電子契約では収入印紙が不要となる根拠
電子契約に収入印紙を貼付する必要がないのは、印紙税法における課税文書の「作成」の解釈を根拠としています。
印紙税法基本通達・国税庁の文書回答事例・国会答弁の内容に沿って、その根拠を分析してみましょう。
印紙税法基本通達
印紙税は、課税文書を「作成」した者に対して課税されます(印紙税法3条)。この「作成」の意義については、印紙税法基本通達44条において明らかにされています。
(作成等の意義)
第44条 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
2 課税文書の「作成の時」とは、次の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによる。(1) 相手方に交付する目的で作成される課税文書 当該交付の時
(2) 契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される課税文書 当該証明の時
(3) 一定事項の付け込み証明をすることを目的として作成される課税文書 当該最初の付け込みの時
(4) 認証を受けることにより効力が生ずることとなる課税文書 当該認証の時
(5) 第5号文書のうち新設分割計画書 本店に備え置く時
印紙税法基本通達 – 国税庁
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/inshi/inshi01/07.htm
契約書は「相手方に交付する目的で作成される課税文書」に当たるため、「作成」がなされたとして印紙税が課されるのは、相手方に対して契約書が交付された時です(印紙税法基本通達44条2項1号)。
結論として、電子契約を締結してファイルを相手方に送信する行為は「交付」に該当しないため、電子契約には印紙税が課されないと解されています。
国税庁の文書回答事例
国税庁の文書回答事例では、契約書類の一種である注文請書を電子メールで送信したケースについて、印紙税が非課税となる見解が示されています。
……印紙税法に規定する課税文書の「作成」とは、印紙税法基本通達第44条により「単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう」ものとされ、課税文書の「作成の時」とは、相手方に交付する目的で作成される課税文書については、当該交付の時であるとされている。
上記規定に鑑みれば、本注文請書は、申込みに対する応諾文書であり、契約の成立を証するために作成されるものである。しかしながら、注文請書の調製行為を行ったとしても、注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないから、印紙税の課税原因は発生しないものと考える。
ただし、電子メールで送信した後に本注文請書の現物を別途持参するなどの方法により相手方に交付した場合には、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課されるものと考える。
文書回答事例 別紙1-3 – 国税庁
https://www.nta.go.jp/about/organization/fukuoka/bunshokaito/inshi_sonota/081024/02.htm#a03
国税庁の立場は、電子データによって注文請書を調製(作成)したとしても、相手方に対する「現物の交付」がない限りは、印紙税法上の課税文書の「作成」には当たらないというものです。この立場を前提として、電子メールによる注文請書データの送信は「現物の交付」ではないため、印紙税は非課税であるとの見解を示しています。
ただし、電子メール送信の後、現物(書面)によって注文請書を相手方に交付した場合は、印紙税が課税されるとの見解が示されている点に注意が必要です。
国会答弁
2005年に小泉純一郎内閣総理大臣(当時)が行った国会答弁でも、電子契約などの電磁的記録については、印紙税の課税対象外であることが述べられています。
事務処理の機械化や電子商取引の進展等により、これまで専ら文書により作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。
しかし、印紙税は、経済取引に伴い作成される文書の背後には経済的利益があると推定されること及び文書を作成することによって取引事実が明確化し法律関係が安定化することに着目して広範な文書に軽度の負担を求める文書課税であるところ、電磁的記録については、一般にその改ざん及びその改ざんの痕跡の消去が文書に比べ容易なことが多いという特性を有しており、現時点においては、電磁的記録が一律に文書と同等程度に法律関係の安定化に寄与し得る状況にあるとは考えていない。
参議院議員櫻井充君提出印紙税に関する質問に対する答弁書 – 参議院
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/162/touh/t162009.htm
同国会答弁では、電磁的記録に印紙税を課税しないことの理由として、文書に比べて改ざん等が容易であるため、文書と同等程度に法律関係の安定化に寄与し得るものではないことが挙げられています。
