大手化学メーカーの一事業部からスタートしたCDMO(医薬品製造受託機関)
Minaris Regenerative Medicine株式会社は、再生医療等製品等を取り扱う医薬品製造受託機関(CDMO)です。
CDMOとは、自社製品を持たず、製薬企業からの委託に基づいて委託者の保有する製品の開発・製造を行う事業体です。
当社の事業は、2017年に日立化成が米国の再生医療用細胞のCDMOであるPCTを買収し、事業部として再生医療を手がけるようになったことから始まりました。2019年には独アプセス社を買収し、当社グループは、現在に至るまで日米独の3か国に拠点を展開しています。その後、2021年に分社化し、Minaris Regenerative Medicineとなりました。顧客は、主に日本国内の大手製薬会社やバイオベンチャー企業で、他に海外大手製薬会社が取引先です。当社は、主に治験薬及び商用製品の製造や、顧客製品の製造法・分析法開発を受託しています。
CDMOは、まだ新しい事業モデルで、特にバイオ医薬品の分野で導入されています。
グローバルにおけるバイオ医薬品市場は2024年で約6兆円規模、今後拡大傾向にあるといわれています。その影響もあり、CDMO自体も成長分野として注目されています。成長の背景には、新薬の研究開発費の高騰を受けた製造のアウトソースニーズの高まり、自社で十分な製造設備を持たないバイオベンチャーの台頭などもあるようです。
当社の法務組織は2名体制で、管理監督はVP of Financeが担っています。
私の主な業務は、契約審査、契約書管理、法務相談対応と機関法務です。もう一人のメンバーは、主に輸出管理と知財管理を担っています。取り扱う契約書の多くは、医薬品受託開発に関する業務委託契約です。契約書業務が最も重い仕事であり、業務の中でも大きな比重を占めています。法律相談については年間で約50から80件程度対応しています。内容は様々で、即答できるものもあれば、顧問弁護士に相談する必要があり、数日かかるものもあります。
当社には管理部門、営業部門、製造や品質に関わる部門等がありますが、法務は特に営業部門との連携が多く、契約関連の調整や交渉の現場に、法務が同席することもあります。
医薬品委託製造では、技術移転、出発原料の提供などが契約上の論点に
CDMOでは、委託者である製薬会社が保有する技術の移転を受けて製造を行います。業務委託契約では、その技術移転や出発原料の提供、設備等の購入などに関する取り決めに関して細かく規定します。その中で特に相手方との論点となりやすいのは、品質保証や責任の負担に関する取り決めです。
委託側としては当然、受託側に広範な責任を負担して欲しいと考えます。一方で、CDMOである当社は、顧客から移転された製法に基づき、顧客から提供された出発原料を使用して製造を行っていますので、製品の品質や効能など、当社でコントロールできないことは保証できない旨を、契約上、明確にする必要があるのです。そのため、双方のビジネス判断として、責任の所在を慎重に線引きすることが交渉の焦点となり、度々議論が生じます。
このような論点も、商慣習や蓄積された過去の事例があれば参照できますが、再生医療は新しい分野ですし、CDMO自体もそれほど長い歴史はもちません。このことが、この論点がより一層問題となりやすい原因になっているのだろうとも考えています。
他に、この分野に特徴的な契約条項としては、支払い条件に関するものがあります。
受託製造にあたって原材料や専用装置を購入する場合がありますが、契約書上では、所有権や危険負担を明確に定めておくことに留意しています。あえて委託者側の立場から語るとすると、購入物品の廃棄や転用に関する取り決めについても、留意すべき点だろうと思います。
リーガルテックを複数活用することによって法務サービスの高速化、高品質化を実現
CDMOは新しいビジネスモデルであり、非常にスピード感が求められます。業務品質を保ちつつ、効率化・高速化を図るためには、リーガルテックの活用が非常に重要であると考えています。
当社でも、リーガルテックをはじめとする複数のツールを導入しています。まず、契約審査においてはAIレビューサービス「LegalForce」を活用しています。このツールは業務の高速化という点で非常に助けられています。例えば当日中に回答を求められる依頼に対しても、LegalForceを活用することで約8割の契約書に対応できており、社内メンバーからも好評を得ています。
