Nobishiro LegalOn Cloud

法務デューデリジェンス(法務DD)の基礎知識|目的、実務対応の流れ、チェックポイント

法務デューデリジェンス(法務DD)の基礎知識|目的、実務対応の流れ、チェックポイント
この記事を読んでわかること
    • 法務デューデリジェンス(法務DD)とは何か
    • 法務デューデリジェンスで調査する対象や調査の流れ
    • 法務デューデリジェンスを実施する際の注意点

「総額179億円を調達したLegalOn Technologiesの資金調達の軌跡を大公開」

無料でダウンロードする

法務デューデリジェンス(法務DD)は、M&Aや企業への出資、ジョイントベンチャーの立ち上げなどを実施する際に、対象企業の法的リスクの確認を目的に行われます。

取引後のリスク顕在化防止、コンプライアンス強化、取引価格や条件の最適化を実現するために、法務デューデリジェンスは欠かせません。

本記事では、法務デューデリジェンスにおける調査対象や調査のプロセス、具体的なチェックポイントなどを解説します。

法務のためのAIテクノロジーを結集させた次世代のリーガルテック【AI法務プラットフォーム LegalOn Cloud】

LegalOn Cloudは、これまでのリーガルテックとは異なる、企業法務のための全く新しいAIテクノロジープラットフォームです。自社に必要な法務体制を、同一基盤上に構築することが可能で、その拡張性・カスタマイズ性の高さにより、あらゆる企業、あらゆる法務組織に最適化が可能。法務DXを成功させたい方は、ぜひ以下より資料をダウンロードし、詳細をご確認ください。

<関連記事>

M&Aとは? 企業成長を加速する基本と手順

株式譲渡契約書に記載すべき事項・締結時の注意点|ひな形も紹介

事業譲渡契約書とは|目的や記載項目をわかりやすく解説

法務マネージャー必見! レピュテーションリスクの基本と対策

目次

法務デューデリジェンス(法務DD)とは

はじめに、次の3点について解説します。

  • 法務デューデリジェンス(法務DD)とは何を指すのか
  • 他のデューデリジェンスとは何が違うのか
  • 法務デューデリジェンスの重要性

法務デューデリジェンスの定義

法務デューデリジェンスとは、M&Aやジョイントベンチャー立ち上げ、企業への出資などの場面で、取引対象となる企業の法的リスクの有無を確認する調査のことです。許認可や訴訟、労働環境や資産、債務などの幅広い項目を調査し、買収金額や買収後の対応、そもそもの買収可否まで判断するために行われます。

他のデューデリジェンス(財務DD・税務DDなど)との違い

法務デューデリジェンスは、財務デューデリジェンスや税務デューデリジェンスとは法的視点の調査に特化しているか否かという点で異なります

財務デューデリジェンスは企業の経営数値に関することを中心に調査します。税務デューデリジェンスは適切な税務申告を行っているかといった納税状況を中心に精査します。一方で法務デューデリジェンスは、各種契約状況やコンプライアンス体制、人事労務体制や訴訟・その他紛争の状況など様々な分野を法的視点で調査するものです。いずれも調査対象が異なることから、連携することで総合的なリスク判断が可能となります。

法務デューデリジェンスの重要性

法務デューデリジェンスの重要性は、次の3点にあります。

  • 取引後のリスク顕在化を防ぐ
  • コンプライアンス強化と企業価値向上につながる
  • 取引条件を最適化できる

取引後のリスク顕在化を防ぐ

M&Aにおいて、買収したあとに訴訟リスクや許認可不備などが発覚してしまうと、大きな損失につながる場合があります。そのため、法務デューデリジェンスを徹底して行うことで、取引後のリスク顕在化はできる限り防ぐ必要があります。

コンプライアンス強化と企業価値向上

法務デューデリジェンスが効果的なのは、取引の判断時だけではありません。企業のコンプライアンス基盤の再点検にも効果的です。法令違反はないか、社内統制に不備はないかを入念に確認することで、将来的な信用低下や企業価値低下を予防できます。

