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【講演レポート:自民党塩崎氏】日本政府のAI政策と、社会実装推進のために必要な官民協力

【講演レポート:自民党塩崎氏】日本政府のAI政策と、社会実装推進のために必要な官民協力
この記事を読んでわかること
    • 自民党は省庁横断のAIプロジェクトチームを立ち上げ、OpenAIのサム・アルトマンを招聘するなど、政府でAI活用を推進してきた
    • 日本のAI規制については、ハードロー的なヨーロッパとソフトロー的なアメリカの中間的な規制で官民が協力して進めていく方向で、プロジェクトチームは提案をしている
    • 今後AIの社会実装が進んでいけば、地方の中小企業の経営者が最も恩恵を受ける可能性がある
    • 社会実装がスムーズに進むには、経営者が人任せにせず「自分でさわってみる」という姿勢でAIにふれることが重要
    • 2~3年先にAIがどれだけ発展しているか分からない状況だからこそ、長期的な計画より柔軟かつ迅速な経営戦略が今後は重要になってくる


塩崎 彰久氏(しおざき・あきひさ)
登壇

塩崎 彰久氏(しおざき・あきひさ)

衆議院議員 自民党 副幹事長・デジタル社会推進本部事務局次長

東京大学法学部卒。長嶋・大野・常松法律事務所にて弁護士を務め、2021年の衆議院選挙(愛媛1区)にて初当選。これまでに厚生労働大臣政務官、首相官邸官房長官秘書官、自民党金融調査会事務局次長、自民党司法制度調査会事務局次長、自民党改革実行本部事務局長などを歴任。

株式会社LegalOn Technologiesは2024年12月16日、「経営×法務」をテーマとした大規模ハイブリッドイベント「LegalOn Conference 2024」を開催しました。

企業の社会貢献や法令順守への意識が高まり、より法務機能の重要性が増す時代背景において、法務に求められる経営貢献性と機能とは?というコンセプトのもと開催された本イベント。白井俊之氏(株式会社ニトリホールディングス社長)、Antony Cook氏(Microsoft Corporation コーポレート バイスプレジデント兼副法務顧問)、菊地知彦氏(株式会社メルカリ執行役員CLO)などが登壇。会場は大いに盛り上がりを見せ、法務関係者向けイベントとして規模・内容ともに国内最大級の非常に充実したものとなりました。本記事では、塩崎彰久氏(衆議院議員、自民党副幹事長・デジタル社会推進本部事務局次長)が登壇された、「AIが支える次世代社会:日本の政策と官民協力による未来への道筋」をテーマにした講演の模様をレポートします。モデレーターはLegalOn Technologies執行役員、奥村友宏です。

※ 本文中では敬称略で表記しております。

法務のためのAIテクノロジーを結集させた次世代のリーガルテック【AI法務プラットフォーム LegalOn Cloud】

LegalOn Cloudは、これまでのリーガルテックとは異なる、企業法務のための全く新しいAIテクノロジープラットフォームです。自社に必要な法務体制を、同一基盤上に構築することが可能で、その拡張性・カスタマイズ性の高さにより、あらゆる企業、あらゆる法務組織に最適化が可能。法務DXを成功させたい方は、ぜひ以下より資料をダウンロードし、詳細をご確認ください。

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省庁横断で進めるべくAIプロジェクトチームを立ち上げ

塩崎氏のセッション登壇シーンの写真

奥村 本日は「AIが支える次世代社会:日本の制作と官民協力による未来への道筋」と題し、政府でAIの議論をリードされている塩崎先生にお話を伺います。まず、塩崎先生より簡単なご経歴と、政府・自民党でのお立場についてお話しいただけますでしょうか。

塩崎 私は元々弁護士で、奥村さんとは同じ事務所で働かせていただいておりました。その後政界に入り、現在は自民党の副幹事長と、科学技術イノベーション推進調査会の事務局長を務めております。2022年に自民党デジタル社会推進本部のAIプロジェクトチームを立ち上げた際にも初代事務局長を務めさせていただき、自民党のAI政策を進めてまいりました。

奥村 では、最初のテーマ「AIとテクノロジーを支える政策的取り組み」から伺います。まず、自民党のAIの進化と実装に関するプロジェクトチームがどういった目的で立ち上げられたかについて、お伺いさせてください。

塩崎 過去にブロックチェーンやWeb3.0(web3)が出てきたときがそうだったのですが、以前は政府や自民党の中に、新しいテクノロジーに対して検討する場があまりなかったのです。そこで、自民党内でweb3プロジェクトチーム(web3PT)を立ち上げ、弁護士の方たちにもワーキンググループに入っていただいて一緒に政策作りをした流れがありました。

2022年11月に生成AIがOpenAIからリリースされた際にも、「これは大きく社会が変わる可能性がある。政策サイドもこの問題に対応できるよう、省庁横断の枠組みが必要ではないか」ということで、web3PTの経験をもとに、自民党内でAIの進化と実装に関するプロジェクトチームを立ち上げさせていただきました。

OpenAIのサム・アルトマン氏を招聘し政府のAI推進をアピール

塩崎氏のセッション登壇シーンの写真

奥村 プロジェクトチームには、テクノロジー関連の第一線でご活躍されているさまざまな方々が参加されている印象があります。どのような軸で人選されているのでしょうか?

