電子帳簿保存法とは?目的と概要
電子帳簿保存法の目的と背景
電子帳簿保存法は、正式名称を「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といい、1998年に施行されました。この法律の目的は、国税関係帳簿書類の電子保存を認めることで、企業の事務負担を軽減し、ペーパーレス化を促進することです。
デジタル化の進展に伴い、電子帳簿保存法は適宜改正され、電子保存の要件が緩和されてきました。
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電子帳簿保存のメリットとデメリット
電子帳簿保存には、次のようなメリットがあります。
- 保管スペースの削減
紙の書類の保管場所が不要になり、オフィススペースの有効活用が可能です。 - 検索性の向上
電子データは検索が容易で、必要な情報にすぐにアクセスできます。 - コスト削減
紙の書類の印刷、保管、廃棄にかかるコストを削減できます。 - 災害対策
電子データはバックアップが可能で、災害時のデータ消失リスクを軽減できます。
一方、電子帳簿保存には、次のようなデメリットもあります。
- 初期コストの発生
電子帳簿保存システムの導入には、一定の初期コストがかかります。 - セキュリティ対策の必要性
電子データの漏洩や改ざんを防ぐため、セキュリティ対策が必要です。 - 法令遵守の複雑さ
電子帳簿保存法の要件を満たすためには、適切な運用と管理が求められます。
電子帳簿保存法の対象となる帳簿書類
電子帳簿保存法の対象となる帳簿書類は、次のようなものがあります。
- 国税関係帳簿
仕訳帳、総勘定元帳、売掛帳、買掛帳、現金出納帳、固定資産台帳 - 国税関係書類
決算関係書類(貸借対照表、損益計算書など)、取引関係書類(請求書、見積書、納品書、注文書、領収書(いずれも自社発行の控えも含む)など) - 電子取引
電子取引の取引情報に係る電磁的記録(請求書、見積書、納品書、注文書、領収書など)
1. および2. の帳簿書類を電子的に保存する場合、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。また、3. については電子データでの保管が義務となります。要件には、真実性、可視性、検索性などがあり、適切なシステムの導入と運用が求められます。
電子帳簿保存法に係る書類の保管期間
国税関係帳簿書類の保管期間
国税関係帳簿書類は、原則として、その帳簿書類が該当する事業年度の確定申告書提出期限翌日から起算して7年間保存しなければなりません。ただし、欠損金額(青色繰越欠損金)が発生した事業年度の帳簿書類は10年間の保存が必要です。
なお、2023年10月1日から開始したインボイス制度により、インボイス(適格請求書)発行事業者は、仕入税額控除を受けるために適格請求書を交付した日または提供した日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から起算して7年間保管する必要があります。この保管対象には、適格請求書等、つまり請求書だけでなくインボイス制度の要件に従って必要項目を網羅した領収書や納品書なども含まれます。
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スキャナ保存制度について
スキャナ保存制度の概要と要件
スキャナ保存制度とは、一定の要件を満たした上で、請求書、領収書などの国税関係書類をスキャナで読み取り、電子データとして保存することを認める制度です。2022年の法改正により要件が緩和され、導入しやすくなりました。なお、スキャナ保存の要件には、解像度、カラー、タイムスタンプ、入力者情報の付与などがあります。
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スキャナ保存の適用時期と承認申請手続き
スキャナ保存は、原則として、スキャナ保存を開始する事業年度の開始の日の3ヶ月前の日までに、所轄税務署長に対して承認申請書を提出し、その承認を受けた日から適用されます。承認申請書には、スキャナ保存の対象となる書類の種類、保存方法、保存場所などを記載する必要があります。
2022年1月施行の改正内容
電子取引データの保存義務化
2022年1月1日以後に行う電子取引については、取引データの保存が義務化されました。電子取引とは、取引情報の授受が電磁的方式で行われる取引を指し、EDI取引、インターネット取引、クレジットカード取引などが該当します。保存対象となる電子取引データには、取引の相手先、内容、金額等の情報が含まれます。
重要書類のスキャナ保存要件緩和