取引条件の最適化

法務デューデリジェンスで法的リスクを把握することで、契約条件や買取価格などを適切に判断できます。

法務デューデリジェンスの目的やメリット

法務デューデリジェンスの目的やメリットについて解説します。

法的リスクの可視化

法務デューデリジェンスでは、潜在的な法的リスクを調査します。組織体制をはじめ、契約書や労働環境、紛争履歴などを包括的に調べ、顕在化していないリスクも把握します。リスクを早期発見できれば、重要性に基づいて優先度を設定することで、時間やリソースを無駄なく活用できます。

リスクヘッジ・事後対応策の策定

契約内容を修正する、許認可管理を徹底する、コンプライアンス研修を実施するなど、可視化されたリスクに合わせて防止対策をとることも法務デューデリジェンスの目的です。すでに発生している問題に対しては、事後対応策も用意します。

取引条件の見直し・価格調整

事前に法的リスクを洗い出すことで、買収価格の引き下げ、エスクロー(預託)設定への変更といった取引条件の見直しにつながりますまた、売り手の表明保証が強化されることにより、もしも買収後にリスクが発覚した場合の、救済策まで練ることが可能です。

法務デューデリジェンスの主な対象領域

ここからは、法務デューデリジェンスにおける6つの対象領域について解説します。

組織・コーポレート関係

会社の設立が法令に則って行われているか、登記情報が最新であるかなど、企業の基本的な法的構造と組織体制の確認を行いますまた、株主構成や持株比率、関連会社との関係性も調査対象とされます。とくに経営支配権の構造が複雑な場合は詳細な確認が必要です。

契約関連

企業の存続に影響を及ぼす重要な取引契約について、その内容と法的有効性を確認します。代理店契約やライセンス契約、リース契約などの更新期限、解除可能性などをチェックし、契約内容に不利な条項はないか、解除可能性はないかといった点を把握します。

知的財産権

特許権・商標権・著作権など、企業の競争力の源泉となる知的財産権の保有状況、権利期限切れなどについて確認します。M&Aなどの場合、基本的には買い手企業にこうした権利は移ると考えられますが、なかには別途手続きが必要なもの、制限がかかるものもあるため注意が必要です。また、ライセンス契約についても再許諾範囲を把握し、権利関係のリスクを洗い出します。

許認可・ライセンス

今後も事業を運営していく上で必要な許認可の取得状況と維持管理体制を確認します。免許や認可、届出などが正しく提出されているか、期限切れのものはないか把握し、取得要件が維持されているかも確認が必要です。

訴訟・係争中案件

これまでの紛争履歴に関する進行状況、和解内容、賠償金額などについて詳細に把握し、今後の事業においてどのようなリスクがあるか判断します。また、取引先や従業員からのクレームなど、潜在的な係争リスクがないかも確認します。

コンプライアンス・社内規程

コンプライアンスマニュアルや、内部通報制度、従業員ハンドブックなど、企業の法令遵守体制と内部統制システムの整備状況も調査対象です。労働関連の法令のみならず、個人情報保護法や、FCPA(米国海外腐敗行為防止法)などまで遵守できているか把握します。

法務デューデリジェンスの実務フロー

実際に法務デューデリジェンスがどのように進められるのかを解説します。

スコープ設定と計画立案

法務デューデリジェンスは、全領域を網羅しようとするとコストの負担が大きくなってしまいます。調査範囲や優先順位を整理し、重点的に調査すべき領域や実施期間を定めることが重要です。重点的に調査する領域、調査計画の立案と並行して、法務部門や弁護士、公認会計士などのスケジュール調整も行います。

資料の収集・整理

法務デューデリジェンスを行うにあたって、必要となる書類を収集します。定款や許認可証、社内規定、特許関連書類など必要書類をリストアップし、調査対象企業へと資料請求を行います。資料の閲覧に際しては、情報漏洩などのリスクに対応するため、閲覧場所の選定も重要になります。具体的には、対象企業の会議室、あるいは法律事務所等の外部の会議室などで行います。その他、クラウド上に構築されたバーチャルデータルームを使用する場合があります。閲覧状況・閲覧履歴をリアルタイムに把握でき、セキュリティレベルも優れています。