塩崎 まず、国会議員だけではなかなか議論が進まず、実際に手を動かす人がいないという課題がありました。そこで、実働チームとして気鋭の弁護士の先生方に入っていたのです。

その他、さまざまな一線級の方に入っていただいていますが、軸としては、政策的な課題を理解して提言したい政策がある、そうした問題意識をおもちの方ですね。そんな企業の方々に会議に参加いただいています。その流れで、2023年4月にはOpenAIのサム・アルトマン氏に来日していただきもしました。

奥村 サム・アルトマン氏の来日は、我々AIを作っている企業として非常に興奮するニュースでした。メディアでも大きく取り上げられていましたね。

塩崎 彼には2023年4月に来日いただきましたが、当時はまだ、現在のAI推進派筆頭であるイーロン・マスク氏が「AIは人類を滅ぼす可能性があるから、研究開発をやめにしよう」と署名活動をおこなうなど、「AI、是か非か」の大論争時代だったのです。このことからも、わずか1年半で大きく時代が変わったことがわかります。

そこでどちらに舵を切るのかは政治の判断でしたので、「日本はAI推進の方向でいく」という政治的意思を示すために、そのタイミングでサム・アルトマン氏に来日いただき、日本向けに7つの提案を出してもらったのです(参考:サム・アルトマン氏による7つの提案)。これは日本政府として、AIビジネス業界の皆さんに「時代が変わる」とメッセージを伝えるという意味で、うまくいったのではないかと思います。 

日本に合うのはアメリカとヨーロッパの中間的な規制

モデレーター奥村さんのセッション登壇シーンの写真

奥村 AI規制に関する議論もありますが、規制については今後政府としてどういった方向で動いていくのでしょうか?

塩崎 AI規制に関しては、「危険なテクノロジーだから規制を強めるべき」という考えと、「イノベーションを促進するものだからできるだけ規制をなくすべき」という考えが存在し、世界各国で議論が起こっています。そこで、さきほど話したワーキンググループの弁護士チームや学者の方々と協力し、「責任あるAI推進基本法(仮)」という法律の骨子を作りました。

骨子の中身は、ヨーロッパほど厳しくなく、アメリカよりは執行実効性をもたせたバランスになっています。基本方針は「企業が強力なAIを開発する際には、仕様やデータ、リスクに関してしっかり政府への開示を求める」といった内容です。

コンプライ・オア・エクスプレイン(原則を順守するか、しない場合はその理由を説明する)を軸に置いており、それがリスク回避とイノベーション推進のバランスが一番良いのではないかと考え、提案させていただきました。現在、2025年の通常国会に提出予定で動いています。

奥村 アメリカとヨーロッパの中間のような規制とのことですが、そのような規制とした背景について教えてください。 

塩崎 ヨーロッパは、危険なAIのユースケースについては事前に禁止するか、一定の要件をかける形です。一方アメリカは、企業のボランタリー・コミットメント(自主的関与)を軸に、ソフトロー的なアプローチで規制をおこなう形です。

日本がヨーロッパのように事前規制をおこなうと、おそらく役所の性質から「あれはダメ、これもダメ」とあらゆる承認が必要になり、イノベーションの推進が阻害される可能性があります。一方でアメリカのようにボランタリー・コミットメントにしてしまうと、日本に本社がない企業などに対して、リスクがある場合の牽制が難しくなります。そのため、中間をとって、企業にしっかりと開示の義務を負っていただいた上で協力いただく形が日本としては良いのではないか、と考えました。

AIに関しては、「何がリスクかよく分からない」ということが最大のリスクになります。ですから、新しいテクノロジーに関しては最低限の情報開示をしてもらうことが、今後の1つの規制モデルだと考えます。ただ、開示の範囲を法律で定めてしまうと硬直的になってしまうため、我々としては民間との共同規制型を提案しています。開示について「What」は政府が決め、「How」は民間で決めるような形なら、柔軟に現実の技術進歩に対応できるのではないでしょうか。

「とにかく自分でAIをさわってみる」姿勢をもってほしい

塩崎氏のセッション登壇シーンの写真

奥村 続いて、「社会基盤としてのAI:活用の議題と展望」というテーマで、テクノロジーによる社会の変化についてお話を伺います。現在の日本におけるAIの社会実装の進み方について、塩崎先生はどういった所感をおもちでしょうか?