2022年1月1日以後に行われるスキャナ保存について、一定の重要書類の保存要件が緩和されました。具体的には、適時入力要件が撤廃され、受領者の署名や押印のない請求書等についても、スキャナ保存が可能になりました。ただし、タイムスタンプの付与や入力者情報の保存などの要件は引き続き必要です。
電子帳簿保存におけるタイムスタンプ要件
2022年1月1日以後に行う電子帳簿保存について、タイムスタンプの付与要件が見直されました。主な変更点は以下のとおりです。
- タイムスタンプの付与期間が「おおむね3営業日以内」とされていたのが「最長約2ヵ月とおおむね7営業日以内」に延長
- 受領者等がスキャナで読み取る際に行う国税関係書類への自署が不要に
- 訂正または削除した場合の内容を確認することができるシステムを利用し、その入力期間内に記録事項を入力したことを確認することができる場合にはタイムスタンプの付与に代えることができるように
2023年10月施行の改正内容
2023年10月1日以後に行う電子帳簿保存について、電子帳簿等保存制度が見直されました。具体的には、電子帳簿の保存要件の一部が緩和され、国税関係帳簿書類の電子保存がより容易になりました。また、電子取引データの保存要件についても、一部見直しが行われています。
優良電子帳簿保存法義務者制度の創設
2023年10月1日以後、優良電子帳簿保存法義務者制度が創設されました。この制度は、一定の要件を満たし、税務当局に申請した事業者を優良電子帳簿保存法義務者として認定し、電子帳簿保存に関する要件を一部緩和するものです。これにより、電子帳簿保存の適正性を担保しつつ、事業者の事務負担の軽減が図られます。
スキャナ保存に関する要件の緩和
2024年1月1日以降にスキャナ保存される国税関係書類に関して、要件の緩和が適用されます。具体的には、
- 解像度・階調・大きさに関する情報の保存が不要
- 入力者等情報の確認要件が不要
- 帳簿との相互関連性の確保が必要な書類が重要書類に限定
という3点です。
電子取引データ保存の柔軟化
従前は、電子取引データは、原則として、国税関係帳簿書類と同様の保存要件に従って保存する必要がありましたが、改正後は、一定の要件の下で、国税関係帳簿書類とは異なる方法での保存が認められるようになりました。これにより、事業者の実情に合わせたデータ保存が可能になります。
電子帳簿保存法違反による罰則規定
電子帳簿保存法違反の罰則内容
電子帳簿保存法に違反した場合、税務上の罰則が適用されます。具体的には、次のような罰則があります。
- 電子帳簿保存法の要件を満たさずに電子保存を行った場合:青色申告の承認の取消し、又は無申告加算税・重加算税の適用
- 電子取引データの保存義務に違反した場合:青色申告の承認の取消し、又は重加算税の適用
- 電子帳簿保存法の要件を満たさない電子保存を行い、税務調査に応じない場合:検察官への告発
過去の電子帳簿保存法違反事例
過去には、電子帳簿保存法違反によって、次のような事例が報告されています。
- 電子帳簿保存の要件を満たさずに電子保存を行い、青色申告の承認が取り消された事例
- 電子取引データの保存を行わず、重加算税が課された事例
- 電子帳簿保存の要件を満たさない電子保存を行い、税務調査に応じなかったため、検察官に告発された事例
電子帳簿保存法違反を防ぐためのポイント
電子帳簿保存法違反を防ぐためには、次のようなポイントに注意が必要です。
- 電子帳簿保存法の要件を正確に理解し、適切なシステムと運用体制を整備する
- 電子取引データの保存義務を遵守し、適切なデータ保存を行う
- 定期的に電子帳簿保存の運用状況を点検し、不備があれば速やかに改善する
- 税務調査には誠実に対応し、必要な書類と説明を提供する
電子帳簿保存の運用における注意点
電子帳簿のデータ形式と保存方法
電子帳簿保存を行う際は、次のようなデータ形式と保存方法に注意が必要です。
- データ形式
電子帳簿のデータ形式は、国税庁が定める標準フォーマットに準拠する必要があります。 - 保存方法
電子帳簿は、その記録事項の入力・訂正・削除の都度、整然とした形式で保存する必要があります。 - 保存場所
電子帳簿は、税務当局による検査に備えて、国内に保存する必要があります。
システム障害や災害対策としてのバックアップ
電子帳簿保存を行う際は、システム障害や災害によるデータ消失に備えて、適切なバックアップ体制を整備する必要があります。具体的には、次のような対策が求められます。
- 定期的なバックアップの実施
電子帳簿のデータを定期的にバックアップし、複数の媒体に保存する。 - バックアップデータの保管
バックアップデータは、電子帳簿とは別の場所に保管し、災害時にも利用可能な状態にしておく。 - バックアップ体制の点検