質問票(Q&Aリスト)の作成と回答取得

実際の組織体制やコンプライアンスの運用状況に関しては、関連書類のみでは把握できません。そのため、実態を深掘りするための質問票を作成し、回答を取得します。十分な回答を得られなかった場合、あるいは正誤の判断が難しい回答が見られた場合は、追加で質問を行うか、他の資料と照合しながら裏付けを取ります。

インタビュー・ヒアリング

経営陣をはじめ、現場でキーパーソンとなっている人物へと直接ヒアリングし、資料だけでは把握しきれない点を聞き出します。会社の経営方針や今後の展望について、潜在的なリスクの有無などを確認し、内容を文書として残します。

リスク分析・評価

これまでに調査してきた内容をもとに、洗い出したリスクを「重大度(High/Medium/Low)」×「発生可能性」の観点で分類してマトリクス分析を行います。その上で、リスク対策に必要とされるコストや時間と、リスクが発生した場合の損失とを比較し、優先的に対策を取るべき事案を定めます

対応策・レポート作成

リスク分析や優先順位の設定まで完了したら、実施すべきリスク軽減策についてレポートをまとめます。例としては、契約条項の修正、社内規定の改訂、保険への加入などがあげられます。レポート作成時は経営者向けのサマリー、実務担当者向けの詳細資料の二つを用意し、スムーズな意思決定へとつなげます。

法務DD実施のチェックポイント

法務デューデリジェンス実施時はどのような点に注意すべきなのか、チェックポイントを幾つか紹介します。

契約書レビュー

契約書レビューにおいては、契約書に不利な条件がないか、損害賠償責任の範囲などに不備がないかを中心に確認しますなかでもCOC条項(M&Aで経営権が他社に移動した場合、契約内容について制限がかかる条項)の有無は必ず確認し、契約解除などのトラブルを未然に防止する必要があります。

知的財産関連

売り手企業の所有する全IP(Intellectual Property: 知的財産)、ライセンス契約について正当性を確認する必要があります。権利侵害の疑い、紛争リスクの有無についても確認が必要です。

コンプライアンス体制

最新の法令を遵守し、コンプライアンス体制がきちんと機能しているのかを確認します。内部監査や外部監査の実施状況、コンプライアンス研修の有無なども重要なポイントです。

労務管理

社会保険手続きに不備は見られないか、残業代未払いリスクは確認できないかなど、労務関連の状況を把握します。パワハラやセクハラといった労使トラブルの有無も確認し、訴訟につながるリスクがないかチェックします。

許認可・行政対応

飲食業や建設業、医療業などの場合、許認可が正しく取得されているか確認が必要です。更新もれがないかもあわせてチェックします。また、これまでに是正勧告や行政処分を受けていないか、受けている場合は再発防止策が取られたかも確認します。

訴訟・クレームの潜在リスク

進行中の訴訟案件がある場合、契約内容や当事者の権利義務関係について改めて把握する必要があります。加えて、新規ビジネスを展開する際に懸念となる点はないか、新たな法的リスクの有無も確認します。

法務デューデリジェンスの結果をどう活かすか

法務デューデリジェンスを行ったあと、調査結果をいかに活用するか解説します。

レポートの構成

デューデリジェンスのレポートは、経営者層向けのエグゼクティブサマリーと、現場担当者向けの詳細報告書の二つを用意する必要があります。エグゼクティブサマリーでは、重要度の高いリスクや対応策について簡潔に提示します。一方詳細報告書では、分野別にリスク事項と対策をまとめ、裏付けとなる書類やインタビュー内容なども明示します。また、読んだ人がすぐに行動に移せる構成にすることも重要です。

リスクと価格・取引条件の調整

調査結果に基づき、買収額や出資額について再交渉を行います。重要度の高い法的リスクが見られた場合には、損失を防ぐために価格や条件を見直します。また、買い手側は表明保証条項へも調査内容を反映します。これにより、発見されたリスクに対する保証・責任が売り手側の負担となり、買い手側を保護できます。

