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下請法とは?適用取引・親事業者の義務・NG行為【2026年改正対応版】

下請法とは?適用取引・親事業者の義務・NG行為【2026年改正対応版】

いまさら聞けない!下請法の全体像と実務上のポイント

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下請法(現:中小受託取引適正化法)は、優越的地位の濫用を防ぎ中小受託事業者を保護する法律です。支払期日の最短設定(受領日から60日以内)、遅延利息、11の禁止行為、3条書面の交付義務などを定めています。

本記事では、適用取引など下請法の基礎知識から、親事業者の義務・NG行為、2025年・2026年実施予定の改正内容、実際の違反事例、さらには被害を受けた場合の対応策までを総合的に解説します。

目次

下請法とは何か

下請法(現:中小受託取引適正化法)とは、親事業者による優越的地位の濫用を防止し、下請事業者の利益を守るために制定された特別法です。

主に、発注後の代金減額や支払遅延、物品購入の強制、返品の押し付けなどを禁止し、書面交付義務や支払期日の設定なども定めています。違反が発覚した場合には、公正取引委員会が是正勧告を行い、内容が公表されるため、企業にとって社会的信用の低下リスクが伴います。

取引の公正性を確保し、健全な経済活動を支えるためにも、下請法の正確な理解と順守がすべての事業者に求められているのです。

参照:公正取引委員会|ポイント解説 下請法

下請法の目的

下請法(現:中小受託取引適正化法)は、親事業者と下請事業者の間に生じやすい力関係の格差を是正し、下請取引の適正化と下請事業者の利益保護を目的として制定されています。

具体的には、以下の2つが主な目的です。

  1. 下請取引の公正化発注から代金の支払いに至るまでの取引過程において、公正で透明性のある関係を維持するためのルールを定めています。
  2. 下請事業者の利益保護経済的に優越した立場にある親事業者による不当な取引条件の押し付けや支払遅延などから、下請事業者の健全な経営を守るための仕組みです。

経済的に優越した立場にある親事業者による不当な取引条件の押し付けや支払遅延などから、下請事業者の健全な経営を守るための仕組みです。

親事業者と下請事業者の定義

下請法では、取引関係の中で「親事業者」と「下請事業者」を明確に区別し、それぞれの立場に応じた法的義務や禁止行為を定めています。

  • 親事業者
  • 製造・修理・情報成果物の作成などを外部に委託する側の事業者であり、発注者として下請事業者に対して優越的な地位にあると認められる企業を指します。
  • 主に中堅企業や大企業などが該当します。
  • 下請事業者
  • 親事業者から委託を受ける側の事業者で、資本金規模が小さい企業や個人事業主などが該当します。
  • 取引上、立場が弱くなりがちであることから、法的保護の対象とされています。

なお、親事業者・下請事業者の区分は「資本金の規模」や「委託内容の種類(製造委託・修理委託・情報成果物作成など)」によって判断されます。

代金の支払いは受領日から60日以内

下請法では、親事業者が下請事業者に対して支払う代金の期限について厳格なルールが設けられています。代金の支払いは、下請事業者が物品を納入し、または役務の提供を完了した日(受領日)から起算して60日以内に行わなければなりません。

これは、下請事業者の資金繰りを確保し、健全な事業運営を支えることを目的としています。親事業者が支払いを遅延した場合には、下請法違反として公正取引委員会の是正措置や勧告の対象となることがあります。

下請法の適用対象

下請法に適用するかどうかは、「どのような取引か」「取引当事者それぞれの資本金規模」の2つの条件によって決まります。ここではまず、下請法が適用される可能性がある代表的な取引内容を、具体例とともにご紹介します。

適用される取引類型

下請法が適用される可能性のある取引内容は、以下の4つです。

  1. 製造委託
  2. 修理委託
  3. 情報成果物作成委託
  4. 役務提供委託

1.製造委託

発注者が製品の仕様やデザインなどを定めたうえで、他社に製品や部品の製造・加工を依頼するケースが「製造委託」に該当します。製造業を中心に幅広く見られる取引形態です。