また、ひな形も活用しています。
LegalForceからダウンロードしたひな形などをベースに自社ひな形を作成、契約審査業務の際に新たな観点や論点が発生するたびに、その詳細と対応方針を自社ひな形内にコメントの形で残しています。自社ひな形内に自社基準のチェックリストを形成しているようなイメージですね。
LegalForceのひな形集には契約書以外の文書もあり、それも活用しています。
例えば、取締役会・株主総会議事録などのひな形については、私自身運営に携わった経験があまりなかったため、とても助けられました。
さらに、2024年から営業部門とともに行っている英文NDAのワークショップにも活用しています。LegalForceでNDAのAIレビューを実行し、レビュー結果に付随して出てきた解説を、ワークショップの教材として活用しているのです。
そのほか、電子署名ツールを導入し、約8割の契約書は、電子署名とすることに成功しています。またリーガルテックではありませんが、法務で発生した全ての案件はチケット管理システムで管理しています。その上で営業部門とは、週次の契約関連進捗確認を行い、タイムリーな対応と顧客動向の把握に努めています。
契約の一元管理のため、CLM(Contract Lifecycle Management)ツールを導入
さらに近年、CLM(Contract Lifecycle Management System: 契約ライフサイクルマネジメントシステム)ツールを導入しました。導入の流れとしては、一昨年(2023年)からトライアルを開始し、昨年1月に正式導入しました。契約業務に関わる営業、法務その他のメンバー数名で3か月間トライアル利用し、その後全社に拡大しました。
全契約案件の進捗管理から締結後の契約書まで一元管理できるようになりました。これにより、以前、メールでやりとりしていた頃の「現在のステータスがわからない」といった問題を解決することができました。他にも、「●●に該当する過去契約書を洗い出して報告せよ」といった指示が来ることもあるので、メタ情報を付与し、OCRによって全文検索できるCLMの契約書管理機能は、非常に有用です。事業部でも、前四半期の特定の条件の契約の件数を調査するなど、必要なデータをCLMのデータベースから取得して活用しているようです。
CLMに管理している締結済契約書は総数でおよそ1,500件ほどです。
なお、導入時の工夫としては、事業部の活用を促進するため、データ移行などの面倒な作業は私が行い、契約書の全文検索など、ツール導入のメリットを体感してもらうことに集中できるよう努めました。また、マニュアルや問い合わせ窓口を整備し、機能の更新などがある場合は、社内のコミュニケーションツールを通じて周知の上、マニュアルは当日中にupdateしています。
CLMでより高度な分析を行い、業務の効率化に生かすことが今後の課題です。
再生医療のCDMOは成長産業。支援ツールとしてのリーガルテックの進化に期待
再生医療は医療の最先端に位置する分野です。これまで「不治の病」とされていた疾患への適用を目的とした技術もあり、患者様からの期待も高いです。また、法務領域においても、スタンダードが存在しない中で試行錯誤する必要がありますし、全く新しいことを、突然「やってください」と依頼されることもあります。大変ではありますが、挑戦したいと考えたり、誰も拾わないボールを拾おうとしたりする姿勢を持つ方には、非常にやりがいを感じられる領域だと思います。
私も、「今できないことでも、やりながら学んでいこう」と思って取り組んでいます。
そのような状況下では、リーガルテックをはじめとする各種ITツールは有用な存在です。一方で、日常業務では前に述べたリーガルテックツールの他、法務関連書籍検索のサブスクリプションサービスを活用しています。さらには、全社で使用しているワークフローシステムやチケット管理システムもあります。相互連携や全てを使いこなせているかという点において課題を感じています。今後、それぞれのサービスが進化し、連携が容易になることを期待しています。
LegalOn Cloudは、製薬業界の支援に特化したコンテンツを提供しています。
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