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法務業務を進化させるリーガルオペレーションズとは?【後編】

法務業務を進化させるリーガルオペレーションズとは?【後編】
この記事を読んでわかること
    • リーガルオペレーションズはあらゆる法務組織において重要
    • リーガルオペレーションズの実践は、まずアセスメントから
    • リーガルオペレーションズの実践において、法務組織外との連携にも配慮する必要がある
    • テクノロジーの活用は、リーガルオペレーションズの実践には必須
    • 自社の課題を踏まえたリーガルテックの導入が大切
    • 今後、リーガルオペレーションズとリーガルテックがカバーする領域は重なっていく

「イチからわかる!リーガルテックを活用した契約業務改善のすすめ」

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佐々木 毅尚氏(ささき・たけひさ)
Interviewee

佐々木 毅尚氏(ささき・たけひさ)

NISSHA株式会社 法務部長

1991年明治安田生命入社。アジア航測、YKK、太陽誘電、LegalOn Technologies、SGホールディングスを経て、現職。法務、コンプライアンス、コーポレートガバナンス、リスクマネジメント等幅広い業務を経験。日本版リーガルオペレーションズ研究会のメンバーとしてCORE 8の策定にも参画した。著作に「リーガルオペレーション革命」(商事法務 2021)、「ザ・コントラクト: 新しい契約実務の提案」(共著 商事法務 2023)等多数。

法務にビジネス管理手法やテクノロジーを導入し、業務を進化させるというリーガルオペレーションズ。その詳細について、前後編に分けてNISSHA株式会社の佐々木 毅尚氏に聞く連載の後編です。前編では基本的な概念から、達成指標となるCORE 8の詳細までを解説いただきました。

今回は、具体的な実践方法と、CORE 8でも重要項目として挙げられているテクノロジーとの関係について、詳しく伺っていきます。

<関連記事>
法務業務を進化させるリーガルオペレーションズとは?【前編】

リーガルオペレーションズはどのような法務組織のためのものか?

佐々木毅尚さんのインタビュー写真

― リーガルオペレーションズは現在、日本でどこまで浸透しているのでしょうか。

CORE 8を公表してまだ3年ほどなので、浸透はまだまだこれからというところですね。ただし、最近、リーガルオペレーションズという言葉が日本でも普通に使われているため、これから急速に浸透していくと思います

― やはりリーガルオペレーションズは大企業の大規模法務のためのものなのでしょうか?

いえ、そうでもありません。

CORE 8自体は、あらゆる規模、あらゆる業種の法務組織が指標として活用できるように設計されています。なぜなら、オペレーションの改善はあらゆる法務部門にとって必要なものだからです。

細かいことでいえば、契約書ひな形やプレイブック整備といったルーティンワークの効率化に関する項目もありますし、グローバル企業における国内外の法務部門間のレポーティングラインの構築といった、グローバル法務体制整備の度合いを測る項目もあります。リーガルオペレーションズを無視できる法務組織は存在しないでしょう。 

― それは、例えば一人法務であってもでしょうか。

そうです。

一人法務はどうしても業務が属人化します。ですから、例え法務担当者が変わっても法務サービスの品質を維持できるよう、業務基盤をしっかりと構築しておく必要があります。CORE 8はその基盤を構築するものですから、一人法務こそ取り入れることが重要だと思います。

リーガルオペレーションズの実践

佐々木毅尚さんのインタビュー写真

― リーガルオペレーションズの必要性や、あらゆる法務組織に必要だという点は理解できました。では、実際に実践しようとした場合、具体的に何から始めればよいのでしょうか。

まずはCORE 8の各項目を確認し、自社の法務部門のオペレーションが現在どのレベルにいるのか、アセスメントから始めるのがよいと思います。そこがスタートラインで、最もレベルが低い項目から改善を始めていく、という手順が良いですね。なお、レベル2に達成している項目は、概ね及第点と捉えていただいてかまいません。


