電子契約における原本とは
電子契約における原本は、書面契約における紙の原本に相当するもので、契約の成立および内容を証明する上で重要な意味を持つものです。ここからは、そもそもの原本の定義や書面契約と電子契約の違い、電子契約の原本に求められる要件について詳しく解説します。
「原本」の定義
「原本」とは、ある文書や記録の内容を正式に表示するため、確定的なものとして最初に作成された文書を指します。内容の正しさや作成者の意図を最も直接的に示すものであり、複製や写しと比較して、より高い信頼性と法的証拠力を持ちます。契約書においては、その契約に関してそれ以降に発行される全ての書類作成の元となる文書です。
書面契約と電子契約の違い
従来の書面契約と電子契約について、それぞれの違いを見ていきます。
【書面契約】
- 媒体:印刷した紙
- 署名方法:記名押印、直筆による署名
- 締結日時の証明:書面上の日付の記入
- 受け渡し:原本の郵送、直接持参
- 保管方法:倉庫、キャビネット
【電子契約】
- 媒体:電子データ
- 署名方法: 電子署名
- 締結日時の証明: タイムスタンプ
- 受け渡し: インターネット経由
- 保管方法: 自社サーバー、外部のクラウドストレージ
書面契約と電子契約は、契約の締結と管理の方法などにおいて大きな違いがあります。書面契約では、紙媒体に契約内容を印刷し、当事者双方が署名または押印することで契約が成立します。物理的な原本が存在するため、その保管や管理には場所とコストが必要です。一方、電子契約では契約行為が電子データ上で行われ、署名や押印は電子署名やタイムスタンプといった技術によって代替されます。物理的な原本は存在せず、契約情報は電子データとしてサーバーやクラウド上に保管されます。
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電子契約における原本の要件
印影や筆跡が確認できない電子契約において、原本であることを証明するためには「電子署名」と「タイムスタンプ」の付与が必要です。「電子署名」によって契約者本人がサインしたことが証明でき、かつ「タイムスタンプ」によって契約の日時以降に改ざんされていないことが証明できるためです。そのため多くの電子契約サービスには、電子署名やタイムスタンプを発行して、原本となるデータを証明する機能が備えられています。
電子署名やタイムスタンプを元に原本であることを証明するには、ハッシュ値と呼ばれるデータを用います。原本を改変・改ざんしない限りハッシュ値が変わることは無く、証明が容易です。そのため「電子契約においては、書面契約のように原本と写しを厳密に区別することは、必ずしも必要ではない」とされる場合もあります。しかし、原本の保管は法律上も法務実務上も重要です。そこで次項では、電子契約における原本の保管について解説していきます。
電子契約の原本はどのように保管するのか
電子契約において、国税関係帳簿書類に該当する契約書のデータは、電子帳簿保存法(電帳法)の要件を満たして保管される必要があります。ここでは、電子帳簿保存法に則った原本の保存方法と保存場所を解説します。
保存方法
保存方法として、原則的に以下のルールを守ることが必要です。
改ざん防止措置を取ること(以下のいずれかの措置をとること)
- タイムスタンプが付与されているデータを受領する
- 受領したデータに速やかにタイムスタンプを付与する
- 訂正や削除の履歴が残るシステム、または訂正や削除を行うことができないシステムで授受・保存する
- 改ざん防止のために、事務処理規定を策定・運用・備え付けする
保存してある契約書のデータを確認するためにディスプレイやプリンターを設置すること
「日付・金額・取引先」の3要素で検索できるようにしておくこと(加えて次のいずれかの措置が必要)
- 日付か金額で範囲指定検索や2つの要素を組み合わせた検索ができるようにする
- 契約書のデータについて税務調査等でダウンロードの求めがあった場合に応じられるようにする
参考:電子帳簿保存法対応!令和6年1月以降の電子取引データの保存方法について(令和6年11月)|国税庁
保存場所
保存場所については、保存先のサーバーやクラウドストレージが自社内でなくとも問題ありません(参考:電子帳簿保存法一問一答 【電子取引関係】問24、13ページ|国税庁)。その代わり、納税地にある電子計算機とこれに備え付けられた操作説明書によって、ディスプレイや書面に契約書を表示できる状態にすることが求められます。また、表示は「整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができる」ことが条件です。
二 当該国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存をする場所に当該電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、当該電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるようにしておくこと。
引用:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則 第二条2項の二
電子契約の原本と謄本・正本・写しの区別
先述した通り、電子契約において原本とそのコピーを厳密に区別する必要性は低いとされています。理由としては、原本の要件となる電子証明やタイムスタンプにより、改ざんされていないことが容易に証明できるためです。しかし、それでも原本を必要とする場合が存在するため、ここでは原本と謄本・正本・写しの区別について解説していきます。
まず原本とその複製にあたる各書類の分類は以下のように図示できます。
契約書において、契約内容を表示するために確定的なものとして最初に作成されるのが「原本」です。
これに対して、原本と全く同一の内容や符号により、完全なコピーを行った文書を「謄本」といいます。電子契約サービスにおいて原本となるデータをクラウド上に保存している場合は、サービスからダウンロードしてきたデータがこの「謄本」に該当します。
「謄本」のうち、権限のある省庁や契約当事者により作成される、法令によって「原本」と同等の効力を認められる文書が「正本」です。なお、一般的な電子契約において、「正本」が作成されるケースは限られます。
こういった法的効力や、認証が認められない「謄本」を「写し」または単に「コピー」と言います。
電子契約の原本が必要となるシーン
電子契約の場合でも、法的手続きや税務調査などの場面で、原本データの提出、または原本と同等の証明力を持つ書面の提出を求められることがあります。ここでは電子契約の原本が必要となるシーンについて2つ解説していきます。
訴訟で提出を求められる
業務において法的なトラブルが生じ、契約の相手方などの関係者によって訴訟を起こされるケースがあります。その場合、裁判所から契約書の提出を求められることがあり、そこでは原本の提出が原則です。ただし、民事訴訟規則では原本だけでなく「正本」や「認証のある謄本」を提出することも認められています。(参考:民事訴訟規則 第百四十三条|最高裁判所)
必要に応じて原本のデータを印刷して提出することもありますが、その場合、その書面が「謄本」であることを証明するために、電子署名の検証結果やシステムログなども印刷して添付することが有効と考えられています。
税務調査で提出を求められる
税務調査は、企業の税務申告に対して税務署がその正確性や適法性を確認するために行う調査です。国税庁による税務調査が行われた際、税務申告の根拠となる契約書などの提出が求められることがあります。電子契約の場合、電子帳簿保存法の要件を満たして保存していれば、原則として電子データの提示をもって対応できます。一方、書面での提示を求められた場合は、原本データから印刷した書面(謄本または写し)を提出することになります。
まとめ:電子契約の原本の概要や保管方法を解説しました
電子契約における原本の取扱いは、書面と媒体や保管方法の面でさまざまな違いがあります。要件として「電子署名」と「タイムスタンプ」により、改ざんがないことを容易に確認できることが必要です。また、電子契約の原本は電子帳簿保存法に定められた保管方法に則る必要があります。電子契約の原本を正しく保管することで、必要となるケースにも対応できるようにしておくと万全です。
この記事では、電子契約における原本の概要や保管方法、謄本・正本・写しとの区別、原本を必要とするシーンについて解説してきました。本記事の内容が、企業の契約書管理の参考になれば幸いです。
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