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【講演レポート:日経新聞植松氏】不祥事の裏にある法務部門の軽視。法務記者が語るリスク対応失敗例と改善のための提言

【講演レポート:日経新聞植松氏】不祥事の裏にある法務部門の軽視。法務記者が語るリスク対応失敗例と改善のための提言
この記事を読んでわかること
    • 国際競争力のある大企業でもリスク対応を間違う事例は少なくない。リスク対応力を上げるために、法務のポテンシャル発揮が必要
    • 「ここで引き返していれば」というタイミングで法務がアラートを出していたにもかかわらず、経営陣が聞き入れずに問題に至った事例もある
    • 問題を見逃さない「リスクリテラシー」をもち、不正・不祥事に初期対応していくことは法務の重要な役割
    • 法務の能力が十分に活かされていない理由として、「リスク対応時の社内ルール整備不足」「法務に対する信頼構築の不足」が考えられる
    • 法務の社内地位向上、経営陣や他部署からの信頼構築のための取り組みを進めることが重要
    • 近年、日本企業のリスク対応には改善の兆しが見られる。この流れをより推進していくために、法務の価値を社内外に発信していってほしい

「2025年最新 調査レポート 企業法務部門の現状と課題」

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植松 正史氏
登壇

植松 正史氏

日本経済新聞社 日本経済新聞 法務・税務取材チーム デスク/日経リスクインサイト編集長

1999年に日本経済新聞社入社。社会部にて、法務省、検察、東京地検特捜部などを対象に経済犯罪や企業不正に関する取材を長年にわたり担当。2016年からは企業法務に取材フィールドを移し、現在は税務トピックなどを扱う日本経済新聞「法税務面」のデスクを担当するとともに、法人向けリスクマネジメントに関するニュースレターメディア「日経リスクインサイト」の編集長も務める。

株式会社LegalOn Technologiesは2024年12月16日、「経営×法務」をテーマとした大規模ハイブリッドイベント「LegalOn Conference 2024」を開催しました。

企業の社会貢献や法令順守への意識が高まり、より法務機能の重要性が増す時代背景において、法務に求められる経営貢献性と機能とは?というコンセプトのもと開催された本イベント。白井俊之氏(株式会社ニトリホールディングス社長)、Antony Cook氏(Microsoft Corporation コーポレート バイスプレジデント兼副法務顧問)、明司雅宏氏(サントリーホールディングス株式会社執行役員兼コーポレートマネジメント本部長)、菊地知彦氏(株式会社メルカリ執行役員CLO)などが登壇。会場は大いに盛り上がりを見せ、法務関係者向けイベントとして規模・内容ともに国内最大級の非常に充実したものとなりました。

本記事では、日本経済新聞社 日本経済新聞 法務・税務取材チーム デスク/日経リスクインサイト編集長である植松正史氏による、「企業のリスク対応力を上げる法務の役割」をテーマとした講演の模様をレポートします。

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なぜ大企業でもリスク対応を間違えてしまうのか

日本経済新聞社の植松です。本日は「企業のリスク対応力を上げる法務の役割」というテーマでお話しさせていただきます。法務パーソンの皆さまが悩まれている、「企業のリスク対応力をどうやって上げていったらよいのか」「それに関して法務部門のポテンシャルを十分に発揮するにはどうしたらよいのか」という課題解決のヒントになれば幸いです。 

まず、私の自己紹介とテーマの背景についてご説明いたします。私は1999年に日本経済新聞社に入社し、社会部配属となり、そこで法務省、検察、東京地検特捜部などを対象に経済犯罪や企業不正に関する取材を長年行ってきました。

2016年からは企業法務に取材フィールドが移り、現在は、毎週月曜日に企業法務やビジネス関連のルールなどの専門的内容を掲載する法税務面のデスクを担当しています。また、2024年4月から、法人向けリスクマネジメントに関するニュースレターメディア「日経リスクインサイト」の編集長も兼務しております。