具体例は以下のとおりです。

  • アパレルメーカーが下請企業に対し、自社ブランドの仕様に基づいたシャツの縫製を委託
  • 電子機器メーカーが、設計図に基づいてプリント基板の製造を外部工場に依頼
  • 自動車メーカーが部品製造を専門とする中小企業にエンジン部品の製造を発注

2.修理委託

物品の修理を請け負う事業者が、その修理作業の全部または一部を他の事業者に依頼することを指します。また自社で使用する物品を自社内で修理している場合でも、その一部を外部の事業者に委託するケースも含まれます。

具体例は以下のとおりです。

  • 家電量販店が、顧客から預かった洗濯機の修理を専門の修理業者に依頼
  • レンタル会社が自社のレンタル用ノートパソコンの修理を外部業者に委託
  • ホテルが設備のエアコン修理をメーカー系のサービス会社に依頼

3.情報成果物作成委託

Web制作・記事執筆・動画編集・プログラム開発・印刷物のデザイン、制作など、人の知的活動によって成果物を作成する業務を他社に委託する場合は、「情報成果物作成委託」として下請法の適用対象になり得ます。

具体例は以下のとおりです。

  • 企業が広告代理店にWebサイトのデザインとHTMLコーディングを委託
  • 出版社がフリーのライターに記事の執筆と写真撮影を依頼
  • ゲーム会社が外部のアニメ制作会社にオープニング映像の制作を発注
  • IT企業が外部の開発会社に対し、自社システムやアプリケーションの一部の設計・実装・テストを委託

4.役務提供委託

運送やビルメンテナンスなどのサービスを提供する事業者が、その役務の提供を他の事業者に委託することを指します。なお、建設業を営む事業者が請け負う建設工事については、役務提供委託には該当しません。

具体例は以下のとおりです。

  • 建物管理会社が、ビル清掃業務を専門業者に委託
  • IT企業が社内ヘルプデスク業務をBPO会社に委託
  • イベント主催者が、警備・受付・会場設営などの運営業務を外部スタッフ派遣会社に依頼

<関連記事>ソフトウェア開発(システム開発)委託契約書とは?条項内容を解説

判定フロー【10秒で判定できるフローチャート付き】

下請法に適用するかどうかは、委託される取引内容だけでなく、取引当事者の資本金規模の差も重要な判断要素です。具体的には以下のフローで判定します。

Step 1:取引内容の確認

  • 製造委託(製品や部品の製造・加工を委託しているか?)
  • 修理委託(製品・設備等の修理を外注しているか?)
  • 情報成果物作成委託(ソフトウェア開発・デザイン・原稿執筆など)
  • 役務提供委託(運送、清掃、ヘルプデスク等)
  • 運送委託(改正後に新規追加)

上記のいずれかに該当しなければ非該当。

Step 2:取引当事者の規模差を確認

取引類型ごとに、資本金基準と従業員数基準のどちらかを満たせば適用。

▼製造・修理・政令で定められた情報成果物・役務・運送委託

  • 親事業者:資本金3億円超 → 下請事業者:3億円以下
  • 親事業者:資本金1千万円超~3億円以下 → 下請事業者:1千万円以下
  • または従業員数基準:親事業者が301人超 → 下請事業者が300人以下

▼上記以外の情報成果物・役務

  • 親事業者:資本金5千万円超 → 下請事業者:5千万円以下
  • 親事業者:資本金1千万円超~5千万円以下 → 下請事業者:1千万円以下
  • または従業員数基準:親事業者が101人超 → 下請事業者が100人以下

Step 3:結論判定

  • Step1で取引が該当し、Step2で資本金基準または従業員数基準を満たす → 下請法の適用対象
  • いずれも満たさない → 下請法の適用対象外

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親事業者の義務とNG行為

親事業者の4つの義務

下請法では、親事業者に対して以下4つの義務を課しています。

  1. 発注時の書面交付義務
    委託内容や支払条件などを記載した書面(発注書など)を、下請事業者に対して取引の都度、速やかに交付する義務です。口頭だけの発注では違反となる可能性があります。

