ベンチャー・スタートアップ企業における顧問弁護士の必要性
スタートアップ企業・ベンチャー企業であっても、顧問弁護士の重要性は高いといえます。事業を急速に成長させていく必要があるこうした企業において、法的リスクは回避するだけものもではなく、時にはあえてリスクテイクしていくことが必要な局面があり、そうした場面での経営判断には、信頼できる法的アドバイスが欠かせないからです。
一方で、スタートアップやベンチャーなどの新興企業は、社内に法務部門を置くことはリソース的に難しい場合があります。より低コストで法務サービスを提供してもらえる可能性がある顧問弁護士の存在は、スタートアップ企業やベンチャー企業にとって有力な選択肢の一つであるといえます。
ベンチャー・スタートアップ企業が直面する法務課題
スタートアップ企業・ベンチャー企業は、成長企業ならではの法務課題に直面する場合があります。とくに注意が必要なのが、次の2点です。
- シードステージからミドルステージまでの成長フェーズごとの法務課題
- 技術発展に伴う法律の変化と対応
シードステージからミドルステージまでの成長フェーズごとの法務問題
スタートアップ企業・ベンチャー企業では、成長フェーズによって法務問題が変容していくのが特徴です。フェーズごとに注意したいポイントは、次の通りです。
シードステージにおいて顧問弁護士が必要となり得る場面
シードステージでは、主に以下の事項において顧問弁護士などによる法務知見が求められます。
- 会社設立(定款作成)
- 創業者間契約
- ビジネスの適法性チェック
- 各種リーガルドキュメントの整理
- 資金調達に伴う登記業務
- 許認可の取得(規制業種の場合のみ)
- 商標権や特許権に関する調査・取得 など
シードステージはとくに人員不足であることも影響し、法務業務をすべて内製するのは簡単ではありません。ビジネスの適法性を確保し、資金調達をスムーズに進めるためにも、顧問弁護士のサポートが必要となります。
アーリーステージ
アーリーステージでは、主に次の業務が法務に関連します。
- リーガルチェック体制の整備
- PR資料や営業資料、広告などの適法性チェック
- 知的財産権の管理
- ストックオプションの制度設計
- 就業規則の整備
- 労務体制の整備
- 情報管理体制の整備 など
シードステージよりも事業が成長しているフェーズであることから、法務に関しても管理が複雑化し、課題が増加するのが特徴です。シートステージよりも、顧問弁護士の必要性が高いといえます。
ミドルステージ
ミドルステージでは、アーリー期間において課される法務課題に加えて、次の2点への対応が必要です。
- IPO(株式上場)準備
- 英文契約書の準備(外資系VCから出資を受ける場合)
- M&Aの実施検討
- 新規事業の適法性チェック
より法務の専門性が高くなるため、顧問弁護士への相談はもちろん、IPOコンサルティング会社からのサポートを受ける場合もあります。このフェーズに入ると、社内に法務責任者を置くことも増えてくるでしょう。
このように、シードステージ・アーリーステージ・ミドルステージと段階を経るごとに、法務の重要性・専門性が高まり、顧問弁護士の必要性も高まっていくといえます。
技術発展に伴う法律の変化と対応
スタートアップ企業が課題解決に取り組むのは新たなビジネス領域であり、そうした分野ではまだ十分に法整備がされておらず、新法制定や法改正が盛んに行われる場合があります。それに対し、企業は柔軟に対応しなければなりません。
新たなルールをキャッチアップし、早急に対応するためにも、顧問弁護士のサポートが必要になる場面が多いといえます。
スタートアップ企業における顧問弁護士の役割と活用方法
ベンチャー・スタートアップ企業における顧問弁護士の役割と活用方法について、次の4点に沿って解説します。
- ビジネスモデルの適法性調査
- 契約サポートと資金調達サポート
- 知的財産権の管理
- 労務関連の整備
ビジネスモデルの適法性調査
特にスタートアップ企業では、これまでにない新たなビジネスモデルを展開することが多いため、適法性に問題がないか調査が必要です。中でも医療や金融などの規制産業においては、法的リスクを徹底して管理することが求められます。
顧問弁護士と契約している場合、ビジネスモデルと法規制との整合性を細かく調査してもらえるため、法的リスクをできる限り回避可能です。
契約サポートと資金調達サポート
日本政策金融公庫や投資家への投資交渉をはじめ、ベンチャーキャピタルとの投資契約、銀行との融資契約など、さまざまなシーンで法的アドバイスを提供します。
顧問弁護士によるサポートがあれば、不利な投資契約に悩むこともありません。
知的財産権の管理
新たなビジネスを展開しながらも、知的財産権の管理が疎かな場合、サービスが模倣されるリスクもゼロではありません。
顧問弁護士は、商標権や特許権などの出願登録、他社の登録状況の確認、知的財産権に関連する契約書作成などを包括的にサポートし、企業価値の最大化に貢献します。
労務関連の整備
