電子契約におけるタイムスタンプとは?
タイムスタンプとは電子文書が特定の時刻に存在していたことを証明する技術のことです。さまざまな文書を電子データで作成・保管する場面で活用されており、電子契約書を作成する際にも活用されています。
電子文書は、紙の文書と比べて「改ざんしやすい」という特徴があります。電子文書の「内容」だけでなく、作成した「日時」を後から書き換えることも可能です。そのような電子文書のデメリットを解決するためにタイムスタンプが活用されます。
電子文書にタイムスタンプを付与することで、以下の2点を証明できます。
- 存在証明:タイムスタンプが付与された時刻にその文書が存在していたこと
- 非改ざん証明:タイムスタンプが付与された時刻以後、その文書が改ざんされていないこと
この2点がどのような仕組みで証明されるのかについては、当ページの「タイムスタンプの仕組み」で解説しています。
また電子契約においては、タイムスタンプだけでなく次に解説する「電子署名」も必要です。
タイムスタンプと電子署名との違い
電子署名とは紙の文書における署名・押印と同じ効果を電子データの文書に対して付与する技術です。
電子署名タイムスタンプと同様に電子文書の「非改ざん証明」の効果がありますが、さらにもう一つ「本人証明」もできる点が異なります。
「本人証明」とは、その文書が確実に文書の名義人=本人によって作成されたことを証明することをいいます。
電子署名と、タイムスタンプが組み合わされることで、以下の図のように「存在証明」「非改ざん証明」「本人証明」の3つが可能になります。
すなわち文書が本人により特定の日時に作成されて存在し、それ以降は改ざんが行われていないことの証明ができます。
タイムスタンプの仕組み
電子文書にタイムスタンプを付与することで、どのように「存在証明」と「非改ざん証明」ができるのでしょうか。その仕組みを確認しておきましょう。
タイムスタンプは以下の流れで電子文書に付与されます。
- 電子文書の作成時、時刻認証局に「ハッシュ値」を送り、タイムスタンプを要求する。
- 時刻認証局は、「ハッシュ値」に時刻情報を加え、タイムスタンプを発行する。
- 電子文書を検証する際は、「ハッシュ値」を再計算し、タイムスタンプに付与されたハッシュ値と一致するかどうかを照合する。
「ハッシュ値」とは、文書データを元に特殊なアルゴリズムによって計算されるデータのことです。仮に文書が改ざんされると、異なるハッシュ値が算出されることになります。電子文書を検証する際には、ハッシュ値を再計算し、それがタイムスタンプに付与されたハッシュ値と一致すれば、改ざんされていないことが確認できます。
「時刻認証局」とは時刻認証業務認定事業者(TSA)とも呼ばれるタイムスタンプ発行元のことです。詳しくは当ページの「時刻認証業務事業者に依頼する」をご参照ください。
電子契約にタイムスタンプが必要な理由
電子契約にタイムスタンプを付与する必要がある理由として、以下の3つが挙げられます。
- 電子契約書の完全性を証明するため
- 電子契約書を長期保存するため
- 電子帳簿保存法に対応するため
それぞれ詳しく見ていきましょう。
電子契約書の完全性を証明するため
電子契約書は、e-文書法による「電子保存の要件」を満たす必要があり、そのために必要な処理の一つがタイムスタンプです。
e-文書法では民間に書面の保存が義務付けられている場合に、電子書面で保存するための要件を定めています。電子保存の要件とは以下の4つです。
- 見読性:情報を即座に読み取ることが可能であること
- 完全性:改ざん・消失などの防止
- 機密性:第三者による不正アクセスや情報漏えい等の防止
- 検索性:大量の情報から必要な情報を効率的に選別できること
タイムスタンプは、このうち2つ目の「完全性」を満たすために必要です。
電子文書には、ハッキングや内部での改ざんなどにより保存している情報が滅失・棄損されるリスクがあります。タイムスタンプと電子署名を付与することにより、電子文書が作成された日時以降、改ざんや滅失・棄損がなかったことの証明ができます。電子署名と組み合わせることで、だれが作成したのかについても証明でき「完全性」の要件を満たすことができます。
電子契約書を長期保存するため
電子契約書を長期間保存するには「長期署名」が必要で、そのためにもタイムスタンプが必要です。
電子契約書に不可欠な電子署名は通常「5年」までしか有効性を保つことができません。電子署名で本人証明と非改ざん証明のために用いられる「電子証明書」には、法令の定めにより最大で5年の有効期限があるためです。(電子署名法施行規則6条4項)
電子契約書の保存期間は5年では足りないことがほとんどです。例えば、会社法では「事業に関する重要な資料」に該当する書類の保存期間は「10年」とされ契約書の多くがこれにあたります。
そこで電子署名の有効期間を長くするために「長期署名」と呼ばれる方法が用いられます。長期署名は、タイムスタンプによって電子署名の有効期限を延長する技術です。タイムスタンプによって長期署名が可能となり、電子契約書を長期間、有効性を保ったまま保存できます。
契約書の保存期間について詳しくは、下記ページでも解説しています。