  2. 取引内容を記録した書面記録の作成・保存義務
    発注内容を記録した書類(注文書や契約書等)を2年間保存することが義務づけられています。これはトラブル発生時の証拠保全にもなります。

  3. 下請代金の支払期日を定める義務
    成果物等の受領日から起算して60日以内
    を目安に代金の支払期日を明確に定める必要があります。支払い遅延を防ぐための措置です。

  4. 支払い期日を過ぎた場合の遅延利息の支払義務
    払期日を過ぎて代金を支払った場合には、年14.6%を上限とする遅延利息の支払いが義務づけられています。

参考:公正取引委員会 親事業者の義務

発注書に記載すべき事項

親事業者に求められる4つの義務のうち、特に慎重な対応が求められるのが「発注時の書面交付義務」です。下請事業者に対して発注を行う際に、「3条書面」と呼ばれる文書を交付することを義務付けるものです(第3条第1項)。怠った場合、親事業者は下請法違反と見なされ、50万円以下の罰金が科される可能性があります(第10条第1号)。

  1. 親事業者および下請事業者の名称
  2. 発注日
  3. 給付の内容(製品仕様、数量など)
  4. 納期(役務提供の場合は提供期日・期間)
  5. 納入場所
  6. 検査完了期日(検査を行う場合)
  7. 下請代金の額
  8. 支払期日
  9. 手形の金額と満期(手形を交付する場合)
  10. 金融機関名、貸付け又は支払可能額、親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日( 一括決済方式で支払う場合)
  11. 電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日(電子記録債権で支払う場合)
  12. 原材料等を有償支給する場合、品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日及び決済方法

上記の事項をすべて記載した書面を、下請事業者に交付する必要があります。

注意点

正当な理由により一部の事項を発注時に記載できない場合は、まず記載可能な内容のみを盛り込んだ書面を交付することが認められています。その後、残りの事項については、決定次第速やかに追加の書面を交付する対応が必要です。

このような場合には、当初の書面に「なぜ内容を定められないのか」という理由と、「いつまでに定める予定か」という日付の記載が求められます。

なお、3条書面には決まった様式があるわけではありません。ただし、すべての必要事項を過不足なく記載することが重要とされています。

親事業者の11のNG行為

親事業者が下請事業者に対して優越的地位を濫用することを防止するため、以下の11の行為は禁止されています。

  1. 受領拒否(第4条第1項第1号)
    下請事業者が適切に納品した成果物について、不当に受け取りを拒否する行為を禁止します。

  2. 下請け代金の支払遅延(第4条第1項第2号)
    合意された支払期日までに下請代金を支払わない行為を禁止しています。

  3. 下請代金の減額(第1項第3号)
    契約後に一方的に支払代金を減らす行為は禁止されています。成果物の受領後でも同様です。

  4. 返品(第4条第1項第4号)
    自己都合による成果物の返品を行うことは禁止です。たとえば、発注者の事情でキャンセルして返却するなど。

  5. 買いたたき(第4条第1項第5号)
    不当に安い価格で契約を強要する行為です。適正価格を大きく下回る発注などが該当します。

  6. 購入・利用強制(第4条第1項第6号)
    特定の原材料や機器を、親事業者の指定先から購入することを強制する行為などが該当します。

  7. 報復措置(第4条第1項第7号)
    下請事業者が正当な主張や相談をしたことに対して、次回以降の発注を減らす・止めるなどの報復的対応を行うことは禁止です。

  8. 有償支給原材料等の対価の早期決済(第4条第2項第1号)
    有償で支給した原材料等の対価について、当該原材料等を用いた成果物に対する下請代金の支払期日より前に、その金額を相殺したり、支払いを求めたりすることはできません。

