IPOで監査法人が必要となる理由
監査法人とは公認会計士法に基づき、設立された法人のことです。設立には5人以上の公認会計士を必要とし、企業の財務報告の監査をおこないます。IPO(新規株式公開)を目指す企業にとって、監査法人の関与が不可欠です。IPOでは一般投資家から資金を調達するため、財務諸表が正確かつ適正に作成されていることが求められます。監査法人は投資家に対して、企業の財務情報の信頼性を保証します。
IPOで監査法人が必要となる理由は以下の4点が挙げられます。
上場審査の要件を満たすため
IPOを目指す企業は、証券取引所による上場審査を受ける必要があります。この審査には「過去2期分の監査済財務諸表の提出」や「内部統制報告書(J-SOX)の監査」が含まれており、これらは法律や証券取引所規則に基づく必須要件です。
監査法人による意見がなければ、審査書類として受理されず、審査そのものが進まないため、IPOは実現不可能となります。このように、監査法人の関与は、IPOを進める上での「前提条件」であると言えます。
財務諸表の信頼性を保証するため
IPOでは、企業が一般投資家に対して株式を公開し、資金を調達します。その際、開示される財務情報に対する「信頼性」は極めて重要です。
監査法人は、企業の財務諸表が企業会計基準に従って適正に作成されているかを外部の立場から監査し、監査報告書で「適正意見」を付すことでその信頼性を保証します。これにより、投資家は安心して企業の財務状況を判断でき、健全な資本市場の形成が可能となります。監査なしでは財務の真偽を投資家が判断できず、IPO自体の意義が損なわれます。
企業内部のガバナンス体制を整備するため
監査法人は、単に財務諸表の形式をチェックするだけでなく、企業の内部統制体制やガバナンスにも関与します。IPO準備の過程で監査法人と連携することで、経理処理の透明性や正確性、業務プロセスの整備、決算早期化などが進みます。
これにより、上場後に求められる開示対応や社内管理がスムーズに機能し、社内体制の強化にもつながります。監査を受けることで、外部専門家の視点から経営の問題点が可視化され、持続可能な企業経営への一歩となります。
上場後を見据えた継続監査体制の構築
IPOは企業にとってゴールではなくスタートであり、上場後は毎年の財務諸表監査および内部統制監査が法的義務となります。IPO準備段階から監査法人と連携し、継続的な監査体制を構築することで、上場後もスムーズにガバナンス対応や開示業務を継続できます。
また、監査法人は上場後も企業の変化に応じた助言や監査を行うため、信頼できるパートナーとしての関係が必要不可欠です。早期の監査導入は、上場後の安定経営の礎にもなります。
監査法人の役割
監査法人の主な役割は、「監査証明業務」と「非監査証明業務」の2つです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
監査証明業務
監査証明とは、企業の決算書や財務諸表などの財務報告書が、正しく作成されているかをチェック・証明する業務です。監査法人は監査結果を「監査報告書」としてまとめ、依頼した企業に提出します。主な監査業務としては、以下のようなものです。
- 金融取引法に準ずる監査
- 会社法に準ずる監査
- 子会社などに関する任意の監査
そもそも公認会計士による監査は、会社法や金融商品取引法にて、資本金5億円以上の大会社など特定の企業に義務付けられています。IPOにあたっては証券取引所の規定により、金融取引法に準ずる監査の実施が必要となるのが一般的です。
非監査証明業務
非監査証明業務とは、監査法人が行う監査証明以外の業務です。企業活動のサポートを目的としたもので、以下のような業務をおこないます。
- 適切な会計処理に関するアドバイスやサポート
- 内部統制の構築・整備に関するアドバイスとサポート
- IPOに関するサポート
- 危機管理体制の構築におけるアドバイス
- 人材育成をはじめとする事業計画のアドバイス
監査法人では会計をはじめ、様々な企業活動のコンサルティングを実施しています。依頼できる業務は監査法人によって異なりますが、M&Aなどの範囲まで取り扱うところもあります。
IPOの際に監査法人が行う業務
監査法人がIPOの際に行う業務としては、以下のようなものが挙げられます。
ショートレビュー
ショートレビューとは、企業が抱える課題・問題点を洗い出す業務です。短期調査とも呼ばれ、IPOを実施するときは以下のような事項を調査します。
