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雇用契約書とは?必要性や作成時の記載事項・注意点までを徹底解説

雇用契約書とは?必要性や作成時の記載事項・注意点までを徹底解説

「3つのステップで学ぶ!契約審査の基本」

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「雇用契約書は絶対作成すべきもの?」「労働条件通知書との違いがよくわからない」…このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

本記事では、雇用契約書の基本から記載すべき項目・雇用形態ごとの違い・よくあるトラブルや対策方法まで、企業と労働者の両視点からわかりやすく解説します。

これから雇用契約書を作成したい方や、見直し・電子化を検討中の企業ご担当者にとって、実務にすぐ役立つ情報ですので、ぜひ最後までご覧ください。

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目次

そもそも雇用契約書とは?基本を解説

雇用契約書は、企業と労働者の間で雇用条件を明文化し、互いの権利と義務を明確にする重要な法的文書です。本章では、雇用契約書の基本的な役割、労働条件通知書との違いについて、実務担当者にもわかりやすく解説します。

雇用の条件を明文化する法的な合意文書

雇用契約書は、企業と労働者の間で交わされる雇用条件の合意を証明する法的な書面です。民法第623条に基づき、雇用期間・業務内容・就業場所・勤務時間・賃金・契約期間などの条件が明記されます。

雇用契約書の作成は法律上の義務ではありませんが、口頭契約では「言った・言わない」のトラブルが発生する恐れがあるため、書面での作成が強く推奨されています。

雇用契約書が必要とされる理由は、以下の通りです。

  • 労使間の合意事項を明確化する:雇用主と労働者の認識ずれを防ぐため
  • 将来的なトラブルを予防する:勤務条件や待遇を明記することでリスクを回避
  • 労働条件の透明性を確保する:所定労働時間・賃金・副業ルールなどを事前に共有
  • 法的な保護を双方に提供する:労働基準監督署などの指導にも対応可能になる

つまり、雇用契約書は法的リスクや誤解を防ぎ、企業と従業員双方の信頼関係を築くために不可欠な文書です。正社員・契約社員・パート・アルバイトなどの雇用形態にかかわらず、明確な書面の取り交わしが、健全な雇用関係の第一歩となります。

労働条件通知書との違いは「双方の合意」有無

雇用契約書と労働条件通知書の大きな違いは、双方の合意があるかどうかです。

どちらも雇用に関わる重要な書類ですが、性質と法的な役割に違いがあります。

労働条件通知書は、企業が労働者に対して一方的に労働条件を通知するものであり、労働基準法により正社員・契約社員・パート・アルバイトを問わず作成・交付が義務付けられています。

一方、雇用契約書は企業と労働者の双方が内容に合意し、署名・押印する契約の証拠書類です。

両者の違いは以下の通りです。

労働条件通知書

  • 作成義務:あり(労働基準法第15条で義務付け)
  • 形式:一方的な通知(会社から労働者への通知)
  • 署名・押印:必須ではない
  • 目的:労働条件の明示(労働者への説明)
  • 兼用:特になし(単独で使用)

雇用契約書

  • 作成義務:なし(任意)
  • 形式:労使双方の合意に基づく契約
  • 署名・押印:原則として双方が署名・押印
  • 目的:労使間の合意内容の証明(証拠としての効力)
  • 兼用:「労働条件通知書兼雇用契約書」として兼用可能

労働条件通知書は「最低限の義務」雇用契約書は「トラブルを防ぐ任意の証拠」です。雇用形態にかかわらず、両方を整備することで、企業側・労働者側ともに法令遵守と信頼関係の構築が実現します。

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雇用契約書を作成するメリット|企業側・労働者側

雇用契約書は、単に形式的な書類ではありません。

企業と労働者の間にある雇用関係を明文化し、双方にとって安心できる労働環境を築くための基盤となります。

本章では、企業側と労働者側の双方にとっての具体的なメリットを整理し、なぜ雇用契約書の整備が重要なのかを解説します。

企業側|法令遵守とトラブル回避につながる

企業にとって雇用契約書は、法令遵守と労務トラブルの予防に欠かせない文書です。あらかじめ労働条件や業務範囲などを明文化しておくと、従業員との認識のズレを防ぎ、後々の紛争リスクを最小限に抑えられるためです。

また、万が一労働基準監督署の調査や労働トラブルが発生した際も、企業の対応が適切だったことを証明する根拠となります。具体的には、以下のメリットが挙げられます。

  • 給与や就業時間、休日・休暇などの労働条件を明記することで認識齟齬を防ぐ
  • 契約期間・更新条件を明記し、終了時のトラブルを回避
  • 守秘義務・競業避止義務などの条項で企業の知的財産を保護
  • 書面での締結により、監督署調査時の対応がスムーズに進む

