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秘密保持契約(NDA)とは?締結の目的やメリット・定めるべき項目を解説

秘密保持契約(NDA)とは?締結の目的やメリット・定めるべき項目を解説
この記事を読んでわかること
    • 秘密保持契約(NDA)とは何か
    • 秘密保持契約(NDA)を締結する目的
    • 秘密保持契約(NDA)を締結するメリット
    • 秘密保持契約で定めるべき項目

「ひと目でわかる要チェック条文 秘密保持契約書(NDA)編」

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秘密保持契約(NDA)は、企業が最も頻繁に締結する契約の一つです。汎用的な契約であるからこそ、重要なチェックポイントを正しく理解する必要があります。

企業間の取引において、自社の秘密情報を相手方に開示した場合、その相手方の取扱い次第で、 想定しない第三者への開示など情報漏えいが発生し、自社が大きな不利益を受けるおそれがあります。 このようなリスクから企業を守るため、多くの取引において秘密保持契約が締結されます。

この記事では秘密保持契約について、締結の目的やメリット、定めるべき項目を解説します。

目次

秘密保持契約(NDA)とは

「秘密保持契約(NDA)」とは、当事者間でやり取りした秘密情報について、相手方の承諾がない開示・漏えい・目的外利用などを禁止する契約です。

業務提携・業務委託やM&Aなどの取引を検討する場合、スムーズに契約の効果を発揮させるために、契約を締結する前に、あらかじめ当事者間で情報のやり取りが行われるのが通常です。やり取りされる情報には、当事者の営業秘密などが含まれるため、事前に秘密保持契約を締結するケースが多いです。

また、「『機密』保持契約」と言われることもありますが内容に大きな違いはありません。

秘密保持契約(NDA)は一方開示・双方開示のケースがある

企業間の取引では、両当事者の一方が秘密情報を開示する場合と、それぞれが互いに開示する場合があります。したがって、NDAにも双方が情報開示をする前提のものと一方のみが情報開示する前提のものがあります

<一方的なNDA(片務的NDA)>

  • 開示者(Disclosing Party):秘密情報を開示する側
  • 受領者(Receiving Party):秘密情報を受け取る側

<相互NDA(双務的NDA)>

  • 両当事者が相互に秘密情報を開示・受領する立場にあり、双方が秘密保持義務を負います。

CAと秘密保持契約(NDA)との違い

CAとは「Confidentiality Agreement(機密保持契約)」とは、秘密保持契約と同様、秘密情報を開示する際に、その情報を第三者に漏らしたり、不正に使用したりしないよう義務を課す契約です。

一方CAは、特にM&A(買収・提携)を締結する前提として財務資料や内部情報の提供時に締結されることが多い契約です。盛り込む条項は秘密保持契約と似ていますが、M&Aに関する情報について、情報の外部への開示を制限する規定を盛り込むことがあります。

秘密保持契約(NDA)を締結する目的

企業が秘密保持契約を締結するのは、主に以下の目的によります。

  • ノウハウや顧客情報などの流出を防止する
  • 秘密情報の目的外利用を禁止する
  • 契約交渉の環境が乱されるのを防ぐ

ノウハウや顧客情報などの流出を防止する

他社との業務提携・業務委託、新規ビジネスの協議、人材採用など、新たな取引を検討するに当たっては、当事者が互いに保有するノウハウや顧客情報、企業戦略などをやり取りするのが一般的です。

これらの情報が第三者に流出すると、市場における競争優位が失われたり、不祥事による流出の際は会社のレピュテーションが低下したりすることが懸念されます。そのため、ノウハウや顧客情報が相手方から流出するリスクは、最小限に抑えなければなりません。

秘密保持契約では、ノウハウや顧客情報などを「秘密情報」と定義し、開示者の承諾がない開示・漏えいが禁止されます。当事者が互いに秘密保持義務を負うことにより、ノウハウや顧客情報の流出リスクを最小限に抑えることが可能です。