CORE8の戦略項目の詳細図表CORE 8「戦略」の三つのレベル。各項目の詳細については、「日本版Legal Operations CORE 8 EVENT Report」で確認できる。
出典:
日本版リーガルオペレーションズ研究会(商事法務)


― アセスメントしていて、「これ、うちの組織に必要かな?」と迷うものがあった場合はどう考えればよいでしょうか。

例えば国内展開しかしていない企業がグローバル対応に関する項目を達成できない、一人法務が人材の条件を満たせない、など物理的に達成不可能な項目がある場合は、アセスメント対象から除外してかまいません。しかしそれ以外の項目に関しては、「うちでは重視しなくてもよいかも」などと考えず、しっかり評価しておいたほうが良いでしょう。CORE 8はさまざまな法務組織の状態を想定し、網羅的に設計されているためです。

なお、今は自組織に無縁な項目だとしても、今後の企業成長によっては関係が出てくる可能性もあるので、指標にあることを把握しておくことは大切だと思います。

― アセスメントしてみて、同じレベルのものが複数あった場合、取り組む優先順位はあるでしょうか。

まず「戦略」の構築は必須ですね。組織としての戦略がないということはマネジメントができない、全ての業務が場当たり的になってしまうということにつながるので。とはいえ、ほとんどの組織にすでに戦略に近いものはあって、単に言語化されていないだけだと思います。

― 「戦略」がぼやけている場合、どうすればよいのでしょうか。

どこにリスクがあるのかを見定めることです。日常業務の中で、法的なリスクがないかどうか、また法的リスクの程度を分析する。そして問題点を解決するために何が足りないのかを考える。例えば、契約審査のルールが社内になければ契約リスクが高く、契約審査体制の構築がプライオリティーの高い戦略になります。そうやってステップを分解していけば、自ずと採るべき戦略が見えてくると思います。

このように、常に業務の進め方や仕組みなどに問題点がないか目をむける姿勢は、全ての法務担当者に必要な素養だと思います。これがなければ、日々の業務をただ打ち返すだけとなり、法務担当者としても法務組織としても進歩がなくなってしまうからです。

― なるほど。ただそういった視点は、マネージャークラスの方であればともかく、メンバーの中には持ちづらい場合もあるのではないでしょうか。

そこはやはりマネージャーの意識的な行動が重要だと思います。明確な意識と指標を持って、組織全体を常にチェックしていく。ただ「頑張りましょう」ではなかなか難しいですね。

― そこで重要になってくるのが、CORE 8を指標としたアセスメントなのですね。

そうですね。こうした明確な指標があり、目標設定ができると、メンバーも目指すべき方向が明確になります。また、社内での法務組織の評価向上につながり、法務担当者のやりがいにもつながります。さらに、改善に取り組んだ人間に適切な評価ができるようにもなるでしょう。


法務組織のアセスメント結果の例の図表CORE 8に基づく組織パフォーマンスのアセスメントのイメージ


 適正な評価がされるようになるのであれば、リーガルオペレーションの実践は、メンバーにとっても明確なメリットとなりますね。

リーガルオペレーションズの実践は、法務部門に日常業務の効率化や品質向上をもたらし、大きなメリットを得ることができます。また、法務担当者としても、これから求められる法務人材として成長するために、リーガルオペレーションの実践に関わることは良い機会になるでしょう。

― ここまで伺った印象では、リーガルオペレーションズの実践は非常に有意義であると思うのですが、なぜ日本でこれまで普及してこなかったのでしょうか。

営業部門であれば売り上げ目標、製造部門であれば歩留まりなど、わかりやすい数値目標があります。しかし、これまでの法務は、長らくコストセンターと捉えられてきたせいか、そうしたものがなかった。また、法務担当者は職人気質で品質ばかりを追求してきた。そのため、法務業務をスコアリングして数値目標を追う文化が育たず、人事評価も定量ではなく、定性的なものになりがちだったのかもしれません。

