OFAC規制の概要
OFAC規制とは、米国財務省外国資産管理室(OFAC)が執行する経済制裁の枠組みを指します。米国の外交政策、ならびに国家安全保障上の目的から実施されます。
OFAC規制の目的と背景
OFAC規制は、テロリズムや麻薬取引、人権侵害、国際犯罪などに関連する国家、地域、組織、個人などとの金融取引や貿易を制限または禁止することで、米国の国家安全保障や外交政策を推進することを目的とした規制および制裁のことです。
OFAC規制の背景にある法的根拠は、1977年に制定された国際緊急事態経済権限法(International Emergency Economic Powers Act)です。この法律により、大統領が「特別かつ異常な脅威」があると判断する場合、取引禁止や資産凍結といった措置を命じることができます。
影響の範囲(一次制裁と二次制裁)
OFAC規制は「一次制裁」「二次制裁」の2つのカテゴリーに分類され、それぞれで影響の範囲が異なります。
一次制裁とは
「一次制裁」は、基本的に「米国の管轄権が及ぶ(Nexus to US jurisdiction)」取引に対する規制です。適用となる範囲は、「米国人または、米国産品が関与し、あるいは米国内で実施される取引」とされています。
なおここでの米国人とは、米国市民・米国永住権保有者・米国法または米国内の司法権の下で組織された企業(外国支店を含む)、さらに米国内に存在するあらゆる人であり、非常に包括的である点が特徴です。非米国人であっても、取引に米国人を関与させる場合には、米国人の関与とされて一次制裁の対象となり得ます。
例えば、日本企業がOFAC規制の制裁国とされる企業に対し、米ドル建てで決済した場合、米国金融機関が決済に介在するのが基本のため、規制対象としてみなされる点に注意が必要です。
二次制裁とは
「二次制裁」は、「米国の管轄権が及ばない非米国人」と、制裁対象者との取引を規制します。つまり、米国との接点を有しておらず、非米国人と制裁対象者との直接または間接の取引であっても、制裁対象となるということです。
二次制裁では、OFACの制裁リストへの追加、米国企業との取引禁止等の制裁等を受けることになります。このことにより、米国の管轄権が及ばない非米国人出会っても間接的に不利益を被ることになり、事実上抑止力として機能することになります。
日本企業への影響
OFAC規制への対応として、海外取引における金融機関を利用しての送金時には、取引の当事者や関連地域に制裁対象国の関係者が含まれていないか厳格に確認する必要があります。
これは、日本企業の米国子会社だけでなく、日本企業にも適用される場合がある(域外適用)ものです。企業として、前述の一次制裁並びに二次制裁の制裁対象とならないよう、チェック体制を整備しておくことが重要です。
非米国人への制裁の事例
実際に、オーストラリアの貨物輸送物流企業・Toll Holdings Limitedの事例では、非米国人であっても米国経済制裁違反が成立しました(※)。ブロック対象との取引を、米国の金融機関を経由して行われたことが、規制の対象となったのです。
米国人が取引に介在する場合、日本企業自身についてもペナルティの対象となりうるため、コンプライアンス体制の整備が早急に求められます。
OFAC規制の具体的な対象を確認するには
OFAC規制の具体的な対象を確認する方法と、実際の対象について解説します。
対象を確認する方法(OFACの公式検索ツールの紹介)
OFAC規制は、制裁対象者を検索できるデータベース「Sanctions List Search」を公表しています。また、「Sanctions Programs and Country Information」でも、現段階で講じられている制裁について確認可能です。
「SDNリスト(Specially Designated Nationals and Blocked Persons List)」や「部門別制裁者リスト(Sectorial Sanctions Identifications List)」でも、制裁対象者を特定できます。
国や地域
OFAC規制の対象となっている主な国・地域は以下の通りです。
- ロシア
- ベネズエラ
- ベラルーシ
- レバノン
- イエメン
