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退職代行への対応で企業が知るべき5つのポイント

退職代行への対応で企業が知るべき5つのポイント
この記事を読んでわかること
    • 退職代行サービスの概要
    • 法的根拠と制限
    • 企業側の適切な対応方法
    • 退職代行業者の申し出を拒否できる場合
    • 職場環境の改善

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近年、「退職代行サービス」の利用が増加し、企業の人事・労務担当者にとって新たな課題となっています。ある日、突然代行業者から従業員の退職申し出があり、戸惑う企業も少なくありません。この記事では、退職代行サービスの実態や法的根拠、企業側の適切な対応方法について詳しく解説します。退職代行業者との交渉の際の注意点や、従業員との良好な関係を維持するためのポイントも押さえていきます。

なお、退職代行サービスは、その提供主体によって行うことができる業務がそれぞれ法的に定められています。企業として事業者に適切に対応するためには、その前提となる法律に関する知識をもつことが重要です。一方で、法務実務に従事しながら、こうした法律関連知識を体系的にキャッチアップしていくことには困難が伴います。

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退職代行サービスとは

退職代行サービスは、労働者に代わって企業に退職の意思を伝え、手続きを行うサービスです。近年、人材の流動化や労働者の価値観の変化などにより、このサービスの需要が高まっています。

退職代行サービスの目的

退職代行サービスの主な目的は以下の通りです。

  • 退職を切り出しづらい人の心理的負担を軽減する
  • スムーズな退職手続きをサポートする
  • 職場のハラスメントや不当な扱いから労働者を保護する

退職代行サービスの種類

退職代行サービスは、提供主体によって「民間企業」、「退職代行ユニオン」、「法律事務所」の3つに分類されます。

民間企業

一般の退職代行サービス会社は、主に以下の業務を行います。

行える業務

  • 退職の意思伝達
  • 退職届の提出

民間企業の退職代行サービスでは、退職日や未払い賃金等の調整・交渉を行うことは法的に認められていません

退職代行ユニオン

退職代行ユニオンは合同労働組合の一種で、合同労働組合とは企業規模や雇用形態に関わらず労働者が加入できる社外の労働組合です。民間企業の退職代行サービスが行うことができる業務に加えて以下のような業務にも対応します。

行える業務

  • 退職日や引継ぎの交渉・調整
  • 未払い賃金の請求交渉
  • その他、雇用先企業との各種交渉

労働組合として団体交渉権を持つため、依頼主の希望に応じて各種交渉を行うことができます。ただし、裁判となった場合は代理人としての役割を果たすことはできません

法律事務所

弁護士が提供する退職代行サービスは、最も広範囲なサポートが可能です。弁護士は正式な代理人として、民間企業、退職代行ユニオンのサービス事業者が行うことができる業務に加えて以下の業務なども行えます。

行える業務

  • 裁判になった場合の代理人

交渉や紛争対応など、幅広く退職代行業務を行うことができるのは弁護士のみです。また、弁護士は守秘義務を負っているため、情報漏洩のリスクも低くなります。


のように、退職代行サービスは提供主体によって法的に行ってよい業務が異なります。企業側は、退職代行サービスの種類を把握し、適切な対応を取ることが求められます。

退職代行サービスに係る法的根拠

ここでは、民法で定められた退職の自由、弁護士法、そして労働組合の役割について詳しく見ていきます。

退職の自由

退職は労働者の基本的な権利です。民法627条に基づき、期間の定めのない雇用契約の場合、労働者は2週間前に予告すれば自由に退職できます。ただし、就業規則や労働契約で別段の定めがある場合は、その規定に従う必要がある場合もあります。

護士法と非弁行為

弁護士法72条は、弁護士または弁護士法人でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを禁止しています。これは「非弁行為」と呼ばれ、退退職代行サービスについて、この弁護士法72条で禁止する「非弁行為」に当たるかが問題となります。

非弁行為に該当する可能性がある行為

  • 退職条件の交渉
  • 未払い賃金の請求
  • 退職金の交渉

一般の退職代行業者がこれらの行為を行うと、非弁行為に該当する可能性があります。

適法とされる行為

本人が作成した退職届を勤務先に届けるなど、単なる使者としての役割であれば、非弁行為には該当しにくいと考えられています。ただし、退職代行サービスについてはまだまだ法的な解釈が確立していない点には留意が必要です。

