賃金台帳とは?その重要性と法的義務
賃金台帳の定義と記載事項
賃金台帳は、労働者を雇用する使用者全てに作成・保管が義務付けられている、労働者の賃金に関する事項を記録した書類です(労働基準法108条)。賃金台帳には、以下の事項を記載する必要があります(労働基準法施行規則54条)。
- 労働者の氏名
- 性別
- 賃金計算期間
- 労働日数
- 労働時間数
- 時間外労働の労働時間数
- 休日労働の労働時間数
- 深夜労働の同等時間数
- 基本給や手当の種類とその金額
- 控除項目とその金額
賃金台帳の役割と労務管理における重要性
賃金台帳は、労働者の賃金に関する情報を網羅的に記録する重要な書類であり、適正な賃金支払いの証拠としての役割を果たします。また、労働基準監督署の臨検の際の提示書類としても機能します。賃金台帳は、労務管理における基礎資料であり、給与計算、社会保険手続き、税務申告などにも活用されます。
賃金台帳の保管義務と違反した場合の罰則規定
保管義務に違反した場合、労働基準法120条に基づき、作成・保存義務違反の場合は30万円以下の罰金に処されることがあります。また、賃金台帳の記載事項に不備がある場合も、同様の罰則の対象となります。
法律で定められた賃金台帳の保管期間
法律で定められた賃金台帳の保管期間について解説します。
労働基準法における保管期間の規定
労働基準法109条により、賃金台帳は5年間の保存が義務付けられています。この5年間の保管期間は労働者の退職後も適用され、退職した労働者の賃金台帳も、最後の記入をした日から5年間は保管しなければなりません。
なお、2019年の法改正で期間が従来の3年間から5年間に延長されましたが、経過措置があり、当面の間は3年間の保管義務とされています。この経過措置の期限は未定です。
賃金台帳と電子帳簿保存法の関係
電子帳簿保存法は、税務関係書類の電子的な保存を認める法律です。しかし、この法律は賃金台帳自体の保存期間や方法を直接規定しているわけではありません。
電子化された賃金台帳の保管期間
賃金台帳の保管期間は、電子化された場合も同様です。
電子化された賃金台帳の保存要件
賃金台帳を電子的に保存する場合、以下の要件を満たす必要があります。
- 法定記載事項を表示・印字できること
- 監督官から求められたら直ちに提出できること
- データが誤消去されないこと
- 長期保存が可能なこと
- セキュリティ対策が十分であること
電子化のメリット・デメリット
賃金台帳の電子化には以下のようなメリットがあります。
- ペーパーレス化による保管スペースの削減
- 検索性の向上
- バックアップによるデータ保護
一方で、以下のようなデメリットもあります。
- システム導入コスト
- 運用コスト
- セキュリティ対策コスト
- 従業員への教育が必要
企業は自社の状況を踏まえ、メリット・デメリットを検討した上で賃金台帳の電子化を進める必要があります。
紙媒体での賃金台帳の保存方法
適切な保管場所の選定(湿気、火災、盗難対策など)
紙媒体の賃金台帳を保管する際は、適切な保管場所の選定が重要です。湿気の多い場所や直射日光の当たる場所は避け、温度と湿度が一定に保たれる場所を選びましょう。
また、火災対策として、耐火性能の高い金属製キャビネットやファイリングケースを使用することをおすすめします。盗難対策としては、施錠可能な保管庫を用意し、責任者を定めて鍵の管理を徹底することが求められます。テ
保管方法の具体的な手順と注意点
賃金台帳は、労働者ごとにファイリングし、年度ごとに分けて保管するのが一般的です。ファイリングする際は、酸性紙を避け、中性紙のフォルダやファイルを使用しましょう。
また、クリアファイルやポケットファイルを活用すれば、出し入れがしやすく、内容の確認も容易になります。賃金台帳の保管場所へのアクセスは、必要最小限の担当者に限定し、部外者の立ち入りを制限することが重要です。
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賃金台帳の廃棄方法と留意点
保管期間が経過した賃金台帳を廃棄する際は、個人情報の漏洩を防ぐために、シュレッダーで細断するか、焼却処分することが望ましいでしょう。廃棄の際は、複数の担当者立ち会いのもと行い、廃棄の記録を残すことが大切です。
また、マイナンバーが記載された賃金台帳を廃棄する場合は、マイナンバー利用事務実施者として、特定個人情報の適正な取り扱いに留意する必要があります。
電子媒体での賃金台帳の保存方法
電子帳簿保存法に基づく電子化の要件
賃金台帳を電子的に保存する場合は、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。具体的には、電子署名等の要件、タイムスタンプの要件、検索機能の確保などがあります。電子署名等の要件は、改ざん防止のために、電子署名やタイムスタンプを付与することを指します。
タイムスタンプの要件は、電子データの作成・受領時点を証明するためのものです。検索機能の確保は、電子化された賃金台帳から必要な情報を容易に検索できるようにすることを意味します。