雇用契約書は、適切な労務管理とコンプライアンス体制の強化に直結する重要書類です。信頼性の高い組織運営には欠かせません。

労働者側|安心して働ける根拠になる

雇用契約書は、労働者にとって自身の働き方や待遇を明確に確認できる安心材料となります。契約内容が書面で提示されていれば、雇用期間や昇給・賞与・福利厚生などの条件を事前に把握でき、就業に対する不安を軽減できるためです。

また、自分に合ったキャリアプランを立てやすくなり、働くモチベーション向上にもつながります。具体的には、以下のメリットが挙げられます。

  • 雇用期間や契約更新の条件が明示され、将来の見通しが立てやすい
  • 昇給・賞与の基準や評価項目がわかることで、働き方の方向性が明確になる
  • 担当業務や役割が明確化され、納得したうえで業務に取り組める
  • 労働条件の説明が文書として残るため、トラブル時の証拠として主張しやすい

雇用契約書は労働者にとって、安心・納得・安定した働き方を支える信頼のベースとなる重要なツールです。

雇用契約書・労働条件通知書の交付方法とタイミング

雇用契約書や労働条件通知書は、交付のタイミングや方法を誤ると、労働基準法違反に該当する恐れもあるため注意が必要です。

本章では、雇用契約や労働条件通知書をいつ・どのように交付すべきか、さらに電子交付を行う際に必要な注意点について、法令に基づいてわかりやすく解説します。

交付のタイミングは「就業前」が原則

雇用契約書や労働条件通知書は、原則として就業開始前に交付・締結する必要があります。労働条件の誤認やトラブルを未然に防ぐためです。労働基準法第15条では、労働契約を結ぶ際には労働条件を明示することが義務づけられています。

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

出典:e-Gov法令検索|労働基準法 第十五条第一項

特に通知書は、労働者に対して一方的に「条件を通知する」性質があるため、契約締結時点(雇用の合意時)までに交付しなければなりません。また、契約内容の不一致などの認識のズレを避けるためにも、雇用契約書を入社前に締結するのが理想的です。

タイミングを誤ると労働法違反にあたる可能性もあるため、計画的な対応を心がけましょう。

電子交付には労働者の同意が必要

雇用契約書や労働条件通知書は、電子交付による対応も可能です。ただし雇用契約書や労働条件通知書を電子交付する場合は、必ず労働者本人の同意が必要です。

2019年の労働基準法改正により、雇用契約や労働条件の明示については紙での交付に加えて、PDFなど電子データでの対応も可能となりました。しかし、電子交付はあくまで労働者が希望した場合に限って認められる方法のため、本人が書面を希望すれば、従来通り紙での交付が必要です。

雇用契約書を電子化するケースが増えていますが、本人の意思確認を怠ると無効になる可能性があります。効率化と法令遵守の両立が大切です。

雇用契約書は「労働条件通知書」を兼ねて発行できる

雇用契約書には、労働条件通知書としての役割を持たせることができます。労働基準法第15条では、雇用時に労働条件の明示を義務づけていますが、必ずしも「雇用契約書」と「通知書」を分けて交付しなければならないわけではありません。重要なのは、賃金や勤務時間、契約期間などの法定項目が記載されているかどうかです。次章では、記載すべき項目について詳しく解説します。

労働者が十分に確認できる形で交付すれば、契約書単体で通知書と同様の効力を持つとされます。しかし、契約書が簡略化されていたり、テンプレートを流用していたりすると、通知書としての要件を満たさない場合があるので注意が必要です。

雇用契約書兼労働条件通知書に記載すべき項目一覧

雇用契約書兼労働条件通知書には、法律上明示が義務付けられている事項と、企業が独自に定める制度に応じて記載が必要な事項の両方があります。

本章では、労働基準法で定められた「絶対的明示事項」をはじめ、契約形態に応じた追加項目や、制度の有無によって必要となる「相対的明示事項」について、具体例を交えながら詳しく解説します。

絶対的明示事項

雇用契約書兼労働条件通知書には、労働基準法で定められた絶対的明示事項を必ず記載しなければなりません。

すべての雇用契約において法的に明示が義務付けられている情報であり、労働者の保護と契約内容の透明性を担保するために必要です。記載がなければ違法とされる可能性もあります。

