利用規約の概要と必要性
利用規約とはサービスを提供する事業者がユーザーに対して、サービスの利用条件やルールを明確に示すものです。提供するサービス内容や料金、禁止事項、免責事項など多岐にわたる内容が記載されます。利用規約がない場合、事業者は各ユーザーに対して利用条件を説明・交渉する必要が生じ、運営コストが増大しかねません。これを避けるため、多くのサービス事業者は利用規約によって多数の利用者に共通のルールを設けています。
利用規約を作成する主な目的は、サービスを提供する事業者とユーザー間の権利義務関係を明確にし、トラブルを未然に防ぐことです。万が一ユーザーとの間でトラブルが発生した場合、利用規約を根拠に対応を進め、裁判などでの法的な根拠としても用います。
利用規約と「契約」および「約款」
続いて利用規約と「契約」や「約款」の関係性について解説していきます。しばしば似た意味で捉えられる言葉であるため、それぞれの違いや法律面での考え方を確認しておきましょう。
利用規約と契約の違い
利用規約はサービスの提供事業者が、不特定多数のユーザーに対して適用するルールです。そのため、事業者側が一方的に作成・適用するものであって、個別のユーザーとの間で内容の交渉や一部変更は想定されていません。
これに対して、契約はサービスや商品の提供者とそれを受け取る側の間で、個々に締結するという違いがあります。契約内容は個別で交渉や修正するケースも多く、当事者同士で合意された内容が契約として成立します。
この他に、利用規約はインターネット上などで公開され第三者でも閲覧が可能であるのに対して、契約は当事者同士の間でのみ内容の閲覧が可能である点も違いがあるといえるでしょう。
利用規約と約款の関係性
利用規約は、民法に定められる「定型約款」に該当する場合があります。。
約款という言葉自体は、以前から銀行や保険、インターネット上のサービスなどで契約の際に利用されてきました。しかし、民法で明確な定義が無く、裁判では都度解釈を示す形で用いられていました。これに対して2020年4月に民法が改正され、現在では特に「定型約款」について次のように定義されています。
対象とする約款(定型約款)の定義
①ある特定の者が不特定多数の者を相手方とする取引で、
②内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なものを 「定型取引」と定義した上、 この定型取引において、
③契約の内容とすることを目的として、その特定の者により準備された条項の総体
これにより上記の定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であり、その契約内容の全部または一部が、画一的であることが双方にとって合理的な取引)に該当する利用規約は、定型約款として取り扱われることとなりました。すなわち「事業者が不特定多数のユーザー向けに提供するサービスの利用規約」であれば、原則「定型約款」に該当すると考えることができます。
「定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき」「定型約款を準備した者(定型約款準備者)が、あらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していること」のどちらかを満たしている場合、その定型約款にあたる利用規約に法的な拘束力をもたせることができます(民法548条の2 第1項)。ただし、社会通念に照らして信義則に反してユーザーの利益を一方的に害する条項は、合意しなかったものとみなされる点には注意が必要です。(民法548条の2 第2項)
利用規約を作成する際は、ここに紹介した民法上の定型約款に関する条項(民法548条の2~4)が、内容への同意を求める表示方法の参考となるでしょう。
利用規約に定める主な内容
利用規約の概要や定型約款としての性質を踏まえて、ここからは記載する内容を解説していきます。それぞれの内容や順序、組み合わせは提供するサービスやアプリケーションの性質によっても変動する場合があります。
利用規約全体に対する同意
ユーザーがサービスを利用するにあたり、利用規約のすべての条項に同意する必要があることを明確に記載します。これはユーザーがサービスを利用開始した時点で、規約の内容を理解し、承諾したものとみなす根拠となる項目です。不同意の場合の措置(例:サービス利用の拒否)についても明記することで、無用なトラブルを避けることができます。単に「同意したものとみなします」と記載するだけでなく、ユーザーが主体的に内容を確認し、判断することを促す文言を加えることが望ましいです。
用語の定義
利用規約内で頻繁に使用される重要な用語については、その意味を明確に定義します。「本サービス」「ユーザー」「コンテンツ」「アカウント」といった言葉やサービスで用いる単語が用語に該当します。定義を明確にすることで、規約の解釈における誤解や曖昧さを排除し、ユーザーとサービス提供事業者間の認識のずれを防ぐのが目的です。具体的なサービス内容に合わせて、専門用語や固有の名称なども定義する必要があります。曖昧な表現は避け、具体的かつ簡潔な定義を心がけると良いでしょう。
サービスの内容・保証範囲
