売買契約書とは
「売買契約書」とは売主が買主に対して物を売り渡し、買主がこれを買い受ける旨を定めた契約書です。
売主は買主に対して目的物を引き渡して所有権を移転し、買主はその対価として売主に代金を支払います。
売買契約書を締結する目的
売買契約書を締結することの主な目的は、売買に伴うトラブルのリスクにあらかじめ備えておくことです。
売買契約書では、売買の目的物やトラブル発生時の処理方法などが定められます。これらの事項を明確化しておくことで、万が一トラブルが発生した場合の深刻化を防ぐことが可能となります。
売買契約書の法的効力
売買契約書は、民法555条に基づく当事者間の売買合意を客観的に証明する書面であり、署名押印によって真正な証拠力を備えます。これにより、目的物の所有権移転時期、代金支払義務、瑕疵担保責任、解除・損害賠償の要件など重要事項が明確化され、紛争時には裁判所での立証負担を軽減することが可能です。
また、印紙税法上の課税文書に該当する場合に印紙を貼付しておくことで、過怠税や契約無効リスクを回避できます。書面がなくとも契約自体は成立しますが、証拠保全とリスク管理の観点から売買契約書の作成は実務上不可欠と言えるでしょう。
売買契約書の主な種類
売買契約書の目的物としては、さまざまな種類の不動産・動産が想定されます。以下に挙げるものはその一例で、目的物の種類に応じた適切な取引ルールを定めることが大切です。
不動産の取引に関する売買契約書
不動産の取引をする際に作成する契約書を指します。法律上、売買契約書の作成が義務付けられているわけではありませんが、高額で取引されることが多いため、売買契約書を作成して取引するのが一般的です。
税金や権利関係など複雑な項目についても明記しなければ、取引後に買主と売主間でトラブルになる可能性がありますので留意しましょう。
<不動産売買契約書の例>
- 土地建物売買契約書
- 土地売買契約書
- 建物売買契約書
- 農地売買契約書
- 区分所有建物売買契約書 など…
商品等の取引に関する売買契約書
商品の取引をする際に作成する契約書を指します。対象となる商品の名称や製造番号などの詳細情報を契約書内に盛り込み、売買契約の目的物を明確にすることが契約時のポイントと言えるでしょう。
<商品等の取引に関する売買契約書の例>
- 商品売買契約書
- 物品売買契約書
- 自動車売買契約書 など…
継続的な売買取引を行う際の売買契約書
継続的な取引を行う際、毎回同じ契約を結ぶ手間を省くために作られる売買契約書です。継続的な基本契約の内容と異なる取引・事項が生じた際に別途、個別契約を締結することもできます。
<継続的な取引に関する売買契約書の例>
- 継続的商品取引基本契約書 など…
売買契約書に定めるべき主な事項と記載例
売買契約書において定めるべき主な事項は、以下のとおりです。
売買の当事者・目的物
売買契約書において定めるべきもっとも基本的な事項は、売買の当事者と目的物です。つまり、誰が売主で誰が買主なのか、何を売るのかを明記します。
目的物は、他の物と区別できる程度に特定して記載する必要があります。下記の記載例では、別紙で商品の仕様を具体的に特定する形としています。
- (例)
前文
○○株式会社(以下「甲」という。)と△△株式会社(以下「乙」という。)は、以下のとおり売買契約書を締結する。
第○条(売買の内容)
甲は乙に対し、別紙記載の仕様に基づく商品□個(以下「本件商品」という。)を売り渡し、乙はこれを買い受ける。
売買代金の額・支払方法
売買代金については、その金額と支払方法を明記します。
支払方法は銀行振込とするのが一般的です。手数料の負担者は買主とするケースが大半ですが、念のため負担者を明記しておきましょう。
- (例)
第○条(売買代金)
1. 本件商品の売買代金は○円とする。
2. 乙は甲に対し、○年○月○日(以下「実行日」という。)において、本件商品の引渡しと引き換えに、前項に定める売買代金(以下「売買代金」という。)を、別途甲が指定する銀行口座に振り込む方法によって支払う。振込手数料は乙の負担とする。
目的物の引渡し・対抗要件具備に関する事項
目的物の引渡しに関しては、引渡日(売買実行日)と引渡し方法を明確化する必要があります。引渡日は、売買代金の決済日と同日とするのが通常です。