絶対的明示事項に該当する項目は、以下の通りです。

  • 労働契約の期間:有期契約か無期契約か、更新条件・上限も含めて明記
  • 就業場所:現在の勤務地に加え、異動や変更の可能性も記載
  • 業務内容:担当業務や職務範囲を明確に記載
  • 始業・終業時刻、休憩時間:勤務時間と休憩の取り方を具体的に記載
  • 休日・休暇:所定休日や有給休暇など、取得ルールも含めて明示
  • 残業の有無:所定時間を超える労働の有無や扱いについて記載
  • 交代制のルール:シフト制の場合は、グループ分けや勤務時間の変動ルールを記載
  • 賃金の決定・支払い方法:計算方法・支払日・締切日・支払方法などを明確に記載
  • 退職・解雇に関する規定:解雇の事由、退職手続きの流れを明示
  • 就業場所・業務の変更範囲:異動・配置転換などがある場合は、その可能性や範囲を記載

雇用契約書は、上記のような絶対的明示事項の記載が欠かせません。記載漏れは法的リスクや労使トラブルの原因となるため、労働条件のすべてを明記しておくのが重要です。

2024年改正で追加された有期契約の明示項目

2024年9月の法改正により、有期契約労働者との契約時・更新時において新たに明示すべき項目が追加されました。従来は「契約締結時点の条件」の明示で足りましたが、改正後は、今後変更の可能性がある範囲まで含めて契約書や労働条件通知書に記載しなければなりません。

追加された明示項目は、以下の通りです。

  • 明示項目:就業場所・業務の変更範囲
  • 内容:入社直後の勤務地や業務内容だけでなく、今後の異動・配置転換の可能性も記載が必要
  • 明示が必要なタイミング:すべての契約締結時・更新時

  • 明示項目:更新上限の有無・内容
  • 内容:契約更新の上限(通算契約期間・更新回数)を明示。あとから追加・短縮する場合は、その理由も事前に説明が必要
  • 明示が必要なタイミング:有期契約の契約締結時・更新時

  • 明示項目:無期転換申込機会
  • 内容:通算5年を超えた場合に、労働者が無期契約へ切り替えを申し込める権利があること(無期転換ルール)を記載
  • 明示が必要なタイミング:該当する契約の更新時

  • 明示項目:無期転換後の労働条件
  • 内容:無期契約へ転換した場合の就業内容や賃金などをあらかじめ明示し、正社員等とのバランスに配慮した説明が必要
  • 明示が必要なタイミング:該当する契約の更新時

この改正は、契約内容の透明性を高め、働き手の納得度を上げるための制度です。雇用契約書や労働条件通知書を運用している企業は、現在のフォーマットが法改正に対応しているかを今一度確認し、漏れのない管理体制を整えておきましょう。

参考:厚生労働省|2024年4月から労働条件明示のルールが変わりました

相対的明示事項

雇用契約書兼労働条件通知書では、企業が特定の制度や手当を設けている場合、その内容を明示する相対的明示事項も記載が必要です。

これらは労働条件の一部であり、事前に明文化しておくと、労働者との認識のズレやトラブルを防ぎ、契約書としての信頼性を高める役割を果たします。

相対的明示事項に該当する主な内容は以下の通りです。

  • 退職手当:適用範囲・支給条件・計算方法・支払い時期
  • 臨時賃金:一時金・精勤手当・奨励加給・能率手当など
  • 賞与:支給有無・算出基準・支払い方法
  • 最低賃金:対象職種・勤務形態ごとの基準
  • 従業員負担:食費・作業用品などの自己負担内容
  • 安全衛生:健康診断・作業環境整備などの取り組み
  • 職業訓練制度:OJTや研修、スキルアップ支援の実施有無
  • 災害補償等:業務外傷病時の補償や扶助制度の有無
  • 表彰・制裁制度:表彰基準・処分規定の有無と内容
  • 休職制度:休職要件や復職時の取り扱いなど

企業ごとに制度の有無は異なりますが、労働者に影響する内容がある場合は、雇用契約書にしっかり記載しておくのが重要です。

任意記載事項

任意記載事項は、法的に記載が義務づけられているわけではありませんが、従業員との認識のズレやトラブルを未然に防ぐうえで、雇用契約書への明記が強く推奨されます。

特に福利厚生や制度面はあいまいになりがちで、誤解の原因にもなります。あらかじめ契約書で明示しておくことで、企業・労働者双方が安心して信頼関係を築くことができるでしょう。