秘密情報の目的外利用を禁止する

取引に先立ってやり取りされるノウハウや顧客情報は、あくまでも当該取引を検討する目的に限って利用されるべきものです。例えば、提供を受けたノウハウを利用して商品を模造販売したり、顧客情報を利用して相手方の顧客を奪ったりすることは、取引上の信義則の観点から許されません。

このような目的外利用を禁止することも、秘密保持契約を締結する目的の一つです。

契約交渉の環境が乱されるのを防ぐ

ひとたび秘密情報が流出すると、風評によって企業価値が低下するなど、契約交渉の環境が乱されてしまうおそれがあります。せっかくお互いにとって利益となり得る取引を検討しているのに、秘密情報の流出によって破談に追い込まれてしまうのは避けるべき事態です。

秘密保持契約(NDA)を結ぶメリット

企業が秘密保持契約(NDA)を結ぶメリットは、下記のとおりです。

  • 相手方に安心して情報共有ができる
  • 損害賠償請求ができる
  • 秘密情報の範囲を指定できる

相手方に安心して情報共有ができる

秘密保持契約(NDA)を結ぶメリットは、秘密情報の予期せぬ情報流出を防ぐことを当事者が確認することで、契約の相手方に対して、安心して情報共有ができる環境が整うことです。

当事者が互いに秘密保持義務を負い、緊張感を持って情報管理を行うことにより、契約を結ぶ当事者は自身の秘密情報の流出防止に向けて、より意識を高める効果が期待できます。その結果、方法がシナジーを発揮するために必要な情報を安心して交換することができます。

ただし、取引先の情報管理体制が不十分であると、NDAを結んでいても秘密情報が流出する可能性があります。したがって、秘密保持契約を結ぶ前には、取引先が秘密情報を適切に管理できる能力を有しているかを確認するとよいでしょう。

損害賠償請求ができる

秘密保持契約(NDA)を結んでいると、情報漏えいが発生した際に相手方に対して契約不履行に基づく損害賠償を請求できます。さらに、契約文書において行為の差止請求が可能であると明示しておけば、情報の漏洩が生じたりその可能性が見込まれる場合に、予防的な対策として行為の差止請求を行えます。

秘密情報の漏洩が引き起こす損害額は、場合によっては莫大な額にのぼります。秘密保持契約をを結んでおくことで、損害につながるリスクを回避することができます。経済産業省が公表している「秘密情報の保護ハンドブック 〜企業価値向上に向けて〜」にも、秘密保持契約の条項が契約違反の抑止力となるとの記述があります。

秘密情報の範囲を指定できる

秘密保持契約(NDA)は、当事者が防止するべき「秘密情報」の範囲を明確に定義します。秘密情報の範囲を当事者間で指定できるのは秘密保持契約の大きなメリットです。

これらの要件を満たす情報が相手方に侵害された場合、または侵害の可能性がある場合には、同法に基づいて損害賠償請求や行為の差止請求を行うことができます。

開示者の承諾がない目的外利用を禁止すれば、取引が終了した場合や破談になった場合などにおいて、提供したノウハウや顧客情報などが勝手に利用されることを防ぐこともできます。

秘密保持契約(NDA)の締結が必要になるケースの例

秘密保持契約の締結が必要になるケースの例は、下記のとおりです。

  • 外部のパートナーと新商品を開発するとき
  • 事業提携や合併・買収(M&A)をするとき
  • 外部コンサルタントを利用するとき
  • 共同研究を行うとき

外部のパートナーと新商品を開発するとき

新製品や技術開発においては、外部のパートナーや専門家と協力するケースがあります。新製品開発には、競争力を保つために必要な知的財産が含まれており、これらの情報が競争相手に漏れると優位性が大きく損なわれる可能性があります。

こうしたリスクを防ぐため、秘密保持契約(NDA)を結ぶことで情報の安全が確保されます。これにより、パートナー企業や専門家が共有された情報を適切に取り扱い、無許可で第三者に開示したり、自己の利益のために使用することを禁止します。