― 確かに、事業部などでは目標設定とモニタリングはよく見られるものという印象ですが、法務組織でKPI (Key Performance Indicator=重要業績評価指標)を設定してモニタリングしていく、といったような話はあまり聞いたことがありません。どうしたらそういった文化が根付くのでしょうか。

事業部の会議に参加したり、メーカーであれば工場など製造の現場に顔を出したりするとよいでしょう。事業部の常に数字を追う文化は非常に参考になりますし、製造における生産性を高める取り組みは、他に比べるものがないほど洗練されています。

こうした「現場に顔を出す」姿勢は、創造的な法務機能を果たす上でも非常に重要です。

リーガルオペレーションズにおける他部門連携

佐々木毅尚さんのインタビュー写真

― リーガルオペレーションズが法務組織にとって非常に意義のあるものだと理解できたのですが、その実践には法務以外のステークホルダーも関わってくると思います。そうした法務以外の組織との連携については何を意識すれば良いでしょうか。

まずは予算の確保でしょうか。先ほど述べたとおり、従来の法務組織はコストセンターと見られがちで、経営層には長く「予算は抑えられれば抑えられるほど良い」と考えられていました。しかし、そのような思考では組織としての発展は見込めません。

CORE 8に基づくアセスメントで法務組織の貢献や目標到達度を見える化できれば、そうした経営層の認識を一新できる可能性があります。「この目標を達成するためには、これに投資する必要があります。そのための予算をいただきたい」と交渉材料にもできるでしょう。法務組織がより一層企業成長に貢献していくためにも、社内へのアピールは今後ますます必要になっていくと思います。

― 対経営層には見える化とアピールが重要ということが理解できました。他部門との連携についてはいかがでしょうか。例えば営業部門は契約審査などで関わりが深い一方で、法務部はリスクをコントロールするブレーキ役と見られている側面もあると思います。こうした関係が、リーガルオペレーションズの実践によって変化していくといったことはあるのでしょうか。

これまでは例えば契約審査や法律相談の場面では、「選択肢を提示するのが法務の役目」と考えられる向きがありましたが、法務部門の求められる役割が変わりつつある今日では、それだけでは不十分です。その選択肢の中からどれを選ぶか、事業部と一体となってリスクをとりにいく、「法的リスクは法務部門が事業部と一緒に判断し、取れるリスクは一緒に取っていく」という姿勢が重要なのです。

― リーガルオペレーションズの実践は大きな変革であり、場合によっては組織内で反発もあるかもしれません。そこを調整し、実践を成功させるためには何が必要でしょうか。

それはやはり、法務マネージャーがリーダーシップを発揮し、「やると決めたことはやる」と推進していく覚悟を決めることですね。まずは1/3程度のメンバーが賛同してくれれば、推進していけると思います。軌道に乗っていけば、徐々に賛同者は増えていくでしょうから。

― マネージャーのリーダーシップが大切なのですね。法務担当者の方が、リーダーシップを身につけていくコツはあるのでしょうか。

難しい問題ですね。正直、素養で決まってくる部分もあると思います。ですから、採用の段階で、リーダー的素質がある人材を、計画的に採っていくことが組織には必要ですね。当然、実務の処理能力に優れた人材も必要ですから、そのバランスをとっていくことも重要です。

リーガルオペレーションズとテクノロジー

佐々木毅尚さんのインタビュー写真

― CORE 8の中には、「テクノロジー活用」も含まれています。これは、リーガルオペレーションズの実践には、リーガルテックなどのテクノロジーの導入が大前提となっているということでしょうか。

そうですね。WordやEメールlなど、従来のツールだけで法務業務を処理していく、というのは、現実的に難しい段階にきています。きっかけとなったのはCOVID-19の流行です。リモートワークが広まり、電子契約が爆発的に普及しました。それを契機に、今ではAI契約書レビューやCLM(Contract Lifecycle Management=契約ライフサイクルマネジメント)などさまざまな業務支援ツールが普及してきています


CORE8のテクノロジー活用項目の詳細図表CORE 8の項目の一つ「テクノロジー活用」。戦略や人材と並ぶ重要項目として扱われている。
出典:
日本版リーガルオペレーションズ研究会(商事法務)