具体的な記載事項は、以下の通りです。

  • 試用期間の有無・期間:適用範囲・支給条件・計算方法・支払い時期
  • 福利厚生の内容:住宅手当・交通費・社内制度(資格支援・食事補助など)
  • 副業・兼業の可否:副業を認める条件・申請方法の有無
  • リモートワーク・時差出勤:対象職種・勤務形態ごとの基準
  • リモートワークに伴う費用・機材負担:通信費補助・光熱費手当・PCや椅子の貸与有無など
  • 正社員登用制度の有無:登用条件・評価基準・選考プロセスの概要
  • 育児・介護休暇制度の詳細:法定を超える独自制度(延長・短時間勤務等)があれば記載
  • 就業規則の閲覧方法:「社内ポータルで閲覧可」など。物理保管場所も記載可

任意記載事項は「書かなくても違法ではない」ものの、書いておくことで信頼構築とトラブル回避の両方に役立ちます。 

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雇用契約書を作成する際の5つのポイント

雇用契約書は、ただ形式的に作成すればよいというものではありません。本章では、雇用契約書を作成する際に押さえておくべき基本かつ実務的なポイントを5つに整理し、具体的な記載例と注意点を交えてわかりやすく解説します。

労働基準法などの関連法令に沿って正確に記載する

雇用契約書を作成する際には、労働基準法をはじめとする労働関係法令を正確に遵守するのが絶対条件です。法令に反した契約内容は、重大なトラブルや法的リスクを招き、企業の信頼を損なうおそれがあります。

特に重要なのが、労働基準法第15条に基づく「労働条件の明示義務」を適切に果たすことです。また、最低賃金法に沿った賃金の設定や、労働安全衛生法(労基法第28条第42条)に関連する安全配慮義務についても注意が必要です。

これらの法令を軽視した場合に発生し得るトラブルの例は、以下の通りです。

  • 違反内容:労働条件通知書の未交付・記載漏れリスク・トラブル:
  • 労働基準法第15条違反
  • 行政指導や信頼低下の恐れ

  • 違反内容:最低賃金を下回る賃金設定リスク・トラブル:
  • 契約が一部無効となる可能性
  • 未払い賃金の支払い命令や是正勧告のリスク

  • 違反内容:労働時間や休憩時間が基準を満たしていないリスク・トラブル:
  • 労働基準監督署からの是正勧告や罰則の対象となる可能性

  • 違反内容:労働安全配慮義務の不履行リスク・トラブル:
  • 労災発生時に企業の責任が拡大
  • 損害賠償や企業の社会的信用の失墜

雇用契約書を作成する際は、法令に沿った記載が何よりも重要です。労働条件の透明化とトラブル防止の観点からも、最新の法改正や義務事項を正確に把握し、適切に反映させましょう。

曖昧な表現を避け、内容を具体的に記載する

雇用契約書では、曖昧な表現を避け、内容をできる限り明確・具体的に記載するのが重要です。「その他の業務」「必要に応じて異動あり」などの曖昧な表現は、労働者との認識のズレを招き、トラブルの原因となる可能性があるためです。

労働条件は企業と従業員の間で守るべき取り決めであり、明確でなければ契約としての機能を果たせません。曖昧さを排除し、数値化・明確化すべきポイントは、以下の通りです。

  • 業務内容
  • 曖昧な記載例:接客など
  • 明確な記載例:店舗での接客・レジ対応・商品陳列・清掃

  • 就業場所
  • 曖昧な記載例:各拠点に配属
  • 明確な記載例:初任地:新宿本店、異動の可能性あり(関東圏内)

  • 勤務時間
  • 曖昧な記載例:シフト制
  • 明確な記載例:9:00~18:00(休憩1時間)、週5日勤務

  • 賃金
  • 曖昧な記載例:能力に応じて決定
  • 明確な記載例:基本給月額22万円+交通費上限2万円支

  • 昇給
  • 曖昧な記載例:業績による
  • 明確な記載例:年1回、評価制度に基づき最大5%昇給の可能性あり

雇用契約書は、誤解を生まないよう言葉の正確さが求められます。数値や条件が関わる項目は曖昧にせず、具体的な数値・基準・範囲を記載しましょう。

労働時間制度を明確に記載する

雇用契約書では、適用する労働時間制度を明確に記載することが不可欠です。通常の労働時間制以外にも、企業の働き方に応じて複数の労働時間制度が存在し、それぞれで労働時間の扱いや管理方法が異なるためです。