提供するサービスの内容、範囲、利用方法などを具体的に説明します。またサービスの品質、可用性、完全性などに関する保証の範囲を明確に定めることも重要です。どこまでサービス提供事業者が責任を負うのか、逆に免責されるのかを明確にすることで、ユーザーの過度な期待や誤解を防ぎます。サービスの変更、中断、終了の可能性についても言及しておくことで、将来的なトラブルを予防できます。サービスの提供範囲や利用条件を詳細に記述することは、利用規約の目的から考えれば不可欠といえるでしょう。トラブルなどの際、規約内で言及している事実が重視される可能性があるため、記述内容も十分検討が必要です。
サービスの利用料金と支払い方法
有料サービスの場合、料金体系や支払い方法、支払い時期、キャンセルポリシーなどを詳細に定めます。無料期間やキャンペーンなどが適用される場合は、その条件や期間に関する記載も必要です。支払い方法については、利用可能な方法を具体的に示します。料金の変更がありうる場合は、その告知方法や時期についても定めておくことが重要です。未払いの際の措置についても明記することで、料金に関するトラブルを未然に防ぎます。また消費税等の税金の取り扱いについても、明確な記述があるとより望ましいといえます。
権利の帰属
サービス内で提供されるコンテンツ(文章、画像、プログラム、デザインなど)に関する著作権、商標権、特許権などの知的財産権が、サービス提供事業者または提供元の第三者に帰属することを明確にします。ここではユーザーによるコンテンツの利用範囲も、具体的に定める必要があります。ユーザーがサービスに投稿または送信したコンテンツに関する権利の取り扱いについても規定しておくことが重要です。権利関係を明確にすることで、知的財産権に関する紛争を予防します。コンテンツの利用に関するルールを明確にすることは、権利侵害を防ぐ上で重要です。ただしユーザーが投稿・送信したコンテンツに関する権利の取り扱いについては、後述する炎上トラブルにつながるケースもあるため、慎重に内容を検討する必要があります。
利用者の遵守事項・禁止事項・罰則
ユーザーがサービスを利用するにあたって遵守すべき事項や、禁止されている行為を具体的に列挙します。サービスの内容をもとに、以下の例に示すような行為を具体的なルールとして明記する必要があります。
遵守事項・禁止事項の例
- 他の利用者に対する迷惑行為
- サービスの提供に支障をきたす妨害行為
- 有害なプログラムの送信
- 法令違反や公序良俗に反する行為
これらの禁止事項に違反した場合の措置として、アカウントの停止、利用制限、損害賠償請求などの罰則も合わせて定めましょう。禁止事項に実効性を持たせるためです。また禁止事項を具体的に記述することで、違反した場合の対処について、ユーザーの理解を求めやすくなります。
サービスの停止・終了
サービス提供者が、サービスの全部または一部を停止・終了する条件や手続きについて定めます。定期メンテナンスやシステム障害などによる一時的な停止、運営上の都合によるサービス全体の終了などが考えられます。サービスの停止・終了を行う場合、原則として事前にユーザーに告知する期間や方法を定めることが望ましいです。ただし緊急を要する場合や、ユーザーの不正行為による場合は、予告なしに停止・終了できることも明記する場合があります。サービス終了に伴うデータの取り扱い(例えば、データのバックアップ期間や削除時期)についても定めておくことが重要です。
利用規約の変更・改定
利用規約の内容を将来的に変更または改定する場合の手続きについて定めます。先に述べた民法改正によって、利用規約が定型約款に該当していれば、一定の要件もとで利用者の同意なく契約内容が変更できます。とはいえユーザーからの理解を得ることや、実務の観点から、利用規約の変更や改定については規定することが一般的です。変更の告知方法(例えば「サービス内での告知」「電子メールでの通知」など)や変更の効力発生時期などを明確にすることで、ユーザーとの間で認識の齟齬が生じるのを防ぎます。利用規約を変更する条件については、後半で詳しく解説します。
契約更新
サブスクリプションモデルなど、期間を定めてサービスを提供する場合は、契約の更新に関する事項を定めます。自動更新の有無や更新の手続き、更新期間、更新時の料金などの明確な記載が必要です。ユーザーが契約更新を希望しない場合の解約手続きについても定める必要があります。解約の申し出期間や方法の他、解約に伴う違約金などが発生する場合は、その条件も明確にします。自動更新を設定する場合は、ユーザーに事前に通知する時期や方法についても定めることが望ましいです。
秘密保持
サービス利用に関連して知り得た相手方の秘密情報について、第三者に開示または漏洩しない義務を定めます。ここでいう「相手方」は基本的にユーザーを指していますが、サービスやアプリケーションの形態によってはサービス提供事業者を指す場合もあります。対象となる情報の範囲や例外的に開示が認められる場合、秘密保持義務の存続期間などが明確に記載されていることが望ましいです。ユーザーがサービス内で入力または送信した情報のうち、秘密情報として取り扱うべきものについても定義する必要があります。適切な秘密保持に関する規定は、ユーザーが安心してサービスを利用できる環境を整備するために重要です。
反社会的勢力の排除
