履行とは何か?
履行の定義と法的意義
履行とは、法律上の義務(債務)に基づいて自らに課された行動を実行することを指します。具体的には、借りたお金を返す、売買契約において売買代金を支払う、または売買の目的物を給付することなどが履行に該当します。履行が行われると、その債務は消滅し、契約は履行済みとされます。
履行が求められる場面
例えば、売買契約では、買主が売主に対して代金を支払い、売主が買主に商品を引き渡します。これらの行為は、契約の履行として法的に認められ、双方の義務が果たされたことになります。
履行が行われない場合
履行が行われない場合、債務不履行となり、損害賠償請求や契約の解除といった法的措置が取られることがあります。債務不履行には、大きく分けて履行遅滞、履行不能、不完全履行、履行拒絶の4つの種類があります。
契約における履行の具体例
金銭消費貸借契約における履行
金銭消費貸借契約では、借主が貸主から借りた金銭を返済する義務があります。例えば、個人が銀行からローンを借りた場合、毎月の返済額を期限までに支払うことが履行となります。借金を完済すると、その債務は消滅します。
売買契約における履行
売買契約では、買主が売主に対して売買代金を支払い、売主が買主に商品を引き渡すことが求められます。例えば、オンラインショッピングで商品を購入する際、買主が代金を支払うこと、売主が商品を発送することのいずれも履行に当たります。
サービス契約における履行
サービス契約では、サービス提供者が契約で定められたサービスを提供し、顧客がその対価を支払うことが履行となります。例えば、ウェブサイトの制作契約において、サービス提供者が指定された仕様に基づいてウェブサイトを完成させること、顧客がその報酬を支払うことのいずれも履行です。サービスの提供と対価の支払いが完了することで、契約は履行済みとなります。
契約不履行の種類
4種類の債務不履行について、それぞれ解説します。
履行遅滞
債務とは相手のために何かしらの行為をする義務を意味します。例えば、支払いや商品の発送といった行為です。そして、合意した期限までに債務が履行されないことを履行遅滞と言います。
では、いつから履行遅滞になるのか?については、債務の期限に応じて3パターンあります。
確定期限のある場合
債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。(民法第412条1項)
例えば「2024年8月31日までに買った商品の代金を支払う」との約束に合意したのであれば、確定期限は2024年8月31日となり、8月31日24時(9月1日0時)までに支払いがなければ履行遅滞の責任を負います。
不確定期限のある場合
債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。(民法第412条2項)
例えば、AとBが、「Bの父が亡くなったときに、Aが甲土地をBに引き渡す」と合意をした場合、Bの父が亡くなる時期は不確定と言えるので、不確定期限となります。そして、AがBの父が亡くなったことを知った時又はBの父が亡くなった後にAがBから引渡しの請求を受けた時からAは履行遅滞の責任を負います。
期限の定めのない場合
債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。(民法第412条3項)
例えば、AがBから返済期限を定めない借金をしていた場合、Bから返済を求められた時点でAは履行遅滞の責任を負うことになります。
履行不能
契約締結後に債務の履行ができなくなった場合をいいます。前述した履行遅滞は、履行そのものは可能であることが前提であるのに対して、履行不能は、契約締結後に履行することができない状況にあります。
債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。(第412条の2第1項)
例えば、自然災害によって債務を物理的に実行することができない場合などが該当します。
不完全履行
約束したことの一部は履行はされているものの、一部の内容・状態が不完全であることです。
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。(民法第415条第1項)
例えば、注文した商品が納品されたものの数が足りない、借金の返済額が約束の額より少ないなどの場合を指します。
履行拒絶
「債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき(民法第415条2項2号)」を指します。履行拒絶の意思が繰り返し伝えられたり、書面で示されたりした場合に履行拒絶が発生したと言えます。
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債務不履行になった場合
債務不履行になった場合、債務者はどのような責任を負うのでしょうか? 以下の5つが考えられます。
- 契約を解除される
- 代金の減額請求をされる
- 債務の完全な履行を求められる
- 損害賠償請求される
- 強制執行される
1. 履行の追完を請求される
契約通りに債務を履行できなかった場合には、完全な形で履行するよう求められる可能性があります。(民法第562条)
(例)
商品100個の注文に対して、90個しか納品しなかった場合(不完全履行)、不足分の10個を請求されます。
2. 代金の減額請求をされる
例えば納品された物品の数量や品質が契約内容に適合せず、買主が履行の追完を請求しても追完されない場合、不適合の度合いに応じた代金の減額を請求される可能性があります。(民法第563条第2項第3号)
3. 損害賠償請求される
債務不履行により、債権者が損害を負った場合には損害賠償請求される可能性があります。例えば、受注したウエディングドレスが結婚式に間に合わず、別のウエディングドレスを借りたレンタル料の請求をされるなどのケースが考えられます。