労働組合の団体交渉権

労働組合は、労働組合法に基づき、使用者と団体交渉を行う権利を有しています。合同労働組合の一種である退職代行ユニオンも同様です。労働組合型の退職代行サービスは、法的に認められた団体交渉権を活用するため、一般の退職代行業者よりも広範囲な交渉が可能です。

以上のように、退職代行サービスの法的根拠は複雑ですが、企業側として以下の点を押さえておくことが重要です。

  1. まず、退職意思を伝達してきた業者は民間企業か、退職代行ユニオンまたはユニオンと連携している業者か、弁護士または弁護士法人かを確認する。
  2. 民間の退職代行業者であれば、交渉をしてきたらそれは非弁行為に当たりうるため断る
  3. 退職代行ユニオンについては、労働組合法上認められた労働組合であるかを確認する
  4. 従業員の退職の自由や有給を取得する権利を尊重したうえで引き継ぎをお願いする

法律事務所が最も広範囲な対応が可能で、労働組合は団体交渉権を活用できる一方、裁判での代理はできません。民間企業は最も制限が多いですが、単純な退職意思の伝達のために利用される場合もあります。企業側は、こうしたここで紹介した法的根拠を理解した上で、事業主体ごとに適切に対応することが必要です。

企業側の具体的な対応方法

退職代行業者からの連絡を受けた場合の具体的な対応方法を解説します。

退職代行業者からの連絡を受けたら

退職代行業者から連絡があった場合、まず以下の手順で対応します。

  1. 身元確認:退職代行業者の名称、担当者名、連絡先を確認します。
  2. 代理権の確認:弁護士、労働組合、一般企業のいずれであるかを確認し、交渉可能な範囲を把握します。
  3. 連絡内容の記録:日時、内容、対応者を正確に記録します。

従業員本人との確認

退職代行業者が本人への直接連絡を控えるよう求めても、法的拘束力はありません。必要に応じて本人に連絡することは可能です。ただし、そもそも退職代行に依頼したということは、従業員本人は会社側との接触に抵抗感を示す可能性が高いです。対応は慎重に行いましょう。

  1. 本人への連絡:退職代行サービスにより適切な窓口が指定されたときは、本人に直接連絡は控えます。
  2. 退職意思の確認退職代行業者に本人以外が依頼しているという場合も考えられます。「依頼人に提出した委任状」の提出を代理人である業者に依頼しましょう。

重要本人との連絡が取れない場合や、本人が直接のやり取りを拒否する場合は、退職代行業者を通じてコミュニケーションを取ります。

退職手続きの進め方

退職の意思が確認できたら、以下の手順で退職手続きを進めます。

  1. 退職届の受領
    退職代行業者経由でも構いません。
  2. 回答書の作成
    依頼内容の確認をし、できるだけ早く連絡をします。
  3. 退職日の調整
    ・業務の引き継ぎが必要な場合は依頼します。
    ・就業規則に基づいて退職日を決定します。
    ・通常は2週間前の予告が必要です。
  4. 貸与品の返還
    ・PCやスマートフォン、鍵、社員証などの返却を依頼します。
    ・返却リストを作成し、期限と送り先を指定します。
  5. 退職金や未払い賃金の精算
    ・退職金規定に基づいて計算します。
    ・未払い賃金がある場合は精算します。
  6. 各種書類の準備と交付
    ・離職票や雇用保険被保険者証を準備します。
    ・源泉徴収票や退職証明書を発行します。

注意点

退職代行業者が民間企業の場合、退職条件の交渉はできません。交渉が必要な場合は、本人または弁護士・労働組合を通じて行う必要があります。退職代行サービスを利用された場合でも、従業員の権利を尊重しつつ、法令と社内規定に基づいた適切な対応を心がけることが重要です。

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退職代行業者の申し出を拒否できる場合とできない場合

従業員が退職代行業者を使って退職の意思を伝えて来た際、ケースによっては申し出を拒否できる場合もあります。

非弁行為の場合は拒否できる

退職代行業者の行為が非弁行為に該当する場合には、その申し出を拒否することができます。具体的には、弁護士資格を持っていない代理人が非弁行為に該当する退職手続きを行う、従業員本人から退職の申し入れが法律に基づいていない場合などがこれにあたります。