労働時間制度は、以下のようなものが挙げられます。

  • 変形労働時間制
  • フレックスタイム制
  • 裁量労働制
  • みなし労働時間制
  • 固定残業制

上記の制度を導入する場合、制度名や適用範囲・条件を雇用契約書に明示することが求められます。また、1日8時間・週40時間の法定労働時間を超える勤務をさせる場合には、労使協定(いわゆる36協定)を締結し、労働基準監督署への届け出が必要です。

企業の実態に合った労働時間制度を正確に記載し、法令遵守を徹底すると、トラブルの未然防止と透明性のある雇用関係の構築が可能になります。

参考:厚生労働省|36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針

転勤・異動・職種変更の可能性も事前に明示しておく

雇用契約書には、転勤・異動・職種変更の可能性がある場合、事前に明示しておくのが重要です。たとえ就業規則に記載があっても、雇用契約書に明示されていない場合、実際に転勤や配置転換を命じた際に「合意がない」とみなされ、法的な効力が認められないリスクがあります。

転勤・異動に関する記載例は以下の通りです。

  • 勤務地:業務上の必要がある場合、勤務地を変更することがある
  • 職種:会社の業務運営上の必要に応じて、職種を変更することがある
  • 配置転換:人員計画や経営方針の変更により、配置転換を命ずることがある

転勤や異動の有無を曖昧にしたまま契約を結ぶと、後々の運用時に問題が生じる可能性があります。トラブル防止のためにも、該当の可能性があるなら契約時点で明記しておくことが望ましいでしょう。

試用期間の有無や取り扱いを明示する

雇用契約書には、試用期間の有無や取り扱いについても明確に記載するのが重要です。この記載が曖昧だったり省略されていたりすると、従業員との間で認識のズレが生じ、解雇や本採用の可否をめぐるトラブルに発展する可能性があります。

以下は、雇用契約書に記載すべき試用期間の代表的な項目と記載例です。

  • 試用期間:本採用に先立ち、3か月間の試用期間を設けるものとする
  • 扱い:試用期間中も雇用契約は成立しており、解雇には合理的な理由を要する
  • 規定との関係:就業規則に定める試用期間(3〜6か月)の範囲内で設定するものとする

「試用期間はあるだろう」「途中解雇も当然あり得る」など、曖昧な理解のまま雇用を始めると、トラブルの温床になります。そのため、試用期間に関する取り決めは契約書で具体的に明文化し、労使双方の認識を一致させると、健全な雇用関係の第一歩となります。

雇用契約書テンプレートを活用する際の注意点と見直し方法

雇用契約書はテンプレートを使えば作成の手間を省けますが、テンプレートをそのまま使い回すのは非常に危険です。法改正や社内制度の変更に対応できていない内容のまま交付すると、トラブルや法令違反のリスクがあります。

本章では、雇用契約書テンプレートを使う場合に見落としやすい注意点と、正しく活用するためのチェック・更新・管理の方法をご紹介します。

チェックリストを使ってテンプレートの抜け漏れを防ぐ

雇用契約書のテンプレートを使う際は、自社の雇用形態や就業規則と合っているかを必ず確認するのが重要です。以下のチェックポイントをもとに、そのまま流用で済ませない体制づくりが重要です。

  • 労働基準法に基づく必須明示事項がすべて含まれているか
  • 自社の就業規則との整合性が取れているか
  • 雇用形態別(正社員・契約社員・アルバイト等)の記載が適切に分かれているか
  • 賃金・手当・残業代の支給基準や計算方法が明確に書かれているか
  • 解雇・更新・退職などの条件が具体的かつ妥当であるか
  • 守秘義務・副業規定など自社特有のルールを反映できているか

定期的な見直しと、法務・人事部門との連携によるチェック体制を構築することで、テンプレートの安全な活用と契約内容の正確性が保たれます。

人事・法務部門の連携で内容精度を高める

雇用契約書のテンプレートを利用する際は、人事と法務の連携によって、内容の正確性と法的妥当性を担保することが不可欠です。人事部門のみでテンプレートをカスタマイズすると、雇用形態や契約期間、守秘義務などにおいて不適切な表現や法令違反のリスクが生じるおそれがあります。

法務部門と連携すれば、以下のようなポイントで契約書の精度を高められます。

  • 雇用形態ごとの契約内容(例:契約社員・パート・アルバイトなど)を適切に調整
  • 各条項の法的効力やリスクを法務がチェック
  • 法改正に対応した表現や内容のアップデートを確実に反映
  • 就業規則や社内ルールとの整合性を確保