― リーガルテックが普及してきているということですが、活用は十分にされているのでしょうか? DXの波に乗って導入してみたものの、結局あまり使っていないというケースもあるように思います。

そうですね、そういうケースもあると思います。大切なのは、テクノロジーを導入する前に、まず自社のオペレーションの課題を洗い出すことです。現状の業務フローを精査し、無駄なフローや時間がかかるフローを発見し、テクノロジーで解決すべき課題を整理する。例えば、定型の契約書レビュー業務が多くて処理に時間がかかっているならAI契約書レビューシステムを取り入れ、契約書の管理ができていないのであれば、契約書管理システムを入れるといった具合です。

― 事前に課題を洗い出したとしても、不慣れな場合はツールの選定が難しいかもしれません。導入に失敗しないコツはあるのでしょうか。

CORE 8のレベル1にも記載がありますが、日常的にテクノロジーに関して情報収集しておくことが大切です。その上で、どうしても運用してみないとわからない部分は、トライアルを利用すべきでしょう。同じAI契約書レビューシステムでも、ベンダーによって指摘事項の傾向が異なります。また、契約書案件管理システムであれば、導入するツールに合わせて業務フローを最適化し、そして最低でも2年くらいは使ってみないとわからないですね。

― 最低でも2年ですか。やはり長期的な視点で導入を考えていかないといけないのですね。

それだけでなく、たとえ導入に失敗したとしても、一度くらいではあきらめてはいけません。引き続き他社のシステム導入を検討していく必要があります。多くのツールが日々改善され続けていますし、かつての不満点が解消されている可能性もあります。そういった意味でも、常にテクノロジーの情報をキャッチアップしていくことが大切です。

あとは、例えばAI契約書レビューシステムはある程度定型の契約審査の効率化には力を発揮しますが、大型M&Aなどの非定型契約に使うことはできません。あくまでも、日常業務を支援するツールであることを忘れないことです。

― つまりは適材適所ということですね。ここまでのお話では、特定の業務に特化したリーガルテックが中心でしたが、近年はCLMなど法務業務を包括的に支援するツールも増えてきています。そうした動きはリーガルオペレーションズの実践にどのような影響を及ぼすと考えられますか。

そもそも、法務に関連する会社全体の業務を管理しようというのがリーガルオペレーションズの基本的な考え方です。ですから、例えばCLMなど契約書に関連する業務全体を支援するツールが登場することは、現場のニーズに即した自然な流れであると思います。我々法務部門も部門の壁を越えて、そういった全社業務に影響を与えるツールの導入を指向していくでしょう。

― まさにリーガルテックとリーガルオペレーションズが一体になりつつあるのですね。反対に、まだリーガルテックがカバーしきれていない領域というのはあるのでしょうか。

契約審査に関しては、業務フロー全体を通してある程度対応できてきていると思います。一方で法律相談はこれからですね。過去の相談案件を蓄積し、ナレッジとして活用できるようにするためには、更なるテクノロジーの発展が必要なのではないでしょうか。あとは生成AI。法的な壁はありますが、ドラフティングや法律相談への回答の生成など、もっとテクノロジーを活用したい領域はまだ多いですね。

― 生成AIの法務業務への活用というと、現状は情報漏洩やハルシネーションなどリスクが大きい印象ですが。

もちろん注意は必要ですが、そこまで特別なリスクがあるとは考えていません。むしろアドバンテージのほうが大きいのではないかと思います。「AIに仕事を奪われる」という考え方もありますが、法務部門においては、必ず最終的な人間の判断が残ります。定型的な業務をAIに任せ、重要な意思決定に注力できるようになるというのは、法務サービスの質向上において非常に有益だと思いますね。 

― リスクより期待のほうが大きいということですね。リーガルテック分野に身を置く我々としては、ぜひともご期待に応えていきたいと思います。

大変貴重なお話をいただきました。本日はありがとうございました。

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