事業提携や合併・買収(M&A)をするとき

事業提携や合併、買収(M&A)を行う際には、企業戦略や財務データなどを共有する必要があります。通常は非公開で保護されるべき重要な情報であるため、当事者間で秘密保持契約(NDA)を締結します。

これにより、情報の不適切な利用や漏洩を防止し、信頼性と透明性を維持しつつ、事業提携やM&Aのプロセスをスムーズに進められます。

外部コンサルタントを利用するとき

外部コンサルタントを利用する際は、重要な業務情報、市場戦略、顧客データなど、業界やビジネスに関する詳細情報の共有が必要です。これらの情報が漏えいすると、企業の競争優位性が損なわれる可能性があります。

そのため、コンサル契約を結ぶ際に、情報の適切な取り扱いと機密保持を徹底するために秘密保持契約(NDA)を結びます。

共同研究を行うとき

共同研究では、共同研究契約を締結する前に、両者が技術情報、実験データ、研究計画、成果予測などの非公開情報を相互にやり取りし、技術的な可能性を検討します。これらが第三者に漏洩すると競争力の低下や研究の失敗につながる恐れがあります。

また、将来的に特許出願や成果発表などを行う場合、情報の公開日や共有範囲が重要になります。 秘密保持契約がないと、先に外部に漏れてしまった情報が「新規性喪失」と見なされ、特許取得が困難になる可能性があります。研究開始前に「誰がどの情報を出し、どの範囲まで利用可能か」を明文化することで、後々のトラブルを防止できます。

秘密保持契約(NDA)を締結するタイミング

秘密保持契約(NDA)の締結は、秘密情報を交換するより先に行いましょう。

情報が開示された後では、それらの情報が秘密として適切に管理されるかについての同意を得る前に、情報が無許可で使用されるなどのリスクが高まるためです。早めに秘密保持契約を締結することで、情報が不適切に使用されたり、漏洩したりするリスクを大幅に減らせます。

取引の可能性を探る初期段階では、秘密保持契約を締結せずに打ち合わせを進めるケースもあります。しかし、特に重要な秘密情報が関与する場合には、秘密保持契約を締結しないでのコミュニケーションは大きなリスクとなり得ます。

取引が成立しなかった場合でも、事前に秘密保持契約を締結していないと、自社の秘密情報が受け取り側に一方的に使用される可能性があります。

秘密保持契約(NDA)と不正競争防止法との関係

不正競争防止法は営業秘密や商品表示などの不正な利用・模倣・漏洩から事業者を保護することを目的とした法律で、すべての事業者に適用されます。

不正競争防止法は、公平な競争を維持する目的で制定された法律であり、主に営業秘密の侵害などを規制しています。その保護対象は、秘密管理性、有用性、公然と知られていないことの3つの要件を満たす営業秘密に限られます。

不正競争防止法は、特定の商業秘密を保護しますが、これらの要件を満たす情報は必ずしも企業が保護したい全ての情報をカバーしているわけではありません。

しかし、この法律ではカバーできない情報についても保護が必要な場合があります。秘密保持契約により、不正競争防止法の枠組みを超えて、更に広範な秘密情報の保護を定めることができます。

秘密保持契約と不正競争防止法の違いは以下の通りです

<秘密保持契約>

  • 根拠:契約(私法)
  • 対象:契約の当事者
  • 保護される状況:契約で定義された範囲(広く設定できる)
  • 要件:当事者が範囲を定義
  • 効力発生時:契約締結時
  • 強制力:民事契約としての拘束力

<不正競争防止法>

  • 根拠:法律(公法)
  • 対象:すべての事業者
  • 保護される状況:営業秘密
  • 要件:①秘密管理性 ②有用性 ③非公知性
  • 効力発生時:情報の漏洩等が発生した後
  • 強制力:法律による強い保護(刑事罰あり)

秘密保持契約が必要ないケース

企業ウェブサイトや特許公報、企業パンフレットなどで、すでに一般に向けて公開されている情報のみを共有する場合は、秘密保持契約の対象とはなりません。特許出願後の公開技術情報や、展示会等で配布された資料も同様です。秘密保持契約では、「公知情報は秘密情報に該当しない」と明記されるケースが多いです。

