映像制作契約書の書き方|記載が必要な12の項目
映像制作契約書を作成する際、記載する必要がある主な項目について解説します。
用語の定義
契約当事者(甲:発注者/乙:制作会社)や「本契約」「本映像」など、映像制作契約書で用いる基本用語について、冒頭で明確に定義します。これにより契約全体の解釈を統一でき、認識の齟齬を未然に防止することにつながります。
委託する業務の内容
企画から撮影、編集までなどの委託する制作範囲のほか、作品タイトル、テーマ、映像種別、収録時間など、業務内容に関する項目を具体的に記載します。なかでも業務範囲が曖昧な場合、後々トラブルの原因となりうるため注意が必要です。
記載内容が多くなる場合は、別紙仕様書を参照させる方法もおすすめします。
再委託の可否や条件
第三者の制作会社への再委託を禁止する場合にはその旨を、再委託も可能とする場合にはその旨を記載します。
再委託可とする場合、発注者の事前承諾を必須とすることが重要です。求めるクオリティに届かない、顧客情報などが漏えいする、進行管理が難しくなるなど、トラブルが発生するリスクを抑えられます。
また、再委託次の責任所在についてや、機密保持義務についてなども記載が必要です。
納期
納品日付に加えて、納品形式や検収期間は何日か、納品が遅延した際の対応についても記載します。
支払額と支払いの時期
納品物に対する支払総額やその内訳、支払スケジュール(着手金30%・中間金30%・検収後40%など)を明示します。
追加費用発生条件(撮影日の変更、修正対応)についてや、振込手数料の負担者の規定、支払いが遅れた際の遅延損害金の請求に関しても記載が必要です。
知的財産権の帰属
著作権は制作会社に帰属し発注者に使用許諾を与えるのか、あるいは著作権の譲渡がされるのかを記載します。もしも著作権が譲渡される場合には、著作権譲渡の範囲や条件、制作物の利用範囲、制作者による著作権人格権の不行使に関する記載も欠かせません。
映像の使用範囲や条件
使用媒体(Web/TV/イベント)のほか、使用期間、二次利用条件などについて明確にします。使用が想定される範囲について網羅的に記載することで、契約違反となることを防ぎます。
改変の可否
改変の可否についても記載し、著作者人格権における同一性保持権(著作者の意にそぐわない改変が無断で行われない権利)に反する改変を防止します。
著作権は譲渡できても著作者人格権は譲渡できないため、著作権譲渡の有無とは別に、作品の改変が可能か否かを明記しておくことが重要です。
原版の保管期限
原版の保管期間と保管終了後の取り扱い(破棄/返却)について記載します。保管期間の目安は3〜5年ほどですが、制作会社や案件によって異なります。
秘密保持
動画を制作を制作会社へ委託する場合、秘密保持条項を設けて情報漏えいを防ぎます。例えば、新製品のプロモーション動画を制作する場合、製品の詳細や発売日などの情報を外部に漏らさぬように定めます。どこまでが秘密保持契約の対象となるのか、範囲も明確にすることが重要です。
権利侵害がないことの保証
動画制作を委託された会社が、他者の著作権を侵害するリスクを抑えるために、権利侵害をしないことについて記載します。
損害賠償
万が一債務不履行が生じた際の賠償範囲についてや、免責事項を明記します。損害賠償ができる旨に加え、請求額についての決まりも定めます。
映像制作契約書が必要とされる理由
映像制作を外部の制作会社やフリーランスに委託する際、映像制作契約書を作成して契約内容を明文化することが求められます。
契約書が必要とされる理由は、主に「条件の明確化」「トラブルの解決」「知的財産権の明示」「信頼関係の構築」の4つです。
条件の明確化と認識の一致
映像制作を外注する場合、さまざまな条件や制約が伴うのが一般的です。どのような内容の動画か・いつまでに納品するか・対価としていくら支払われるか・納品形式は何かといった点を明確に記載しなければ、契約する双方で認識に齟齬が生じる恐れがあります。
条件の認識違いによるトラブルや、「言った・言わない」の争いを防止するために、映像制作契約書に条件や制約などを明文化しておくことが推奨されます。
トラブル発生時の対応をスムーズにする
映像制作では、納品の遅延・報酬の支払い遅延・追加修正それに伴う追加料金などについて、トラブルが発生する場合があります。
契約書がない場合、トラブルが起こった際も判断基準となる文書がないことで、迅速な対応が難しくなります。一方で契約書があれば、契約内容を証明する有力な証拠となり得るため、万が一紛争が裁判に発展した場合でも、自社の権利を主張するうえで有効です。
知的財産権に関するトラブルを回避しやすくする
映像制作の契約において、「著作権は誰にあるのか」「二次利用しても構わないのか」といった点が曖昧になってしまうと、双方で揉めるリスクが高まってしまいます。
著作権は制作会社側から譲渡されるのか、使用できる範囲はどこまでか、使用期間はいつまでかなどを契約書で明確にしておくことで、知的財産権に関するトラブルを予防できるでしょう。
双方の役割や責任を明確にして信頼関係を構築する