- 経営体制の状況確認
- 事業計画のチェック
- 予算管理体制の状況確認
- 会計体制に関する状況確認
- 資本政策の内容のチェック
監査法人は調査結果を報告書にまとめ、企業に対して改善に関するアドバイスをおこないます。IPOには適切な管理体制での運用実績も求められるため、問題点がある場合にはアドバイスにもとづき、適切な管理体制への早期改善が必要です。
財務諸表の監査
IPO時には原則として、上場申請直前々期(N-2)と直前期(N-1)の監査証明が必要です。IPOを目指す際は監査法人に依頼して、監査の実施および監査報告書の作成をしてもらうわなければなりません。
財務諸表の監査では企業に対して、会計処理に関する修正・アドバイス・指導を行うのも監査法人の役割です。IPOを目指す企業はアドバイスや指導をもとに、適切な会計処理体制の構築に努めます。
内部統制・管理に関する助言や指導
内部統制や管理体制に関する助言や指導を行うのも、IPO実施時の監査法人の役割です。IPO時には証券取引所が企業の内部統制についてチェックするため、適切な体制を構築しておく必要があります。監査法人から指摘があったときは、早急に改善を図りましょう。
コンフォートレターの作成
IPOにおけるコンフォートレターとは、主幹事証券会社に提出する書簡のことです。監査法人が株式や社債に関する内容を報告書としてまとめ、主幹事証券会社に提出します。
なお、主幹事証券会社は、IPO時に引受責任を果たすことになる証券会社です。主幹事証券会社はコンフォートレターをもとに、有価証券報告書のチェックや引受審査を実施します。
IPOを支援する監査法人一覧
IPOを支援する監査法人は、一般的に以下のように分けられます。
- 大手監査法人
- 準大手監査法人
- 中小監査法人
それぞれ、どのような法人かを説明します。
大手監査法人
グローバルに展開する国際会計事務所ネットワークに属しており、上場企業を中心に多数のクライアントを抱えています。
- 有限責任 あずさ監査法人(KPMG Japan)
- 有限責任監査法人トーマツ(Deloitte Japan)
- EY新日本有限責任監査法人(Ernst & Young Japan)
- PwCあらた有限責任監査法人(PricewaterhouseCoopers Japan)
準大手監査法人
準大手監査法人は、大手監査法人に次ぐ規模と専門性を持ち、中堅・成長企業、IPO支援、公益法人監査などが強みです。
- 太陽有限責任監査法人(Crowe Japan)
- 仰星監査法人
- 東陽監査法人
- 三優監査法人
中小監査法人
中小監査法人は、大手に比べて組織規模は小さいものの、柔軟な対応や地域密着型のサービスに強みがあります。クライアントとの距離が近く、経営課題に寄り添った支援が可能で、特にスタートアップや中堅企業にとっては有益です。
地方企業にとっては、コスト面や地理的利便性から導入しやすい選択肢でもある一方、監査品質や体制にはばらつきがあることもあり、特にIPOを目指す場合は監査法人の実績や継続的な対応力を慎重に見極めることが重要です。
IPOで利用する監査法人のおすすめの選び方
監査法人は、自社に適したところを選びましょう。以下は、監査法人のおすすめの選び方です。
実績で選ぶ
IPOで利用する監査法人は、実績が豊富なところを選ぶのがおすすめです。ノウハウが蓄積されているので、様々な事態に対応しやすく、準備をスムーズに進められるでしょう。実績を確認するときは、以下のポイントをチェックします。
- 業務年数
- IPOに関する実績
- 監査に関する事例
IPOの実績や同業他社の支援実績が豊富であれば経験が豊富な分、準備において有利に働くでしょう。
専門的な知識を有しているかで選ぶ
専門知的な知識を有しているかどうかも、監査法人選びの重要なポイントです。監査法人は、財務諸表や内部統制に関するアドバイス・指導をおこないます。IPOをスムーズに進めるには、上場に関する専門的な知識が必要です。
IPOに関する専門的な知識を有する監査法人に依頼することで、準備をスムーズに進められるでしょう。
監査法人の規模で選ぶ
依頼する監査法人は、規模で選ぶのも選択肢の一つです。規模ごとのメリットとしては、以下のようなものが考えられます。
- 大手監査法人:それぞれの専門部署があり、幅広い業務に対応できる
- 準大手監査法人:対応できる範囲は大手より狭まるが、スピード感のある対応が期待できる
