金銭消費貸借契約書とは
金銭消費貸借契約は民法に規定されており、貸主が借主に対して金銭を貸し付け、借主がこれを借り入れることを定めた契約書です。
(消費貸借)消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる(民法587条)。
企業が金銭消費貸借契約書を締結するのは、主に金融機関から金銭を借り入れる場合です。また、役員に対する貸付を行う場合などには、企業が貸主の立場で金銭消費貸借契約を締結することもあります。いわゆる「ローン契約」「金消契約」も金銭消費貸借契約です。
また、民法上は無利息が原則とされていますが(民法589条1項)、実務上は契約に基づき利息を付すケースが大半です。
金銭消費貸借契約の要件
金銭消費貸借契約が成立する要件は次の2つです。
- 借主が貸主に、同額を返還することを約束する
- 貸主から金銭を受け取る
消費貸借契約は、物を受け取ることで成立するため、金銭消費貸借では「貸主から金銭を受け取る」ことが要件です。
一方、民法改正(2020年4月施行)では書面で契約する場合に限り、金銭の受け取りがなくても成立することになりました(第587条の2第1項)。貸主が借主に、金銭を交付することを約束し、借主が貸主に、同額を返還することを約束すれば契約が成立します。
金消契約消費貸借契約の効果
企業が主体となる金銭消費貸借契約の場合は、第587条の2第1項にあるように書面を作成する場合がほとんどです。この場合、貸主は借主に金銭を交付する義務が発生します。一方、借主は借りた額と同額の金銭を返還する義務が発生します。また、利息がある場合は利息も含みます。
- 貸主:借主に金銭を交付する義務
- 借主:借りた額と同額の金銭を返還する義務(利息を含む)
また、書面を作成する契約の場合、借主は、貸主から金銭を受け取る前までは契約を解除することができます。ただし、そのことによって貸主が損害を受けた場合は、借主に対して賠償を請求することができます(第587条の2第2項)。
借用書との違い
金銭消費貸借契約書と借用書は、どちらも金銭の貸し借りに関する書類ですが、作成者などが異なります。
金銭消費貸借契約書は貸主と借主が共同で作成する契約書ですが、借用書は借主が作成して貸主に提出します。
金銭消費貸借契約書と借用書のどちらも適正に作成されていれば法的効力が発生しますが、金銭消費貸借契約書の方が借用書よりも内容を詳細に規定することがほとんどです。そのため、「金銭を返してもらえない」などのトラブルが発生した場合は、追加で内容を証明したり、追加資料が必要になったりする場合があります。
将来、トラブルが起きたときに備えるとしたら、詳細を規定した契約書を締結するのが望ましいです。
金銭消費貸借契約書に定めるべき主な事項
金銭消費貸借契約書に定めるべき主な事項は、以下のとおりです。
- 貸付(借入)の内容
- 利息
- 返済期日
- 返済の方法
- 遅延損害金
- 期限の利益喪失条項
- 連帯保証に関する事項
- 抵当権の設定
- 相殺
- 地位の譲渡禁止
- 合意管轄
- その他の一般条項
貸付(借入)の内容
金銭消費貸借契約におけるもっとも基本的な条項として、貸付(借入)の内容を定めます。具体的には、以下の事項を明記します。
- 貸主
- 借主
- 実行日
- 金額
- 貸主が貸し付ける旨
- 借主が借り入れる旨
利息
貸付(借入)の対価として、借主が貸主に支払う利息の計算方法を定めます。
金銭消費貸借契約では、特約がなければ、貸主は借主に対して利息を請求できません(民法589条1項)。したがって利息を設定する場合には、金銭消費貸借契約書で利息の計算方法を明記する必要があります。
なお、利息制限法1条によって、元本額に応じて以下のとおり上限利率が定められています。
<元本額と上限利率>
- 10万円未満:年20%
- 10万円以上100万円未満:年18%
- 100万円以上:年15%
上限金利を超過する部分の利息の定めは無効となるので注意が必要です。
返済期日・返済方法
借主が負う返済義務の内容として、返済期日と支払方法を定めます。返済金の支払には、一括返済(bullet)と分割返済(amortization)の2種類があります。
- 一括返済(bullet):各返済期日には利息のみを支払い、元本は最終の返済期日に一括で返済します。
(例)5000万円を借り入れる→最終の返済期日に5000万円を一括返済 - 分割返済(amortization):各返済期日において利息の支払いと元本の返済を行い、最終の返済期日に残元本を全額返済するやり方で、「アモチ」とも呼ばれます。各返済期日において返済する元本額の計算方法の定めが必要です。
(例)5000万円を借り入れる→24か月にわたり、毎月100万円の元本を返済→最終の返済期日(24か月目)に残元本の2700万円を返済