<関連記事>
契約書の保管期間はいつまで?保管と破棄の方法について詳しく解説
電子帳簿保存法に対応するため
電子帳簿保存法に対応するためにもタイムスタンプが必要です。
電子帳簿保存法とは、税法上、保存期間が定められている帳簿や書類を一定の要件のもと電子データで保存することを可能にする法律です。電子契約書や、紙の契約書をPDF化したものは、電子帳簿保存法の要件に沿って保存する必要があります。その要件は以下の4つです。
- 真実性の確保:一定の規格のタイムスタンプや、訂正削除できないシステムの利用または事務処理規程が社内にあること
- 可視性の確保:納税地で画面やプリンターにて契約内容が確認できること
- 関係書類の備付け:取引データを保存したシステム・サービスの利用方法が分かるマニュアル・手順書などがあること
- 検索性の確保:主要な項目を範囲指定および組み合わせで検索可能なこと
タイムスタンプは「真実性」の要件を満たすために必要です。
電子契約にタイムスタンプを付与する方法
タイムスタンプを付与する主な方法には以下の2種類があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
- 時刻認証業務事業者に依頼する
- 電子契約システムを利用する
時刻認証業務事業者に依頼する
一つ目は「時刻認証業務事業者」(TSA)に依頼してタイムスタンプを付与してもらう方法です。
時刻認証業務事業者とは、認定タイムスタンプを付与できる業者のことで、「時刻認証局」とも呼ばれます。時刻認証業務事業者は「一般社団法人日本データ通信協会」の承認を経て登録されます。2023年2月時点で登録されている時刻認証業務事業者は以下の5社です。
- アマノ株式会社
- セイコーソリューションズ株式会社
- 株式会社TKC
- 株式会社サイバーリンクス
- 三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社
参照元:認定事業者一覧 | 認定事業者 | タイムビジネス認定センター
時刻認証業務認定事業者によるタイムスタンプを利用するには、専用のアプリケーションやソリューションを用いる必要があります。そのため、導入の初期費用やランニングコストが必要です。
ランニングコストの計算方法には、タイムスタンプを付与するたびに費用がかかる「従量制」や、毎月一定の費用がかかる「定額制」があります。
電子契約システムを利用する
タイムスタンプ機能のある「電子契約システム」を使う方法もあります。
電子契約システムとは、電子契約書の締結をインターネット経由で行えるシステムのことです。多くの電子契約システムでは、タイムスタンプや電子署名を付与する機能があります。
前述の時刻認証業務認定事業者ではない企業が提供する電子契約システムでも、タイムスタンプ自体は時刻認証業務認定事業者による「認定タイムスタンプ」を利用できるのが一般的です。
ただし電子契約システムの仕様はシステムごとに異なります。そこで電子契約システムを選ぶ際には、認定タイムスタンプが利用できるかチェックすることが重要です。電子契約システムについて詳しくは下記ページをご参照ください。
<関連記事>
電子契約のやり方を解説!電子契約システム導入から契約締結までの流れを解説
電子契約とタイムスタンプにまつわる注意点
電子契約とタイムスタンプの利用に関しては電子帳簿保存法や、証拠の確実な保全などの観点から注意点がいくつかあります。主な3つの注意点を見ていきましょう。
保管方法の要件も満たす必要がある
電子帳簿保存方法では、電子契約書の作成時の要件だけでなく「保管方法」の要件もあることに注意しましょう。
前述の通り電子帳簿保存法では「真実性」の要件があり、こちらは主に作成時に留意すべき要件です。これに対して「可視性」「検索性」については、主に保管方法によって要件を満たす必要があります。
「可視性」については、保存した電子契約書をディスプレイやプリンターで見える状態におくことが必要です。
「検索性」については、エクセルの管理台帳を作成する方法や、電子文書を管理できるクラウドシステムを導入する方法があります。検索性を確保して電子契約書を保存する方法について詳しくは、以下のページをご参照ください。
<関連記事>
契約書管理の方法・手順を徹底解説|管理ツールはエクセルと契約書管理システムのどちらが良い?
原本を破棄できるとは限らない
PDF化した契約書にタイムスタンプを付与しても、紙の原本を破棄できるとは限りません。契約書の種類によっては電子データのみでの保存が認められておらず、紙の原本を保存しておく必要があります。
また、破棄できる場合でも、すぐに破棄しないようにして、取引の証拠を確保することが賢明です。スキャン方法に不備があった場合などに備えて、一定期間は保存しておいた方がよいでしょう。
契約書のPDF化について詳しくは下記ページでも解説しています。
<関連記事>
契約書をPDFスキャンして保存する方法とは?スキャナ保存の要件を解説
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