また、売買契約に基づく所有権の移転を第三者に対抗するためには、民法所定の対抗要件を具備しなければなりません。
目的物が動産の場合は、その引渡しが対抗要件となります(民法178条)。これに対して、目的物が不動産の場合には所有権移転登記が対抗要件となるため(民法177条)、登記手続きに関する売主の協力義務などを明記しておきましょう。
- (例)
第○条(引渡し)
甲は乙に対し、実行日において、売買代金の支払いと引き換えに、本件商品を乙の事業所に持参または配送する方法により引き渡す。
※対抗要件具備に関する事項の記載例(不動産売買の場合)
「甲は、前項に基づく本件不動産の引渡しの完了後、実行日付で本件不動産に係る所有権移転登記手続きを申請するものとする。なお、当該所有権移転登記手続きに係る費用は、その全額を乙の負担とする。
検品に関する事項
商品売買契約の場合、買主による検品の期限や、修正要求のルールなどを定めます。
- (例)
第○条(検品)
1. 乙は、甲から本件商品の引渡しを受けた後、○営業日以内(以下「検品期間」という。)に本件商品の検品を行い、その結果を甲に通知する。検品期間内に乙から甲に対して通知がなされなかった場合、当該本件商品は検品に合格したものとみなす。
2. 乙は、本件商品の種類、品質または数量が本契約に適合していないと合理的に判断した場合、甲に対して本件商品に係る納品のやり直しを命じることができる。ただし、当該不適合が乙の指示または責任に起因するものである場合は、この限りでない。
表明保証
「表明保証」とは、取引の前提となる一定の事項について、相手方に対し表明・保証する旨を定めた条項です。表明保証違反があった場合、損害賠償や契約解除の対象となります。
売買契約書では、主に売主が買主に対して、目的物の状態などに関する事項に係る表明保証を行うことがあります。
- (例)
第○条(表明保証)
甲は乙に対し、本契約締結日および実行日において(ただし、以下の各号において表明保証の時点が特定される場合には、当該時点において)、以下の各号に定める事項が真実かつ正確であることを表明し、保証する。
(1)甲は、会社法(平成17年法律第86号)に基づき適法に設立され、有効に存続する株式会社であること。
(2)甲は、本契約を締結し、本契約の規定に基づき義務を履行する完全な権利能力を有し、本契約上の甲の義務は、法的に有効かつ拘束力ある義務であり、甲に対して強制執行可能であること。
……
契約不適合責任
「契約不適合責任」とは、売買契約の目的物の種類・品質・数量が契約に適合していない場合に、売主が買主に対して負担する責任です。
売買契約書では、契約不適合責任の内容や、買主による契約不適合責任の追及期間などを明記しておきましょう。なお、商品売買契約の場合は、検品後の契約不適合責任の追及は認めないとすることも考えられます。
- (例)
第○条(契約不適合責任)
1. 乙は、本件商品の種類、品質または数量が本契約に適合していない場合には、甲に対して当該本件商品の修補もしくは代替物の引渡しを求め、または本契約のうち、当該本件商品に係る部分を解除することができる。
2. 前項の不適合が重大である場合、乙は本契約の全部を解除することができる。
3. 前二項に定める不適合につき、乙は甲に対し、前二項に定める請求および契約の解除に加えて、損害賠償を請求することができる。
4. 前各項にかかわらず、第○条に定める検品を終えた本件商品については、乙は甲に対して修補もしくは代替物の引渡しを求め、または本契約を解除することができない。
危険負担
自然災害など、当事者双方の責によらない事由によって売買実行が不可能となった場合の処理を定めます。特に、契約締結日と実行日が別日となる場合には、危険負担のルールを忘れずに明記しましょう。
- (例)
第○条(危険負担)
本件商品が天災地変その他甲乙いずれの責めにも帰すべからざる事由により滅失または毀損したときは、本契約は終了する。この場合、甲は乙に対する本件商品の引渡義務を負わず、乙は甲に対する売買代金の支払義務を負わない。
契約の解除
契約の前提を覆すようなトラブルが発生した場合に備えて、売買契約を解除できる場合を明記しておきましょう。債務不履行の場合に加えて、表明保証違反なども解除事由に挙げておくべきです。
- (例)
第○条(契約の解除)