また、返済先として貸主の銀行口座などを指定します。
遅延損害金
借主による返済が期日に遅れた場合に、借主が貸主に対して支払うべき遅延損害金の計算方法を定めます。
なお遅延損害金についても、利息制限法4条によって上限利率が定められており、利息の上限利率の1.46倍を超えると無効となります。
ただし、営業的金銭消費貸借(=債権者が業として行う金銭を目的とする消費貸借。銀行や貸金業者が貸し付ける場合など)については、遅延損害金の上限利率が一律年20%となります(同法7条)
期限の利益喪失条項
借主が返済を怠った場合などにおいて、貸主は借主の資金力があるうちに金銭を回収する必要があります。このため、期限の利益喪失条項を定めるのが一般的です。借主が期限の利益を喪失した場合、貸主に対して残債を一括返済しなければなりません。
なお、期限の利益喪失事由としては、当然喪失事由と請求喪失事由の2種類を定めることが多いです。
- 当然喪失事由:発生した時点で、当然に借主が期限の利益を喪失する事由です。
- 請求喪失事由:発生した後、貸主が借主に対して請求した時点で、初めて期限の利益喪失の効果が発生する事由です。
(設定する場合)連帯保証に関する事項
借主による返済に保証を付す場合は、連帯保証人を設定することがあります。ただ、連帯保証人は、借主が返済を怠った時点で、未払いとなった債務全額を貸主に支払わなければなりません。
連帯保証に関する事項では、被担保債権の内容を明記する必要があります。2020年4月1日に施行された改正民法により、個人根保証契約※に該当する場合は、極度額の定めを要するほか(民法465条の2)、元本確定が生じます(民法465条の3)。
※個人根保証契約:一定の範囲に属する不特定の債務を個人が保証する契約。例えば「本契約に基づき借主が負担する一切の債務」を個人が保証する場合、債務が具体的に特定されておらず、個人根保証契約に該当します。
(設定する場合)抵当権の設定
借主が元本や利息を返済しない場合に備えて、不動産に抵当権を設定することがあります。もし借主が返済しない場合は、貸主は不動産を競売にかけるなどして弁済にあてることができます。
相殺
相殺とは、当事者間において互いに金銭などの同種の債権を持っている場合に、一方がその債権と債務を差し引いて、消滅させることができる制度です(民法第505条以下)。貸主、貸主がともに弁済期の債務を有している場合、当事者の一方が相手方に意思表示することによって債務を消滅させることができます。
ただし、契約で相殺禁止が定められている場合は、当事者の合意が優先されます。
地位の譲渡禁止
金銭消費貸借契約では、「この人だから貸す」「この人なら返してくれる」といった契約当事者の信用が重要です。相手の信用を前提とした契約であるため、当事者の「地位」を第三者に勝手に譲渡されては不利益が生じる可能性があります。
そのため、勝手に地位を譲渡されないように地位の譲渡禁止の項目を定めます。また、地位を継承した人にも、同じような約束を守ってもらうことを定めます。
反社会勢力の排除
反社会的勢力の排除は、企業の社会的責任(CSR)を果たす上で不可欠です。排除条項を定めることで、企業は法令遵守の姿勢を明確にし、社会的信頼性を維持できます。
この条項では、契約の当事者が暴力団関係者でないことを確約するほか、当事者や経営者等が、暴力団員等と関係をもっておらず、これからも持たないことなどの表明保証・誓約を定めた上で、相手方が違反した場合には直ちに契約を解除し、損害賠償を請求できる旨などを定めます。
合意管轄
合意管轄とは、当事者間で、万が一訴訟になった場合にどこの裁判所に訴えるかをあらかじめ合意で決めておくことです。合意管轄の定めがないと、相手方がいる場所の裁判所で裁判を起こされる可能性があり、自社にとって不利になる可能性があります。
また、遠方の企業と取引する場合などで、訴訟提起の場所が不明確だと、時間的・経済的な負担が大きくなるほか、紛争解決の手続きがスピード感を持って行えない可能性があります
当事者が合意すれば、管轄はどこに設定しても問題ありません。
金銭消費貸借契約書のひな形を紹介
金銭消費貸借契約書のひな形を紹介します。実際の内容は取引に応じて決める必要がありますので、本記事で紹介した条文の記載例を参考にしてください。
金銭消費貸借契約書
○○(以下「甲」という。)と△△(以下「乙」という。)は、以下のとおり金銭消費貸借契約書を締結する。
第1条(貸付の実行)
甲は、本契約に従って、20○○年○月○日(以下「貸付実行日」という)に、乙に対して金○万円を貸し付け、乙はこれを借り入れる(以下「本件貸付」という)。
第2条(利息)
