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ユニコーン企業のインハウスローヤーが、期待を超え続けるために実践したこと

ユニコーン企業のインハウスローヤーが、期待を超え続けるために実践したこと

クラウド人事労務サービスを提供するSmartHRは、企業価値10億ドル以上の未上場企業「ユニコーン」だ。法務ガバナンス本部ビジネス法務部マネージャーの上原慧弁護士は、弁護士事務所勤務を経て2人目の法務担当者として入社した。

急成長企業を支えるインハウスローヤーとして実践したことや心がけていること、弁護士以外の法務担当者の役割の重要性について聞いた。

上原慧氏 プロフィール
2015年弁護士登録。企業法務を扱う都内法律事務所にて、通信系事業会社や外資系コンサルティング会社法務部へ出向し、法務部員としてビジネス法務業務に従事する。
2020年4月株式会社SmartHRに入社。入社後はビジネス法務業務を中心に、ハラスメント含むリスク管理、コンプライアンス、知的財産に関する業務に従事。ビジネス法務部マネージャー。

プロジェクトを見届けたい。インハウスへ

企業法務から一般民事まで手がける弁護士事務所に約4年所属し、週の半分はクライアントの企業に出向、インハウス弁護士のような形で業務し、そのほかの時間で顧問企業の対応や一般民事事件に取り組む、といった働き方をしていました。

その後、ビジネスの現場に身を置きたいと、転職を検討しました。企業活動の相談を日々受けていましたが実際にビジネスをしてみないと分からないことがあると思いましたし、企業に所属することで、外部弁護士では見ることができなかった、プロジェクトの結末までを見届けたいと思ったためです。

SmartHRを選んだ理由は二つあります。面接で出会った社員が皆、とても楽しそうに働いていたこと。もう一つが、「社会の非合理を、ハックする」とする当時(※)のコーポレートミッションに共感したことです。こういう理念を掲げている会社なら、働いていて非合理なことはないだろう、と感じました。

※2022年にコーポレートミッションを改定済み。

入社後は企業法務全般、法律相談からコンプライアンス、データプライバシーの問題などに取り組んでいます。

さまざまなチャンネルに飛び込み、情報をキャッチする

SmartHRの法務は、企業の目標達成と成長のため、ビジネスサイドや開発サイドに積極的に関与していくことを大切にしています。相談を待つのではなくこちらから飛び込んでいって、「こういうお手伝いがあるとプラスになりますか?」ということを確認したり、「こういうお悩みがあれば、いつでも声をかけてください」と話したりすようにしています。

弊社は昨年、労務管理SaaSから「マルチプロダクト戦略」への転換を図り、共通の基盤をベースにしたさまざまなプロダクトを展開しています。2024年に入ってからに限っても「キャリア台帳」、「学習管理」、「HRアナリティクス」、「採用管理」といった機能の提供開始だけでなく、雇用トラブル対応保険、プラットフォーム事業におけるSmartHR Labsの開始などかなりのスピードで複数のリリースがなされています。

その状況で法務が「待ち」では、リリースのスピードにリスク管理が追いつきません。一方で、開発側には必ずしも、「積極的に法務を関与させよう」という考えがあるわけではありません。

そもそも開発側に法的な知識がないのは当たり前ですので、開発側に問題があるわけではなく、法務がプロダクトについてどんなことができるのかが伝わっていないことに問題があると考えていました。

そのため、プロダクトのリリースまでの流れを途中で阻害しない、かつ初期段階から法務アドバイスができるよう、「プロダクトの種」を見つけた時点で、定例会など情報共有がなされる場に入り、関係を築くようにしています。

さらに、こうして集めた法的な疑問やよくある質問をまとめてこまめにマニュアル化して公表することで、同じ質問について何度も法務に確認する必要がなくなり、法律相談にかける時間を短縮できるようにしています。

弊社の社内情報の多くは、誰でも見られるSlackのパブリックチャンネルでやり取りされているため、何かしらのプロジェクトチャンネルが立ち上がったら積極的に参加しています。そのなかで、「こういうアイデアがあるけどどうか」といった話題になったとき、法律相談に来る前の段階でも法務として意見があればコメントするようにしています。

また、特定のワード、例えば「個人情報」という単語がチャットでやり取りされたら自動で通知が来るようにするなど工夫して情報をキャッチしています。

弊社のプロダクトの特徴として、利用者の個人情報のデータを扱うことが多く、外部のシステムと連携もしています。そのため、外部への情報の渡し方やデータの扱い方を変えるときには法務に相談が来る運用にしていますし、そのほかのことでも「不安なことはなんでも相談して」というスタンスをとっています。