法務部門が社内にない場合は、社会保険労務士や弁護士など外部専門家のチェックを受けるのも有効です。

テンプレートの便利さを活かしつつ、法務との連携・チェック体制を整え、雇用契約書のリスク回避と信頼性の向上につなげましょう。

テンプレート利用時はAIレビュー機能でリスクの見落としを防ぐ

雇用契約書のテンプレートを利用する際は、AIレビュー機能を活用すると、見落としや不備を効率よく検出できます特に、テンプレートをベースに複数の雇用形態に対応した契約書を作成する場合は、条文の曖昧さや記載漏れが発生しやすく、リスクの見逃しにもつながりかねません。

近年は、契約書管理に特化したAIツールが進化しており、LegalOn Cloudの法務支援ツールは、契約内容のレビューを自動化し、潜在的なリスクを事前に把握できる機能を備えています。LegalOn Cloudでは、以下の作業を迅速かつ網羅的に進めることが可能です。

  • リスクの自動検出:AIが契約文を読み取り、曖昧な表現や漏れを自動で指摘
  • 条文と表の整合性確認:契約書内の表や数値もレビュー対象になり、不整合の防止に
  • 過去の契約書活用:自社のひな形や履歴を元に、新しい雇用契約書の作成が容易に
  • オンライン編集機能:クラウド上で直接修正ができ、レビュー結果を即反映

まずは以下の体験型無料デモから、契約書レビューがどれほどラクになるのか、実際の操作を通じてぜひお確かめください。

AIツールはあくまで補助的な役割のため、最終的な確認は、人事や法務の専門知識を持つ担当者がおこなうのが重要です。AIと人の目を組み合わせると、より確実かつ効率的に雇用契約書のリスクを回避できます。

雇用形態ごとの雇用契約書の違い

雇用契約書は、雇用形態によって記載すべき内容や注意点が異なります。本章では、代表的な雇用形態ごとに、契約書へ盛り込むべき項目や法令上の留意点を整理し、具体的な記載例とともに違いをわかりやすく解説します。

正社員と契約社員は、期間と更新条件が違う

雇用契約書を作成する際は、正社員と契約社員で雇用期間や契約更新に関する記載内容が異なるため、それぞれの雇用形態に応じた記載が必要です。

正社員は、基本的に期間の定めがない無期雇用契約です。転勤・人事異動・業務内容の変更など、雇用期間中にさまざまな変更が想定されるため、それらの可能性を契約書に明記する必要があります。

一方、契約社員は有期雇用契約となるため、契約期間の終了や更新条件が明確でなければ、更新時にトラブルが生じるリスクが高まります。

正社員と契約社員の記載例は以下のとおりです

  • 正社員
  • 明記すべき内容:転勤や業務変更の可能性
  • 記載例:業務上の必要により、勤務地変更または配置転換を命じることがある
  • 契約社員
  • 明記すべき内容:契約期間・更新条件
  • 記載例:契約期間は6か月とし、勤務成績や事業状況に応じて更新することがある。更新しない場合は、期間満了をもって終了とする

雇用形態によって求められる契約内容は異なるため、それぞれに適した記載をおこなうのが後々のトラブル防止につながります。

パート・アルバイトは、日数と業務内容の記載が重要

パート・アルバイトと雇用契約を結ぶ際には、勤務日数・業務内容・昇給や手当の有無などを明確に記載しなければなりませんパートやアルバイトも、労働基準法やパートタイム・有期雇用労働法の適用対象であるためです。そのため、雇用契約書には絶対的明示事項に加えて、相対的明示事項や法定記載義務事項が求められます。

特にパートタイム労働法第6条により、待遇に関する重要項目を明示しなかった場合、企業側には罰則(10万円以下の罰金)も科される可能性があります

参考:厚生労働省|パートタイム労働法の改正について

パート・アルバイトにおける明示すべき項目の例は以下の通りです。

  • 勤務日数・時間:所定労働日数は週3日、1日あたりの勤務時間は4時間である
  • 業務内容:レジ業務、商品補充、清掃業務など
  • 昇給・賞与:昇給・賞与は支給しないものとする
  • 退職金制度:退職金制度は適用しないものとする
  • 相談窓口:雇用管理に関する相談は、総務部人事課が対応するものとする

パートやアルバイトであっても、法令に基づいた詳細な記載が必要です。勤務日数・業務内容に加え、待遇条件の明示を徹底しておくと、法的リスクとトラブルを未然に防げます。