乙は、甲に対し、20○○年○月末日を初回とし、以降毎月末日(以下「利払日」という)において、以下の計算式で算出される額の利息(以下「本件利息」という)を支払う。
利払日に支払うべき利息額=当該利払日の属する月の初日における本件元本残高×5.0%×当該月の実日数÷365
※年利5.0%、月の初日時点における元本残高を基準として、その月の実日数で日割した額の利息を毎月支払う場合
第3条(返済方法)
乙は、甲に対し、第1条の金員及び第2条の利息金を甲の指定する銀行口座に送金して支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
第4条(元本弁済)
(一括返済の場合)乙は、甲に対し、20○○年○月末日において、当該時点における本件元本残高の全額を弁済する。
(分割返済の場合)乙は、甲に対し、20○○年○月末日を初回とし、以降毎月末日において金100万円を本件貸付の元本(以下「本件元本」という)の一部として弁済し、20○○年○月末日において、当該時点における本件元本残高の全額を弁済する。
第5条(遅延損害金)
乙が本契約に基づき甲に対して支払うべき金銭債務の弁済を一部でも怠った場合には、当該未払額に応じて、その支払うべき日(同日を含む)から当該未払額の完済に至る日(同日を含まない)までの期間につき、年14.6%の割合で、直ちに遅延損害金を支払う。なお、遅延損害金は1年を365日として日割り計算により算出し、1円未満の端数は切り捨てる。
※年利14.6%とする場合
第6条(期限の利益喪失事由)
1. 次の各号のいずれかに該当する事実が発生した場合、甲からの通知または催告なくして、乙は、本件貸付の一切について直ちに期限の利益を失い、直ちにその全額を甲に弁済しなければならない。
(1)乙が債務超過もしくは支払不能に陥り、または支払いを停止したと評価される事由が生じた場合
(2)乙について破産手続き、民事再生手続き、特別清算その他乙に適用のある倒産手続きの申立てまたは職権による開始決定があった場合
(3)乙の責に帰すべき事由により、乙が所在不明となった場合
2. 前項各号に該当する場合を除き、次の各号のいずれかに該当する事実が発生した場合、甲の通知によって、乙は本件貸付の一切について直ちに期限の利益を失い、直ちにその全額を甲に弁済しなければならない。
(1)乙が支払うべき本件元本、本件利息その他本契約に基づく債務の支払いを怠り、かかる支払懈怠が5営業日以内に治癒されなかった場合
(2)乙が本契約の条項に違反し、当該違反について催告を受けてから10営業日以内に当該違反が治癒されない場合
第7条(連帯保証)
1. 連帯保証人は、本契約に基づく乙の甲に対する一切の債務を、乙と連帯して保証する。
2. 前項に基づく連帯保証債務の極度額は○万円とする。
3. 第1項に基づく連帯保証債務の元本確定期日は、本契約締結日から5年を経過する日とする。
第8条(抵当権の設定)
乙は、第1条の金員の交付を受けるのと引換えに、甲に対し所有の別紙記載の不動産に抵当権の設定をする。
第9条(相殺)
甲及び乙は、別途書面で合意した場合を除き、本契約に係る元本返還請求権又は利息支払請求権を相殺の対象とすることはできない。
第10条(地位の譲渡禁止)
1. 甲及び乙は、相手方の事前の書面による承諾なしに、本契約に基づく地位を移転し、又は本契約に基づく権利義務の全部若しくは一部について、第三者に譲渡若しくは承継させ、又は担保権を設定する等一切の処分をすることができない。
2. 本契約に基づく地位又は本契約に基づく権利義務の全部又は一部が第三者に譲渡、承継等された場合は、本契約の全ての条項が当該譲受人等にも適用される
第11条(反社会的勢力の排除)
1. 本契約の当事者は、自社、自社の株主・役員その他自社を実質的に所有し、若しくは支配するものが、現在、暴力団、暴力団員、暴力団 員でなくなった時から5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ又は特殊知能暴力集団等、 その他これらに準ずる者(以下これらを「暴力団員等」という。)に該当しないこと、及び次の各号のいずれにも該当しないことを表明し、 かつ将来にわたっても該当しないことを確約する。
⑴暴力団員等が経営を支配していると認められる関係を有すること
⑵暴力団員等が経営に実質的に関与していると認められる関係を有すること
⑶自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図る目的又は第三者に損害を加える目的をもってする等、不当に暴力団員等を利用していると認 められる関係を有すること
⑷暴力団員等に対して資金等を提供し、又は便宜を供与する等の関与をしていると認められる関係を有すること
⑸役員又は経営に実質的に関与している者が暴力団員等と社会的に非難されるべき関係を有すること