チャンネルに「顔」を出して、コミュニケーションの壁をなくす

法務としてコミュニケーションの壁を作らない、というのは法務として一番重要視していることです。たとえばいろんなチームのチャットに「顔」を出して、「法務の存在」を認識してもらうためコメントをしたりしています。

コミュニケーションの課題についてあえてふれるとしたら、規模が拡大してきて社員の顔が見えづらくなっていることです。

私が入社したころは社員数が約200人でしたが、現在は1,000人を超える規模になっていて、毎月20〜30人が入社しています。

当然、私のことを直接知らず、「上原さん」ではなく「法務機能」ととらえている方も増えてくる。そうなってくると相談のハードルも上がってしまいます。そうした顔が見えない状況でも法務リスクが守られるよう、もともと顔見知りの社員をフックにコミュニケーションをとったり、リスク回避のためのマニュアル作りに取り組んだりしています。

さらに成長するために、「枠」は要らない

法務担当者としては、常にクリエイティビティを求められることが、転職して楽しいと感じるポイントです。

スケールアップ企業となったSmartHRにはやはり、スタートアップマインドともいうべき文化があり、単に「大企業のやり方」を持ち込んでもウケない。研修でも、外部の企業が作った資料を配布しただけだと「形だけの研修だね」となってしまいます。「うちの会社だったらどうする?」ということを念頭に工夫が必要です。外に答えはありません。

また、「周囲の期待を超え続けること」も常に意識しているポイントです。期待通りで満足せず、組織の成長に貢献することです。

たとえば営業担当者が、リーガルチェックに1週間くらいかかることを見越してスケジュールを立てて、法務チェックを依頼してきた時。法務がチェック依頼から1日、あるいは1時間で返すことで営業担当者はその月の受注案件を増やすことができます。

その際には、きちんとしたアウトカム(良い結果・質)が伴うことが重要です。法務はどうしても、「何も起きない状態」が正常なので成果を測りにくく、アウトカムから目を逸らしがちですが、事業部はもちろん、経営層にも納得できるアウトカムを出せるくらいの法務組織を目指していきたいです。

そのためには、「法務」という枠にとらわれすぎないことが大切です。法務の枠を意識することは重要ですが、「事業成長を法的な側面から後押しする役割」ととらえ、事業成長のために必要な際は、法務の枠におさまらずリスク管理という役割を全うする。スマートではなく、泥臭く取り組むことが求められます。

事業成長という目的に合致するのであれば、まずはやってみる、思い込みにとらわれずチャレンジするに限ります。ただ、こう表現をすると「攻めの法務が重要だ」と捉えられがちですが、しっかり守備を固めたうえで攻めがあるべきだと思っています。

「素の感覚」「他部署の感覚」が法務を強くする

法務機能を発揮するには、弁護士以外の社員の活躍も欠かせません。

あくまでも個人的な感覚ですが、弁護士はどうしても「法律」という切り口で物事を見たがる傾向にあります。法務である以上すべての基礎にはしっかりとした法律や法的知識があることは非常に重要かつ大前提なのでこれ自体は悪いことではないです。ただ、法律はあくまでも手段や検討要素の一つでしかないため、そこだけにこだわり続けることはビジネス全体をどうするかという目的を見失った、木を見て森を見ずのような状態になってしまいます。ですので、法律に縛られすぎない弁護士以外の社員の「素の感覚」もとても重要です。たとえば個人情報のデータを扱う際、「法的にはOKだけど、感覚としてちょっと危なくない?」という案件もあったりします。
「適法でも利用者は気持ち悪い」という状況は炎上を招くため、こうした感覚は非常に重要です。

また他部署での経験が、法務に生きるケースもあります。
弁護士は最初から法務担当になるケースが多いですが、弁護士以外の社員は他部署から異動・兼務していることもあり、「他部署の感覚」を知っています。法務の常識が、企業全体から見たら非常識な可能性もある。他部署での経験を法務に取り入れられることは大きなメリットです。

弊社の法務にも、カスタマーサクセス(CS)からの異動者がおり、「CSではこうしていました」と意見をもらえてすごく助かっています。議論の際には、別に間違っていてもいい。弁護士以外の社員には、ぜひ遠慮せず自分を出していってほしいと話しています。

濱田祥太郎

この記事を書いた人

濱田祥太郎

NobishiroHômu編集者

中央大学法学部卒、全国紙の新聞記者に4年半従事。奈良県、佐賀県で事件や事故、行政やスポーツと幅広く取材。東京本社では宇宙探査や宇宙ビジネスを担当。その後出版社やITベンチャー、Webメディアの編集者を経て2022年LegalOn Technologies入社し、NobishiroHômuの編集を担当。

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