  9. 割引困難な手形の交付(第4条第2項第2号)
    手形で支払う場合に、現金化が難しい長期手形を交付することが違反となります。

  10. 不当な経済上の利益の提供要請(第4条第2項第3号)
    接待、寄付、値引き、協賛金などを不当に要求する行為が該当します。

  11. 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(第4条第2項第4号)
    成果物の仕様変更や再作成を下請事業者の責任でないのに強要する行為です。

参考:公正取引委員会 親事業者の禁止行為

【2026年施行】改正下請法(取適法)のポイント

下請法は令和8年1月1日から大幅に改正されます。本改正では、取引対象や禁止行為の拡大、執行体制の強化などが盛り込まれており、発注側の企業には早急な対応が求められます。

本章では、改正下請法の主な変更点をわかりやすく解説します。

参照:公正取引委員会|下請法・下請振興法改正法案の概要

1.法律名称・用語の見直し

改正後の正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」であり、通称「中小受託取引適正化法(取適法)」と呼ばれます。従来の「下請法」という呼称から大きく変わる点は、法律の射程をより正確に表現する狙いがあります。

また、これに伴い「親事業者/下請事業者」という上下関係を強く示す用語は、「委託事業者/中小受託事業者」という表現に置き換えられました。社内規程や契約書、教育資料などでも、今後は新しい用語を使用する必要があります。特に複数の呼称が混在すると実務担当者の混乱を招きやすいため、施行前に統一を図ることが望ましいでしょう。

主な名称変更は以下の通りです。

  • 改正前:下請代金支払遅延等防止法
  • 改正後:製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律
  • 改正前:親事業者
  • 改正後:委託事業者
  • 改正前:下請事業者
  • 改正後:中小受託事業者
  • 改正前:下請代金
  • 改正後:製造委託等代金

2.従業員数基準の導入

改正の大きな特徴は、資本金の大小だけではなく「従業員数」も適用判定の基準として加えられたことです。例えば製造・修理・特定の情報成果物や役務の委託では、親事業者が常時301人を超える従業員を抱え、受託事業者が300人以下であれば、資本金規模にかかわらず下請法の適用対象となります。

この改正により、資本金が小さいが従業員数が多い企業や、逆に資本金は大きくても従業員数が少ない企業が新たに規制対象に含まれるケースが増えます。実務では、自社と取引先の従業員数を正しく把握し、発注時点で常に判定できる体制を整備することが不可欠です。

引用:下請法・下請振興法改正法の概要|中小企業庁

つまり、「資本金が小さくても従業員が多い企業」も、新たに対象となる可能性があります。これまで対象外だった取引も新たに法規制の枠に入るため、自社の委託内容が該当するかどうかの確認が重要です。

3.運送委託の追加

物流分野では、発荷主から元請運送事業者への委託が新たに下請法の対象に組み込まれました。従来は下請法の適用外とされてきた契約形態であり、運送業界にとっては大きな実務インパクトがあります。

荷主企業は、取引内容が「特定運送委託」に該当するかを早急に洗い出す必要があります。元請運送事業者も、下請法の義務や禁止行為を遵守する体制を整備しなければなりません。燃料価格の高騰などコスト変動が激しい分野であるため、今後は契約書の中で価格交渉条項や費用転嫁ルールを明確化することが重要になります。

4.支払手段の規制強化

改正法では、手形払いや電子記録債権、ファクタリングといった支払方法が大きく制限されます。これらの手段はいずれも「受託事業者が期日までに現金相当額を確実に受け取れない可能性がある」と判断され、原則禁止とされるためです。

特に、長期手形での支払いを前提にしてきた業界では、現金振込や短期決済手段への移行が必須になります。既存契約で手形払い条項を含んでいる場合は、改正施行日までに契約内容を見直し、実効性のある支払方法に切り替えておく必要があります。