2. 本契約の当事者は、暴力団員等と取引関係を有してはならず、事後的に、暴力団員等との取引関係が判明した場合には、これを相当期間 内に解消できるよう必要な措置を講じる。
3. 本契約の当事者は、相手方が本条の表明又は確約に違反した場合、何らの通知又は催告をすることなく直ちに本契約の全部又は一部につ いて、履行を停止し、又は解除することができる。この場合において、表明又は確約に違反した当事者は、相手方の履行停止又は解除によって被った損害の賠償を請求することはできない。
4. 本契約の当事者は、相手方が本条の表明又は確約に違反した場合、これによって被った一切の損害の賠償を請求することができる。
第12条(合意管轄)
本契約に関連して生じた紛争については、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上 本契約締結を証するため、正本2通を作成し、甲乙それぞれ記名押印のうえ各1通を所持する。
○年○月○日
甲 [住所] [氏名or名称] [(法人の場合)代表者] 印
乙 [住所] [氏名or名称] [(法人の場合)代表者] 印
書面で締結する場合は収入印紙の貼付が必要
収入印紙とは、行政に対する手数料や租税を支払うために発行される証票です。金銭消費貸借契約書を書面で締結する場合は、貸付(借入)の額に応じた収入印紙の貼付が必要です。
契約書に記載の金額が1万円未満の場合や、金銭消費貸借契約書を電子締結する場合は、収入印紙の貼付は不要です。
金銭消費貸借契約書に貼るべき収入印紙の額
契約書に貼付する収入印紙の金額は、契約書の類型と記載される金額に応じて決まります。金銭消費貸借契約書は第1号文書に文書にあたり、非課税~60万円まで印紙税が定められています。
- 1万円未満:非課税
- 10万円以下:200円
- 10万円超、50万円以下:400円
- 50万円超、100万円以下:1,000円
- 100万円超、500万円以下:2,000円
- 500万円超、1,000万円以下:1万円
- 1,000万円超、5,000万円以下:2万円
- 5,000万円超、1億円以下:6万円
- 1億円超、5億円以下:10万円
- 5億円を超え10億円以下:20万円
- 10億円を超え50億円以下:40万円
- 50億円超:60万円
印紙税はどちらが負担するか
印紙税法では、印紙税の納税義務者は「課税文書の作成者」とされています(印紙税法3条)。また、課税文書を2人以上で作成した場合は、連帯して印紙税を納める義務があります。
消費貸借契約契約を貸主と借主でそれぞれ保管するため2部作成すると、それぞれの契約書に印紙を貼付することになります。
収入印紙を貼らなくても効力は発生する
金銭消費貸借契約書に印紙税を貼らなくても、契約の効力は発生します。印紙税は納税のための手段であり、契約の成立を証明するものではありません。
ただ、収入印紙の貼り付け忘れたときには、別途で「過怠税」が科せられる可能性があるため、注意が必要です。
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個人間の金銭消費貸借契約書
親族や友人同士でも、金額が多額の場合や返済期間が長期にわたる場合は契約書を作成することがあります。
内容を明確化することで、「いくら貸したのか」「いつまでに返すべきなのか」といったトラブルを防ぐことにつながります。
また親子間であれば、課税対象となる「贈与」との違いも明確にすることができます。
金銭消費貸借契約書を締結する際の注意点
金銭消費貸借契約書を締結する際には、特に以下の各点にご注意ください。
- 貸付(借入)条件を明確化する
- 自社に不利益な条項を見落とさない
貸付(借入)条件を明確化する
返済内容や滞納時の取り扱いについて疑義が生じないように、特に以下の事項については明確に定める必要があります。
- 返済方法
- 利息の計算方法
- 遅延損害金の計算方法
- 期限の利益喪失事由など
計算式が絡む部分などは難解ですが、条文が適切な内容になっているか、契約書の中で矛盾が生じていないかなどを慎重にチェックしましょう。
自社に不利益な条項を見落とさない
金銭消費貸借契約書のドラフトは、貸主側が作成するのが一般的です。この場合、借主の立場で金銭消費貸借契約書を締結する場合は、自社に不利益な条項が含まれていないかをよく確認しなければなりません。
金融機関や貸金業者が貸主となる場合、ドラフトの修正は不可とされるケースが多いです。この場合でも、どの条項が重要なのか、自社のリスクとなり得るのはどの条項かなどを必ずチェックしましょう。
ドラフトの修正が許される場合には、相手方の義務を極端に軽減する条項や、自社の義務が標準よりも加重される条項などについては修正を求めるべきです。