また、秘密保持契約の相手方が、すでにその情報を保有していた場合や、別の企業などから正当な方法で情報を入手した場合は、新たに秘密として保持する義務は発生しません。さらに、既存の業務委託契約やライセンス契約等に秘密保持条項が含まれている場合は、別途NDAを結ばなくても情報保護が可能です。

秘密保持契約(NDA)に定めるべき主な事項と記載例

秘密保持契約を締結する際、規定すべき主な事項は以下のとおりです。

  • 締結の目的
  • 秘密情報の定義
  • 秘密情報の開示・漏えいの禁止と例外
  • 秘密情報の目的外利用の禁止
  • 秘密情報の返還・破棄
  • 損害賠償
  • 権利義務の譲渡禁止
  • 契約の有効期間
  • その他の一般条項

秘密保持契約は、開示側・受領側で立場が異なるため、内容によって開示側と受領側の記載例も合わせて紹介します。なお、これを実際の契約書の作成・レビューの際は、この記載をそのまま流用するのではなく、契約の内容によって変更することが望ましいです。

締結の目的

秘密保持契約の前文などでは、秘密保持契約を締結する目的を記載する必要があります。具体的には、どのような取引を検討する目的で秘密保持契約を締結するのかを明記します。

<記載例>甲と乙は、業務提携の可能性を検討するに当たり、甲乙間で授受される秘密情報の取り扱いを定めるため……以下のとおり秘密保持契約を締結する

甲と乙は、甲が乙を買収するM&A取引を検討するに当たり、甲乙間で授受される秘密情報の取り扱いを定めるため……以下のとおり秘密保持契約を締結する

秘密保持契約の目的規定は、後述する「目的外利用」の基準となります。秘密保持の実効性を確保するため、目的の範囲を過度に狭く限定しない方がよいでしょう。上記の記載例を参考にしてください。

秘密情報の定義

秘密保持契約の本文の冒頭(第1条など)では、「秘密情報」の定義を定めるのが一般的です。

「秘密情報」として定義された情報は、第三者に対する開示・漏えいの禁止等の対象になります。なお、目的となる取引を検討している事実や、秘密保持契約の存在自体も秘密情報に含めます。

これについては、開示側は「幅広い情報を秘密にしたい」と考え、受領側は「秘密の情報を制限したい」と考えるのが一般的です

<開示側の記載例>

(秘密情報の定義)本契約において「秘密情報」とは、文書、口頭、電磁的記録媒体その他開示の方法及び媒体並びに本契約締結の前後を問わず、一方当事者(以下「開示者」という。)が他方当事者(以下「受領者」という。)に対して開示した一切の情報、本契約の存在及びその内容、並びに本検討に関する協議又は交渉の存在及びその内容をいう。

<受領側の記載例>

(秘密情報の定義)本契約において「秘密情報」とは、一方当事者(以下「開示者」という。)が他方当事者(以下「受領者」という。)に対して、書面、電磁的記録媒体、その他の媒体に化体して情報を開示した場合には、「秘密」「秘」「Confidential」等の表示を当該媒体に付すことによって秘密情報である旨を明示した情報をいい、口頭又は視覚的に情報を開示した場合には、開示の際に当該情報が秘密である旨を口頭で明示し、かつ当該開示を行った日から1週間以内に当該情報の内容及び秘密情報である旨を明示した書面により相手方に通知した情報をいう。

なお、秘密保持義務を負わせるべきでない情報(公知情報など)については、開示側・受領側とも秘密情報の定義から除外しておきましょう。

<記載例>

ただし、次の各号のいずれかに該当するものは、秘密情報に該当しないものとする。
(1)情報受領者が受領した時点で既に保有していたもの
(2)情報受領者が受領した時点で既に公知であったもの
(3)情報受領者が受領した後、その責によらずに公知となったもの
(4)情報受領者が第三者から秘密保持義務を負わずに適法に取得したもの
(5)情報受領者が秘密情報に依拠することなく独自に開発したもの

