株式譲渡契約書とは
株式譲渡契約書は、譲渡人が譲受人に対して株式を譲渡し、譲受人がこれを譲り受ける契約です。
会社株式を保有する者(=株主)は、その会社の株主総会における議決権を有します。過半数の株式を保有すれば、株主総会における意思決定を支配できます。特に、会社の経営を行う取締役を自由に選任して、経営をコントロールできるのが大きなポイントです。
株式譲渡契約書が締結されるケースでは、その大半が非公開会社における支配権の移動を目的としています。つまり、譲渡人から譲受人へ対象会社の支配権を移動する取引、具体的には事業承継やM&Aを行う際に株式譲渡契約書を締結するケースが多いです。
株式譲渡契約書に定めるべき主な事項
株式譲渡契約書には、主に以下の事項を定めます。
- 株式譲渡の内容
- クロージング(譲渡実行)に関する事項
- 譲渡実行前提条件
- 表明および保証
- 遵守事項
- 損害賠償
- 秘密保持
- 契約の解除
- その他の一般条項
株式譲渡の内容
株式譲渡契約書におけるもっとも基本的な事項として、株式譲渡の内容を定める必要があります。具体的には、以下の事項を定めます。
- 株式の銘柄
- 株式の種類
- 株式の数
- 株式の譲渡対価
- 譲渡実行日
- (例)
第○条(株式の譲渡)
1. 甲は乙に対し、○年○月○日(以下「譲渡実行日」という)において、X株式会社(以下「発行会社」という)の普通株式1万株(以下「本件株式」という)を譲渡し、乙はこれを譲り受ける(以下「本件株式譲渡」という)。
2. 乙は、第○条に定める譲渡実行前提条件を充足した場合において、甲に対し、前項に定める株式譲渡の対価として金○○円を支払う。
クロージング(譲渡実行)に関する事項
株式譲渡を実行し、譲渡人から譲受人に株式を移転することを「クロージング」といいます。クロージングに関する事項としては、以下の内容を定める必要があります。
- 譲渡対価の支払方法
- 株式の移転
- 実行後の対抗要件具備(株主名簿への記録)※
など
※株券不発行会社の場合
- (例)
第○条(クロージング)
1. 乙は甲に対し、第○条第○項に定める譲渡対価(以下「本件譲渡対価」という)を、譲渡実行日において甲が別途指定する銀行口座に振り込む方法によって支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
2. 前項に基づき、乙が甲に対し本件譲渡対価の全額を支払った時点で、本件株式の所有権は甲から乙に移転するものとする。
3. 甲および乙は、前項に基づき本件所有権が甲から乙に移転した後直ちに、発行会社に対し、本件株式譲渡に係る株主名簿の書換えを共同で請求するものとする。
譲渡実行前提条件
株式の移転および譲渡対価の支払いにつき、当事者の義務を発生させるために満たすべき前提条件を定めます。
相手方が一つでも前提条件を満たしていない場合、当事者は株式譲渡に係る履行義務を負いません。ただし、任意の判断によって相手方による前提条件の充足を免除することは可能です。
- (例)
第○条(譲渡実行前提条件)
1. 本件株式譲渡における乙の義務の履行(注:譲渡対価の支払い)は、譲渡実行日までに次に掲げる条件が全て成就していることを停止条件とする。
(1)発行会社の取締役会において、本件株式譲渡を承認する決議がなされており、かかる決議が記載された議事録の写しを乙が受領していること。
(2)○○が発行会社の取締役を辞任する旨の辞任届の写しを乙が受領していること。
(3)前各号の他、本件株式譲渡および○○の取締役辞任に必要となる手続き、ならびにその他の乙が合理的に協力を求める手続(発行会社の取締役会及び株主総会の決議等を含むがこれらに限らない)がなされており、乙がそれを合理的な方法で確認していること。
(4)第○条に基づき甲が表明および保証した事実が、重要な点においてすべて真実かつ正確であること。
……
2. 本件株式譲渡における甲の義務の履行(注:株式の移転)は、譲渡実行日までに次に掲げる条件が全て成就していることを停止条件とする。