映像制作を発注・受注するにあたって契約書を取り交わすことで、双方の役割・責任・権利などが明文化され、互いに安心して制作を進行できます。リスク回避に効果的なだけでなく、信頼関係の醸成にも役立つと言えるでしょう。
映像制作契約書を作成する際の注意点
映像制作契約書を作成する際は、法的リスクを下げるために次の7点に注意が必要です。
業務内容や成果物の仕様を詳細に明記する
映像制作の契約書を作成する際は、どのような業務内容を委託するのか、プロジェクトの終了時に得られる成果物は何かを具体的に明記しなければなりません。
例えば、「新製品のWebCMの制作」だけでは曖昧すぎるため、契約者間で解釈にズレが生じるリスクがあります。解釈や認識のズレによるトラブルを防ぐには、動画の尺・構成・コンセプト・使用素材・納品形式まで明確な記載が必要です。
仕様書を別途作成し、成果物についてより詳細に明記することも効果的でしょう。
報酬額と支払い条件を明確に定める
成果物の対価として報酬をいくら支払うのか、振込手数料はどちらが負担するのかなど、金銭に関する項目も詳細に記載します。
また、報酬がいつ支払われるのかも明記しておくことで、納品後の未払いリスクを抑制できます。検収後、何日以内に支払いとなるのかを明記し、追加料金が発生する場合にも支払漏れが生じないよう対策を講じることが肝要です。
検収・納品の条件と手続きについて記載する
何をもって検収完了とするのか、納品の条件や必要な手続きについても明らかにする必要があります。納品後7営業日以内に成果物を確認し、問題がなければ検収完了として、修正がある場合のみ連絡するなど、検収期間をどれほど設けるかを定めてください。
納品から検収までの流れを明記しておくことで、五月雨式に修正が続くことを防ぎ、トラブルのリスクを抑えます。
修正可能な回数・範囲・期間を明記する
映像制作の契約で頻発するのが、修正に関するトラブルです。報酬内で行う修正は何回までか、修正範囲はどこまでかなどを契約書に明記しておかなければ、追加費用の未払いや納期遅延に関する問題につながります。
「初稿提出後の無償修正は2回まで、3回目以降の修正は有償とする」「修正がある場合は納品後1週間以内に修正依頼を出す」など、修正に関連する条件を明確にしておくことが欠かせません。
プロジェクトに関する機密情報の扱いについて詳細に定める
映像制作を行う際、案件によっては、情報リリース前の製品情報やマーケティング戦略など、さまざまな機密情報を制作会社に共有します。そのため、情報漏えいなどのトラブルを防止するには、秘密保持条項(NDA)の記載が欠かせません。
- 秘密情報に該当する範囲
- 秘密保持義務の具体的な内容(第三者への情報開示の禁止、目的外利用の禁止など)
- 秘密保持義務が有効とされる期間
- 秘密保持義務への違反があった場合の罰則・損害賠償
上記を中心に記載し、情報漏えいを防止してください。
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知的財産権(著作権等)の帰属先・利用条件を記載する
映像制作においては、著作権の帰属先や利用範囲に関するトラブルも少なくありません。著作権は元来制作者に帰属するものですが、発注者側が成果物を自由に利用したい場合、契約書にて次のような知的財産権の移転に関する記載が必要です。
- 著作権は検収完了と同時に発注者に移転する旨
- 著作権法27条(翻訳権、翻案権等)・28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)も移転する旨
- 著作者人格権の不行使特約(著作物を自由に改変・利用することに異議を唱えない)
著作権の譲渡においては、条件や範囲についても明確に定めて記載してください。
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プロジェクトのキャンセルや中断時の条件について定める
もしもプロジェクトの途中でキャンセル・中断となる場合の対応についても、次の内容について契約書に記載する必要があります。
- キャンセルする場合の通知期間(辞退の30日前までに通知する必要があるなど)
- キャンセル料/違約金の有無や金額
- 損害賠償の有無
また、発注者が消費者契約法上の「消費者」に該当する場合、同法9条第1号により、キャンセル料のうち「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超える部分は無効となる点に留意が必要です。また、企業間取引においては、原則として契約自由の原則が適用されますが、著しく高額なキャンセル料は公序良俗に反し無効と判断される場合もあります。
まとめ:映像制作契約書の作成にはリーガルテックの活用もおすすめ
映像制作契約書を作成する際は、業務内容や納期、使用範囲、著作権の帰属先などについてもれなく記載する必要があります。認識の齟齬によるトラブルを防ぐために、各条項について適切に明記する必要があります。
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