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【講演レポート】Core8を理解・実践し企業法務のオペレーションをより研ぎ澄ます

【講演レポート】Core8を理解・実践し企業法務のオペレーションをより研ぎ澄ます
この記事を読んでわかること
    • 米国でのLegal Operations指標を参考に、より日本の企業法務に合った形で作成したのがCore8
    • Core8のどれから始めるか迷う場合は、「戦略」「予算」「マネジメント」「人材」から始めると取り組みやすい
    • テクノロジーの活用は、過去に使えなかったものも数年で進化している可能性があるため、先入観をもたずに導入して使ってみることが重要
    • 人材のスキルセットで大事なのは、課題解決能力・好奇心・コミュニケーション能力の3つ
    • 予算確保においては、数字で示すこと、ストーリーでプレゼンすること、他部署との連携などの工夫が必要
    • Legal Operationsもテクノロジーもあくまで手段。法務部が何のためにあり何が目標かを意識し、実践を深めていってほしい
佐々木 毅尚氏(ささき・たけひさ)
登壇

佐々木 毅尚氏(ささき・たけひさ)

One Thought合同会社 代表社員

1991年明治安田生命入社。アジア航測、YKK、太陽誘電、LegalOn Technologies、SGホールディングス、NISSHA株式会社を経て、現職。法務、コンプライアンス、コーポレートガバナンス、リスクマネジメント等幅広い業務を経験。Legal Operations研究会のメンバーとしてCORE 8の策定にも参画した。著作に「リーガルオペレーション革命」(商事法務 2021)、「ザ・コントラクト: 新しい契約実務の提案」(共著 商事法務 2023)等多数。

明司 雅宏氏(あかし・まさひろ)
登壇

明司 雅宏氏(あかし・まさひろ)

サントリーホールディングス株式会社 執行役員コーポレートマネジメント本部長、法務部長、グローバルARS部長

1992年サントリー株式会社入社。酒類営業、財務部を経て、企業法務に従事。M&A、組織再編、コーポレートガバナンス、独占禁止法、個人情報保護、情報セキュリティー、リスクマネジメント、などを中心に幅広く法務業務に携わる。現在は、AIやデータ、知財と取引・契約やルールの新しい取り組みに関心をもって取り組んでいる。Legal Operations研究会の発起人であり、CORE 8の策定にも参画。

少德 彩子氏(しょうとく・あやこ)
登壇

少德 彩子氏(しょうとく・あやこ)

パナソニックホールディングス株式会社 取締役執行役員/グループGC (Group General Counsel)、グループCRO (Group Chief Risk Management Officer)、建設業・安全管理担当

1991年パナソニック株式会社入社。2021年にはパナソニック傘下のオートモーティブ社常務ゼネラル・カウンセル、CRO兼リーガルセンター所長を務めるなど、グループ全体の法務領域にて幅広く活躍する。2022年より取締役執行役員兼グループ・ゼネラル・カウンセルに就任。Legal Operations研究会のメンバーとしてCORE 8の策定にも参画。

株式会社LegalOn Technologiesは2024年12月16日、「経営×法務」をテーマとした大規模ハイブリッドイベント「LegalOn Conference 2024」を開催しました。

企業の社会貢献や法令遵守への意識が高まり、より法務機能の重要性が増す時代背景において、法務に求められる経営貢献性と機能とは?というコンセプトのもと開催された本イベント。白井俊之氏(株式会社ニトリホールディングス社長)、Antony Cook氏(Microsoft Corporation コーポレート バイスプレジデント兼副法務顧問)、菊地知彦氏(株式会社メルカリ執行役員CLO)などが登壇。会場は大いに盛り上がりを見せ、法務関係者向けイベントとして規模・内容ともに国内最大級の非常に充実したものとなりました。

本記事では、モデレーター佐々木毅尚氏(One Thought合同会社)および明司雅宏氏(サントリーホールディングス株式会社執行役員コーポレートマネジメント本部長、法務部長、グローバルARS部長)、少德彩子氏(パナソニックホールディングス株式会社取締役執行役員兼グループ・ゼネラル・カウンセル)両氏登壇による、「Legal Operationsが変える企業法務の未来 ~Core8の実践によるオペレーションの進化~」をテーマとしたセッションの模様をレポートします。