5.価格交渉義務の明文化と執行体制の強化

これまでグレーゾーンとなっていた「価格交渉に応じない」「一方的に価格を決める」といった行為が、改正法で明確に禁止されました。受託事業者からの値上げ要請や費用転嫁の相談があれば、委託事業者は協議に応じ、合理的な説明責任を果たさなければなりません。

さらに、執行体制も強化されます。従来は公正取引委員会や中小企業庁が中心でしたが、今後は業界ごとに所管する主務大臣にも是正指導や勧告の権限が与えられます。違反が疑われた場合、複数の行政機関から同時に調査や指導を受ける可能性があるため、企業としては一層慎重な対応が求められるでしょう。

【2026年施行】改正下請法(取適法)対応の必須事項チェックリスト

1. 法律名称・用語対応

  • 契約書・発注書の表記を「親事業者/下請事業者」から「委託事業者/中小受託事業者」に変更したか
  • 社内規程・マニュアル・研修資料も新用語に統一したか
  • 社内で「下請法」と「取適法」が混在しないようガイドラインを整備したか

2. 適用範囲の判定体制

  • 自社および取引先の資本金規模を把握しているか
  • 自社および取引先の常時使用する従業員数を把握し、記録に残しているか
  • 発注時に「資本金基準」または「従業員数基準」のどちらかで判定できるフローを整備したか
  • 従業員数基準により、新たに下請法の対象となる取引がないか洗い出したか

3. 契約・発注管理

  • 3条書面(発注書)の雛形を改正内容に合わせて見直したか
  • 未確定項目がある場合の追完手続き(理由・確定予定日の記載)をルール化したか
  • 発注書・契約書の保存期間(2年)を守れる文書管理体制を構築しているか

4. 支払条件の見直し

  • 支払期日を「受領日から60日以内の最短期日」として明記しているか
  • 遅延時の利息(年14.6%上限)の計算ルールを社内で周知しているか
  • 支払手段が「手形・電子記録債権・ファクタリング」になっていないか点検したか
  • 振込・即時決済など、現金同等の確実な支払手段に移行できているか

5. 物流・運送関連取引

  • 自社が荷主として元請運送業者に委託している契約を洗い出したか
  • 運送委託が下請法の対象となる可能性を検討したか
  • 燃料価格等のコスト変動を契約条件に反映できる条項を整備したか

6. 価格交渉・協議対応

  • 下請事業者から価格交渉の申入れがあった際の社内対応フローを定めたか
  • 協議記録(メール、議事録、提示資料)を保存するルールを整備したか
  • 価格交渉を拒否・放置することが禁止行為であると社内に周知したか

7. コンプライアンス体制

  • 下請法違反リスクを定期的にチェックする内部監査体制を設けたか
  • 違反事例・勧告事例を社内研修に取り入れているか
  • 公正取引委員会や「下請かけこみ寺」への相談ルートを社内に周知したか
  • 報復的な取引停止・発注減少が禁止されることを理解させたか

2025年の法改正内容と目的

令和7年3月に公表された下請法の改正案では、名称を「下請中小企業振興法等の一部を改正する法律案」とし、取引条件の透明化と価格交渉の活性化が柱とされています。とりわけ、再委託時の情報提供義務や、交渉過程の文書化義務の強化が明記され、親事業者の説明責任が格段に高まりました。

また、インボイス制度への適応や物流コスト上昇への対応も焦点となり、下請事業者保護の観点から包括的な改革が進められています。企業は新制度の趣旨を正確に把握し、発注プロセスの再設計を図る必要があります。

企業に与える影響

法改正によって親事業者は、従来よりも詳細な契約情報の提示が求められ、交渉経緯や価格設定における根拠説明の重要性が増しています。口頭による発注や曖昧な取引条件では違反のリスクが高まるとされ、法務・購買部門における実務の見直しが不可欠です。

さらに、交渉の透明性確保や文書保存義務の強化は、証拠管理体制の整備にも波及するため、電子契約や契約書管理システムの導入が急務となります。これらの変化は、全社的なコンプライアンス意識の醸成にも直結し、法務だけでなく経営課題として捉える必要があります。

