雇用契約書とは
雇用契約書は、企業と労働者の間で交わされる重要な法的文書です。この文書は、雇用関係の基本的な条件を明確にし、双方の権利と義務を定めるものです。
雇用契約書の定義と目的
雇用契約書とは、民法第623条に基づき、企業と労働者の合意により雇用契約が取り交わされたことを証明する書類です。この契約書には、雇用期間、業務内容、就業時間、給与などの労働条件が詳細に記載されます。
雇用契約書の主な目的は以下の通りです。
- 労使間の合意事項を明確化する
- 将来的なトラブルを予防する
- 労働条件の透明性を確保する
- 法的な保護を双方に提供する
雇用契約書の作成は法律上の義務ではありませんが、口頭による契約では「言った・言わない」のトラブルが発生する恐れがあるため、書面で作成することが強く推奨されています。
雇用契約書と労働条件通知書の違い
雇用契約書と労働条件通知書は似ているものの、その性質と法的要件に違いがあります。
労働条件通知書
- 労働基準法で作成が義務付けられている
- 企業から労働者への一方的な通知
雇用契約書
- 法律上の作成義務はない
- 企業と労働者の双方が合意し、署名・捺印する
雇用契約書は労働条件通知書を兼ねることができます。兼ねる場合、雇用契約書に労働条件通知書に記載すべき事項を網羅し、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」と記載します。
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雇用契約書の記載事項
雇用契約書を作成する際には、法律で定められた必須事項と、トラブル防止のために推奨される追加事項があります。これらを適切に記載することで、労使間の理解を深め、将来的な紛争を回避することができます。
労働基準法で定められた記載事項
労働基準法では、以下の項目を雇用契約書など書面に明示することが義務付けられています。
- 労働契約の期間
- (有期雇用契約の場合)更新する場合の基準または更新回数に上限の定めがある場合はその上限
- 就業場所
- 業務内容
- 始業・終業時刻、休憩時間、休日・休暇
- 残業の有無
- (シフト制など労働者をグループに分けて就業させる場合)就業時点転換に関する事項
- 賃金(決定・計算・支払いの方法、賃金の締切、支払いの時期、昇給に関する事項)
※ 昇給についてのみ、書面交付の義務なし。 - 退職に関する事項(手続き方法や退職理由、解雇条件など)
また、使用者が関連する事項を定めている場合、以下についても明示義務が発生します。
- 退職手当に関する事項(適用される範囲、支払い条件、計算方法、支払い方法、支払い時期など)
- 臨時に支払われる賃金に関する事項(退職手当以外)
- 賞与や賞与に準ずる賃金に関する事項
- 最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費や作業用品その他に関する事項
- 安全、衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- 休職に関する事項
これらの項目は「絶対的明示事項」と呼ばれ、必ず記載しなければなりません。
推奨される追加記載事項
法定の必須項目に加えて、以下の事項を記載することで、より詳細な労働条件を明確にできます。
- 試用期間の有無と期間
- 退職金制度の有無
- 社会保険の加入状況
- 福利厚生制度の内容 など
法定の必須事項に加え、企業の実情に応じた追加条項を盛り込むことで、より確実な労使関係を構築することができるでしょう。
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雇用契約書作成時の注意点
法令遵守を徹底する
雇用契約書を作成する際、労働基準法をはじめとする関連法令を遵守することが極めて重要です。
- 雇用契約書と労働条件通知書を兼ねる場合は、労働基準法第15条に基づく労働条件の明示義務を果たすこと(労働基準法第15条)
- 最低賃金法、労働安全衛生法などの関連法令にも注意を払うこと(労働基準法第28条、第42条)
曖昧な表現を避ける
雇用契約書の内容は、明確かつ具体的である必要があります。曖昧な表現は後々のトラブルの原因となる可能性があるため、以下の点に注意しましょう。
具体的な記述の例
- 業務内容、就業場所、労働時間などは想定される内容を全て、明確に記載する
- 「など」「その他」といった不明確な表現は避ける
数値化と明確化
- 給与、手当、賞与などの金銭的条件は具体的な数値で記載する
- 昇給や評価基準についても可能な限り明確に記述する
- 解釈の余地を残さない
残業時間の計算方法が知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