本契約の当事者は、相手方が本契約に係る重大な違反をした場合(第○条に定める表明保証に重大な虚偽または誤解を生ぜしめるものがあった場合を含む。)には、催告なしに直ちに本契約を解除することができる。
損害賠償
債務不履行や表明保証違反などにより、当事者に損害が発生した場合の賠償責任の範囲などを定めます。
- 第○条(損害賠償)
本契約の当事者は、本契約に違反したことによって相手方に損害が生じた場合、相当因果関係の範囲内で当該損害を賠償する責任を負う。
売買契約書のひな形を紹介
売買契約書のひな形を紹介します。内容はオーダーメイドに決めるべきものですので、本記事で紹介した条文の記載例を参考に、必要な事項を盛り込んでください。
- 売買契約書
○○株式会社(以下「甲」という。)と△△株式会社(以下「乙」という。)は、以下のとおり売買契約書を締結する。
第1条(売買の内容)
甲は乙に対し、別紙記載の仕様に基づく商品□個(以下「本件商品」という。)を売り渡し、乙はこれを買い受ける。
……
以上
本契約締結を証するため、正本2通を作成し、甲乙それぞれ記名押印のうえ各1通を所持する。
○年○月○日
甲 [住所]
[氏名or名称]
[(法人の場合)代表者] 印
乙 [住所]
[氏名or名称]
[(法人の場合)代表者] 印
加えて以下では、不動産取引と自動車取引の2種類のひな形について紹介します。
不動産売買契約書のひな形
全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)は、不動産売買契約に使用する書式を公開しています。取引する不動産の種類に応じて以下から契約書ひな形をダウンロードいただけます。
- 戸建住宅などの土地・建物を売買する場合:不動産売買契約書(一般仲介)
- マンションなどの区分所有建物を売買する場合:区分所有建物売買契約書(敷地権型)
自動車売買契約書のひな形
- 自動車売買契約書
売主○○○○(以下「甲」という)と 買主○○○○(以下「乙」という)は、甲乙間での自動車の売買にあたり、以下の通り自動車売買契約(以下「本契約」という)を締結する。
第1条(売買契約)
甲は、乙に対し、甲の所有する以下の自動車(以下「本件自動車」という)を金○○万円(消費税等を含む)で売り渡し、乙はこれを買い受けた。
登録番号 :〇〇
車 名 :〇〇
型式・年式:〇〇
車体番号 :〇〇
第2条(売買代金の支払方法)
1 乙は、本契約の契約日に、前条の売買代金の内、金〇〇万円を手付として甲に対して支払うものとする。
2 乙は、残代金の金○○万円を、○年○月○日までに、甲が指定する金融機関の指定口座に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
第3条(本件自動車の引渡し等)
1 甲は、○○年○月○日までに、乙に対し、本件自動車を引き渡すものとする。なお、本件自動車引渡に伴う費用は甲の負担とする。
2 本件自動車については、現状引渡しとし、引渡し後の故障等について甲は一切責任を負わないものとする。
第4条(所有権の移転時期)
本件自動車の所有権は、第2条第2項の支払時に、甲から乙に移転するものとする。
第5条(名義の変更手続等)
1 甲は、乙に対して、本件自動車の取扱説明書、自動車検査証および名義変更手続に要する書類を、第3条の引渡し時に交付するものとする。
2 乙は、引渡しから2週間以内に、本件自動車の名義変更を行い、手続完了後に名義変更後の自動車検査証の写しを甲に提出するものとする。なお、本件自動車の名義変更に要する費用は、乙の負担とする。
3 本件自動車の○年度分以降の自動車税については、乙の負担とする。
第6条(危険負担)
1 本件自動車の所有権が乙に移転する前に、乙の責めに帰することのできない事由により、滅失、毀損したときは、その損害を甲が負担するものとする。
2 前項の場合において、乙が本契約を締結した目的が達せられないときは、乙は本契約を解除することができる。
第7条(損害賠償責任)
甲及び乙は、本契約に違反することにより、相手方に損害を与えたときは、その損害の全て(弁護士費用及びその他の実費を含む)を賠償しなければならない。
第8条(遅延損害金)