企業側の対応策

改正内容を受けて企業が講じるべき対応としては、まず発注・契約時における取引条件の明文化が挙げられます。次に、従業員への下請法研修の実施、交渉履歴の記録保存、外部監査の導入など、社内体制の強化が求められます。

特に再委託や委託範囲の変更を行う場合は、下請先への事前通知と合意形成が不可欠となり、トラブル防止の観点からも早期対応が重要です。また、法改正内容を反映した社内規程の改定も不可欠であり、総務・法務部門が中心となって全社的な整備を主導すべきです。

下請法違反の具体例

下請法では、親事業者による不当な取引行為を未然に防ぐため、11の禁止事項が設けられています。中でも、「支払遅延の禁止」と「不当な代金減額の禁止」は、実務上とくに注意が必要な項目です。

支払遅延の禁止

親事業者には、下請代金をあらかじめ定められた支払期日までに支払う義務があります。支払期日は、下請事業者から物品やサービスを受け取った日を起点とし、60日以内の範囲で、可能な限り短い期間に設定しなければなりません。

違反の具体例

  • 受け取った物品等の社内検査が済んでいないため60日を超えて下請代金を支払っていた
  • 支払日が金融機関の休業日に当たったときに、下請事業者の同意を得ずに翌営業日に支払を順延すること

注意点

  • 支払遅延が発生した場合、親事業者は遅延利息(年率14.6%)を支払う義務が発生する

不当な代金減額の禁止

親事業者は、下請事業者に責任がないにもかかわらず、発注時に決定した下請代金を減額してはいけません。

法務担当者は、以下の禁止事項を正確に把握し、自社の取引が法令に則っているかどうかを常に確認することが求められます。

万が一、違反が明らかになった場合には、公正取引委員会からの勧告や社会的信用の低下など、深刻な影響を受けるおそれがあります。

違反の具体例
  • 発注後に、親事業者の都合で代金を減額する
  • 協賛金や値引きと称して、下請代金から一定額を差し引く
  • 原材料価格の下落を理由に、すでに発注済みの案件の代金を減額する
  • 支払時に端数を切り捨てる

注意点

  • 下請事業者の了解を得ても、正当な理由がない減額は違法となる
  • 減額の要請自体も下請法違反となる可能性がある

下請法違反事例から学ぶ実務対応

近年、公正取引委員会は多数の企業に対して下請法違反の勧告を行っており、違反内容や処分の実例から実務上のリスクを学ぶことが求められています。ここでは、令和7年に発表された実際の勧告事例をもとに、企業が注意すべき行動と対応策について解説します。

最近の具体的な違反事例(令和7年勧告事例)

令和7年には、日精樹脂工業株式会社やカヤバ株式会社などが、下請法違反による行政勧告を受けたことで注目を集めました。特に、長期間発注を行わずに型や治具の無償保管を強いた事例や、一方的な発注取り消しによる損失負担の押し付けなどが問題視されています。

これらの行為はいずれも、不当な経済上の利益提供の要請または不当な給付内容の変更に該当し、親事業者としての責任が問われる結果となりました。発注や取引停止の判断が、下請事業者に実害をもたらす可能性がある点を踏まえたうえで、慎重な対応が求められます。

参照:公正取引委員会|日精樹脂工業株式会社に対する勧告について

違反企業が受けた具体的なペナルティ

違反が確認された企業には、勧告を通じて是正措置の実施や損害補償の支払い、社内体制の見直しが求められます。たとえば、株式会社シャトレーゼの場合、受領拒否と不当な保管要請が指摘され、該当商品の受領または相当額の代金支払い、公正取引委員会への報告義務が課されました。

また、役員会での違反事実の確認や、従業員への社内通知・教育も義務付けられており、単なる取引修正にとどまらない全社的対応が必要となっています。これらの措置は、違反行為が企業の信用や継続的な取引関係に重大な影響を及ぼすことを如実に物語っています。