電子契約が幅広く普及している現在においては、2005年当時に比べると、少なからず状況は変化しているというべきでしょう。しかし、電子契約に関する印紙税法の改正は当時から行われておらず、現在でも同国会答弁にて言及された取り扱いは維持されています。
収入印紙が不要になること以外の電子契約のメリット
収入印紙が不要になることのほか、電子契約には以下に挙げるメリットがあります。
- 業務の効率化やコスト削減につながる
→契約書の印刷や、締結のための出張などが不要となり、業務の効率化やコスト削減につながります。
- 契約締結がスピーディに行える
→オンライン上で簡単に締結操作が行えるため、スピーディに契約を締結できます。
- 保管や管理が効率化する
→契約書の保管スペースを確保する必要がなく、検索機能も活用できるため、過去に締結した契約の保管・管理が効率化されます。
- リモートワークでも対応できる
→オンライン上で締結が完了するため、リモートワークとも高い親和性があります。
- 改ざんや紛失のリスクが減る
→電子署名・タイムスタンプなどによって改ざんリスクを防げるほか、バックアップを容易に作成できるため、紛失のリスクを防ぐこともできます。
電子契約のメリットについては、以下の記事を併せてご参照ください。
関連記事電子契約とは?導入メリットや関連した法律などについて徹底解説
電子契約の導入にあたって知っておくべき注意点
電子契約を導入した場合でも、すべての契約を電子化できるわけではありません。また、電子契約の締結・保存に関しては、満たすべき要件があることにも注意が必要です。
すべての契約を電子化できるとは限らない
法令によって書面の作成が義務付けられている契約書については、電子契約によって締結することはできません。
- 電子締結できない契約の例
・任意後見契約書(任意後見契約に関する法律3条)
・事業用定期借地権設定契約書(借地借家法23条3項)
など
最近では、従来書面の作成が義務付けられていた契約書の多くについて、電子化を認める法改正がなされています。しかしまだ一部には、法令上電子化できない契約が残っている点にご注意ください。
締結・保存に関して満たすべき要件がある
電子契約を有効に締結し、そのファイルを法令に従って保存するためには、以下の3点を満たす必要があります。
- 電子署名を付す
→当事者によって有効に電子契約が締結されたことを証するために、双方が電子署名を付す必要があります。 - タイムスタンプを付す
→電子契約のファイルが存在した時点を証するために、タイムスタンプを付す必要があります。 - 電子帳簿保存法に従って保存する
→改ざん等を防止する「真実性」の要件と、ディスプレイ上でスムーズに内容を確認できる「可視性」の要件(検索機能の確保を含む)を満たす形で保存する必要があります。
これらの要件については、適切な電子契約システムを選定・利用すれば満たすことが可能です。
電子契約を導入するために準備すべきこと
企業が電子契約を導入するに当たっては、法務部門の業務状況について現状確認を行った上で、自社のニーズに合った電子契約システムを選定・導入することが大切です。
自社の法務業務の現状確認
まずは、自社の法務部門の業務状況について、現状確認を行う必要があります。実際の業務状況を把握することで、電子契約システムを選定する際の基準や、フローの調整が必要な部分などが明確になるからです。
具体的には、自社が締結している契約の種類や、契約締結に至るまでの業務フローなどを確認しましょう。法務担当者に対してもヒアリングを行い、どのような機能を備えた電子契約システムが望ましいのかなど、現場としての肌感覚を聞いておくことをお勧めいたします。
電子契約システムの選定
契約締結業務に関する自社の現状やニーズが把握できたら、実際に電子契約システムの選定を行います。
電子契約システムのサービス内容は一様ではなく、機能面や費用などについてそれぞれ特徴があります。複数の電子契約システムにつき、必要な機能が含まれているかどうか、法務担当者にとって使いやすいかどうかといった点や、予算とのバランスなどを中心にチェックしましょう。その上で、自社のニーズを満たせるものを選定することが大切です。
また、電子契約を管理する上では、セキュリティが強固であることも重要になります。電子契約システムを選定する際には、どのようなセキュリティ機能が備わっているかについても確認しておきましょう。
契約書の管理方法の検討
電子契約で締結した契約書をどのように管理するかも検討する必要があります。
管理方法の一つとして、エクセルで管理台帳を作成して契約書を管理する方法があります。
台帳内に契約書のタイトル、取引先名、契約締結日、保管フォルダなどを記載しておけば、それらの情報を利用して契約書を検索することが可能です。
ただ、エクセル上で契約書ファイルを開くことはできないため、内容を閲覧するためにはファイルが保存されたフォルダを開くといった操作が必要となります。
しかし、契約管理システムを導入すれば、システム上で契約書ファイルの検索と閲覧をすることができるようになります。
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電子契約と収入印紙についてのFAQ
電子契約と収入印紙の関係性について、基本的な知識を確認しておきましょう。
電子契約では収入印紙が不要?
