契約書を紛失するとどうなる?
契約書を紛失しても、契約が「無効」になるわけではありません。そのため、契約書で合意した内容そのものに影響が生じるわけではありません。ただし、契約書を紛失したまま放置して、何も対処しないことには、いくつかのリスクがあります。
考えられる主な3つのリスクについて、以下で見ていきましょう。
機密情報の漏洩につながる
契約書を紛失することには、「機密情報の漏洩」につながるリスクがあります。
契約書の内容は、機密情報として取り扱われることがほとんどです。そのため、紛失=契約書に書かれた機密情報が外部に漏れてしまったかもしれない、ということを意味しています。
機密情報が漏れてしまうと、取引上の重要な情報が競合他社に知られてしまい、今後のビジネスに支障が出る可能性があります。
また、「契約書を紛失して、機密情報が漏洩したかもしれない」という事実だけでも、取引先からの信用を失い、今後の取引に支障が生じる可能性があります。
トラブル時の対処が難しくなる
契約書を紛失すると、取引上のトラブルが発生した際に、その対処が遅れるなどの支障が出る場合があります。
契約書にはトラブル時の対応方法が書かれているのが普通です。例えば、相手方当事者が支払いを怠った場合に「催告期間」などを基準に対象商品やサービスの供給の停止、契約終了の対応ができるなどの記載があります。
上記の例で契約書を紛失してしまうと、供給の停止や契約終了などの対応が難しくなることがあります。対応の根拠について「契約書に書かれている」ということを提示できなくなり、相手方を納得させる材料を失うことにもなるでしょう。
さらに、裁判を行う際の証拠を失うことにもなり、裁判で不利になる可能性もあります。
このように、契約書を紛失した場合、トラブル時において適切・迅速な対応ができなくなる可能性があります。
更新時期など必要な情報を確認できなくなる
契約には、「更新時期」や「終了時期」の情報が記載されています。契約書を紛失して、コピーやPDFなどの電子データも存在しない場合、更新時期などの情報を確認できなくなってしまいます。
更新時期が不明になると、不要な契約を自動更新してしまったり、更新に必要な手続きができず契約が無効になったりなどの事態につながりかねません。その結果、不要な出費が発生したり、取引の機会を失ったりなどの損失につながる場合があります。
契約書を紛失した際にとるべき対応
契約書の紛失が発覚した場合、落ち着いて必要な対応を直ちに始めるべきです。対応方法は、以下の4段階に分けられます。
- 範囲を広げて徹底的に探す
- コピーを探す
- 契約書のPDFを探す
- 相手方に再発行等を依頼する
それぞれの具体的な方法について、以下に詳しく解説します。
範囲を広げて徹底的に探す
契約書の紛失が疑われる状況となったら、まずは徹底的に探すことが基本です。
契約書のコピーがあるとしても原本を紛失しているなら、契約書を見つけ出さない限り「機密情報の漏洩」のリスクは解決しません。
「ここにあるはずはない」と決めつけず、探す部署や保管庫・キャビネットの範囲を広げてみることがポイントです。押印申請・決裁申請・経費申請の記録など、手掛かりになりそうな社内記録も確認してみましょう。
「社外にある可能性」も含めて、あらゆる可能性を探ってみることが重要です。そもそも「相手から返送されていないだけ」という場合もあります。
契約書のコピー(写し)を探す
契約書が社内のどこかにコピーとして存在していないか探すことも重要です。
コピーがあれば、契約書の内容は確認できるため、例えばトラブルに関する規定内容・更新時期などの確認に役立てることができます。
業務上の必要性から、法務部や総務部、経理部などで、コピーを作成して保管している場合があります。その他にも、「契約書をコピーする業務」が含まれる部署が存在しないか、先入観を持たず確認してみましょう。
契約書のPDFを探す
紛失した契約書がPDFなどの電子ファイルとして保存されていないかも探してみましょう。PCやファイルサーバ、クラウド、メールの添付ファイルなど、考えられる場所を全て探すことが重要です。
PDFだけでなく、締結前のドラフトであることが判明しているワードファイルなどでも、契約書の内容は確認できます。有効期間・更新期限など、取り急ぎ内容を確認する必要がある場合は、ドラフトデータでも活用できるでしょう。
相手先に再発行・コピーを依頼する