(1)第○条に基づき乙が表明および保証した事実が、重要な点においてすべて真実かつ正確であること。
……
表明および保証
売主・買主自身や対象会社について、一定の事項が真実かつ正確であることの表明保証を定めます。株式譲渡契約書では、売主側の表明保証を厚めに定めるのが通常です。
- (例)
第○条(表明および保証)
1. 甲は乙に対し、本契約締結日および譲渡実行日時点において(ただし、時点が明示されている場合には当該時点において)、次に掲げる事項を表明し、保証する。
(1)甲は日本に居住する個人であり、後見開始、補佐開始および補助開始の審判はいずれも開始されておらず、本契約を締結し、履行するために必要な権利能力および行為能力を有している。
(2)甲は、本件株式に係る発行会社の正当な株主であり、本件株式を適切に売却処分する権利を有している。
(3)甲は、乙以外の第三者に対して本件株式を譲渡、担保提供その他本契約に基づく乙の権利を害し、または害するおそれのある処分を行っておらず、かつ、第三者のために将来そのような処分を行う義務を負っていない。
(4)譲渡実行日時点において、本件株式譲渡に必要な一切の手続が履践されている。
(5)甲による本契約の締結および本契約上の義務の履行は、甲を当事者とする契約に違反せず、いかなる法令等にも違反せず、③必要な一切の許認可等が取得されており、かつ甲を拘束する判決、命令、裁定その他の処分に違反しない。
(6)甲は、本契約の締結および本契約上の義務の履行により、甲の債権者を害する意図その他の不当または不法な意図を有していない。
(7)甲は、破産手続開始、民事再生手続開始その他類似の倒産手続開始の申立をしておらず、かつ、第三者によるかかる手続の申立もされていない。また、甲は、支払不能または支払停止の状態になく、本契約上の義務を履行することによりこれらの状態に陥ることもない。
……
2. 乙は甲に対し、本契約締結日および譲渡実行日時点において(ただし、時点が明示されている場合には当該時点において)、次に掲げる事項を表明し、保証する。
(1)乙は日本に居住する個人であり、後見開始、補佐開始および補助開始の審判はいずれも開始されておらず、本契約を締結し、履行するために必要な権利能力および行為能力を有している。
……
遵守事項
株式譲渡の実行前後において、売主・買主が遵守すべき事項を定めます。
- (例)
<実行前>
・売主の競業避止義務
・売主の重要財産の流出防止義務
<実行後>
・買主の雇用維持義務
など
- (例)
第○条(遵守事項)
1. 甲は、次に掲げる事項を遵守するものとする。ただし、乙の書面による承諾を得た場合には、この限りでない。
(1)譲渡実行日から○年間、発行会社と同一、同種または実質的に競合する事業を、直接または間接に行わないこと。
(2)本契約締結日から譲渡実行日までの間、発行会社の重要な財産を流出させる行為、その他の発行会社の財務に重大な悪影響を生じさせる行為をしないこと。
……
2. 乙は、次に掲げる事項を遵守するものとする。ただし、甲の書面による承諾を得た場合には、この限りでない。
(1)発行会社の従業員全員を継続雇用すること。ただし、法令等に基づき解雇または雇い止めが認められる場合は、この限りでない。
……
損害賠償
株式譲渡において、契約違反や遵守事項への違反等により、売主または買主が何らかの損害を受けた場合、相手方に損害賠償請求をできる条項を定めます。
どのような場合に損害賠償の請求ができるのかを明記し、必要に応じて上限額を定めたり、損害賠償の請求ができる期間を設けたりといったアレンジも必要になります。
- (例) 第◯条(損害賠償) 1 売主または買主は、本契約に定めた規定に違反し、その違反により一方が被った損害及び損失、支出(合理的な弁護士費用を含む)を補償または賠償するものとする。
2 本条に定める補償または賠償は、クロージング日から○年が経過するまでに書面により相手方に請求した場合に限り生じ、合計損害額は○○円を超えないものとする。