相手先との交渉・対応

取得していない許認可、不備の見られる契約が発見された場合には、是正するための対策を協議します。交渉が完了したら、必要な手続きや修正を実施します。

法務デューデリジェンスの実務対応における注意点とポイント

法務デューデリジェンスで実務対応を行う際、注意しておきたいポイントを紹介します。

スケジュールと情報共有に関する注意点

M&Aや資金調達は、スケジュールがタイトなことが少なくありません。限られた時間の中で対応するためには、優先順位を定めた上で段階的に調査を進める必要があります。また、取引企業や専門家とは随時コミュニケーションを取り、進捗共有を行います。コミュニケーションを欠かさないことにより、書類の提出遅延や誤評価を防止します。

チーム体制とコミュニケーションに関する注意点

法務デューデリジェンスでは、各専門家を適切に配置することが重要です。社内法務をはじめ、弁護士、司法書士、公認会計士や弁理士などを含んだチームを編成します。スピード感が求められることから、週次・日次ミーティングで情報を共有し、次に取るべきアクションを早急に決めてください。

情報管理・秘密保持に関する注意点

実際に取引をする前に、NDA(秘密保持契約)を締結します。オフライン、オンラインいずれかのデータルームを活用し、厳重なルールとセキュリティ対策のもとで情報漏洩リスクを抑えます。

事後対応の重要性に関する注意点

調査で発見されたリスクをリストアップし、買収後/投資後に優先して解消すべき項目を定めて、モニタリングを行います。事業拡大のタイミング、企業統合のタイミングなど、定期的に法務面の見直しを行える体制を整えます。

法務デューデリジェンスの失敗例

最後に、法務デューデリジェンスのよくある失敗例を紹介します。

よくある失敗例

法務デューデリジェンスでよくある失敗事例の一つに、重要資料の未提出や遅延があげられます。期日内に資料が間に合わないと、クロージング後にリスクが見つかる場合があるため注意が必要です。また、契約書を十分にレビューしなかったことにより、条件が不利なまま引きつがれてしまい、訴訟時に大きな損失となるパターンも見られます。加えて、法務デューデリジェンスを行ったにも関わらず、レポート作成のみで終わってしまう事例も見られます。具体的な契約交渉、リスク対策などが実行されず、買収後のリスク顕在化につながってしまうため注意が必要です。

まとめ

M&Aや企業への出資、ジョイントベンチャー立ち上げなどを実施する際、リスク回避や軽減のために法務デューデリジェンスは欠かせません。しかし、コンプライアンスや労務、許認可、知財など領域が幅広いため、優先順位付けや専門家との協力が必須となるでしょう。

法務デューデリジェンスで得られた結果は、レポート作成に止まるのではなく、価格や契約条項についての交渉、リスク対策に活用することが重要です。企業価値を最大化するためにも、調査後のフォローを徹底することが重要です。

このように、法務デューデリジェンスは非常に重要かつ担当者にとって負担のかかる業務になります。適切に対応するためには、定常業務の効率化が不可欠です。LegalOn Cloudは、AIテクノロジーを駆使し、法務業務を広範囲かつ総合的に支援する次世代のリーガルテックプラットフォームです。あらゆる法務業務をAIがカバーできるほか、サービスを選んで導入できるため、初めてリーガルテックの導入を検討する方にもおすすめです。

リーガルオンクラウドの製品資料ダウンロード用のバナー

IPO準備企業の必須ガイド!労務デューデリジェンスで押さえるべき重要チェックリスト

<関連記事>

M&Aとは? 企業成長を加速する基本と手順

株式譲渡契約書に記載すべき事項・締結時の注意点|ひな形も紹介

事業譲渡契約書とは|目的や記載項目をわかりやすく解説

法務マネージャー必見! レピュテーションリスクの基本と対策

NobishiroHômu編集部
執筆

NobishiroHômu編集部

 

AI法務プラットフォーム「LegalOn Cloud」を提供する株式会社LegalOn Technologiesの「NobishiroHômu-法務の可能性を広げるメディア-」を編集しています。

法務業務を進化させるAI法務プラットフォーム「LegalOn Cloud」

3分でわかる製品資料