参照:公正取引委員会|株式会社シャトレーゼに対する勧告について

違反を回避するための実務的チェックポイント

違反を未然に防ぐには、契約内容・取引履歴・代金支払い状況について定期的な内部監査を実施することが重要です。また、発注書や納品記録、交渉メモの整備・保存も、後のトラブル防止につながります。

とくに注意すべきは、下請事業者の同意なしに納期延長や価格変更を行うケースであり、これらは違反の典型です。

加えて、型や設備の保管指示についても、使用予定がない状態での継続保管は不当な経済負担とみなされる可能性が高いため、放置せず速やかな回収または補償が必要です。社内規程の整備と教育の徹底により、実務リスクを確実に低減できます。

下請法の取締り

親事業者に下請法違反の疑いがある場合は、公正取引委員会の調査対象となります。調査の結果によっては、勧告や指導にとどまらず、刑事罰が科される可能性もあります。

勧告が出された際には、企業の社会的信用が損なわれるおそれもあるでしょう。

立入検査

公正取引委員会や中小企業庁では毎年、親事業者と下請事業者の双方に対して定期調査を実施しています。下請取引が適正に行われているか、確認することが目的の調査です。

必要に応じて、親事業者の取引記録の確認や、立入検査が行われる場合もあります。

違反企業名の公表

親事業者が下請法に違反した場合には、原状回復や再発防止に向けた措置を講じるよう求められます。

さらに、勧告が出された際には、原則として企業名や違反内容が公表されるため、企業の信用に深刻な影響を及ぼすことが懸念されます。

罰金

下請法に違反した場合、同法第10条に基づき、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

罰金の対象となる主な違反行為の例:

  • 下請法第3条:下請事業者への書面交付義務を怠った場合
  • 下請法第5条:書面の作成・保存を行わなかった、または虚偽の記録を作成した場合
  • 下請法第11条:報告徴収に対し、報告を拒否・虚偽の報告を行ったり、公正取引委員会や中小企業庁の検査を拒否・妨害した場合

さらに、下請法違反により下請事業者に損害が発生した場合には、損害賠償請求などの民事上のトラブルに発展する可能性もあります。

下請取引の適正化のためのポイント

下請法について、発注担当者の確認不足や理解してないことで、気付かないうちに違反してしまうことがないよう、以下のポイントをチェックすることをおすすめします。

取引条件の定期的な見直し

下請取引は長期にわたることが多いため、定期的に取引条件を見直すことが重要です。以下のポイントを意識し、必要に応じて条件を更新しましょう。

  • 市場価格の変動に応じた下請代金の見直し
  • 業務内容や納期の変更に対応した契約内容の更新
  • 新たな法規制や業界標準への適合

フィードバックの収集

定期的な取引見直しを行う際は、下請事業者からフィードバックを収集することも重要です。フィードバックを得る方法は、以下を参考にしてください。

  • 定期的なミーティングの開催
  • アンケート調査の実施
  • 下請事業者との個別面談

上記を通じ、下請事業者の意見を反映した公正な取引条件を維持できます。

下請事業者側が知っておくべき対処法

不当な取引条件や契約違反が発生した場合、下請事業者が泣き寝入りを避けるためには、適切な対応手順の理解が不可欠です。ここでは、被害に遭遇した際に取るべき具体的な行動や相談先、証拠保全のポイントについて実践的に解説します。

違反行為を受けた場合の具体的な対応方法

  • 発注書の交付がない
  • 代金が減額される
  • 納期が一方的に変更される

上記の不当行為を受けた場合、まずは相手企業に対し書面による是正要求を行うことが基本となります。その際、感情的な抗議ではなく、事実関係を明記した通知書の提出が有効です。

加えて、法的措置を見据えて、取引に関する資料(発注書・納品書・請求書など)を一元管理し、やり取りの記録も保存しておくべきです。交渉が進まない場合は、各都道府県の中小企業支援機関や弁護士会への相談を検討しましょう

