企業法務とコンプライアンスとは何か
企業法務とコンプライアンスは、企業活動において重要な役割を果たします。
企業法務とは
企業法務とは、企業の活動に関連するさまざまな法律問題に取り組むための実務を指します。具体的には以下のような業務を含みます。
- 契約書の作成、法的リスクの評価、新規事業や投資に際しての法的調査などによる法的トラブルの予防
- 訴訟活動や交渉など法的トラブル発生後の対処
- M&Aなどにおける法的知識の戦略的な活用
企業法務は、民法、会社法、労働法、知的財産法などの幅広い法律知識を活用し、法的リスクを踏まえつつ事業活動が円滑に進むよう支援したり、法的リスクの低減に務めます。また、リスクや紛争が現実化した場合の対応も行います。
コンプライアンスとは
コンプライアンスとは、企業が法令や社会規範、倫理に従って企業活動を行うことを意味します。コンプライアンスは、法令だけではなく社会規範などにも及ぶ広範な概念であるのが特徴です。具体的には以下のような規範です。
- 法令遵守(法律、自治体の条例、政府策定のガイドラインなどの遵守)
- 社会規範の遵守(社会通念上のルールやマナーなどの遵守)
- 倫理的行動(公正な取引の確保、多様性の尊重など)
企業法務とコンプライアンスは密接に関連していますが、企業法務が法律知識を活用して主に法的トラブルの解決や予防に重点を置くのに対し、コンプライアンスは法令だけでなく、社会規範や倫理の遵守と、それを実現するための社内体制の整備に重点が置かれます。
企業法務とコンプライアンスの主な違い
企業法務とコンプライアンスの主な違いをまとめると以下の通りです。
目的と焦点
企業法務
- 法的トラブルの解決や予防、法的リスクの洗い出し、リスクの評価・分析、リスクへの対応策の検討、法的知識の戦略的活用に焦点
コンプライアンス
- 法令だけでなく、社会規範や倫理全般の遵守
対象範囲
企業法務
- 主に法令に関連する事項(民法、会社法、労働法、知的財産法、自治体の条例など)
- 法的リスクの評価と管理、新規事業や投資の法的調査など
コンプライアンス
- 法令、社会規範、倫理規範を含む広範な範囲
アプローチ方法
企業法務
- 企業活動に対する法的観点からのリスク分析や対策立案、契約書の作成・審査など
- 不祥事対応、訴訟対応など
- M&Aにおける法務デューデリジェンスなど
コンプライアンス
- コンプライアンスに関するルール整備・研修の実施、内部通報制度の構築・運用、など
両者は互いに補完し合い、企業全体のリスクマネジメントを強化するために連携することが重要です。
例えば、新しい法令が施行され、または法令の改正が行われた場合、法律知識を活かして、新規事業における法的リスクの洗い出し・分析・対応策の検討を法務部門が行い、コンプライアンス部門がその遵守を確保するための社内ルールや教育プログラムを整備することが考えられます。
企業法務部門の役割と業務内容
企業法務を担う法務部門の役割と業務内容は、法的リスクを踏まえつつも円滑な事業運営を支援することです。主な業務内容は以下の通りです。
<関連記事>【専門家監修】法務とは? その役割と仕事内容・求められるスキルを徹底解説
法的リスク管理
企業法務は、主に以下の方法で法的リスクの予防と対応を行います。
- 法律相談、契約書作成・審査への対応
- 不祥事・訴訟への対応
- 最新の法改正への対応
- 法的リスクの洗い出し・評価と対応策の立案
これらの活動により、企業は法的リスクを減らし、業務運営の適正性が担保されます。
契約書の作成と審査
契約書の作成と審査は企業法務の重要な業務です。LegalOn Technologiesが実施した調査では、「法務業務で最も時間がかかっている業務」について、「契約関連」と答えた人が最多でした。
契約書の作成と審査での主な業務は以下の通りです。
<関連記事>契約書のリーガルチェックとは? ポイントやおすすめツールなどを解説
- 法的リスクの洗い出しとそれに基づく法的観点での修正
- 解釈の余地を生じさせないために、文面の分かりやすさなどの明確化・円滑化の観点での修正取引の目的や先方とのパワーバランスを考慮したビジネスの観点での修正
契約書の作成・審査の主な目的は、多角的な視点でビジネスリスクを洗い出し、そのリスクを最小限にすることです。
訴訟対応
企業法務は、紛争解決のための訴訟対応も行います。主な業務は以下の通りです。
- 訴訟戦略の立案、主張書面の作成
- 裁判所や相手方とのやり取り
- 証拠の収集と管理
企業法務は、これらの業務を通じて、適正な企業活動を支援します。