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クラウドストレージやオンラインストレージの活用
電子化された賃金台帳の保存には、クラウドストレージやオンラインストレージの活用が有効です。これらのサービスを利用することで、大量の電子データを安全に保管できるだけでなく、アクセス権限の設定により、セキュリティ面でのリスク管理も可能になります。
ただし、サービス提供者の選定に当たっては、データの機密性、完全性、可用性を十分に考慮する必要があります。
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バックアップ体制の整備とセキュリティ対策
電子媒体で保存された賃金台帳は、定期的にバックアップを取ることが重要です。バックアップデータは、元データとは別の場所に保管し、災害等の非常時にも確実に利用できる状態にしておきましょう。
また、電子化された賃金台帳には、個人情報が含まれているため、セキュリティ対策を徹底することが欠かせません。アクセス制御、暗号化、ウイルス対策などを適切に実施し、情報漏洩のリスクを最小限に抑える必要があります。
賃金台帳の適切な管理体制の構築
社内規程の整備と運用
賃金台帳を適切に管理するためには、社内規程の整備が不可欠です。賃金台帳の作成、保管、廃棄に関する手順を明文化し、従業員に周知徹底することが重要です。
社内規程には、賃金台帳の保管期間、保管場所、保管方法、アクセス権限者、廃棄方法などを具体的に定めましょう。また、規程の運用状況を定期的に確認し、必要に応じて見直しを行うことが求められます。
担当者の教育と管理責任の明確化
賃金台帳の管理には、担当者の教育が欠かせません。担当者には、関連法令や社内規程の内容を十分に理解してもらい、適切な管理方法を身につけてもらう必要があります。
また、管理責任を明確にすることも重要です。賃金台帳の管理責任者を任命し、その役割と責任を明文化しましょう。管理責任者は、賃金台帳の適切な管理を監督し、問題が発生した場合には、速やかに対応することが求められます。
定期的な点検と監査の実施
賃金台帳の管理状況を定期的に点検し、監査することが重要です。点検では、賃金台帳の作成状況、保管状況、廃棄状況などを確認し、社内規程との整合性を検証します。監査では、点検結果を踏まえ、管理体制の有効性を評価し、改善点を洗い出します。点検と監査の結果は、管理責任者に報告し、必要な改善措置を講じることが求められます。
賃金台帳の適切な保管と管理の重要性
法令遵守と労務リスクの低減
賃金台帳の適切な保管と管理は、労働基準法をはじめとする関連法令の遵守において非常に重要です。賃金台帳の作成・保管義務を怠ると、労働基準監督署からの指導や罰則を受ける可能性があります。また、賃金に関するトラブルが発生した際、適切に保管された賃金台帳は、使用者にとって重要な証拠となります。賃金台帳を適切に保管・管理することで、労務リスクを低減し、法的紛争に巻き込まれるリスクを最小限に抑えることができるでしょう。
効率的な労務管理と人事業務の実現
賃金台帳は、労務管理や人事業務において欠かせない基礎資料です。賃金計算や社会保険手続き、税務申告などに活用されるほか、人事評価や昇給・賞与の決定にも用いられます。賃金台帳を適切に保管・管理することで、必要な情報に素早くアクセスできるようになり、業務の効率化につながります。また、賃金台帳のデータを分析することで、人件費の適正化や生産性の向上にも役立てることができるでしょう。
賃金台帳の電子化の推進と課題
近年、賃金台帳の電子化が進んでいます。電子化のメリットとしては、保管スペースの削減、検索性の向上、データの長期保存などが挙げられます。一方で、電子化には、コストや運用面での課題もあります。電子帳簿保存法の要件を満たすためには、適切なシステムの導入が不可欠であり、そのためのコストが発生します。また、電子化に伴う社内規程の整備や担当者の教育にも時間と労力を要します。セキュリティ対策も重要な課題の一つです。企業は、自社の状況を踏まえ、電子化のメリットと課題を十分に検討した上で、賃金台帳の電子化を進めていく必要があります。
専門家による賃金台帳の保管と管理のサポート
社会保険労務士による労務管理体制の構築支援
賃金台帳の適切な保管・管理には、専門的な知識が必要です。社会保険労務士は、労務管理の専門家として、賃金台帳の作成・保管・管理に関するアドバイスを提供することができます。
社会保険労務士は、関連法令に精通しており、企業の実情に合わせた労務管理体制の構築を支援します。社内規程の整備や担当者の教育、労働基準監督署の対応などについても、的確な助言を行うことができるでしょう。
電子帳簿保存法に対応したシステム導入
賃金台帳の電子化を検討する際は、電子帳簿保存法の要件を満たすシステムの導入が不可欠です。LegalForceキャビネでは、クラウド上に書類をアップロードするだけでAIが自動で項目を抜き出して管理台帳を作成し、簡単に文書の一元管理を実現します。ぜひチェックしてください。
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