コピーもPDFもない場合、取引先である相手先にコピーや再発行を依頼するという方法もあります。契約書をコピーさせてもらう、あるいは契約書を再作成・再発行してもらうなどの方法です。
契約書を再発行するときの注意点
相手方と協議の上で契約書を再度作成する場合、次の各点に注意が必要です。
- トラブル発生時の責任負担を求められる可能性がある
契約書を一度紛失したことに伴い、何らかのトラブルが発生した場合には、トラブルに起因して生じる損害につき責任負担を求められる可能性があります。
自社のミスによる紛失であれば、ある程度応諾せざるを得ないでしょう。ただし、相手方の要求が合理的なものであるか否かは精査が必要です。 - 収入印紙の貼付が必要な場合がある
印紙税の課税文書である契約書につき、原本を再度作成する場合には、改めて収入印紙の貼付が必要となります。課税文書に当たる契約の種類については、国税庁ウェブサイトをご参照ください。
国税庁ウェブサイト「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7140.htm
国税庁ウェブサイト「No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7141.htm - 紛失した原本との優先劣後関係を明記する
紛失したと思っていた契約書原本が後から見つかった場合、再作成した契約書との優先劣後関係が問題になる可能性があります。
そのため、契約書を再作成する際には、紛失した原本を無効とし、再作成したもののみが有効な原本となる旨を明記しましょう。
コピーに相手方の原本証明を付して保管する
原本の再作成を行わずに、手元にあるコピーを保管しておくことも考えられます。契約書の内容がわかればそれでよいなら、コピーを保管すれば十分でしょう。
ただし、相手方との間で契約トラブルが発生し、訴訟などで結論を争うことになった場合には、原本が手元にないことがマイナスに働く可能性があります。コピーは原本に比べて証拠力が弱く、相手方から契約の有効性や内容を争われた場合は不利になりやすいからです。
そのため、契約・取引の重要性が高ければ高いほど、相手方に原本の再作成を依頼すべきでしょう。
原本の再作成につき相手方が難色を示す場合には、代替案として、契約書のコピーに原本証明を付してもらうことが考えられます。
「原本証明」とは、コピーの内容が原本と同一であることにつき、権限ある人が行う証明です。権限者による原本証明が付されたコピーは、原本とほぼ同一の証拠力を有します。
会社によっては、原本の作成(締結)とコピーの原本証明では、作成権者や決裁権者を異にしていることがあります。この場合、原本の再作成には応じなくても、コピーの原本証明であれば応じるかもしれませんので、相手方と交渉してみましょう。
コピーに原本証明を付さずそのまま保管する
相手方が原本の再作成に応じず、コピーの原本証明にも対応してくれない場合は、自社の手元にあるコピーをそのまま保管するしかありません。
しかし、単なるコピー(写し)は原本や原本証明付き写しよりも証拠力が弱いため、契約トラブルが発生すると不利になる可能性があります。そのため、契約書の原本を紛失してしまった場合、対象となる取引については、契約トラブルのリスクを極力回避する方針をとりましょう。
契約書の紛失には、紛失した側に一方的な責任があり、相手方が契約書の再作成等に応じる義務はありません。相手方の協力が得られず、単なるコピーを保管しなければならなくなることも十分想定されます。
このような事態を避けるため、日頃から契約書をきちんと管理し、紛失防止に努めることが大切です。
契約書を紛失しないための防止策
紛失が起きたということは、管理体制や業務フローなどに、何らかの問題がある可能性があります。同じトラブルが起きないよう、改善点を分析することが重要です。再発防止のため、取りうる対策を3つご紹介します。
契約書を分散させず集約管理する
まずは契約書を確実に保管することを徹底しましょう。部門ごとにバラバラに保管せず、できるだけ一つの部署で「集約管理」することが紛失のリスクを減らす方法です。
契約書をさまざまな部署に分散して保管していると、保管ルールの徹底が十分な部署もあれば甘い部署もあるなど、会社全体で保管方法を統一することが難しくなります。一方「集約管理」なら、一つの部署の管理体制の下で、一定のルールに沿った保管がしやすくなります。