塩崎 今日この会場に集まられている方は特にそうだと思いますが、この1年で、企業の中でさまざまな形でAIを活用することが当たり前になってきた実感はありますね。ただ、東京ではそうなってきていますが、地方にはまだまだ浸透していないと思います。

しかし私としては、AIテクノロジーの恩恵を一番受けるのは、実は地方の中小企業の社長さんたちではないか、と考えているんです。例えば、地方の従業員20名程度の中小企業などは、新商品を作ろうと思っても、社員たちから積極的なアイディアが出ず、結局は社長が自分で決めてしまって周りもそれに賛同するだけで終わってしまうケースが多いと思います。相談や壁打ちができる相手がほとんどいないわけです。

もしそういう企業がLLMや生成AIを導入すれば、壁打ち、ブレインストーミング、問題点の指摘、相談相手などをAIにしてもらえるわけで、エグゼクティブを1人雇うくらいの効果が期待できます。生産性向上という面で最もAIによるアップサイドが大きいのは、そういった地方の中小企業ではないでしょうか。

奥村 なるほど。東京だけでなく地方でも実装が進んでいくには、どのような課題があると思われますか?

塩崎 経営者の方にテクノロジーを使う意思がどこまであるか、それに尽きると思います。新しいテクノロジーは、まず自分でさわってみないと手触りが分かりません。使ってみて、「CMで見るような生成動画を作るには、何万回も回してみないといけないのか」など、感覚で理解していかないと、使いこなすことができないのではないでしょうか。トップが自分で使うマインドをもたずに、部下に「使ってみるように」と言っている企業は、どんどん取り残されていくと思います。

さらに言えば、2025年にはAIエージェントがリリースされます。これは、さまざまなアプリケーションをAIが選択的に使っていくことができるプログラムで、AIの汎用性がさらに高まっていきます。例えば、製品のリーガルリスクを調べる場合でも、AIエージェントを使えば、法律や類似商品の検索から過去の判例データベース照会、問題点の洗い出し、さらにそれらをまとめたレポート作成まで1つのAIモデルでできてしまう。このように、どんどんAIの使い勝手が良くなっていく時代が来ますので、自分でさわって体験して、実装していくことがより重要になっていきます。

現在のAI製品はUIが非常に使いやすくなっていますので、とにかくさわってみることが大事です。まず使ってみて、分からなかったら聞くという姿勢をもってほしいですね。

2~3年単位の変化に対応できる柔軟かつ迅速な経営戦略がカギになる

塩崎氏のセッション登壇シーンの写真

奥村 「政府と民間企業の協力体制」というテーマでお伺いします。イノベーションという視点では、例えばスタートアップ、産学連携などのお話がよく出てきますが、そういったところへの政府の支援に関して、お考えの部分はございますか?

塩崎 環境整備は政府の仕事ですので、規制やインフラの面でスタートアップが大変であればサポートしてまいりたいと。しかし、ビジネスモデルを考えたり、収益化したりという面は、スタートアップ企業自身に努力いただかないといけません。やはり最後はビジネスアイディアが重要になるので、そこについては経営者の方々に奮起いただきたいですね。

こういう規制を直してほしい、こんなボトルネックがある、ということを相談いただければ、環境は全力で整えます。そこに関しては、「これをやりたい!」「この規制を変えてほしい」というアイディアや要望をぶつけるなど、上手く政府を使ってほしいですね。

奥村 最後に、AIの社会実装を進めていらっしゃる企業の皆さんへ、メッセージをいただけますでしょうか。

塩崎 AIに限らずテクノロジーについて、「2040年、2050年にはどうなるんですか?」とよく聞かれるのですが、正直我々も分かりません。今これだけAIが進化して使われるようになることも、2~3年前ですら誰も予想していなかったわけですから。

そうなると、10年後の未来をイメージしてビジネスモデルを考えるという発想自体を改めなくてはいけないのかもしれません。今後さらにテクノロジーの進歩が速くなり、変化が予測不能なものになっていくのだとすれば、10~20年後の事業計画を考えるというマインドセットではなく、1~3年でどんどんルールが変わっていく中で、いかに迅速に自分たちの立ち位置と戦略を変えていくかが大切になってきます。皆さんにはそんな柔軟な経営戦略を立てる体制を考えていただきたいと思います。

奥村 塩崎先生、本日はありがとうございました!

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