※ 本文中では敬称略で表記しております。

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佐々木氏のセッションの様子を写した写真

佐々木 本セッションでは、「Legal Operationsが変える企業法務の未来 ~Core8の実践によるオペレーションの進化~」と題し、3名でディスカッションをおこないます。モデレーターは私、佐々木が務めさせていただきます。では、明司さん、少德さん、自己紹介をお願いいたします。 

明司 サントリーホールディングス株式会社 グループガバナンス本部副本部長(※ 所属はイベント当時)の明司です。グループガバナンス本部には、法務部・リスクマネジメント・商標・コンプライアンス・企画に加え、アルコール問題に取り組む部署が入っております。ホールディングス本部に約70名、法務部だけですと約20名が所属しており、グローバルを含めると全体で約200名のチームになっております。 

少德 パナソニックホールディングス株式会社 取締役執行役員兼グループ・ゼネラル・カウンセルの少德です。弊社法務部門は全世界で700名が在籍しており、日本国内に約390名、海外6地域に合計約310名が所属し、海外の各地域にCLO、グループ・ゼネラル・カウンセル及び法務部門を設置しています。

佐々木 では、最初は「日本におけるLegal Operations」というテーマで進めていきたいと思います。Legal Operationsに関しては、米国でACCが発表したMaturity Modelや、CLOCが発表したCore12が世界的にメジャーな指標となっています。それを踏まえて、我々も2020年にLegal Operations研究会を立ち上げ、日本版Legal Operationsの指標となるCore8を作りました。

2020年当時はまだLegal Operationsという言葉自体がメジャーではなかったと思いますが、昨年頃から広がってきている実感があります。今、Legal Operationsが注目されている理由について、お二人はどうお考えでしょうか?

明司 これまで日本の企業法務というのは、有資格者でなくても配属され、入社以来ずっと同じ会社の同じ法務部で仕事をするという、いわば職人芸的な運営体制が多かったと思います。ところが、そうした法務部を作った人たちがリタイアメントし始める年齢になり、中途採用などでロースクール出身の方や有資格者の方を採用することも増え、法務部の運営体制自体に変化が必要になってきた。その時期と、コロナ禍の下、Legal Operationsやリーガルテックが話題になり始めた時期が重なり、注目されてきたのではないか、と考えています。

少德 現在は、法務の仕事がどんどん高度化・複雑化する一方で、専門人材の確保・採用は難しくなっている状況です。それを解決する糸口となる新しいフレームワークとして、Legal Operationsが注目を集めているのだと思います。 

まず戦略に取り組み、次に予算・マネジメント・人材を整える

セッションの様子を写した写真

佐々木 日本版Legal Operationsの指標となるCore8には、「戦略」「予算」「マネジメント」「人材」「業務フロー」「ナレッジマネジメント」「外部リソースの活用」「テクノロジーの活用」の8要素があります。どれから取り組んだらよいか、ご意見を伺えますでしょうか。

明司 「戦略」の要素が何より大事だと思います。先ほど、今までの日本の企業法務は職人芸的な運営体制に寄っていたのではないかと話しましたが、その体制下では、個々人のスキルさえ伸ばせれば組織として成果を出すことができたため、法務組織自体の戦略がないことが多かったのではないでしょうか。しかし、オペレーションの枠組みを作る上では戦略が最も大事になりますので、まずここから取り組んでいただきたいと思います。 

少德 明司さんのおっしゃった「戦略」に加え、「予算」「マネジメント」「人材」から取り組むのが良いのではないでしょうか。弊社法務部はこの4要素を共通基盤とし、その上に残り4要素を個別タスクとして置く形でオペレーションを進めています。

少德氏のスライド。パナソニックホールディングス法務部が考える8つのコア少德氏のスライド。パナソニックHD株式会社法務部では、Core8の8要素を4要素の共通基盤と4要素の個別タスクに分けて実践している。

  

佐々木 なるほど、ありがとうございます。続いて、Legal Operations研究会ではどのような考えの下、Core8を作られたのかを教えていただけますでしょうか?