秘密保持
株式譲渡においては、売主・買主間で外部に公にしない秘密事項のやりとりが多くされます。秘密保持についてもあらかじめ株式譲渡契約書に盛り込んでおくといいでしょう。
この項目においては、
- 秘密情報の定義
- 第三者に対する秘密情報の開示及び漏洩等を禁止すること
- 契約終了時の秘密情報の破棄
- 秘密情報の漏洩が発生した場合の対応
などを記載します。
契約の解除
契約締結後、クロージング前に株式譲渡契約書を解除できる事由を列挙します。
- (例)
・契約違反
・譲渡実行前提条件の不充足
・重大な表明保証違反または遵守事項違反
など
- (例)
第○条(契約の解除)
1. 甲および乙は、相手方が本契約に違反した場合(第○条に定める遵守事項の違反を含むが、これに限らない)、相当期間を定めて催告をした後、本契約を解除することができる。
2. 甲および乙は、譲渡実行日において、第○条に定める譲渡実行前提条件のうち、相手方に係るものが一つでも充足されなかった場合には、直ちに本契約を解除することができる。
3. 甲および乙は、第○条に定める表明および保証のうち、相手方に係るものが重要な点において虚偽もしくは不正確であることが判明した場合、直ちに本契約を解除することができる。
合意管轄
株式譲渡契約書に関して、万が一、株式譲渡の結果、売主・買主間でトラブルが発生し、裁判で争う事態になった場合、訴訟を提起する管轄裁判所を決定しておき、株式譲渡契約書に明記しておくといいでしょう。この条項を「合意管轄」といいます。
一般的に、自社(買主側)の本社所在地を管轄する裁判所にすることが多いですが、公平性を重視する場合は「被告側の」すなわち訴えられた側の管轄とする文言にすることもあります。
- (例)
第●条 合意管轄
本契約に関する全ての紛争(裁判所の調停手続きを含む)は、◯◯地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。
その他の一般条項
上記のほか、反社会的勢力の排除準拠法などの一般条項を定めます。
- 反社会的勢力の排除
反社会的勢力に該当しないことの表明保証、暴力行為などをしないことの誓約などを定めた上で、相手方が違反した場合には直ちに契約を解除し、損害賠償を請求できる旨などを定めます。
- 準拠法
売主または買主がグローバル企業の場合、準拠法を定めておきます。自社が日本の場合は日本法を準拠法とすることが望ましいと考えられますが、相手方が納得しない場合は、他の国や地域の準拠法を用いることもあります。
株式譲渡契約書のひな形を紹介
株式譲渡契約書のひな形を紹介します。具体的な内容は取引により異なるため、本記事で紹介した条文の記載例を参考に、必要な事項を定めてください。
- 株式譲渡契約書
○○(以下「甲」という。)と△△(以下「乙」という。)は、以下のとおり株式譲渡契約書を締結する。
第1条(株式の譲渡)
1. 甲は乙に対し、○年○月○日(以下「譲渡実行日」という)において、X株式会社(以下「発行会社」という)の普通株式1万株(以下「本件株式」という)を譲渡し、乙はこれを譲り受ける(以下「本件株式譲渡」という)。
2. 乙は、第○条に定める譲渡実行前提条件を充足した場合において、甲に対し、前項に定める株式譲渡の対価として金○○円を支払う。
……
以上
本契約締結を証するため、正本2通を作成し、甲乙それぞれ記名押印のうえ各1通を所持する。
○年○月○日
甲 [住所]
[氏名or名称]
[(法人の場合)代表者] 印
乙 [住所]
[氏名or名称]
[(法人の場合)代表者] 印
株式譲渡契約書を締結する際の注意点
株式譲渡契約書を締結する際には、特に以下の各点にご注意ください。
- 会社法上の手続きに要注意
- 前提条件・表明保証・遵守事項は特に要チェック
- 自社に不利益な条項を見落とさない
会社法上の手続きに要注意
株式譲渡を行う際、非公開会社の場合は、以下の機関による譲渡承認が必要です。
