクセルなどで管理するよりも効率的で、アラートやダッシュボードなどの便利な機能を利用できることが、システムによる管理のメリットです。
さらに契約書チェック機能が付属するタイプや、電子署名サービスと連携可能なものなど、システム上で契約業務全般をカバーできるシステムもあります。
弁護士によるリーガルチェックを実施する
法律の専門家である弁護士によるリーガルチェックを実施することも契約書トラブルの予防のために重要です。特に重要度の高い契約書は万全を期して弁護士に依頼し、専門家によるチェックを行うケースがよく見られます。
ただし弁護士が得意とするのは、法律の規定に関するチェックです。自社の取引の特徴を踏まえた契約書チェックをしてもらうには、あらかじめ十分に自社の商品・サービス・取引の概要を伝える必要があります。
弁護士によるリーガルチェックとAIによる契約書レビュー支援を併用すると、過去に自社で締結した契約書との比較などのチェックがしやすくなり、業務効率と正確さの向上につながります。
紛争を解決したい場合は弁護士に相談する
契約書トラブルを防止しきれず、相手方との交渉が必要になった場合には、弁護士に依頼することが役立ちます。
契約書に関するトラブルから生じた紛争を解決したい場合は、社中だけで抱え込むのではなく、適切な解決方法を提示できる弁護士に相談しましょう。
AIによる契約書レビュー支援のメリット
既に紹介した「AIによる契約書レビュー支援機能」は、業務の効率化や精度向上につながり、トラブル防止に役立ちます。契約書レビュー支援機能のメリットについて、さらに詳しく見ていきましょう。
ヒューマンエラーの防止になる
AIによるレビュー支援機能を導入することで、担当者のケアレスミスなど、ヒューマンエラーによるトラブルを減らせます。
人間のチェックだけでは、一定のチェック品質を保つことが難しいことがあるでしょう。AIによるレビュー支援を利用すれば一律の基準でリスクの洗い出しをサポートしてくれるので、見落としや必要条項の抜け漏れ防止を支援し、レビューの品質を高めることも可能です。
ナレッジ管理につながる
AIによる契約書レビュー支援機能は、法務のナレッジ管理にも役立つツールです。
ナレッジ管理が適切にできていないと、特定の担当者だけが詳しい情報を持っているなどの属人的な状態が発生しがちです。特に法務の場合、ツールなどを使って工夫しなければ、ナレッジ管理が困難なケースも見られます。
リーガルチェックの負担軽減になる
AIによるレビュー支援機能は、弁護士や法務部の行うリーガルチェックの負担を減らすためにも役立ちます。
法務部や弁護士が大量の仕事を抱えている状況はありがちなことです。なかなか契約書チェックが終わらないので、締結に時間がかかるなどの悩みがある会社もあります。
AIによるレビュー支援で業務の多くを自動化することで、リーガルチェックの負担を減らすことができます。作業時間も大幅に短縮できるケースも少なくありません。
「LegalOn Cloud」でAI契約書レビューは次のステージへ
LegalOn Cloudは、AIテクノロジーを駆使し、法務業務を広範囲かつ総合的に支援する次世代のリーガルテックプラットフォームです。あらゆる法務業務をAIがカバーできるほか、サービスを選んで導入できるため、初めてリーガルテックの導入を検討する方にもおすすめです。
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