明司 米国のACCやCLOCが提唱する指針をそのまま直輸入しても、どうしても日本の企業法務に合わない部分が出てきます。米国の法務は弁護士中心ですが、日本の法務部門では全員有資格者ということはありませんし、テクノロジーの導入程度もかなり違います。より日本の企業法務に合うことと、その上でグローバルの法務と照らし合わせてもミニマムな共通項をしっかり押さえられていることを意識して作成しました。

少德 明司さんの仰られた点に加え、日本企業において法務機能が置かれているポジションというものが、米国と比べ違う点も留意しました。また、「日本版をせっかく作るのであれば、日本企業の法務担当者がピンとくるものでなければならない」ということが強く議論され、8つに絞り込まれたという経緯も記憶しています。弊社においても、「まずはこの8つ。必要になれば増やせば良い」というミニマムの項目として運用しております。

佐々木 Core8が2022年に固まった後、実際にLegal Operationsを自社法務部門に導入されてみて、変化を感じる部分について教えていただけますでしょうか?

明司 成果や評価の捉え方が変わったと思います。企業法務の担当者の成果や評価は、その時々でM&Aや訴訟など、いわゆる派手な案件を担当したかどうかに左右されがちです。しかしそれは運やタイミングの要素もありますし、育児や介護などのライフイベントによって、そうした案件に長期で関わりにくいメンバーもいます。

Legal Operationsの枠組みを設定したことで、そうした派手な仕事以外の仕事も、しっかりと評価されるようになりました。ナレッジマネジメントやリーガルテックのベンダーの方とのMTGなどもM&Aなどと同じくらい重要な仕事だと理解され、正しく評価されるようになったと思います。

少德 弊社法務部は人と組織という2つの切り口で目指すべきゴールを考えてきたのですが、Legal Operationsを導入したことによって、人と組織だけでなく、オペレーションにも目が向くようになったと思います。

実際、「Legal Operationsを全法務部門の物差しにします」と発信したことで、ホールディングス傘下の事業会社でも、法務のオペレーション化に取り組み始めてくれるという波及効果がありましたね。

テクノロジー活用はとにかくトライアルすることが大切

セッションの様子を写した写真

佐々木 続いて、Core8の中から重要トピックを順に伺います。まず、「テクノロジーの活用」について、どのようなお考えで進められているか教えていただけますでしょうか? 

明司 国内で提供されているリーガルテックにおいて、正直なところ日本はまだまだな部分があると思います。そのため、グローバルで統一したテクノロジーを導入しようとしても、日本だけが違う仕様のものを入れざるを得ないというもどかしい状況があるのです。

そうした状況はあるものの、テクノロジーに関しては「とりあえず使ってみる、導入してトライアルする」という姿勢が大事だと思います。過去に使ってみてダメだった技術でも、1~2年後にはすごく良いものに進化していることも珍しくありません。ですから、さわらずに批評したりダメだと決めつけたりせず、ベンダーから提案があれば、一度話だけでも聞いてみてほしいですね。 

佐々木 試してみようというのは大事ですよね。非常に重要な示唆だと思います。後は、特にグローバル企業においては、例え国内と海外で統一したリーガルテックを導入することが難しくても、将来的にはどのようにグローバル展開していくか、というところを見据えながらテクノロジーと向き合うことも重要だと思います。

続いて「人材」についてお聞きします。昨今、人材の確保が非常に難しくなってきている状況ですが、人材獲得の面で工夫されていることはございますか?

明司 昨今の法務人材不足の中にあっても、報酬体系や人事のシステム自体を抜本的に変えるということは日本企業では難しいため、働きやすさや教育面で強みを打ち出す必要があります。例えば、ナレッジマネジメント教育が体系化されていて、キャリアプランやトレーニングのプログラムがしっかりと説明できると、採用において効果的ではないでしょうか。

少德 人海戦術が通用しない時代になり、効率化・アウトソーシングも推進しておりますが、それでもやはり法務組織は「人」だなと。そこから逃げてはいけないと考えます。弊社では、ハイポテンシャル人材には従来と別の人事制度を適用する、ハイポテンシャル人材以外にも成長を実感できるよう、海外業務の機会を提供するなどの施策を行なっています。

佐々木 人材に対するテクノロジーのスキルセットについては、どうお考えでしょうか?