雇用契約書におけるレビューのポイント
雇用契約書のレビューは、法的リスクを回避し、労使間の良好な関係を維持するために不可欠なプロセスです。以下に、効果的なレビュー方法について解説します。
チェックリストの活用
チェックリストを使用することで、重要な点を見落とすリスクを軽減し、一貫性のあるレビューが可能になります。効率的かつ漏れのないレビューを行うために、チェックリストの活用が推奨されます。主なチェックポイントには以下のようなものがあります。
- 労働基準法で定められた必須記載事項の確認
- 就業規則との整合性チェック
- 業務内容や労働条件の明確性
- 賃金・手当の計算方法の妥当性
- 解雇条件の適法性
- 守秘義務や競業避止義務の範囲
人事・法務部門間の連携
雇用契約書の締結が人事部門によって行われる場合、以下のような観点において法務部門との連携が重要です。
- 法的専門知識の活用
働法の最新動向や判例を踏まえたアドバイスを得られます。 - リスク評価
条項の法的効力や潜在的なリスクを専門的な観点から評価できます。 - 契約書の改善
法務部門の助言を基に、より強固で公平な契約書を作成できます。
中小企業など、社内に法務部門がない場合は、外部の労働法専門の弁護士に相談することも検討しましょう。常に最新の法令に対応するため、雇用契約書は定期的なレビューと更新を行う必要がある点に注意してください。
雇用契約書のよくある問題点
過度な競業避止義務
退職後の競業避止義務は、労働者の職業選択の自由を制限する可能性があるため、慎重に設定する必要があります。
退職者の従前の地位、制限の範囲などにもよりますが、一般的には期間としては概ね1年以内での設定であれば有効とされる可能性が高いと言われています。また、地域に関しても、むやみに制限することは不適切で、合理的な根拠に基づいて定めるべきとされています。
対価の不足
競業避止義務に見合う対価(退職金や特別手当など)が支払われていない場合、条項の有効性が問われる可能性があります。
対象範囲の広さ
「同業他社への就職禁止」など、曖昧で広範囲な制限は避けるべきです。また、具体的な競合企業名や業務内容を明記することが望ましいです。
AIを活用した雇用契約書管理
近年、AIを活用した法務管理システムが注目を集めています。その中でも、LegalOn Cloudは先進的な機能を提供し、雇用契約書のレビューや管理を効率化します。
AIレビュー機能の活用方法
LegalOn Cloudのレビュー機能は、雇用契約書の管理において特に有用です。以下にその活用方法を紹介します。
- 自動リスク検出
AIが契約書の文章を分析し、潜在的なリスクや問題点を自動的に指摘します。 - 表の内容チェック
契約書に含まれる表の内容もAIがレビューし、条文との整合性を確認します。 - 過去の契約書の活用
過去に作成した契約書や自社のひな形を基に、新たな契約書を効率的に作成できます。 - オンラインエディター機能
クラウド上で直接契約書を編集し、AIのレビュー結果を即座に反映させることができます。
注意点
AIを活用したリーガルチェックには、以下の点に注意が必要です。
- AIツールの機能範囲を十分に理解し、人間による確認も併用することが重要です。
- 法的な解釈や複雑な状況の判断には、依然として専門家の関与が必要です。
LegalOn CloudをはじめとするAIを活用した法務管理システムは、雇用契約書の作成や管理を大幅に効率化する可能性を秘めています。しかし、AIはあくまでも支援ツールであり、最終的な判断や重要な決定は人間が行う必要があります。AIと人間の専門知識を適切に組み合わせることで、より効果的な雇用契約書管理が実現できるでしょう。
雇用契約書の重要性と最新の対応策
本記事では、雇用契約書の基本的な概念からAIを活用した契約書管理まで、幅広く解説しました。
雇用契約書には、労働基準法で定められた必須記載事項を含める必要があり、これらを明確に記載することでトラブルを未然に防ぐことができます。また、守秘義務などに関する条項も必要です。作成時には法令遵守と明確な表現が不可欠であり、曖昧な表現は避けるべきです。さらに、不適切な解雇条項や過度な競業避止義務など、よくある問題点にも注意が必要です。近年では、AIを活用した契約書管理システムが登場し、効率的なレビューや管理が可能になっています。また、リモートワークや副業・兼業に関する条項など、最新の働き方に対応した内容を盛り込むことも重要です。
適切な雇用契約書の作成と管理は、労使間の良好な関係を維持し、法的リスクを軽減するために不可欠です。企業は常に最新の法令や労働環境の変化に対応し、定期的に契約書の内容を見直すことが求められます。
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