乙が本契約に基づく金銭債務の支払を遅延したときは、甲に対し、支払期日の翌日から支払済みに至るまで、年○○%(年365日日割計算)の割合による遅延損害金を支払うものとする。
第9条(合意管轄)
甲及び乙は、本契約に関し、裁判上の紛争が生じた場合は、○○地方裁判所をもって第一審の管轄裁判所とすることに合意する。
第10条(協議事項)
本契約に定めがない事項が生じたときや、本契約条項の解釈に疑義が生じたときは、相互に誠意をもって協議・解決する。
以上、本契約の証として、正本2通を作成し、甲乙記名捺印のうえ、各1通を保有する。
〇年〇月〇日
(甲)
(乙)
こちらも契約の内容に合わせてアレンジしてご利用ください。
なお自動車の売買契約はクーリングオフの対象外です。そのため、契約書に解除条項や違約金を必ず明示しておきましょう。
また自動車重量税・自動車税(種別割)は年度途中で精算されます。引渡日を基準にした日割り精算条項を盛り込むと、実務が円滑になります。
売買契約書の印紙税について
売買契約の内容によって印紙税が必要なケースと不要なケースが存在します。ここでは自分が行う売買契約はどちらに該当するか必ず確認しておきましょう。
売買契約書に印紙税が必要なケース
売買契約書に収入印紙が必要なケースは、契約書が課税文書に該当する場合です。
国税庁によると、課税文書は以下3つのすべてに当てはまる文書のことを指します。
(1) 印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証されるべき事項(課税事項)が記載されていること。
(2) 当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること。
(3) 印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと。
(1)の第1号文書に挙げられる不動産・鉱業権・無体財産権・船舶・航空機・営業・地上権・賃借権などを譲渡する場合には印紙税が必要となります。
必要な印紙額については契約金額や取引商品によって異なるため、以下を確認しておきましょう。
売買契約書に印紙税が不要なケース
売買契約書では、印紙税が不要なケースも存在します。不要な印紙税を払わないためにも以下2つのケースに該当していないかを確認しておきましょう。
- 受け取った金額が1万円未満の場合
- 電子契約で契約書を作成した場合
それぞれ詳しく解説していきます。
受け取った金額が1万円未満の場合
記載された受取金額が1万円未満であれば、印紙税法上「課税文書」に該当せず、印紙の貼付は不要です。取引自体が小額で実務コストが印紙額を上回ることを防ぐ目的の免税措置になります。
ただし、後日追記で金額が増えた場合は課税対象になるため注意が必要です。
電子契約で契約書を作成した場合
電子契約サービスで契約書を作成した場合は、紙の文書が作成されないため、印紙税法上の課税文書に該当せず、収入印紙なしで契約を締結することができます。
売買契約にかかる税金を少しでも削減したいという方は電子契約サービスを利用して売買契約するのがおすすめと言えるでしょう。
電子契約のメリットや手順については以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
<関連記事>電子契約は収入印紙が不要になる理由を解説
売買契約書を締結する際の注意点
売買契約書を締結する際には、特に以下の各点に注意して内容をチェックしましょう。
- 自社に不利益な条項を見落とさない
- 契約不適合責任や表明保証には特に要注意
自社に不利益な条項を見落とさない
売買契約書のドラフトを相手方が作成した場合は、自社に不利益な条項が含まれていないかを慎重にチェックする必要があります。
相手方の義務を極端に軽減する条項や、自社の義務が標準よりも加重される条項などが含まれている場合には、見逃さずに修正を求めましょう。
契約不適合責任や表明保証には特に要注意
売買契約書における契約不適合責任や表明保証の条項は、後にトラブルが発生した際に重要となります。
自社にとって負担が重い内容になっていないか、相手方の責任を適切に追及できる内容となっているかを重点的にチェックしましょう。
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