少德 必要なスキルセットには3つあると考えます。1つめは、目標を描き、課題を発見し、解決方法を考える課題発見解決能力。AIは問題を発見してくれませんから。2つめは、テクノロジーの進化に継続的な興味をもち続ける好奇心。そして3つめは、AIを含めたテクノロジーに適切なプロンプトなどを入力するための対テックのコミュニケーションと、テクノロジーから出力されたものを外部の人に正確に伝える対人コミュニケーションの両面を意識したコミュニケーション能力です。この3点が非常に重要だと思います。

セッションの様子を写した写真

予算確保で重要なのは数字とストーリーを示していくこと

セッションの様子を写した写真

佐々木 次に「予算」の要素について伺います。リーガルテック導入にあたり、多くの企業が悩むのが予算の問題だと思います。予算確保で工夫されていることはございますか?

明司 1つは、「このテクノロジーを入れると、何時間・何工数が削減できる」と数字で示すことです。もちろん事前に正確な把握は難しいので、概算でも勇気をもって出してしまうことが重要ですね。法務組織はどうしてもコストセンターと思われがちなため、費用対効果を数字で示すことは重要です。

もう1つは、ストーリーを含めたトータルプレゼンテーションです。単に「このテックで効率化できます」では「これを入れたら何人減らせるのか」という話になり、本末転倒になってしまいます。ですから、「このテックを入れて効率化すれば、その分法務メンバーがより高度な仕事ができる。それにより経営にこれだけ貢献できる」という戦略的なストーリーをもってプレゼンテーションをすることが大事だと思います。

少德 加えて、他部署などとの連携で導入を進めることも大切だと思います。全社的なDX化や他部署と共同で進めれば、法務部門単独ではコストをもてなくても、導入が実現する可能性があります。

それから私は、CEOに「法務部門にではDX化がすごく重要で、効果が期待される」ということを耳打ちし続けています。CEOからすると法務部門はDX化の優先度が高くないので、言えば言うほど「なるほど、法務部門でも必要なのか」とサポートしてもらえる可能性が上がります。

佐々木 なるほど、耳打ち戦略は良いですね。「テクノロジーの活用」「人材」「予算」以外に、Core8の中で注目されている要素があれば、お伺いできますでしょうか。

明司 「ナレッジマネジメント」でしょうか。ルール化や案件管理が苦手で、ナレッジが蓄積されないという法務部も少なくないと思います。個人の暗黙知だったナレッジをテクノロジーの活用で整理・蓄積・検索できるようにし、それを元に効率化や教育の仕組みを作る。そして今度は、勉強会や1on1などを使ってその仕組みを個人の暗黙知に還元する。このプロセスを回していくことが必要だと思います。こうしたナレッジ活用と人材成長のストーリーが描けると、先ほど申し上げた「予算」の話においても良いのかなと思います。

佐々木 ナレッジマネジメントは法務において永遠の課題ですよね。私も20年以上取り組んでいます。この課題解決には、リーガルテックに期待したいところです。

少德 私は個別タスクである「業務フロー」も重要であると考えています。先ほど弊社ではアウトソーシングを推進していると申し上げましたが、外部リソースも、リーガルテックも、業務フローの標準化ができないと活用できません。直面している人材確保という課題の解決のためにも、この項目は非常に重要です。

法務が何のためにあり、目的は何かを理解することから始めてほしい

佐々木 最後に、お二人から参加者・視聴者の皆様にメッセージをお願いできますでしょうか。

明司 テクノロジーはあくまでも手段で、何をしたいかが一番大事だということを忘れずにいてほしいです。Core8にはテクノロジーの活用やナレッジマネジメントなどが出てきますが、何のために会社や法務部があり、自分たちの仕事が何の実現につながっているのかを理解することが最も大切です。Legal Operationsの議論も、そうした原点から始めることこそ重要だと私は考えます。

少德 Legal Operationsは手段であり、目的ではありません。形式だけ導入するのではなく、このフレームワークを使って、どう法務部門の人材・組織・オペレーションを研ぎ澄ましていくか、どうビジョン・ミッションを実現していくかが重要です。

テクノロジーの進化やデータの蓄積によって、今後は例えば、リソースアロケーションやマネジメントに対する法務貢献度の見える化なども可能になっていくと思います。そうした活用こそがLegal Operationsの狙いであり、それが法務部門の競争力強化にも繋がっていくのではないでしょうか。

 

佐々木 お二人とも、本日は貴重なお話をありがとうございました!

セッションの様子を写した写真

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