秘密情報の開示・漏えいの禁止と例外

秘密保持義務の中心的な内容として、情報受領者は開示者の承諾なく、秘密情報を第三者に開示・漏えいしてはならない旨を明記します。

ただ、秘密情報の無断開示は禁止されるのが原則ですが、実際には開示がやむを得ず、または開示のたびに承諾を取得するのは煩雑に過ぎるケースがあります。

たとえば、公的機関からの開示要請があった場合や、法律上の守秘義務を負う専門家に開示する場合、自社の役員、従業員や関係会社に開示する場合を例外とすることが考えられます。

これについて、開示者側は「例外を制限したい」、受領者側は「例外を広く認めてほしい」と考えるのが一般的です。

<開示側の記載例>

(秘密保持義務)受領者は、秘密情報を厳に秘密として保持し、事前に開示者の書面による承諾を得ることなく、第三者に開示し又は漏洩してはならない。

<受領側の記載例>

(秘密保持義務)
1. 受領者は、秘密情報を厳に秘密として保持し、事前に開示者の書面による承諾を得ることなく、第三者に開示し又は漏洩してはならない。ただし、受領者は、本目的のため必要な範囲において、自己の役員及び従業員、並びに自己が依頼した弁護士、会計士その他のアドバイザー(以下「役職員等」という。)に対して秘密情報を開示できる。
2. 受領者は、役職員等に秘密情報を開示する場合、当該役職員等に対して、本契約に基づき自己が負う秘密保持義務と同等以上の義務を課さなければならず、役職員等が当該義務に違反した場合、受領者が本契約上の秘密保持義務に違反したものとみなす。
3. 第1項の規定にかかわらず、受領者は、法令、裁判所、行政庁又は規制権限を有する公的機関の規則、裁判、命令、指示等により秘密情報の開示を要求される場合、必要な範囲で秘密情報を開示することができる。ただし、受領者は、当該開示を行った場合、可能な限り事前に、又はやむを得ない場合には事後直ちに、当該要求及び開示に係る事実を開示者に対して通知する。
4. 受領者は、本目的のため必要な場合を除いて、開示者の秘密情報又は秘密情報を含む媒体について、事前に開示者の書面による承諾を得ることなく、複写又は複製をしてはならない。なお、本項により複写又は複製をした場合、これにより得た情報についても秘密情報として取り扱われる。

秘密情報の目的外利用の禁止

ノウハウや顧客情報が無関係の目的に利用されることを防ぐため、秘密情報の目的外利用を禁止する旨を明記しておきましょう。

これについて、開示側は「目的外利用を制限したい」、受領側は「目的外利用を広く認めてほしい」と考えるのが一般的です。

<開示者側の記載例>

(目的外使用禁止)受領者は、秘密情報を本目的のためにのみ使用し、本目的以外の目的のために使用してはならない。

<受領側の記載例>

(目的外使用禁止)受領者は、秘密情報を本目的のためにのみ使用し、事前に開示者の書面による承諾を得ることなく、本目的以外の目的のために使用してはならない。

秘密情報の返還・破棄

秘密情報の保有期間が長ければ長いほど、相手方が秘密情報を流出させてしまうリスクが高くなります。

そのため、取引の検討終了時や、秘密保持契約の有効期間満了時には、秘密情報の返還・破棄を請求できる旨を明記しておきましょう。

これについても、開示者側は「秘密情報を速やかに返還・破棄され、かつそれを保証してほしい」と考え、受領者側は「秘密情報の返還・破棄を制限したい」あるいは「一定期間を設けたい」と考えるのが一般的です。

<開示者側の記載例>

(返還又は破棄)
1. 受領者は、以下の各号のいずれかに該当する場合、開示者の指示に従い、開示を受けた秘密情報を速やかに返還又は破棄しなければならない。
(1)受領者が本契約上の義務に違反した場合
(2)開示者から要請があった場合
(3)本目的を達成し、又は達成できないことが確定した場合2.    受領者は、開示者が要請した場合には、前項に基づく義務が履行されたことを証明する書面を開示者に対して速やかに提出する。