公正取引委員会等への相談窓口の活用法

下請法違反の疑いがある場合、公正取引委員会が運営する「下請かけこみ寺」や中小企業庁の相談窓口が活用できます。これらの機関では、無料の法律相談や紛争調整のサポートを提供しており、取引関係に基づく問題について中立的な立場から対応がなされます。

特に、相手方との関係悪化を懸念して自力で解決できない場合、第三者による助言や仲介が効果的です。また、相談内容が記録されることで、継続的な監視の対象にもなりやすく、行政による是正指導につながる可能性もあります。

被害を受けた際の証拠保存と法的措置

下請法違反に対して法的手段を講じる際、客観的な証拠がなければ請求は認められません。したがって、時系列で整理された以下の情報を保全することが不可欠です。

  • 契約書や発注書
  • メールのやり取り
  • 納品記録
  • 録音データ

特に、電子メールは送受信日時を含めた原文形式で保存することが望ましく、改ざん防止の観点からも有効です。また、損害賠償請求を検討する場合は、法務の専門家と連携し、必要書類や訴訟の見通しを確認する必要があります。

被害の深刻化を防ぐためにも、初期段階から備えておくことが重要です。

下請法の理解と実践でビジネスの成長を

この記事では、下請法の基礎知識と取引のポイントについて詳しく解説しました。

下請法を正しく理解し、実務に落とし込むことは、取引先との信頼構築やコンプライアンスの確保だけでなく長期的な企業成長にもつながる重要な取り組みです。発注書の交付や代金支払い義務など、親事業者に求められる行動は明確に定められており、法改正によって求められる水準はさらに高まっています。

また、行政処分を受けた事例から学ぶことで、自社のリスクを未然に防ぐことが可能です。加えて、下請事業者として被害を受けた際にも、的確な対応策と相談先を知っておくことで、不利益を回避できます。

ぜひ、この記事の内容を参考に、自社の下請取引が適切に行われているか常に確認し、必要に応じて改善を行ってください。

下請法についてのよくある質問(FAQ)

Q1. 下請法と「取適法」(中小受託取引適正化法)は何が違う?いつから?

A. 2026年1月1日施行の改正で、法律名が「下請代金支払遅延等防止法」から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(通称:取適法)」に変わり、用語も「親事業者/下請事業者」→「委託事業者/中小受託事業者」に刷新されます。あわせて適用対象・禁止行為・執行体制が拡充されます。

出典:日本取引所協会|2026年1月から「下請法」は「取適法」へ!

Q2. フリーランスや個人事業主も保護対象?

A. 条件を満たす取引(製造・修理・情報成果物・役務など)で、相手方との規模関係が要件に当てはまれば個人事業主も対象です。個別の当てはめはJFTCのQ&A・講習資料を参照してください。

Q3. 手形払いや電子記録債権、ファクタリングは使える?

A. 改正後は、手形払いが禁止となり、電子記録債権等についても現金同等性が確保できない手段は規制されます。支払手段の一括見直しが必要です。

出典:日本取引所協会|2026年1月から「下請法」は「取適法」へ!

Q4. 3条書面(発注書)は“電子交付”でもOK?

A. 2026年以降は受託側の承諾の有無にかかわらず、メール等の電磁的方法で交付可能になります(改正事項)。現行の必要記載事項の網羅は引き続き必須です。

出典:日本取引所協会|2026年1月から「下請法」は「取適法」へ!

Q5. 相談先はどこ?

A. 公正取引委員会の各種窓口・講習、Q&A、テキスト、下請取引相談(いわゆる“かけこみ寺”)を活用してください。

参照:日本取引所協会|よくある質問コーナー(下請法)

NobishiroHômu編集部
執筆

NobishiroHômu編集部

 

AI法務プラットフォーム「LegalOn」を提供する株式会社LegalOn Technologiesの「NobishiroHômu-法務の可能性を広げるメディア-」を編集しています。

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