書面(紙)で締結する契約書の場合、その種類・内容によっては収入印紙の貼付が必要になります。これに対して、書面ではなく電子契約の方式で締結する場合、収入印紙の貼付は一切不要です。
電子契約に収入印紙の貼付が不要なのは、電子契約の締結・送信が、印紙税法上の課税文書の「作成」に該当しないと解されているためです。
そもそも電子契約とは?
電子契約とは、書面(紙)ではなく電子データで締結する契約をいいます。契約交渉を経て合意した内容をまとめたファイルをシステム上にアップロードし、双方が電子署名を行って締結するのが一般的です。
本記事で解説するように、電子契約には収入印紙の貼付が不要となるメリットがあります。それ以外にも、リモートでスピーディに締結できる、締結した契約の管理がしやすいなど、業務の効率化につながるメリットが数多く存在します。
収入印紙が必要な文書とは?
収入印紙とは、行政に対して手数料や租税を支払ったことを証明するために発行される証票です。
印紙税法で定められる課税文書には、収入印紙を貼付する必要があります。
課税文書の種類は、第1号文書から第20号文書までの20種類です。一例として、以下の文書が課税文書に該当します。
- 第1号文書
・不動産売買契約書
・土地賃貸借契約書
・金銭消費貸借契約書
・運送契約書 - 第2号文書
・工事請負契約書
・工事注文請書 - 第5号文書
・合併契約書
・吸収分割契約書
・新設分割契約書 - 第7号文書
・取引基本契約書
・業務委託契約書 - 第12号文書
・信託契約書 - 第13号文書
・保証契約書 - 第14号文書
・金銭または有価証券の寄託契約書 - 第15号文書
・債権譲渡契約書
・債務引受契約書 - 第17号文書
・領収書
など
印紙税の課税文書の詳細については、以下の記事を併せてご参照ください。
関連記事
契約書の収入印紙について解説!不要な場合や印紙代の節約法も紹介
電子契約書を印刷したら収入印紙が必要?
印紙税が課税されるのは、原則として課税文書の原本のみです。原本とは別に写しを作成する場合、写しには基本的に印紙税が課税されません。
電子契約の場合、電子署名が付された電子ファイルが原本であり、それを印刷した書面は写しに当たります。したがって、電子契約を印刷したとしても、印刷した書面に印紙税は課されないのが原則です。
ただし、電子契約を印刷した書面に、相手方の署名・押印・原本証明のいずれかが付されている場合には、印紙税の課税対象となる点に注意が必要です(印紙税法基本通達19条2項)。
(同一の内容の文書を2通以上作成した場合)
第19条 契約当事者間において、同一の内容の文書を2通以上作成した場合において、それぞれの文書が課税事項を証明する目的で作成されたものであるときは、それぞれの文書が課税文書に該当する。
2 写、副本、謄本等と表示された文書で次に掲げるものは、課税文書に該当するものとする。
(1) 契約当事者の双方又は一方の署名又は押印があるもの(ただし、文書の所持者のみが署名又は押印しているものを除く。)
(2) 正本等と相違ないこと、又は写し、副本、謄本等であることの契約当事者の証明(正本等との割印を含む。)のあるもの(ただし、文書の所持者のみが証明しているものを除く。)
印紙税法基本通達 – 国税庁
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/inshi/inshi01/04.htm