- 定款に定めがある場合
→定款に定められた機関
- 定款に定めがなく、かつ取締役会設置会社の場合
→取締役会
- 定款に定めがなく、かつ取締役会設置会社でない場合
→株主総会
また、株式譲渡の事実を発行会社に対抗するためには、実行後に株主名簿の書換えを申請する必要があります。
譲渡承認については表明保証、株主名簿の書換え申請についてはクロージングに関する事項などにおいて、それぞれ明記しておきましょう。
前提条件・表明保証・遵守事項は特に要チェック
譲渡実行前提条件・表明および保証・遵守事項の3つは、株式譲渡の条件に関して非常に重要な条項です。そのため、株式譲渡契約書をレビューする段階では、特にこの3つを慎重にチェックしましょう。
また、譲渡実行前提条件・表明および保証についてはクロージングの段階で、遵守事項についてはクロージング前後において、実際の状況を確認することも大切です。
自社に不利益な条項を見落とさない
株式譲渡契約書のドラフトを相手方が作成した場合は、自社に不利益な条項が含まれている可能性が高いので、いっそう慎重なレビューが求められます。
相手方の義務を極端に軽減する条項や、自社の義務が標準よりも加重される条項などを発見したら、相手方に対して必ず修正を求めましょう。
例外的な株式譲渡の際は慎重に
株式譲渡契約といっても、事業の譲り受けやM&Aなど、例外的な株式譲渡の際は注意が必要です。その場合、経営権が移転するため、移転後の経営のために詳細な規定が必要になることがあります。
また、譲渡する株式に譲渡制限がついている場合は、対象会社の承認が必要です。
こういった例外的な株式譲渡においては、特に専門家のアドバイスを仰ぎ、慎重な締結を進めましょう。
株式譲渡契約書の保管期限は?
法人が株式譲渡契約書を作成したのであれば、契約書の保管期間は法人税法により定められるので、基本的に7年間となります。もし、欠損金が発生すれば、保管期間は10年間となります。
個人間の株式譲渡契約であれば、法律上は保管期限の定めはありません。ただし、その契約書を確定申告に使用した場合は、5年間の保管が義務付けられています。
株式譲渡契約書に収入印紙は必要?
株式譲渡契約書は、印紙税における「課税文書」の対象ではないので、原則的に収入印紙を貼付する必要はありません。1989(平成元)年3月31日までは収入印紙の貼付が必要でしたが、現在は不要となっています。
ただし、株式譲渡代金の前払いなど、すでに代金の授受があり、かつ、株式譲渡契約書にその旨が記載されている場合は、株式譲渡契約書が「受取書」としての性質も持つことになります。その場合は収入印紙を貼付する必要があり、下記の金額の収入印紙が必要です。
(出典:国税庁サイト https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7141.htm)
非上場企業の株式譲渡の場合
ここまで株式譲渡契約書について解説をしてきましたが、株式譲渡契約をするのが非上場企業であった場合、契約書の内容に違いはあるのでしょうか。
基本的に、株式譲渡契約書の内容に違いはありません。
ただし、非上場企業は証券取引所で株式を公開しておらず、多くは譲渡が制限された「譲渡制限株式」となっています。株式の譲渡には株主総会の承認が必要とされ、株主名義書換請求も行なわれるなど、注意すべき点もあります。非上場企業の株式譲渡の場合は、譲渡制限が設けられていないか、事前に確認しましょう。
個人間取引の場合
では、個人間における株式譲渡の場合はどうでしょうか。
基本的に、個人間の株式譲渡においても、株式譲渡契約書の内容に違いはありません。企業ではなく個人間であってもトラブルの可能性はありますので、契約書は必ず作成する必要があります。
「LegalOn Cloud」でAI契約書レビューは次のステージへ
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