<受領者側の記載例>

(返還又は破棄)受領者は、以下の各号のいずれかに該当する場合、開示者の指示に従い、開示を受けた秘密情報を返還又は破棄しなければならない。ただし、法令等の定めに基づき、当該資料等を保持することが要請されている場合には、この限りでない。
(1)受領者が本契約上の義務に違反した場合
(2)開示者から要請があった場合
(3)本目的を達成し、又は達成できないことが確定した場合

損害賠償

秘密保持契約における損害賠償に関する規定を定めます。秘密保持義務に違反した場合の法的責任の範囲や金銭的補償を定める重要な条項です。

開示者側としては「損害賠償を広く認めさせたい」、受領者側は「損害賠償の範囲を制限したい」と考えるのが一般的です。

また、開示者側としては、秘密情報が流出する恐れがある場合に、事前に差し止めを求めることができるようにしておくことが考えられます。

<開示者側の記載例>

(差止請求)開示者は、受領者又は受領者が直接的若しくは間接的に関与する第三者が、秘密情報を不正に開示し、又はこれを漏えい等することにより、開示者の営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある場合、受領者及び当該第三者に対して、当該侵害の原因の解消、又は当該侵害の停止若しくはその予防に必要な措置を講じることを請求できる。

 (損害賠償)前条の規定にかかわらず、甲又は乙は、相手方が本契約の条項に違反したことにより自己が損害を被った場合には、相手方に対して、当該損害の一切(逸失利益、弁護士費用その他の訴訟関連費用を含む。)の賠償を請求することができる。

<受領者側の記載例>

(損害賠償)甲又は乙は、相手方が本契約の条項に違反したことにより自己が損害を被った場合には、相手方に対して、直接かつ通常の範囲内において、当該損害(逸失利益、弁護士費用その他の訴訟関連費用を除く。)の賠償を請求することができる。

権利義務の譲渡禁止

 秘密保持契約は、開示した情報の取扱いを相手方に信頼して預ける契約であり、相手方が勝手に第三者に権利や義務を移転すると情報が流出するリスクがあります。

特にM&A、事業譲渡、再編などで事業が譲渡された場合に、秘密保持契約に関する権利や義務を譲渡させないために定めます。

<開示者側の記載例>

(本契約上の地位の譲渡等の禁止)甲及び乙は、本契約上の地位又は本契約により生ずる権利義務の全部若しくは一部を、事前に相手方の書面による承諾を得ることなく、第三者に譲渡し、承継させ、又は担保に供してはならない。

<受領者側の記載例>

定めないのが望ましい。

契約の有効期間

秘密保持契約の有効期間に関しては、以下の事項を明記しておきましょう。

  • 契約の始期と終期
  • 自動更新の有無、ある場合は期間
  • 解約申入れの手続き
  • 契約終了後も存続する条項と、その存続期間など

なお、開示者側は「有効期間を長くしたい」と考え、受領者側は「有効期間を短くしたい」と考えるのが一般的です。

<開示者側の記載例>

(有効期間)
1. 本契約の有効期間は、本契約締結の日から○年間とする。ただし、期間満了の1か月前までにいずれの当事者からも書面による別段の意思表示がない場合、本契約は期間満了の翌日から起算して、更に1年間同一条件をもって更新され、以後も同様とする。
2. 本契約が終了した場合であっても、第1条(秘密情報の定義)から第4条(返還又は破棄)、第7条(知的財産権)から第13条(本契約上の地位の譲渡等の禁止)、第14条(反社会的勢力の排除)第4項、本項、第16条(準拠法)及び第17条(裁判管轄)の規定は、引き続き効力を有する。

<受領者側の記載例>

(有効期間)
1. 本契約の有効期間は、本契約締結の日から○年間とする。
2. 本契約が終了した場合であっても、第1条(秘密情報の定義)から第4条(返還又は破棄)、第7条(知的財産権)から第11条(本契約上の地位の譲渡等の禁止)、第12条(反社会的勢力の排除)第4項、本項、第14条(準拠法)及び第15条(裁判管轄)の規定は、引き続き効力を有する。ただし、第1条(秘密情報の定義)及び第2条(秘密保持義務)の規定は、本契約の終了日から○年間に限り、効力を有する。