- 中小監査法人:自社ニーズに沿った柔軟な対応が期待できる
ただし上記は、あくまでも想定される目安となるものです。実際に利用する際は、自社の求めるものを提供してくれるか、確認したうえで選びましょう。
IPOに向けた監査に関する報酬
IPOに向けた監査では、準備段階から本監査まで段階的に報酬が発生します。
ショートレビュー(簡易調査)の報酬
IPO準備初期段階では、正式な監査契約の前に「ショートレビュー」が実施されることがあります。報酬相場は100万~300万円程度で、企業の規模や論点の複雑さによって変動します。
監査導入初年度の報酬
初年度の監査では、過年度(通常は過去2期分)の財務諸表を遡って監査する「遡及監査」や、経理・内部統制体制の整備支援が中心です。企業によっては、決算制度の見直しや会計方針の統一などの準備作業が必要となるため、負荷が高く報酬も上がりがちです。相場は500万~800万円が一般的です。IPO準備において重要な基盤を築くフェーズであり、会計インフラの整備が進みます。
直前期監査(本監査+J-SOX)の報酬
上場直前期には、通常の財務諸表監査に加え、内部統制監査(J-SOX対応)が求められます。審査対象年度の財務諸表に対して「適正意見」が得られることが、上場審査通過の必須条件となるため、監査法人も慎重かつ徹底した監査を行います。この段階では監査範囲が広く、報酬は1,000万~2,000万円程度ですが、それ以上になるケースもあります。
報酬の変動要因
IPO監査の報酬は定額ではなく、様々な要因により変動します。たとえば、企業の売上規模や総資産、子会社や海外拠点の有無、業種特有の会計処理の難易度、内部統制の整備状況などが挙げられます。また、監査法人の規模によっても単価に差があります。これらの要因を総合して見積もりが提示されるため、複数法人を比較検討するのがおすすめです。
IPOを行う流れ
IPOまでには様々な業務が発生しますが、大まかには以下のような流れで進めていきます。
監査法人の選定
まずは、監査法人を選定します。IPOには2期分の監査報告書が必要となるため、できる限り早い段階で選定しておきましょう。選定後はショートレビューを受け、問題点の改善や適切な体制づくりを図ります。
主幹事証券会社を決定
内部統制や管理体制の構築ができたあとは、主幹事証券会社を決めましょう。主幹事証券会社は、IPOにおいて中心的な役割を担う存在です。主幹事証券会社には様々な証券会社が存在するので、実績や支援体制などを確認したうえで選びましょう。
主要株主から了承を得る
IPOを実施するときは、株主や取引銀行から了承を得なければなりません。IPOを実施すると株式は電子化されることになり、場合によっては上場の前後で保有割合が変わることもあります。IPO実施時には、株主にたいしてこれらの事項について了承を得る必要があります。
印刷会社の決定
IPOでは、印刷会社も決める必要があります。IPO申請の際は、有価証券報告書をはじめ、各種申請書類の印刷と作成が必要です。印刷会社は印刷や作成に必要なツール・システムの提供、チェックを担当します。IPOをスムーズに進めるには、IPOの実績が豊富な印刷会社を選びましょう。
株式事務代行機関の設置
IPO後には、株式事務代行機関の設置が必要です。株式事務代行機関は企業の代わりに、株主名簿の管理・株主総会の運営などをおこないます。主な株式事務代行機関としては、信託銀行などが挙げられます。
IPOをスムーズに進めるためのポイント
IPOをスムーズに進めたいときは、以下のポイントをおさえておきましょう。
- 内部統制や管理体制は早めに整備しておく
- 審査に通りやすいよう事業計画は合理的な内容にする
- 監査法人や主幹事証券会社は自社に合ったところを選ぶ
IPOには専門的な知識と経験が必要となり、様々な業務が発生します。上記のポイントをおさえておくことで、準備をスムーズに進めやすくなるでしょう。
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まとめ
監査法人は、IPOに必要な監査報告書を作成するのが主な役割です。企業の会計監査を実施し、結果をまとめて報告書を作成してくれます。また監査法人によっては、IPOに向けたアドバイスやサポートを行うところも存在します。
ただし提供する業務やサポート内容は監査法人によって異なるため、自社に合ったところを選ぶことが大切です。自社に適した監査法人を利用し、IPOを実現させましょう。