雇用契約書にありがちな3つのトラブルと防止策

雇用契約書は、記載内容の不備や実務との食い違いによって、思わぬトラブルが発生するケースも少なくありません。本章では、実際によくある雇用契約書トラブルの具体例と、その予防・対応策について詳しく解説します。

ケース1:記載内容と実際の業務内容が異なっている

雇用契約書の内容と実際の業務にズレがあると、労務トラブルの原因になります。従業員が「約束と違う」と感じ、企業への不信感につながるためです。

例えば「週5日勤務」と契約書に記載されていたにもかかわらず、実際には週6日の勤務を求めるなどのケースが該当します。このようなトラブルは、契約書のテンプレート化・流用や、現場と人事部門との情報共有不足によって生じる場合が多いです。

トラブルを未然に防ぐには、以下のような取り組みが有効です。

  • 年1回の雇用契約書レビューの定期実施:
    評価面談や労働条件見直しのタイミングにあわせて、記載内容が現状に合っているかをチェックする


  • 現場責任者によるチェック体制の構築:
    各部署の責任者が、契約と実務の乖離がないかを確認し、人事部門へ報告するフローを明確化する


  • 「変更条項」の明記:
    契約書に「業務の都合で変更する可能性がある」旨を記載し、変更時の通知ルールも明記しておく

契約内容の適正な管理と更新は、トラブルの予防だけでなく、従業員からの信頼構築・離職防止・コンプライアンス強化にもつながります。企業の成長と安定した雇用のためにも、制度化されたチェック体制の導入が不可欠です。

ケース2:雇用契約書と就業規則の内容の食い違い

雇用契約書と就業規則に内容の違いがある場合、原則として労働契約法第12条により就業規則が優先されます。しかし、労働者にとって有利な条件であれば、雇用契約書の内容が優先されるケースもあります。

例えば、就業規則では「時給1,100円」と定められているのに対し、契約書に「1,200円」と記載されていれば、1,200円が有効です。一方で、雇用契約書に「試用期間3か月」と記載され、就業規則では「1か月」と定められている場合には、1か月が適用される可能性が高くなります。

雇用契約書を作成・更新する際は、就業規則との整合性を確保するために、以下の点に注意が必要です。

  • 就業規則と内容が矛盾しないよう、契約書作成時に必ず照合する
  • 記載が重複する場合は、どこに何を書くかを明確にルール化する
  • 法務・人事・労務が連携し、チェック体制や文書管理ルールを整備する

整備を徹底することで、契約書と就業規則の矛盾による信頼低下や法的リスクを回避し、組織としての一貫性と透明性を確保できます。

ケース3:退職後の働き方を不当に制限している

退職した従業員に対して「同業他社では働いてはいけない」などの制限を設ける場合は、内容を慎重に設定する必要があります。競業避止義務が広すぎると、労働者の職業選択の自由を侵害するおそれがあるためです。

一般的には、競業避止義務の期間は概ね1年以内、対象地域も業務との関連性がある範囲にとどめるのが妥当とされています。過剰な制限は無効と判断される可能性があるため注意が必要です。

例えば、以下のような記載は問題となる可能性があります。

  • 不適切な記載例:退職後2年間、全国の同業他社での勤務を禁止理由:期間・地域の範囲が過剰
  • 不適切な記載例:競合に関する定義が一切ない理由:どこまでが該当するか不明確でトラブルになりやすい

合理的な制限内容に加えて、退職金や特別手当など競業避止義務に見合う対価を提示すると、契約としての有効性が高まります。

雇用契約書・労働条件通知書の記載条件を変更する方法

雇用契約書や労働条件通知書に記載された内容を変更する際は、適切な手続きが必要です。本章では、労働条件の変更に関する基本ルールをわかりやすく解説します。

労働者にとって有利な変更は就業規則だけで対応できる

労働者にとってプラスになる変更は、本人の同意がなくても、就業規則を変更するだけで適用可能です。労働契約法第12条では、以下のように明記されてます。

就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

出典:e-Gov法令検索|労働基準法 第十二条

例えば、以下のような変更は、就業規則の変更だけで反映できます。

  • 基本給や時給をアップする
  • ボーナスや手当を新たに支給する
  • 有給休暇日数を増やす
  • リモートワークや時差出勤を導入する

会社が就業規則でいい条件を用意すれば、それがそのまま労働者に適用されるのです。また、労働者が10人以上いる会社では、就業規則の作成・届出・周知が義務づけられており、全従業員が内容を確認できる状態にしておく必要があります。就業規則の整備がなされていないと、たとえ有利な変更であってもトラブルのもとになるため注意が必要です。