4. 契約を解除される
債務不履行があった場合、相当の期間を定めて履行を求める催告をし、その期間内に履行がされない場合は、債務者の同意がなくても一方的に契約を解除することができるとされています。(民法第541条)
また、債務の全部が履行不能である場合や、債務者が債務の履行を明確に拒絶した場合などには、債権者は催告をすることなく、契約を解除することが可能です。(民法第542条第1項、第2項)
契約解除は、債権者から債務者に「契約を解除します」という内容証明郵便を送る方法が一般的です。
5. 強制執行される
債権者は裁判所を通して強制執行という手段を取ることもできます(民法第414条第1項)。強制執行とは、債務を強制的に回収する手続きです。強制執行では、給与や預貯金、不動産などの財産が差し押さえられることとなります(※ 詳細後述)。
履行に関連する法務用語
弁済
弁済は、債務の履行によって債権を消滅させる行為を指します。履行が債務者の行為に焦点を当てているのに対し、弁済はその結果としての債権の消滅に焦点を当てています。
強制執行
強制執行とは、債権者の申し立てに基づき、裁判所が債務者に対して強制的に債務を回収する手続きです。強制執行には、以下の3種類があります(民法第414条第1項)。
- 直接強制
国家権力が債務者に対して強制的に義務を実行させます。例えば金銭の支払いを滞納している債務者の財産を差し押さえ、債権者に配当する場合などがこれにあたります。 - 代替執行
裁判所に指定された第三者に債権の内容を実現させ、その費用を債務者から強制的に徴収するかたちで債務を回収します。何らかの作業の委託など、強制的に実行させることが困難な場合に採られる方法です。(民事執行法第171条) - 間接強制
履行確保のため、裁判所が債務者に対して一定の金銭の支払を命ずることによって、間接的に債権の実現を図ることです。たとえば、清算人として選任された者が義務を履行しようとしない場合に採られる方法です。(民事執行法第172条)
法務知識を効率的にインプットする方法
履行は契約に関する基本的な概念ですが、関連用語にまで目をむけると、非常に奥深い概念であることがわかります。このように、法務においては理解や解釈が難しい法律用語が頻出します。実務と並行して適切にキャッチアップしていくためには、効率的に学習することが必要です。こうした法務の基本的な知識を効率的に学ぶヒントを探っていきましょう。
法務知識の基礎を固める
法務知識を効率的にインプットするためには、まず基礎をしっかりと固めることが重要です。法務の基礎知識は、法律の目的や条文の意図を理解することから始まります。例えば、日々の業務の中で関連する根拠条文を確認し、その背景や目的を意識することが重要です。これにより、法律の理解が深まり、実務における応用力が向上します。
実務経験を通じた学習
実務経験を通じて学ぶことも、法務知識を効率的にインプットする方法の一つです。具体的な事例に基づいて法律を適用することで、理論と実務のギャップを埋めることができます。例えば、契約書のレビューや法律相談を通じて、実際に法律がどのように運用されるかを学ぶことができます。これにより、法務知識が実務に直結し、より効果的に活用できるようになります。
法務関連の資格取得
法務知識を体系的に学ぶために、法務関連の資格取得を目指すのも有効です。ビジネス法務検定などの資格試験は、企業法務に必要な法律知識を網羅的に学ぶことができ、全体像を把握するのに役立ちます。資格取得を通じて、法務の基礎から応用までを幅広く学ぶことができ、実務での即戦力としてのスキルを身につけることができます。
Legal Learningで学ぶ法務の基礎知識
Legal Learningの概要
Legal Learningは、法務の基礎から最新の法改正情報までを網羅的に学べるオンライン法務学習支援サービスです。弁護士などの専門家が監修した動画コンテンツを通じて、企業法務に必要な知識を体系的に学ぶことができます。また、法務の初学者の方に向けては、法律用語など基本的な知識の解説も提供しています。
コンテンツの特徴
Legal Learningのコンテンツは、具体的な事例を交えた解説が特徴です。例えば、契約類型ごとの解説、法務実務に役立つ情報、ドラマ仕立ての「恐怖系契約バラエティー」などのエンターテイメント要素を取り入れたコンテンツで学ぶことができます。
学習の効果
Legal Learningを活用することで、契約全体の理解を向上させることができます。特に、新卒社員や法務の経験が浅いメンバーにとっては、基礎から体系的に学べるため、実務での即戦力としてのスキルを身につけることが可能です。また、学習リマインド機能や理解度確認テストを通じて、知識の定着を図ることができます。
履行は契約に欠かせない要素
この記事では、契約における履行の重要性とその関連法務用語について詳しく解説しました。履行は契約の成功に欠かせない要素であり、法務メンバーがその概念を理解することは、契約の円滑な遂行に直結します。具体例を通じて、履行のプロセスや履行不能、履行遅滞といったトラブルへの対応策も紹介しました。
また、Legal Learningを活用することで、履行に関する知識を効率的にインプットし、実務での即戦力としてのスキルを身につける方法を提案しました。法務テクノロジーの活用や資格取得を通じて、法務知識を体系的に学ぶことも重要です。
今後の学習ステップとしては、日々の業務で得た経験を活かし、実務における問題解決能力を高めることが求められます。また、継続的な学習を通じて、最新の法改正や判例に対応できるようにすることも大切です。これにより、法務メンバーは組織全体の法務力を向上させ、信頼性の高い契約業務を遂行することができるでしょう。
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法務知識ゼロでも分かる!③契約書内の危険箇所を見落とさないコツ