- ソマリア
- リビア
- キューバ
- イラン
- イラク
- 北朝鮮
- コンゴ民主共和国
- スーダン
- シリア
- ジンバブエ など
組織、人
OFAC規制の制裁対象となる組織や人には、国際犯罪組織やテロリストのほか、薬物取引者、大量破壊兵器の拡散に関連する団体・人が含まれます。
また、1 人以上のブロック対象者が支配権を行使している事業体も制裁対象となる、いわゆる「50%ルール」が存在することに注意してください。例えば、対象となっている組織の株を50%以上を所有する関連団体は制裁対象となる可能性があります。「SDNリスト」に掲載された組織だけでなく、その組織の実質的支配者まで把握する必要があります。50%以上の株を所有していた株主が法人の場合、その法人の株主まで調査が及ぶ場合があります。
対象となる活動
OFAC規制では、大量破壊兵器の拡散、薬物取引、テロ活動、国際犯罪などに関連する組織・人を取引相手とした、次の取引活動が対象とされます。
米ドル建て取引:制裁対象国や対象者が関与する米ドル建ての取引は制限されます。
間接的な取引:直接の取引相手が非制裁対象であっても、エンドユーザーが制裁対象者である場合は規制の対象です。
法務がとるべきコンプライアンス対応
OFAC規制に向けて法務部門が取るべきコンプライアンス対応は、次の6点です。
- 規制が適用されるリスクの検討
- 最新の法的情報の把握
- リスクベースアプローチ
- 関連会社、子会社その他ステークホルダーを巻き込んだ内部統制
- リスク評価のための適切なコンプライアンス・スクリーニング・プロトコル
- OFAC規制に関する研修の実施
規制が適用されるリスクの検討
法務部門は、各取引に制裁リスクがないか検討しなければなりません。取引の当事者だけでなく、関与する金融機関や決済に用いられる通貨など多角的に確認し、OFAC規制に適用とならないか慎重に判断してください。
最新の法的情報の把握
OFAC規制や関連する国際法、ならびに各国の経済制裁法などについて、常に最新情報を把握しておく必要があります。新たな制裁プログラムが導入された際や、規制対象等に変更が生じた場合には、早急に対応できる体制を整えてください。
リスクベースアプローチ
全取引を同じ熱量で調査することは困難なため、案件ごとにリスクの度合いを評価し、リスクが高いと想定される案件に対して調査頻度や深度などを集中させるアプローチが重要です。
OFACによって公開されている過去の規制事例のほか、米国商務省産業安全保障局が管轄する、いわゆる“Red flag”と呼ばれる輸出管理規則(EAR: Export Administration Regulations)などを参照し、自社の取引のリスク評価を行なってください。
関連会社、子会社その他ステークホルダーを巻き込んだ内部統制
法務部門は、関連会社や子会社のみならず、ステークホルダー全体を対象とした包括的な内部統制を行う必要があります。
統一的なコンプライアンスポリシーを策定するほか、監査や評価を定期的に実施し、コンプライアンス違反を報告しやすい環境づくりから始めることで、制裁対象者・地域との関連を徹底して検知できる体制を構築してください。
リスク評価のための適切なコンプライアンス・スクリーニング・プロトコル
取引先の情報とコンプライアンス・スクリーニング・プロトコルとを統合し、OFAC規制へのリスクがないか継続的にモニタリングする必要があります。
スクリーニングソフトウェアを使って、顧客情報のスクリーニングを自動化し、制裁リスクをできる限り低減させることも効果的です。
OFACに関する研修の実施
OFAC規制に関する対策を徹底するには、規制への理解を社内で促進させなければなりません。そのためには、実践的な研修、セミナーなどを定期的に実施する必要があります。OFAC規制に関する最新の動向や、リスクアセスメントの方法、具体的な対応手順などについて情報を共有し、OFACへの理解を組織全体で深めてください。リスクが高い取引を特定でき、早急に報告・対応できる体制を整えられると理想です。
コンプライアンス体制の構築のために、法務のDX推進を
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