労働者にとって不利益な変更は原則として合意が必要

賃金の引き下げや労働時間の延長など、労働者にとって不利益となる変更をする場合は、原則として本人の同意が必要です。労働契約法第9条では、以下のように明記されています。

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。

出典:e-Gov法令検索|労働基準法 第九条

就業規則を変えたとしても、本人の納得を得られなければ、その変更は無効と判断されるおそれがあります。また、経営悪化や組織変更など、やむを得ず条件を見直す必要がある場合でも、以下のような対応が必要です。

  • なぜ変更が必要なのか、その理由と背景を丁寧に説明する
  • 労働者に不利益になる点を明示し、納得を得るように努める
  • 書面での同意を取得し、記録を残しておく

労働条件を不利益に変更する場合は、企業側は一方的な変更ではなく、誠実な説明と適切な同意取得を徹底しましょう。

合理的な就業規則変更なら不利益変更も例外的に認められる

原則として、労働者に不利益な条件変更は本人の同意が必要ですが、就業規則の変更が「合理的」と認められる場合には、例外的に変更が有効になるケースもあります。(労働契約法第9条10条

この場合、以下の2点を満たす必要があります。

  • 変更内容が合理的であること(例:経営上の必要性や業務上の合理性などが認められる)
  • 変更後の就業規則を労働者に周知していること

雇用契約の中で「就業規則によっては変更されない条件」として明確に合意していた内容については、就業規則を変更しても適用できません。そのため、就業規則による一括変更を行う際は、契約との整合性にも注意が必要です。

雇用契約書を電子化・クラウド管理するメリット

近年、契約業務の効率化やDXの流れを背景に、雇用契約書の電子化・クラウド管理を導入する企業が増えています。本章では、雇用契約書を電子契約に切り替えることで得られる業務効率化・コスト削減の効果や、クラウド管理による情報共有・更新作業のスムーズさについて、具体的なメリットをわかりやすく解説します。

電子契約は法的に有効で、印刷・押印が不要になる

雇用契約書を電子化しクラウドで管理することで、契約業務の効率化とコスト削減が可能です。具体的には、以下のような業務改善・コスト最適化が期待できます。

具体的には以下のメリットが得られます。

  • 電子契約により、紙・郵送・押印コストを削減
  • 社内外の承認フローがスピーディに完了
  • クラウド上で契約書を一元管理でき、検索性・改訂履歴の確認も容易
  • 電子契約は法的にも有効(電子署名法・労基法改正対応)

業務効率とコンプライアンス強化の両面で、雇用契約の電子化は今後のスタンダードになり得ます。

法改正や労務管理のDXを見据え、早期の導入を検討すべきでしょう。

クラウド管理なら、契約書の更新・共有がスムーズになる

クラウド管理を導入すれば、契約書の更新・共有が格段にスムーズになります雇用契約書や労働条件通知書を電子化し、クラウド上で管理することで、書面の作成・押印・郵送などの物理的な手間を省けるためです。

具体的には以下のメリットが得られます。

  • オンラインでの締結により、契約までのリードタイムを短縮
  • 各担当者との共有や承認フローをリアルタイムで実施可能
  • 契約書の更新や差し替えも即時反映でき、情報の一元管理が可能

雇用契約書のクラウド管理は、業務のスピード感・正確性の両立を実現し、バックオフィス全体の生産性を底上げします

雇用契約書の整備は信頼構築とコンプライアンス強化の第一歩

本記事では、雇用契約書の基本構成から、AIやクラウドを活用した最新の管理手法まで解説しました。雇用契約書は、労働条件や就業ルールを明文化し、健全な労使関係を築くための土台となる重要な書類です。法定の記載事項だけでなく、試用期間・守秘義務・競業避止義務なども具体的に明記することで、トラブルの未然防止につながります。

また、リモートワークや副業など、多様化する働き方に合わせた契約内容の見直しも不可欠です。クラウドでの一元管理やAIレビュー機能の活用は、業務効率の向上だけでなく、法令対応・文書精度の担保にも効果的です。

適切な雇用契約書の整備と定期的な見直しは、企業の信頼性を高め、安定した雇用関係を維持するための第一歩となります。契約書の内容と運用体制を今一度チェックし、実務に即したアップデートを検討してみてはいかがでしょうか。

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NobishiroHômu編集部
執筆

NobishiroHômu編集部

 

AI法務プラットフォーム「LegalOn Cloud」を提供する株式会社LegalOn Technologiesの「NobishiroHômu-法務の可能性を広げるメディア-」を編集しています。

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