どの部署で管理すべきかについては、以下の記事をご参照ください。
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集約管理のためには、まず契約書の情報をエクセルなどの一覧表にまとめた「管理台帳」を作成することが必要です。より効率的に集約するためには、契約管理に特化したITシステムの導入も役立ちます。
契約書の閲覧・持ち出しのルールを徹底する
契約書の閲覧・持ち出しのルールを徹底し、紛失が起こりにくいセキュリティ体制を作ることも、紛失防止のために有効です。
保管庫へのアクセスを管理し、限られた人だけが閲覧するよう、保管庫・キャビネットの使用ルールを定め、それが徹底される体制を構築しましょう。
ルールを徹底するためには、どの契約書を誰が持ち出し、いつ返却したのかを後からトレースできるようにしておくことが重要です。「閲覧記録簿」の作成や、保管庫への「立ち入り制限」なども必要に応じてルール化します。
契約書のPDF化や電子契約を導入する
「契約書のPDF化」や「電子契約」の導入により、紙の契約書を可能な限り少なくすることも、紛失リスクを低減させる方法です。
PDF化した契約書で、契約内容を電子的に閲覧できるなら、紙の契約書を閲覧のために持ち出す必要がなくなり、紙の原本を紛失するリスクを大幅に低減できます。
ただ、全ての契約書がPDF化できるわけではなく、一部契約書は書面で作成する必要がある点をご留意ください。
また、電子契約を導入すれば、PDFなどの電子データだけで契約書の締結ができるため、紛失リスクを防ぐだけでなく業務効率化にもつながります。
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契約書を電子化するメリットとは?電子契約の導入方法や注意点を解説
契約書の紛失防止に役立つ「LegalForceキャビネ」の機能
「LegalForceキャビネ」は契約書の集中管理を効率化できるシステムです。特に、契約書の紛失防止に役立つ2つの機能について紹介します。
契約書をシステム上で一元管理できる
「LegalForceキャビネ」は、契約書のPDFデータをシステム上に保管でき、台帳との一元管理が可能です。
契約書の紛失を防ぐ「集約管理」には管理台帳が必要と述べましたが、LegalForceキャビネには管理台帳の作成を支援する機能があります。
「管理台帳自動情報登録」の機能を使うと、システム上にアップロードした契約書データから当事者名、契約書の開始日・終了日などの契約情報が自動抽出され、契約管理台帳に登録されます。契約書を見ながら手入力で管理台帳を作成する場合と比べて、作業の大幅な効率化が可能です。
さらに契約書の情報はシステム上で簡単に検索でき、そのままワンクリックで内容の閲覧もできます。内容を確認するために、紙の契約書の保管場所を探すなどの手間は不要です。キャビネットから紙の書類を出し入れすることがほとんどなくなり、紛失リスクを減らすことができます。
電子契約サービスとの連携が可能
LegalForceキャビネでは。電子契約サービスとの連携ができ、電子契約で締結した契約書を効率的に管理できます。
既に解説した通り、契約書の紛失防止には電子契約の導入が有効です。LegalForceキャビネでは、電子契約で締結した契約書も紙の契約書のデータと同様に管理することが可能です。
契約書の集約管理なら「LegalForceキャビネ」
契約書を紛失すると、機密情報の漏洩や取引トラブルへの対応の遅れなど、さまざまなリスクにつながります。
紛失事故が発生した場合でも、あせらず必要な対処を直ちに始めることが重要です。コピーや電子ファイルを活用して契約内容を確認したり、相手先に再発行を依頼したりなどの対処法があります。
紛失事故を防ぐために、契約管理体制を見直すことも重要です。契約書の紛失防止には、集約管理の体制をつくり、閲覧・持ち出しのルールを徹底することに加え、電子契約の導入も役立ちます。
「LegalForceキャビネ」では、電子契約で締結した契約書と紙の契約書で締結した契約書を一括で管理することが可能です。さらに契約書を集約管理するために必要な「管理台帳」の作成を効率化する機能もあります。
「LegalForceキャビネ」について、詳しい機能は資料でご確認ください。
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