企業不正や法務に関する数々の取材を行う中で感じていたのが「どうして大きな企業でさえこれほどリスク対応を間違えてしまうのか」ということです。

25年にわたり取材を行う中で、国際的な競争力の高い大企業であっても、同じような不正を繰り返し、同じようにリスク対応を間違え、競争力や経営力を失っていく姿を何度も見てきました。そのことを非常にもったいなく感じており、本日のテーマを「企業のリスク対応力を上げる法務の役割」とさせていただきました。

法務からの警告が聞き入れられず、問題に至った事例も

企業不正とその際のリスク対応に関して、事件の収束後に第三者委員会の方などに取材することがあります。そこで「もしも時間を巻き戻して対応をやり直せるなら、どの時点まで戻りたいですか?」と質問すると、多くの回答で法務部門が関わったタイミングが挙げられます。

例えば、ある大手企業がいわゆる禁じ手のようなものを使ってアクティビストを排除しようとし、そのことが大問題となって最終的に経営陣が大幅に入れ替わった事件がありました。この事例では、途中で法務部門からアラートが上がったにも関わらず、経営陣がその警告を顧みなかったために問題に至っています。

別の贈収賄事件でも、企業トップのグレーな取引に対して、法務部門からリスクの高さに対してアラートが出されていました。しかしこちらでも警告は顧みられず、最終的にはトップが逮捕され、企業の信頼が失墜するという事態になりました。

こういった、「どうしてこんなことが起こってしまうのか」と後から疑問が湧く事例というのは、実は珍しくありません。多くの事例で法務部門がアラートを出しているタイミングがあるにもかかわらず、経営陣などがそれを聞かず、リスク対応の失敗につながってしまっているのです。

リスクリテラシーを育み初期対応していくことは法務の役割のひとつ


リスクリテラシーを育む要素

  • 法令・ルールの知識
  • リスク対応の実務経験
  • 他社事例の知見
  • 弁護士や専門家の人脈 など


リスクリテラシーを育むために、法務部門に必要な4つの要素(登壇スライドより)


法務部門のアラートが顧みられない事例がある状況は残念ですが、それでもやはり、法務部門がリスク対応において果たせる役割は大きいと考えます。リスク対応において非常な重要なものに、「リスクリテラシー」があります。リスクリテラシーとは、まだ問題が小さい段階で「この問題は見逃してはならない。対応が必要だ」と見極め、初期対応していく力です。これを備えるのはやはり法務部門に他なりません。

企業経営においては、顧客からのクレームや内部通報によるトラブル報告など、多くのネガティブ情報があふれています。それら全てに対応することは不可能ですから、その中で見逃さずに対応・改善しなくてはならないものを、いち早く見極め、1つずつ解決していくことが重要なのです。

そうしたリスクリテラシーを育むためには、私は想像力を高めることが重要だと考えます。「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺がありますが、些細なきっかけや問題が、最終的にどんな事態へとつながる可能性があるかを想像する力が大切です。そして、その想像力を高めるために必要な要素が4つあります。

1つめは、基本的な法令・ルールの知識です。何事にもこれが土台になります。
2つめは、そうした知識や理論に加えて、実際に対応した経験です。
3つめは、他社の過去事例に対する知見です。他社がどんなリスク対応をし、成功したか、失敗したかをしっかりリサーチすること。特に失敗事例における問題点、例えば「この例は、法令としてはギリギリセーフだが、世の中の反応や倫理的観点から考えると問題になってしまう」などを考え、知恵や知見を蓄えることが重要です。
4つめは、弁護士や専門家との人脈です。危機管理に詳しい弁護士の方を把握しておく、どの問題が起きたらどの弁護士に話を聞けばいいかを整理しておくなど、業界の土地勘のようなものを養っておくことも必要です。

経験や人脈については最初から身に付けることは難しいかもしれませんが、企業の法務部門として、これらの要素を踏まえて想像力を身に付け、リスクリテラシーを高めておくことは非常に重要であり、法務の価値を高めることにつながると考えます。

法務のポテンシャルを活かすには、社内地位を向上させる取り組みが必要

法務部門には企業のリスク対応に関して大きなポテンシャルがあるにもかかわらず、残念ながら、不正や不祥事の際に法務部門がイニシアティブを握って対応したというケースは、あまり見当たりません。そこで、「法務部門がなぜその実力を発揮できないのか」について考えてみたいと思います。