その他の一般条項

上記のほか、以下の一般条項を定めておきましょう。

  • 反社会的勢力の排除:反社会的勢力に該当しない旨の表明、確約。反社会的行為をしない旨の確約。違反した場合の無催告解除権違反した場合の損害賠償
  • 準拠法:秘密保持契約の解釈、適用を行う際に準拠する法
  • 合意管轄:紛争が発生した際、訴訟を提起する裁判所

<記載例>

(反社会的勢力の排除)乙は、甲に対し、本件契約時において、乙(乙が法人の場合は、代表者、役員又 は実質的に経営を支配する者。)が暴力団、暴力団員、暴力団関係企業、総会屋、社会運 動標ぼうゴロ、政治運動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団、その他反社会的勢力(以下「暴 力団等反社会的勢力」という。)に該当しないことを表明し、かつ将来にわたっても該当 しないことを確約する。2. 乙は、甲が前項の該当性の判断のために調査を要すると判断した場合、その調査に協力し、これに必要と判断する資料を提出しなければならない。 

(契約の解除等) 甲は、乙が暴力団等反社会的勢力に属すると判明した場合、催告をすることなく、 本件契約を解除することができる。 2.甲が、前項の規定により、個別契約を解除した場合には、甲はこれによる乙の損害を 賠償する責を負わない。3.第1項の規定により甲が本契約を解除した場合には、乙は甲に対し違約金として金○○円を払う。 

(合意管轄)合意管轄本契約に関する全ての紛争(裁判所の調停手続きを含む)は、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

(準拠法)本契約は、日本法に準拠し、これに従って解釈される。 

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秘密保持契約書を作成・締結する際の流れ

秘密保持契約の締結にあたって、どのような工程をたどるのが一般的かを例示します。一般的には以下の工程をたどります。

  • 秘密保持契約のドラフト作成(相手方から送付)
  • 担当者へのヒアリング
  • 契約書の内容の確認、レビュー
  • 相手方への修正依頼
  • 締結

秘密保持契約書を紙で作成する場合は、原本を2つ作成します。その1つを相手方に送付し、署名と押印のうえ返送してもらいます。もう1つは自社用です。原本であることを示すため、割印も必要な点には留意しましょう。

電子契約で秘密保持契約書を結ぶ際には、電子契約サービスを用いて契約を締結します。近年では、電子契約の利用が徐々に増えてきている傾向です。電子サインとタイムスタンプを用いることで、紙の契約書と同じ効力を発揮します。

秘密保持契約書に収入印紙は不要

秘密保持契約書には、収入印紙の貼付は不要です。

収入印紙は、課税対象となる契約書に貼付することで、金銭のやり取りが発生する契約に対する税金の支払い証明としての能力を発揮します。印紙税の課税文書は20種類ですが、秘密保持契約書はそのいずれにも該当しません。

こちらの記事では、契約書に貼付するべき収入印紙について詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。

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秘密保持契約(NDA)は電子契約で締結も可能

秘密保持契約は、電子契約での締結も可能です。

電子契約はオンラインで完結できるため、事務手続きを省略できます。また、紙の契約書でネックとなりがちな押印、印刷、郵送作業が不要になり、管理のための物理的なスペースも不要です。

さらに、電子契約システムで電子署名やタイムスタンプを付与し、閲覧権限をコントロールすることで、内容の改ざんや情報漏洩の防止にもつながります。

電子契約についてはこちらの記事を参照してください。

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秘密保持契約をはじめ、事業を進めるためのさまざまシーンでは、契約書の締結が欠かせません。一方で、Web上で探せる契約書のひな形は、秘密保持契約のような比較的多く使うものを除き、公開されていないものがほとんどです。

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NobishiroHômu編集部
執筆

NobishiroHômu編集部

 

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