ベンチャー企業・スタートアップ企業のような急成長中の企業では、労務関連の管理まで行き届かないことも見られます。行政からの指導や罰則などを受けないためには、労務における法的課題への対応をプロに依頼するのが効果的です。
顧問弁護士に労務関連の整備を任せることで、就業規則や雇用契約書などの作成・リーガルチェック、IPOをも見据えた体制構築まで円滑に進むでしょう。
ベンチャー・スタートアップ企業に適した顧問弁護士の見つけ方
ベンチャー企業やスタートアップ企業に適した顧問弁護士は、次の方法で見つけましょう。
- インターネットを活用する
- 経営者ネットワークを活用する
- 弁護士会を利用する
インターネットを活用する
インターネットで検索し、顧問弁護士や所属する法律事務所のホームページを確認するのはひとつの手段です。「金融 弁護士」「ベンチャー 弁護士」などと条件を絞って検索できるため、自社のニーズに沿った弁護士を素早く探すことができます。
経営者のネットワークを活用する
経営者仲間のネットワークを活用すれば、弁護士に関する信頼性の高い情報を集められる場合があります。すでに顧問弁護士と契約している経営者がいれば、実際に依頼してみてどうだったかといったリアルな口コミも得られるでしょう。
しかし、信頼できる人に紹介してもらったからといって、自社にマッチした弁護士とは限らない点に注意が必要です。
弁護士会を利用する
各都道府県にある弁護士会では、弁護士紹介サービスを提供しています。その地域で活躍する弁護士を紹介してもらえるため、地域に根ざしたサービスを展開するベンチャーの場合にはとくにおすすめです。
料金もかからないため、周辺地域で探している場合には助かります。
顧問弁護士を選ぶ際のポイント
最後に、ベンチャー企業が顧問弁護士を選ぶ際のポイントを4点紹介します。
- 業務経験と法務知識は豊富か
- ベンチャー・スタートアップに精通しているか
- 顧問業務の範囲と料金は明瞭か
- コミュニケーションは円滑か
業務経験と法務知識は豊富か
企業法務の経験や知識が豊富で、幅広く法務業務に対応できる弁護士を選びましょう。ベンチャー企業やスタートアップ企業の場合、基本的な法務業務に対しても、社内では対応が難しい場合があるためです。
ベンチャー・スタートアップに精通しているか
投資契約の交渉や知的財産権の保護、法改正・規制への対応といった、ベンチャー・スタートアップ企業において特に重要な課題に対し、十分に精通している弁護士を選びましょう。
業界特有のリスクや課題について把握している弁護士であれば、専門性を活かして適切な法的サポートを提供できます。
「有名な法律事務所だから」と、名前を知っている事務所へ安易に依頼するのは避け、自社に合っているかに焦点を当てて弁護士を選びましょう。
顧問業務の範囲と料金は明瞭か
月額料金内でどの業務までを依頼できるのか、わかりやすく提示してくれる弁護士を選びましょう。
契約内容が曖昧なサービスの場合、思わぬ追加費用が発生するなどトラブルにつながります。顧問料でどこまで対応するのか、別途料金が必要な業務は何か、契約前に慎重に確認してください。
コミュニケーションは円滑か
顧問弁護士を選ぶ際には、コミュニケーションをスムーズにとれるか確認しましょう。
顧問弁護士は、平時より法務についてアドバイスをくれる存在です。いつでも相談できることで、法的トラブルへも早急に対応できます。
コミュニケーションが円滑でない場合、相談しづらくなるだけでなく、信頼関係も構築できません。レスポンスは早いか、説明はわかりやすいか、親身になってくれるかなど、コミュニケーションの取りやすさを比較して弁護士を選びましょう。
また、電話やメールだけではレスポンスが遅れることも考えられます。チャットツールやオンライン会議ツールなど、コミュニケーション手段が豊富かどうかも確認しておきましょう。
まとめ
企業直後、新たなビジネスを急速に発展させる局面では、専門家の手を借りずに法務リスクに万全に備えることは困難です。ベンチャー企業やスタートアップ企業ならではの法務課題を解決するには、顧問弁護士へ依頼するのは有効な選択肢の一つでしょう。
顧問弁護士の選定に迷った場合、企業法務の経験は豊富か、ベンチャーやスタートアップ企業について精通しているか、コミュニケーションは取りやすいかなどをひとつずつ確認し、自社に合った顧問弁護士か判断してください。
顧問弁護士に相談する以外に、リーガルテックが提供するAIサービスを活用することも、法務体制の強化には有効です。LegalOn Cloudは、AIテクノロジーを駆使し、法務業務を広範囲かつ総合的に支援する次世代のリーガルテックプラットフォームです。あらゆる法務業務をAIがカバーできるほか、サービスを選んで導入できるため、初めてリーガルテックの導入を検討する方にもおすすめです。
バックオフィス構築のベストプラクティスをわかりやすく解説します!
<関連記事>
企業法務弁護士とは?企業内弁護士と顧問弁護士の違いと主な業務内容
契約書のリーガルチェックとは? 手順やチェックポイント、費用などを解説