理由の1つには、「多くの日本企業で、リスク対応時の社内ルールが適切に整備されていない」ということが考えられます。

2024年秋に日本経済新聞社が実施したアンケート調査の結果によると、「不正・不祥事の定義」や「社内調査チームの組成」に関しては既定がある企業が多い一方で、その後にどういう対応をするかの細かい指針・具体例を定めている企業は極めて少なくなっています。

こういった状態では、実際に調査チームを立ち上げても、事態の全体像が見えてきたときに発言力の強い取締役やトップが「もうこの程度の対応でよいのではないか」「そこまで開示する必要はないのではないか」などの意見を出し始め、その結果、腰砕けの対応になってしまいがちです。そして、法務部門がそこに関わっていく余地もなくなってしまうことも想像できます。

不正対応に関する社内規定整備についてのアンケート結果(※2024年秋 日本経済新聞社実施)


もう1つ考えらえる理由は、「社内での法務部門への信頼が構築されていない」というケースです。

他部署や経営陣から「法務部門は、単なる契約チェックやコンプライアンス研修をしているだけの部署、もしくは口うるさく意見を言ってくる部署」というイメージもたれている場合も、残念ながら少なくありません。それでは、やはり問題が起こったときに頼られる存在にはなり得ません。

ただ、逆に考えるなら、こうした課題さえクリアできれば、法務部門は企業のリスク対応に十分なポテンシャルを発揮できるのではないか、と感じています。特に、経営陣や他部署からの信頼を勝ち取り、法務部門の社内地位を向上させていくことが重要です。

その好例を挙げると、本カンファレンスにも登壇されている少德彩子さんが所属されているパナソニックHD株式会社法務部は、独占禁止法とビジネスの新しい可能性を両立させるアイディアを実現する取り組みを行い、社内で高いプレゼンスを得られています。

そこまで大きな取り組みでなくても、実践的で社員の方々の興味をひく研修を実施する、経営陣の心に訴えかける内容の危機管理セミナーを社内で開くなど、「法務部門は危機管理のプロなんだ」と社内の方々に理解してもらうための取り組みが必要だと思います。そういった施策から地道に進めていくことが、法務部の社内プレゼンスを高め、法務のポテンシャルを発揮していく第一歩になるではないでしょうか。 

日本企業のリスク対応は改善の兆しがある。今後一層、法務の価値のアピールを

さまざまな課題や事例についてお話してきましたが、企業のリスク対応に関して、近年改善の兆しも見えてきたと私は感じています。

そんな優れたリスク対応の例として、損保ジャパンが2024年6月に公表したいわゆる損保カルテルに関する調査報告書を見てみましょう(参考:https://www.sompo-japan.co.jp/-/media/SJNK/files/announce/20240614_2.pdf)。

本報告書は、問題の原因究明において、単なる「コンプライアンス意識の低下」などと片付けずに、「そもそも経営陣が営業部門出身者に偏り過ぎており、コンプライアンスや法務担当の人材が非常に少なかったこと」「それに根差した人材を会社として重視してこなかったこと」などを問題視する内容になっています。また、損保ジャパンは事件後の再発防止やコンプライアンス立て直しの取り組みにも尽力しています。

この事例は、リスク対応や問題意識の捉え方など、日本企業においても危機管理における法務部門・コンプライアンス部門の意識の高まりが徐々に進んできたことを表す好例だと思います。

そして最後に、法務部門・コンプライアンス部門の方々を勇気づけるようなデータもご紹介します。MIT(マサチューセッツ工科大学)の教授が2024年2月に発表した論文に、コンプライアンスを推進したアメリカの金融機関では、単にコンプライアンスが高まっただけではなく、DX推進や顧客サービス向上の面でも優位につながったというデータが、学術的に示されています。こうした研究やデータは、法務部門の価値を社内外にアピールする上で、1つの材料になるのではないでしょうか。 

法務部門・コンプライアンス部門の方々が存在感を発揮し、組織のリスク対応力を高めることは、企業価値そのものを高めることにつながります。そのための取り組みや好例があれば、私もすぐに取材に行かせていただきますので、法務パーソンの皆さんにはぜひ今後も頑張っていただければと思います。

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