コンプライアンス部門の役割と業務内容
コンプライアンスを担うコンプライアンス部門の役割は、企業活動や従業員に法令や社会規範を遵守させ、倫理的に事業が運営される状態を確保することです。主な業務内容は以下の通りです。
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法令遵守体制の構築
- コンプライアンス推進体制の整備
- 社内規程・マニュアル等の整備
- コンプライアンス推進プログラムの作成・施行
- コンプライアンスに関する相談窓口・内部通報窓口の設置
これらの活動により、企業全体でコンプライアンスを徹底・推進するための基盤を整えます。
従業員教育とトレーニング
- コンプライアンスに関する教育・研修の実施
従業員教育は、コンプライアンスの主要な業務の一つです。全従業員に対して法令や社会規範などを遵守することの重要性を理解させ、日常業務における適切な行動を促します。
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コンプライアンス部門は、これらの業務を通じて企業が法令、業界基準、内部ポリシーなどに従って経営することについて、教育・管理を行い、企業の社会的責任を果たすための重要な役割を担っています。
企業法務・コンプライアンス担当者に必要なスキル
企業の法務やコンプライアンス部門で活躍するためには、以下のような専門的な能力が不可欠です。
幅広い法律知識の習得
法務・コンプライアンス担当者には、多岐にわたる法律の理解が求められます。これは、適切な社内規定の策定や組織体制の構築に直結するためです。
特に重要なものに以下が挙げられます。
- 会社法/民法/商法
- 労働基準法/労働契約法/労働安全衛生法
- 独占禁止法
- 著作権法/特許法/商標法 など
これらの法律に精通することで、企業活動の法的側面を適切に管理し、リスクを最小限に抑えることが可能となります。
参考記事:
企業の法務部で役立つ資格8選。法務に求められるスキルについても解説
リサーチ能力
法務・コンプライアンス担当者には、リサーチ能力が不可欠です。
主に以下のことが求められます。
- 当該企業における重要な法令の改正や新法の施行に注意を払い、最新の法令を把握する
- 新法や改正法の影響を分析し、社内規程や組織体制を適時更新する
コミュニケーション能力・文書作成能力
法務・コンプライアンス担当者は、専門家とやり取りや、書類を作成する機会があるため、コミュニケーション能力や文書作成能力も必要になります。下記に作成書類の例を挙げます。
- 契約書
- 社内での通知文書
- 官公庁への提出書類
企業経営における企業法務とコンプライアンスの重要性
これまで、企業経営における企業法務とコンプライアンスの重要性について解説してきました。改めて、企業法務とコンプライアンスに取り組む効果は以下のことが挙げられます。
リスク管理の強化
企業法務とコンプライアンスに取り組むことで、法的リスクや倫理的リスクを低減し、企業の持続可能な成長につながります。
信頼性の向上
法令遵守と倫理的行動を徹底することで、企業の社会的信頼性が向上し、ステークホルダーからの評価が高まります。
経営の健全性確保
法務部門とコンプライアンス部門が連携することで、企業の健全な運営基盤が強化されます。
企業は、法務部門とコンプライアンス部門の連携を強化し、専門家(弁護士など)の知見を活用しながら、包括的なリスク管理体制を構築することが重要です。
これにより、法的・倫理的な問題を未然に防ぎ、企業価値の向上と持続可能な成長を実現することができます。
企業を守る二つの柱
企業法務とコンプライアンスは、企業の健全な運営に不可欠な二つの要素です。
企業法務は契約書の作成・審査や訴訟対応を通じて企業を法的リスクから保護する「盾」の役割を果たします。
一方、コンプライアンスは法令遵守と倫理的行動を促す「羅針盤」として機能し、企業の社会的責任を果たすことを支援します。
この二つは密接に関連しており、両者が協力することで企業は強固な基盤を築き、持続的な成長を実現できます。特に近年は企業環境の複雑化や社会のコンプライアンス意識の高まりに伴い、法令遵守や倫理的行動の重要性が増しています。
企業の持続的な成功のためには、企業法務とコンプライアンスの両輪をバランスよく機能させることが重要です。
これにより、企業は社会からの信頼を獲得し、長期的な発展を実現することができるでしょう。
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