法律を順守している場合は拒否できない

法律を遵守している場合は、原則としては粛々と手続きを進めましょう。具体的には、民法第627条1項による解約申し入れをすることができるという規定によります。これは、無期雇用契約であれば従業員はいつでも解約の申し入れができ、申し入れた日から2週間が経過すると雇用契約は解消(=退職)されることによります。

有期雇用に関しては状況による

有期雇用契約を締結している従業員については、適用される解約申し入れのルールが状況によって異なります。民法では、6か月以上の期間にわたっての有期雇用契約があるならば、解約の申し入れは3か月前と定められています。しかし、止むを得ない事情がある場合には、退職の意思を受け入れざるをえない場合もあるので注意しましょう。

退職代行業者が利用されずに済む職場環境づくり

退職代行の利用者が出たということは、直接退職の意思を会社側に告げられないなんらかの理由があるということでしょう。それは、就労環境や社内制度に何らかの問題があることの表れかもしれません。まずは、従業員が直接退職の意思を伝えやすい職場環境を整備することが重要です。以下に、具体的な施策を紹介します。

社内コミュニケーションの改善

良好な社内コミュニケーションは、退職代行の利用を防ぐ鍵となります。

  1. 定期的な1on1ミーティング
    ・上司と部下が定期的に対話する機会を設ける
    ・業務の進捗だけでなく、個人の悩みや課題も共有
  2. オープンな意見交換の場
    ・部署や階層を超えた意見交換会を開催
    ・匿名での意見箱設置
  3. 経営層との対話
    ・社長や役員との直接対話の機会を設ける
    ・全社集会やタウンホールミーティングの実施

働きやすい環境の整備

従業員が継続して働きやすい職場であることや、職場で困りごとを直接相談しやすい環境を整えることで、退職自体を抑制できます。

相談窓口の設置

  • 人事部門に専門の相談窓口を設ける
  • 相談内容の秘密厳守を徹底する

メンタルヘルスケアの充実

メンタルヘルスケアの充実は、従業員の心身の健康を保ち、ストレスなく仕事に集中できる効果があります。

  1. ストレスチェックの定期実施
    ・法定のストレスチェックを確実に実施
    ・結果に基づく個別フォローアップの徹底
  2. カウンセリングサービスの提供
    ・社内カウンセラーの配置または外部EAP(Employee Assistance Program 従業員支援プログラム)サービスの導入※ EAP:組織や個人の悩みや課題・心配事を解決することで、個々人や組織の能力を十分に発揮し、生産性の維持向上に役立つプログラムやサービスのことを指します。
    ・利用しやすい予約システムの整備
  3. メンタルヘルス研修の実施
    ・管理職向けのラインケア研修※ ラインケア:職場の上司などの管理監督者が、部下である労働者のメンタルヘルスケアを行うこと。日頃から部下の状況を知っている上司が行うのでストレスの原因を把握しやすい点がメリットです。
    ・全従業員向けのセルフケア研修

れらの施策を総合的に実施することで、エンゲージメントが向上し、離職率低下や生産性向上が期待できます。さらに、たとえ退職者が出たとしても円満な退職が実現し、結果として健全な労使関係を構築することができるでしょう。長期的な視点で、継続的に職場環境の改善に取り組むことが重要です。

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退職代行への適切な対応と今後の課題

退職代行サービスの利用が増加する中、企業側の適切な対応が求められています。本記事では、退職代行の概要、法的根拠、企業側の対応方法、法的リスク、そして職場環境改善策について解説しました。

退職代行への対応では、まず業者の身元確認と代理権の範囲を把握することが重要です。その上で、可能な限り従業員本人との直接対話を試み、退職の意思を確認します。同時に、非弁行為や個人情報保護に注意を払い、法的リスクを回避する必要があります。

しかし、退職代行への対応だけでなく、その根本原因に取り組むことが重要です。コミュニケーションの改善、退職しやすい環境の整備、メンタルヘルスケアの充実など、職場環境の改善に継続的に取り組むことで、退職代行サービスの利用そのものを減らすことができるでしょう。

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