バックアップ体制の有効性を定期的に点検し、不備があれば速やかに改善する。
電子帳簿保存に関する社内規程の整備
電子帳簿保存を適切に運用するためには、社内規程の整備が不可欠です。社内規程には、次のような事項を定めておく必要があります。
- 電子帳簿保存の対象となる書類の範囲
- 電子帳簿保存の要件を満たすための運用ルール
- 電子帳簿保存の責任者とその役割
- 電子帳簿保存に関する教育・訓練の実施方法
- 電子帳簿保存の運用状況の点検・監査方法
社内規程を整備し、適切に運用することで、電子帳簿保存法違反のリスクを低減し、円滑な電子帳簿保存を実現することができます。
電子帳簿保存システムの選定ポイント
電子帳簿保存法の要件を満たすシステム機能
電子帳簿保存システムを選定する際は、電子帳簿保存法の要件を満たすシステム機能を備えているかどうかが重要なポイントになります。具体的には、次のような機能が求められます。
- タイムスタンプ機能
電子帳簿の記録事項の入力・訂正・削除の都度、タイムスタンプを付与する機能。 - 検索機能
電子帳簿の記録事項を検索できる機能。 - 見読可能装置の備え付け
電子帳簿の記録事項を、ディスプレイやプリンタ等で見読可能な状態にする機能。
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導入コストとランニングコストの比較検討
電子帳簿保存システムの選定に当たっては、導入コストとランニングコストを比較検討することが重要です。自社でシステムを構築する場合は、初期の導入コストが高くなる一方、ランニングコストは比較的低く抑えられます。
一方、クラウドサービスを利用する場合は、初期の導入コストは低く抑えられる一方、ランニングコストは比較的高くなります。自社の予算や体制に合わせて、最適なシステムを選定することが求められます。
電子帳簿保存の導入ステップと効率化ツール
電子帳簿保存導入の具体的なステップ
電子帳簿保存を導入する際は、次のような具体的なステップを踏むことが求められます。
- 現状の分析
現在の帳簿書類の保存状況を分析し、電子帳簿保存の対象範囲を明確にする。 - 要件の確認
電子帳簿保存法の要件を確認し、自社で満たすべき要件を明確にする。 - システムの選定
自社の要件に合ったシステムを選定し、導入計画を立案する。 - 運用体制の整備
電子帳簿保存の運用体制を整備し、社内規程を整備する。 - 教育・訓練の実施
電子帳簿保存の運用に関わる従業員に対して、教育・訓練を実施する。 - 試行運用の実施
本格運用の前に、試行運用を実施し、問題点を洗い出す。 - 本格運用の開始
試行運用の結果を踏まえ、本格運用を開始する。
電子帳簿保存の運用フローの設計と見直し
電子帳簿保存を適切に運用するためには、運用フローを適切に設計し、定期的に見直すことが重要です。運用フローの設計に当たっては、次のような点に留意が必要です。
- 各部門の役割分担を明確にする。
- 帳簿書類の受領から電子保存までの一連の流れを明確にする。
- 電子帳簿の承認プロセスを明確にする。
- 電子帳簿のバックアップ方法と保管ルールを明確にする。
運用開始後は、定期的に運用状況を点検し、問題点があれば速やかに改善することが求められます。また、法令改正や業務変更等に合わせて、運用フローを柔軟に見直すことも重要です。
電子帳簿保存法の保管期間と改正点のポイント
本記事では、電子帳簿保存法の保管期間について、国税関係帳簿書類、証憑書類等、電子取引データ、スキャナ保存制度の観点から詳しく解説しました。また、2022年1月と2023年10月に施行された(予定の)改正内容についても解説し、電子帳簿保存を取り巻く最新の動向を紹介しました。
電子帳簿保存の注意点と運用における留意事項
電子帳簿保存を適切に行うためには、電子帳簿保存法違反の罰則規定を理解し、データ形式や保存方法、バックアップ体制、社内規程の整備等に十分な注意を払う必要があります。
特に、電子取引データの保存義務化等の改正内容については、適切に対応することが求められます。
スムーズな電子帳簿保存の導入と効率化の重要性
電子帳簿保存を導入する際は、自社の要件に合ったシステムを選定し、適切な導入ステップを踏むことが重要です。運用フローを適切に設計・見直しすることで、電子帳簿保存の運用を効率化することができます。
電子帳簿保存は、単なる法令遵守の手段ではなく、業務の効率化やペーパーレス化を推進するための重要な取り組みです。本記事を参考に、自社の実情に合った電子帳簿保存の仕組みを構築し、適切な運用を行っていただければ幸いです。
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