サービス提供事業者およびユーザーが、反社会的勢力に該当しないこと、および将来にわたっても該当しないことを表明し保証する条項を設けます。これらの者に該当した場合、またはこれらの者と関係を有した場合の契約解除やサービス停止の措置を定めます。自社の健全性を表明しつつ社会的信頼を保つためにも、この条項は重要となります。
損害賠償
ユーザーが利用規約に違反し、サービス提供者または第三者に損害を与えた場合、その損害を賠償する責任を定める内容です。損害賠償の範囲や請求方法についても明記することがあります。一方でサービス提供者の責めに帰すべき事由により、ユーザーに損害が発生した場合の賠償責任についても定めることがあります。ただし、免責事項との関連性を考慮し、サービス提供事業者の賠償責任範囲を限定的にするケースもあるため注意が必要です。損害賠償に関する規定は、万が一ユーザーとの紛争が生じた際の解決の指針となります。
準拠法と裁判管轄
サービス利用に関する紛争が生じた場合に適用される法律(準拠法)と、裁判を行う裁判所(裁判管轄)を定めます。準拠法は通常、サービス提供者の所在地の法律が指定されることが多いです。裁判管轄も同様に、サービス提供事業者の所在地を管轄する裁判所とすることが一般的ですが、インターネットサービスの場合はユーザーの利便性を考慮して、合意管轄とすることもあります。準拠法と裁判管轄を明確にすることで、国際的なサービス提供の場合など、紛争解決の手続きが円滑に進むことが期待されます。
利用規約作成時の注意点
利用規約に定める内容を踏まえて実際の項目作成に移る前に、作成時の注意点を確認します。提供事業者の視点から考えれば妥当でも、国内の法律や利用するユーザーの視点で見ると問題があるケースも存在します。
関連法に準拠する
サービス提供事業者が設定する利用規約は、定型約款に関して言及した内容の通り、関連法と密接に関係しています。民法や個人情報保護法、消費者契約法など、サービスの提供にかかる関連法を十分確認して条項を設定することが必要です。仮に関連法に抵触する内容が含まれている場合、当該利用規約の条項の一部または全体が、効力を持たないと判断される可能性があります。そのため、関連法を踏まえてサービスの内容に沿った利用規約を設定することで、はじめて利用規約本来の効果を期待することができます。
炎上トラブルを避ける
「炎上」はインターネット上で対象への批判的な意見や非難が、爆発的に発生したり事業者に殺到したりする現象を指します。利用規約においては定めた内容がユーザーに不利な内容であった場合や、一方的な搾取につながる場合などに、炎上につながる可能性があります。またプライバシー侵害などが非難の対象となるケースもあるため、ユーザーの視点で不満を感じるような条項が含まれないか、十分注意が必要です。炎上は事業者のイメージダウンやサービスの縮小・見直しにつながる可能性があります。ユーザーへの配慮や言葉遣いの確認で、利用規約を見直すことが大切です。
利用規約を改定する条件
利用規約を含めた定型約款の変更は、民法548条の4 第1項にて以下のように定められています。
定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
引用:民法548条の4 第1項
すなわち以下の場合については、利用規約を変更する場合にユーザーの合意を取る必要がないことを示しています。
- 変更内容がユーザーの利益につながるとき
- 変更内容がサービスの目的に反しておらず、なおかつ必要性や相当性、変更に関する規定の有無などに照らして合理的といえるとき
ただしその条件として、それに続く民法548条の4 第2項および第3項により、事前に変更の時期や変更内容についてユーザーに伝わる方法で周知することが求められています。(民法548条の4 第2項、第3項)
変更に関する周知を適切に行えば、利用規約の変更をスムーズに行うことが可能です。変更内容が、先述した炎上トラブルの原因となる内容を含まないかも含めて確認し、変更を行いましょう。
利用規約について解説してきました
利用規約はサービスやアプリケーションを提供する事業者が、利用するユーザーに対してサービスの利用条件やルールを明確に示すために設定されます。提供事業者のサービス自体を守りつつ、万が一ユーザーとのトラブルがあった場合には、法的根拠や対処の方針にも活用することが可能です。「定型約款」も契約の一部であり、利用規約もユーザーとの間で法的拘束力を持たせるためには「定型約款」として有効となるよう民法に沿って作成・運用しなければなりません。
この記事では、利用規約の概要と必要性、契約との違いと約款との関係性、利用規約に定める内容、作成時の注意点、利用規約を改訂する条件について解説してきました。
定めるべき内容が多岐にわたるものの、利用規約はサービスを安定的かつ適法に運用するためには不可欠です。この記事が利用規約の作成をする際の参考となれば幸いです。
このように、利用規約は作成にあたり非常に多くの法的観点を伴うものです。これらを人の手のみで抜け漏れなく行うことは、非常に多くの手間とリスクを伴います。LegalOn Cloudは、AIテクノロジーを駆使し、法務業務を広範囲かつ総合的に支援する次世代のリーガルテックプラットフォームです。利用規約やその他数多くの契約類型のひな形を備え、かつAIによるリスクチェック・法令遵守チェックも可能。必要なサービスを選んで導入できるため、初めてリーガルテックの導入を検討する方にもおすすめです。
<関連記事>